名物店主のお買い物日記 no.168
愛すべき工芸品「お鷹ぽっぽ」の話 ―東北スタンダードマーケット 岩井巽さのカバー画像

愛すべき工芸品「お鷹ぽっぽ」の話 ―東北スタンダードマーケット 岩井巽さん

キナリノモールに集うストアの個性的な店主たちが、自腹を切って買ったものや愛用品をひたすら語る、徒然お買い物リレー。今まで素敵な「東北のものづくり」を紹介してくれた岩井さんは、今回が最後のお買い物日記。特に思い入れがあるという山形県の工芸品について語っていただきました。

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2024年06月02日作成
岩井巽
東北スタンダードマーケット ディレクター
岩井巽
「伝統工芸品だけではなく、新たに生まれた東北のモノもいつか伝統になるように」という想いを原動力に、商品開発・デザイン・取材執筆・WEB制作など、百姓のように幅広く東北のものづくりに携わっています。ひっそりした喫茶店や古道具店が好きです。
愛すべき工芸品「お鷹ぽっぽ」の話 ―東北スタンダードマーケット 岩井巽さん
愛すべき工芸品「お鷹ぽっぽ」の話 ―東北スタンダードマーケット 岩井巽さん
人生で13回引っ越しをした。というとだいたいの人に驚かれるのだが、無事に驚いていただけただろうか。もっと多い人もたくさんいるのだろうが、引っ越しが多い人は持ち物が少ない印象がある。たとえば転勤族とか、単身赴任とか。

僕の父親は転勤族で、隣県に毎日通う半単身赴任状態のときもあった。幼少期には団地を転々とし相当引っ越しを重ねたが、残念ながら物が少ない家庭ではなかった。特に、父の趣味のギターとバリ雑貨はどの団地の壁にも飾ってあった。バリの神様のバロンのお面やカエルの置物と共に引っ越しを重ねてきたのだ。
愛すべき工芸品「お鷹ぽっぽ」の話 ―東北スタンダードマーケット 岩井巽さん
そんな影響あってか、成人してから転々としてきた自宅にも必ず置いてある物がある。それが大型の「お鷹ぽっぽ」だ。山形県米沢市でつくられるお鷹ぽっぽは、江戸時代前後に子どものお守りとして発祥したと言われている。紐で括りつけて背負う事で、鋭い眼差しで魔除けにしたのだという。昭和に入ってから観光土産として広く普及させるために「上杉鷹山」にあやかって「鷹」の絵型が主流になったが、土産化する前は多種多様な絵柄があった。
愛すべき工芸品「お鷹ぽっぽ」の話 ―東北スタンダードマーケット 岩井巽さん
僕は鷹になる前の様々な絵柄のお鷹ぽっぽが特に好きである(鷹になる前だから<ぽっぽ>と呼ばせてもらおう)。ぽっぽ好きが高じて、山形県内の骨董品店で当時もののぽっぽを手に入れたときにはかなりうれしかったものである。お土産屋に広く普及している小さなサイズよりも、かつて子どもが背負っていたであろう大きなサイズを推したい。
愛すべき工芸品「お鷹ぽっぽ」の話 ―東北スタンダードマーケット 岩井巽さん
そんな思いもあり、2018年の山形ビエンナーレという芸術祭の企画の一環で「古代ぽっぽ」として復刻したものを販売させていただいていたこともある。残念ながら大きなぽっぽを作れる職人さんは高齢化により数年前に逝去してしまい、今は小さなものしかラインナップがなくなってしまった。

ということで今回は、2016年から現在までのぽっぽと共に越してきた過程を紹介させていただいた。実は、2016年からディレクターを務めた「東北スタンダードマーケット」のディレクターをこの夏をもって卒業し、今後は自分のブランドを立ち上げていく予定だ。その過程を見守ってくれた縁起物であるぽっぽに感謝の気持ちを持ちながら、これからも大切に飾っていきたい。

(キナリノでは短い間の連載でしたが、ありがとうございました。次回からはもう一人の当店の民藝好きが担当させていただきます)
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