神秘の塩の物語
その後(さらに2億年後!)、地球ではじめての命(生命)が誕生しました。途方もない数字ではありますが、まさに"はるか昔"から塩辛い「海」は存在し、やがて生命は血液や体液など"海水と同じ成分"を持って海から陸へと上がりました。
夏の猛暑では、熱中症対策としてスーパーやコンビニに、塩分タブレットやドリンクがたくさん並んだのも記憶に新しいですよね。私たちのカラダは水分や塩分のバランスを保って体温調節をしています。まさに私たちは塩なしでは生きていけません。
現代の日本では、スーパーはもちろんコンビニでも手軽に手に入れられる「塩」ですが古くは大変貴重なものでした。そこで今回は、塩にまつわるたくさんのストーリーとあれこれをご紹介します。
お塩との出会い
日本の歴史で塩が登場するのは、縄文時代の終わりから弥生時代の初めといわれています。では、最も古い塩の作り方はどんなものだと思いますか?日本ではじめて作られたのは、干した海草を焼いてその灰を塩(灰塩)としていました。
世界の「塩の歴史」もみてみましょう。
日本で、会社員を意味する「サラリーマン」のサラリー=salary(給料、俸給)は、古代ローマの言葉で「Salarium,sal(塩)」から派生したという話は有名ですよね。当時(古代ローマ帝国の時代)は、塩をたくさん生産することが難しいながら長期保存が可能で、貨幣同等の価値として貨幣と一緒に支給されていたそうです。それほど、希少価値のあるものだったんですね。
塩はどうやって作られているの?
海水
では、塩はどうやって作られているのでしょうか。
「海の恵み」ともいわれ、海水から作られているイメージが強い塩ですが、現在海水から作られる割合は世界で作られているお塩の25%~30%程度。
岩塩
残りの内、60%は岩塩からつくられています。ちょっと意外ですよね。岩塩は大昔、地球の地形変動によって海水が地上に残され、それが干上がってできたもの。ヒマラヤ岩塩など、最近では私たちの食卓にも並ぶようになりましたね。
塩湖
もうひとつの原料である湖塩は塩湖からつくられ、ウユニ塩湖や死海など有名です。死海には、なんと海の8倍もの濃度の塩分が含まれているのだとか。ただし、岩塩も湖塩も、もともと海水だったことには違いありません。
ここまでご紹介したのは、世界のお塩の原料の割合です。
日本で作られるお塩に関しては、海水から作るのがほとんど唯一の方法になります。
海水を自然に乾燥させる天日塩という方法と、濃度が高くなった海水を窯で水分を飛ばして作る煎ごう塩(せんごう塩)の2つの方法がありますが、日本のように煮詰めて塩を製塩するのはとても珍しいのだとか。
料理と塩の蜜な関係
賞味期限がない!?
塩は、食品衛生法で賞味期限、保存方法を明記しなくて良いと定められた特別な食品です。実際、はるか昔につくられた岩塩が販売されたり料理に使われていますよね。*塩以外のものが含まれていたり、湿気のある環境で保存する場合は例外です。
防腐効果も◎
水分量を調節してくれる
臭い消し・臭み取りにも
野菜同様、魚介類も塩をふりかけることで、魚の身が引き締まり、余分な水分を外に出してくれます。このときに、魚独特の臭みの生成がとれるといわれていますよ。また、牡蠣などは、殻を取り外した後に塩もみすると、臭みと一緒に小さな殻も取り除いてくれますね。
暮らしの中の塩エトセトラ
塩梅(あんばい)を見極める
塩梅(あんばい)という言葉を、みなさん聞いたことがあるのではないでしょうか。味付けはもちろん、物事の具合や調子、加減などを指すときにも使われますね。その謂れについてご紹介します。
江戸幕府の初代将軍、徳川家康はある日、側に仕える阿茶局に「この世で一番うまいものは何か」とたずねたそうです。すると局は「それは塩です。山海の珍味も塩の味つけ次第。また、一番まずいのも塩です。どんなにうまいものでも、塩味が過ぎると食べられなくなります。」と答えたとか。
塩のさじ加減ひとつで、長所も短所も引き出してしまう。指導者もまた、過信の心を巧みにとらえ能力を引き出すことが肝心。家康は局の言葉に深く感銘し、以後、教訓にしたと伝えられます。料理も人心掌握も、いい塩梅、がちょうどいいのかもしれません。
厄除けに、清めの塩
力士が土俵に塩をまいたり、お葬式のあとカラダに塩をふりかけたり、塩は私たちの暮らしの中で"お清め"として使われることも多いですよね。
古くから、塩は"清める"力があると考えられてきたんですよ。
清めに塩を用いることは、我が国の宗教的習俗であり、海水を意味する「潮」とも通じてさまざまな風習があります。古くは記紀神話に、黄泉の国くにから戻った伊弉諾尊が自らの体に付いた黄泉の国の穢れを祓うため、海水で禊祓いをおこなったことが記されています。
福を招く?盛り塩
盛り塩(もりしお、もりじお)は、塩を三角錐型あるいは円錐型に盛り、玄関先や家の中に置く風習である。主に縁起担ぎ、厄除け、魔除けの意味を持つ。
マッサージにも◎
ミネラル成分たっぷり&殺菌力のある塩はボディーケアに用いられることも多いですよね。といっても、そのままの塩ではなく、オイルなどと配合されたボディースクラブなどを使いましょう。
人気ブランド「SABON」のスクラブも死海のお塩が使われていますよ。
死海に集まった水は海に流れないため、天然ミネラルたっぷり。死海の塩はお肌を刺激する塩化ナトリウムが少ないのに、お肌の乾燥を防ぐ塩化マグネシウムやお肌のサイクルを整える塩化カルシウムが豊富なのです。死海の塩を使い続けることで、そのようなお肌にうれしい変化を感じる人もいるようです。
バスソルトでお肌もしっとり
スクラブと同じくらい一般的なのが、バスソルト。大きくわけて天然塩を含むものと、塩分を含まないエプソムソルトの二種類がありますが、どちらもミネラル成分たっぷりなので、お肌には嬉しいことがたくさん。古代ギリシアの医者・ヒポクラテスも、海水に浸すことでさまざまな病気を癒した、と伝えられていますよ。
自然の恵みに感謝してお塩を使っていきたいですね
古くから、私たちの暮らしに欠かせなかったお塩。改めて見直すと、口にする以外にもいろいろなシーンで使われていますね。自然の恵には、人工的なものにはないパワーと魅力が詰まっています。次にお塩を買う時には、その産地や種類もぜひチェックしてみてくださいね。
地球が誕生したのは、46億年前。当時、私たちの知るような「海」は存在せず、長い時間をかけて海が形作られると、塩辛い海水となったのはそれから6億年ほど後といわれています。