子どもの心と体と暮らしを結ぶ~生きるちからを育む教育を
「私は私」ではなく「世界の中に私がいる」という、人が持っているはずのあたりまえの感覚。それが今、多種多様な情報や、知識偏重型の教育によって、少しずつ変化していることに警鐘が鳴らされているのをご存知ですか。
相手の気持ちや感情を思いやることだったり、社会と自分・今と未来への繋がりを感じられない人が、大人にも子どもにも増えているこの時代。
シュタイナー教育は、心と体と思考・・・そして世界と私を自然に結びつける教育だといいます。
世界に広がり続ける「シュタイナー教育」とは?
1919年、ドイツで生まれたシュタイナー教育。有機農法を世界で最初に提唱し、建築、芸術、教育、社会学と幅広い分野で活躍したルドルフ=シュタイナーにより設立されたシュタイナー学校は、現在、世界中で1000を超えました。
日本では、学校法人として運営をしているシュタイナー学校が2校、神奈川県相模原市と北海道豊浦町にあり、NPO法人として運営している学校が全国に6箇所あります。(2018年4月現在)
シュタイナー教育に影響を受けた人といえば、「モモ」や「ネバーエンディングストーリー」を書いた作家のミヒャエル・エンデが有名です。また、アメリカのシリコンバレーの富裕層の間でもシュタイナー学校は注目を集めているそうです。欧米諸国をはじめアジアでも関心が広がっており、紛争地帯でも学びの場は増え続けています。
シュタイナー教育ってどんなもの?
子どもの発達に寄り添う自然な働きかけ
シュタイナー教育には、7年周期という考え方があります。
生まれてから7歳くらいまでの子どもたちは、「世界は善」だという前提のもとに生きているといいます。自分の周りで起こっていることの全てを信頼している時期です。
体全体が感覚器官であるかのような時期で、周囲を模倣することで学んでいきます。意識や記憶は、まだ半分眠っているような状態で、意思と行動によって世界と繋がります。身体面での発達がめざましいこの時期には、刺激の少ない穏やかな環境の中で身体器官の基礎を作ることに、より焦点をあてていきます。
7〜14歳の子どもたちにとって大切なのは、「世界は美しい」という感覚で生きることだといいます。体の発達とともに、意識は少しずつ目覚め、半ば眠っている状態から夢を見ているような状態になっていきます。良質な体験を通して感情や思考を育む大事な時期です。
「9歳の危機」と呼ばれる時期は、周りの世界や両親と自分が異なる存在だということを感じ、世界を客観的に体験し始めるといいます。この時期にシュタイナー学校では、世界と自分と周りの人たちとの調和を学ぶために、家づくりや農場体験を行うそうです。体験を通して、自分が世界と繋がっているということを学びます。
図形的な思考から、「なぜ・どのように物事が起こるのか」という原因と結果の思考ができるようになります。光と影、善と悪など、対極を味わうことが一つのテーマになります。大地にしっかりと立つ力を身に付けるようになりますが、徐々に成長する四肢を持て余し、反抗期に入ります。利己的な感覚が強まる前のこの時期に経済学も学ぶのだそう。
性的成熟を迎え、感情のアップダウンが激しくなり、「思考」が働き出します。より概念的、抽象的、論理的に思考できるようになります。この時期は、自分自身で判断することや、周囲と自分自身の関係性が成長の鍵になります。
「本当の自由」を探して
シュタイナーは「自由」ということの本質的な在り方そのものを探求し、「自由な心を持つ人」を育てることを大切にしました。「自由とは何か?」それは、自分自身の内面を深く知り、まず自分自身から自由になること。そして、自分の行動そのものを愛し、自ら行動できることが本来の自由の在り方だといいました。
美しいものに触れることで養われる愛情
音楽・美術・工芸・自然の中での活動を体験することで、知識ではなく経験から美を学び、信頼と愛情を全身で感じとるような働きかけを行います。美しいものは「善」や「真理」を体感させてくれます。知識だけではなく、経験として学ぶことが大切です。
自然体験から学ぶ、暮らしと調和
山登りや自然の中の100kmウォーキング、家づくり、天体観測、農業体験etc...シュタイナー学校では、様々な「自然体験」を行います。羊毛を糸にして編み物をしたり、木で器や家具を作ったり、自然に触れ、自ら作ることで、全身全霊で自然と暮らしの調和とは何かを学びます。
体を目一杯使った体験は子ども達の記憶にしっかり残り、「もっと学びたい」という動機付けを自然に生み出すといいます。実践的な思考力も身につくため、問題解決力も育まれていきます。
丁寧な手仕事で学ぶ、継続する忍耐力
シュタイナー教育では、たくさんの「手仕事」を体験します。小学校一年生から木を削って編み針を作り、編み物をしたり、羊毛から糸を紡ぎマフラーを編んだり、刺繍をしたり、椅子作りをしたり・・・と、どれも忍耐を要する作業ばかり。「手仕事」は暮らしの基本となる部分でもあり、自然や歴史を感覚で学べる機会にもなります。丁寧に作業に没頭することで、手先が器用になるだけでなく、手を動かして考える力や、根気よく仕事に向き合うという精神性も育んでくれることでしょう。
イメージを形にする。繋いで生み出す発想力
知識からではなく、体験から学ぶことが多いため、「自分でイメージして何かを生み出す」という「考える力」が育ちます。新しいアイデアを生み出す力は、仕事でも人生においても大切な能力。知識と感性を繋ぎ合わせ、つくりだすという経験をたくさんできるのは、将来の大きな財産になるのではないでしょうか。
自然と暮らす、人を育む。シュタイナー教育を体験しよう!
北海道の洞爺湖近くにある豊浦町・学校法人北海道シュタイナー学園
北海道の洞爺湖をすぐそばにある豊浦町に、学校法人北海道シュタイナー学園があります。1999年に伊達市で全日制のシュタイナー学校「いずみの学校」としてスタートし、2008年4月より小中一貫教育の特区学校法人となりました。豊かな自然とゆったりとした時間が流れる環境の中で、NPO法人のこどもの園、高等学園を合わせ、幼稚園から高校生までがシュタイナー教育を受けています。
サマースクールで大人もシュタイナー教育を体験できる!
2018年7月28日(土)〜 7月30日(月)の3日間、大人も子どももシュタイナー教育を体験できるサマースクールが開講されます。夏真っ盛りの洞爺湖は、適度に涼しく観光にもぴったりの季節です。
シュタイナー教育に興味がある方は、ぜひ参加してみてはいかがでしょう?
おわりに
価値観の多様化する社会の中で、教育の価値観や在り方も多様化しています。「正しい」とか「間違っている」とか、正解を探すのではなく、シンプルに「子どもにどんな経験を与えたいか?」という親の愛情が、子どもの将来の可能性を広げるきっかけに繋がるのかもしれません。
人間性と自由と美、そして平和を愛する心や友愛の心を体験を通して教えてくれるシュタイナー教育。気になる方は、一度体験してみてはいかがでしょう?
体験を通して、体と心で感じると、人は自然に考える。知識からではなく、実体験から学び、子どもたちの自然な発達を促すことで、思考する頭と感情と体はつながっていきます。