日本人が長い時間をかけて培った、「たしなみ」という美学
1、好み。趣味。 「上品な-」
2、平常の心がけ。用意。 「女の-」
3、つつしみ。節制。 「 -がない」
4、物事に対する心得。特に,芸事・武道などの心得。 「茶道の-がある」
「たしなみ」がある女性とはどんなイメージでしょう。
質の良い趣味を持っている、慎みがある、芯がしっかりしている、芸事の心得を大切にしている・・・などが挙げられます。
さぁ、日本人女性として知っておきたい文化の奥ゆかしさと共に「たしなみ」とはなんだろう?ということを、一緒に考えてみませんか。
型を知り、型を破る~「守破離(しゅはり)」という思想
能を育てあげた世阿弥が著書「風姿花伝」の中で伝えている「守破離(しゅはり)」という思想があります。
芸を極めるためには、まず徹底的に型を守ること。型を身につけてはじめて、型を破ることに意味が生まれます。そしてやがて型を離れ、自分自身のスタイルが自然に生まれてくるといいます。
スタイルとは、小手先で生み出すものではなく、一心に向き合い続けた先に自然と生まれる個性。それは、生まれついた姿が皆違うように、その人にしか持ちえない生まれ持っての個性そのものといえるのかもしれません。
繰り返しが教えてくれること
精神を極限まで集中させると、その空間で行われる人の動きや声が鮮明に意識できるようになるといいます。集中することで、意識は広がり、私たちは何にも縛られず自由であるということを思い出させてくれるのだそうです。
芸事の面白さは、絶え間ない反復行為を行う中で、集中力を高め、精神を磨いていくこと。
禅においても「コツコツと1つのことを続ける人が最も強い」という思想があります。
傍目には単調に同じことを繰り返しているように見えても、精神も肉体も、毎回違う発見の喜びを経験します。新たな発見をする喜びは、芸事に限らず日々の家事や仕事でも見いだせること。「繰り返すことを楽しめる」という精神状態はあなたをきっと成長させてくれるはずです。
虚栄心を脱した先にある、スタイルという「おしゃれ」
本当におしゃれな人は、どこかさりげなさがあるように思いませんか。
ある貴族の男性は、気に入った同じスーツを何着も仕立て、敢えておしゃれにこだわっていないように見せるのだそうです。
アップルの創始者である故スティーブ・ジョブズ氏や世界で活躍する日本人デザイナー佐藤オオキさんも、同じ服を何着も用意し、自分のスタイルを貫いているそうです。彼らの場合は、「いつも同じである」というルーティンを持つことで、余計な思考時間を省き、仕事の効率を上げるという合理的な意図もあるようですが、無駄を省いた先にある洗練されたシンプルさが持つ哲学は、「おしゃれ」そのものといえるように感じます。
「おしゃれ」を世に送り出すトップブランドのデザイナーたちも、シンプルでさりげない装いをする人が多いですよね。センスというのは着飾ることで身につくのではなく、内側からにおい立つ知性のようなものなのかもしれません。
「これが最後かもしれない」と思えば、大切にしたい瞬間に満ちていることに気づく
一期一会(いちごいちえ)とは、茶道に由来する日本のことわざ・四字熟語。 茶会に臨む際には、その機会は二度と繰り返されることのない、一生に一度の出会いであるということを心得て、亭主・客ともに互いに誠意を尽くす心構えを意味する。
私たちは、今の状態がいつまでも続くと錯覚したり、日々は同じことの繰り返しだと感じたり、またの機会があると思うことで、すぐ怠惰になってしまいます。
しかし実際は、どうでしょう?私たちの世界は絶えることなく変化し続けており、永続的なものなど存在しません。永続性というものがあるとすれば、その実際は、続けようとする人の意思があるから成り立っているのです。
この一瞬が最初で最後かもしれない。
この人にはもう一生会うことはないかもしれない。
このチャンスを逃したらもう次はないかもしれない。
いつもそんな風に思っていては疲れてしまうかもしれませんが、つい怠惰や退屈に流れてしまいがちな時は、「この機会はこれが最初で最後かもしれない...」ことを思い出してみてはいかがでしょう。
一度きりの「今、この瞬間」を大切にすることで、きっと「今」が生き生きとエネルギーに溢れたものになっていくはずです。
平素は自分が一番下手だと思い、舞台に上がるときは自分が一番であると思う
舞台のお稽古の言葉ですが、実生活においても大いに活かせる言葉です。
舞台に上がるために、役者や踊り手は、何度も何度も気が遠くなるような地味な練習を繰り返します。当然、飽きることもあるし、なんとなくできた気持ちになってしまう時もあるかもしれません。しかし、なんとなくできた気になって、調子に乗っていると、思いのほか成長できていない・・・ということがあります。
日々の鍛錬の中では、自分が一番下手だと思い、精進をやめないこと。しかし、いざ舞台に上がる時は、自分が一番だと思い、堂々とやり抜くこと。これは、プレゼンテーションや日々のルーティンワーク、接客や身近な人に接する時など、仕事や家庭の場でも実践することが可能です。
地味な作業や繰り返しを疎うことなく、楽しみや成長を見い出せる謙虚さを持ち続けること、人前に立つ時は自信を持って相手に喜びを与えられるよう勤めることもまた、人としての「たしなみ」と言えるのではないでしょうか。
「この世は舞台、人はみな役者だ」
All the world's a stage,
And all the men and women merely players.
人と人が共に暮らす社会において、私たちは無意識に役割を演じて生きています。多かれ少なかれ、人は「自分」という役を演じながら生きているとも言えるでしょう。
自分らしさを大切に、でも人としての役割は責任を持ってしっかり演じきる。そんな覚悟とともに時にはちょっと無理をしながら生きることもひとつのたしなみといえそうです。
女性として大切にしたい心の姿勢
人として大切にしたい心の姿勢とはなんでしょう。いつも、どんなときも、心がけていたいこと。
人それぞれ大切にしていることは違うと思います。日々心がけていることも、人それぞれ異なっているでしょう。
世の中にもし幸福があるとすれば、それは他人に喜びを与える以上の幸福はない。そして、そのために、人はどれだけのことを忍ばねばならぬものだろうか。
誰かに喜んでもらえることって、誰にとってもきっと嬉しいことですよね。時に忍ばねらならないこともあるかもしれないし、時間がかかることもあるかもしれない。だけど、他者へ喜びを与える幸福のことを「愛」と言い換えることができるのではないでしょうか。
おわりに
趣味とは、何かを愛すること。平常の心がけや慎みを持つことは、自分を大切にしながら、他者のために行動をわきまえるということ。「たしなみ」とは愛のひとつのカタチのような気もします。
一日一生。ちょっとした「たしなみ」を意識して、日々を大切にして暮らしていきたいですね。
時代が移り変わっても、いつまでも女性として大切にしていきたい「たしなみ」という日本の美意識。