インタビュー
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vol.49 戸塚醸造店 戸塚治夫さん- 手で見て、舌を信じる伝統製法。元銀行マンの、米酢づくりの話

写真:三東サイ

「戸塚醸造店」は、夫婦ふたりで切り盛りする山梨のお酢屋さん。小規模ながら全国でも珍しい伝統製法で1年以上かけてつくられるお酢は、お米がしっかりと香って美味しいと評判です。そんなこちらのご主人はなんと元銀行員。お酢の世界に入ったきっかけはどんなことだったのでしょうか。今回は山梨まで、酸っぱさの中にも本物がしっかりと香る、お酢づくりの物語を伺いに足を運びました。

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2016年11月04日作成
秋の雨が降るその日、戸塚さんご夫婦は、ピクルスや稲荷寿司を用意して出迎えてくれました。
ツヤツヤとしたキュウリ、しんなりと美味しそうになったにんじん、お重に入ったお稲荷さん……。
「本当に、なんでもないものですけど」と奥さんが運んできてくれます。
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どの料理にも共通して使っているのは、戸塚さんご夫婦が自分のところでつくった「お酢」。
戸塚醸造店でつくられているお酢は、伝統製法によるものです。
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お酢をそのまま一口いただいてみると、まずは舌と喉に酢独特のチリチリとした強烈な酸味を感じ、同時にふくよかなお米の香りが鼻にフーッと抜けていきます。それはまさに、「これが“米”酢!」と思わず声が出てしまうほどの米感。その香りと酸味のあまりの豊かさに、体がブルリと震えます。
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「うちのお酢は、酸っぱいだけじゃない。香りと旨みを残す製法でつくっています」と話すのは戸塚醸造店の戸塚治夫さん。

「本当に昔のつくり方でやっているので、たとえば今日仕込んだものがお客さんの手元に届くまで1年半*ほどかかるんです。でも、これが一番シンプルで美味しいつくり方だと思っています」
そう話しながらお酢の仕込み作業を進める戸塚さん。先代から伝統製法と工場を受け継いだのは、今から11年前のことでした。
*1年半―― 現在最新の技術を駆使してつくるお酢は、なんと最速8時間で出来上がるそう。戸塚さんは、その8時間の工程を、昔ながらのつくり方で1年以上かけて製造しています。

お酢屋さんを継いだ、元銀行員

新宿からわずか一時間半で着く上野原。山と川が美しい場所です

新宿からわずか一時間半で着く上野原。山と川が美しい場所です

「継ぐ」というと「家業を継ぐ」というイメージが強いですが、先代とは血のつながりもなければ、養子や婿に入ったわけでもなかったという戸塚さん。

「最初に先代と出会ったきっかけは『もうここやめるんだけど、廃業手続きはどうしたらいいの』っていう相談だったんです。僕は高校卒業後からずっと金融界にいまして、銀行員としてこの工場の担当になったんですよ」

そう、戸塚さんと先代の最初の出会いは、なんと「銀行員」と「得意先」という間柄。当時70歳だったという先代が年齢や体調の問題に直面し、さらに跡取りがいない状況であったため、工場をたたもうとしていたころのことでした。
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戸塚さんは銀行員として先代の相談に乗りながら、いろいろな話を聞いていきます。伝統製法でつくられる製造工程のおもしろさと大変さ、もともと体があまり丈夫ではなかった先代の、無農薬のお米をつかうことへのこだわり、そしてそれらをひっくるめたお酢づくりへの思いと廃業への葛藤――。
そんな話をしながら仲良くなっていったころ、先代が体調を崩して突然の入院。幸い大事には至りませんでしたが、工場の人手が足りなくなったそのときから、時間の合間を縫って戸塚さんが工場を手伝う日々がはじまりました。
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ドラマなどで時々見る「銀行員が町のお店に手伝いに行く」という物語を地で行った戸塚さん。
「手伝ってるうちに、全く知らなかったお酢づくりの世界におもしろさを感じて、はまってしまったんです。『醸造?何それ!お酢?どうやってつくるの?!おもしろそう!』という感じでした」と、当時のことを振り返ります。

「そのころは正直、金融界はもうそろそろ自分には充分かな、という気持ちもありました。そんな中で、一緒に工場を手伝っていた先代の親戚のおばちゃんたちも『戸塚くん、お酢屋さんと銀行、どっちがいい?』なんて話をしてくれて」と、うれしそうに話す戸塚さん。さらに先代の「継いでくれるならうれしい」という気持ちを最大の引き金に、戸塚さんが工場を継ぐという話はとんとん拍子に進みます。こうして戸塚さんは、勢いと情熱に身を任せ、先代の跡を継ぐことを決意。31歳で本格的にお酢づくりの世界に飛び込みました。

酢酸菌を絶やさないために

しかし、先代との出会いがもう半年遅ければ、きっと継ぐことはできていなかったという戸塚さん。

「お酢づくりには酢酸菌(さくさんきん)という菌が欠かせないんですけども、これは目には見えないながら、生き物なんですね。自分が働きはじめたときには、その菌がもう弱ってしまっていたんです」
戸塚さんのつくるお酢は、仕込みの際に入れられた酢酸菌(さくさんきん)が、お酒をゆっくりゆっくり酢にかえていく(=発酵する)ことでできあがります。元気な酢酸菌は発酵したてのお酢の中にしかいないため、少し前につくったばかりのお酢を仕込み時に加えることで酢酸菌をつないでいるのです

戸塚さんのつくるお酢は、仕込みの際に入れられた酢酸菌(さくさんきん)が、お酒をゆっくりゆっくり酢にかえていく(=発酵する)ことでできあがります。元気な酢酸菌は発酵したてのお酢の中にしかいないため、少し前につくったばかりのお酢を仕込み時に加えることで酢酸菌をつないでいるのです

「最後のお酢づくりから、時間が経ちすぎていたんですね。先代の入院でバタバタしてしまっていたので、菌は絶えてしまう一歩手前でした。お酢というものはとにかくつくり続けなければ駄目なものなんです。だから継ぐと決めてからは、ここの酢酸菌を絶やさないために、何度も繰り返しでお酢をつくって、良いほうへ良いほうへと、なんとかどうにか、少しずつ菌を育てていくしかなかったんですね」
時間をかけながら、酢酸菌を元気な状態に戻していこうと試行錯誤をする日々。こうして、先代から途絶えそうだった酢酸菌を受け継ぎ、戸塚さんのお酢づくりがはじまります。

弱ってしまっている酢酸菌に加え、すべてが手作業の重労働、わからない中での手探りの作業と、工場で働き始めてすぐに戸塚さんは伝統製法の難しさを痛感したといいます。終始明るい口調でずっと話をしていた戸塚さんでしたが、さすがにこのころのお話のときは、「大変でしたねぇ……」とポツリ。
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戸塚醸造店の製造方法は、現在日本全国を探しても10ヶ所ほどでしか伝承されていない貴重なお酢のつくり方。関東では戸塚醸造店のみがおこなっている製法のため、当時は頼れる人や情報がほとんどなかったといいます。そんな中でとにかく状況を打開すべく、戸塚さんは調べに調べ、ときには醸造を専門とする大学教授に電話で何度も教えを請いながら、最善の方法を探し続けます。そんな戸塚さんの苦労に応えるように、酢酸菌はその後少しずつ元気な状態に戻っていきました。

夫婦ふたりで小規模ながら、とことんこだわったものを

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酢酸菌を復活させた戸塚さんはより良いお酢を求め、つくり方の細かい部分の変更や原料へのこだわりを強めていきます。

現在戸塚さんがお酢づくりに用意するのは、「米」「麹菌」「酵母菌」「富士山の伏流水」、そしてそれらをお酢にするための「酢酸菌」の5つの材料のみ。使用する材料が少ないからこそ、どれもこだわりの材料を使っているという戸塚さん。米酢の原点であるお米は山形県庄内地方でつくられる、ご飯として食べてもピカピカで美味しい「有機栽培米コシヒカリ」を使います。

また、麹菌と酵母菌に関しては、菌を増殖するための餌に何を使っているのかまで調べたといいます。
「うちは量産できるわけではないので、それじゃあもう、夫婦ふたりで小規模ながら、とことんこだわったものを、大手さんにはできないものをつくろう、と思って」

戸塚さんがつくるお酢は、本当に細かい部分まで、それこそ微生物レベルまで戸塚さんによって材料や方法が選ばれているのです。
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手で温度を見る

伝統製法のお酢づくりは、意外なことに「酒づくり」からはじまります。
お酢の原料は、お酒と水。そこに酢酸菌が作用することによってその姿をお酢に変えていくため、お酒から自分のところでつくるのだそうです。

今回お邪魔したのは、ちょうど今シーズンの一番最初の作業であるお酒仕込みの真っ最中でした。
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案内されたのは、工場の一角にある麹室。「まずはお酒をつくるために、麹をつくります。お米の良い匂いがするでしょう」と戸塚さん。温度も湿度も高いその部屋で大きく息を吸うと、部屋いっぱいに充満したお米のいい香りが体中に沁み込んでいきます。
まずは蒸されたお米に麹菌をまぶして麹の準備。24時間ほどでお米の表面に菌が付き、発酵していきます。発酵が進めば進むほど、お米の表面は真っ白になっていくのだそう

まずは蒸されたお米に麹菌をまぶして麹の準備。24時間ほどでお米の表面に菌が付き、発酵していきます。発酵が進めば進むほど、お米の表面は真っ白になっていくのだそう

お米に麹菌をつけたあと、発酵の最中は何もしなくてもぐんぐん温度が上がっていってしまうので、全体の温度が均等になるようにこれを広げ、ほぐし混ぜていきます。
「麹菌も、生き物ですから。うまくいかないときはこのほぐしの作業もすごく時間がかかります」
そう言うと戸塚さんはテキパキと動きながら麹に手を入れ、「うん、良い感じ」と何度もつぶやきます。
どうやら今回の麹づくりは順調のようです。
菌同士がくっつくと固まりができ、固まりの部分は温度が上昇し過ぎてしまいますので、これをほぐします

菌同士がくっつくと固まりができ、固まりの部分は温度が上昇し過ぎてしまいますので、これをほぐします

このほぐす作業を「棚製麹(たなせいきく)」と呼びます

このほぐす作業を「棚製麹(たなせいきく)」と呼びます

機械は使わない

「この温度は触ってみないと意外とわからないんです」と戸塚さん。温度計でも管理していますが、手によってより細かな違いを見極めます

「この温度は触ってみないと意外とわからないんです」と戸塚さん。温度計でも管理していますが、手によってより細かな違いを見極めます

「最終的には温度は緩やかに上げていくんですけど、気をつけて見ていないと、発酵熱で菌が自滅していってしまいます」と戸塚さん。何もしないで放っておくと、かたまった麹が熱を出してきてしまうのだそう。そしてこの作業では「手で温度を見るからこそ、熱い部分と冷たい部分を均等に混ぜ合わせることができる」と戸塚さんは続けます。

「量産するためにはこのほぐしの作業を機械でやるべきなんですけど、機械でやると、ほぐせるにはほぐせるんですけど、温度差のある場所をきちんと混ぜられない。つまり、発酵が進むところと進まないところとムラができちゃうんです。ムラができると、最終的な出来上がりの味は3割ほど落ちると言われています。だからうちは、量産しません」
一回のほぐしの作業は1時間から2時間かけます。次の日のお昼まで、3~4時間ごとに4~5回、麹の様子をみながら同じ作業を繰り返しおこないます

一回のほぐしの作業は1時間から2時間かけます。次の日のお昼まで、3~4時間ごとに4~5回、麹の様子をみながら同じ作業を繰り返しおこないます

こうして戸塚さんの手仕事によってできあがる麹はお酒の原料となり、新たに蒸された米、自ら汲みに行くという富士山の伏流水、そして酵母菌とともに攪拌し、二ヵ月後にようやくお酒となります。
何度も両手で麹をほぐす様は、良いお酢になりますように、とお祈りをしているようにも見えました

何度も両手で麹をほぐす様は、良いお酢になりますように、とお祈りをしているようにも見えました

自分の舌を信じる

出来上がったお酒は人の背丈ほどもある大きな甕(かめ)に入れられます。そこに再び富士山の伏流水、そして酢酸菌を含む酢(種酢)を加え、2~3ヶ月間の酢酸発酵。発酵と同時に酒粕などの余分なものが沈殿するので、上澄みだけが別の甕に移されます。そしてここから、あらためて8ヶ月以上もの熟成期間を経てやっと、商品となるお酢が完成するのです。その期間、一年以上。なぜ戸塚醸造店ではそんなにも長い期間を要するのか伺うと、この期間こそがただ酸っぱいだけでなく、自然の旨みが宿るお酢にするための秘訣だという答えが返ってきました。
熟成室で出来上がった酢を見せてくれる戸塚さん。甕は背が高いので足場が組まれています

熟成室で出来上がった酢を見せてくれる戸塚さん。甕は背が高いので足場が組まれています

酸っぱいだけではない秘密

たとえば、時間をかけない製造方法でお酢をつくった場合、余分な雑味をとるために「ろ過」という作業をおこなうのが一般的なのだそうですが、戸塚醸造店ではこれをしていません。

「ろ過をすることで余分なカスや雑味が取れるんですが、これは良い匂いも悪い匂いも全部とっちゃうっていうことなんです。ですから、ろ過をすることで、多少失敗しようが出来上がりが均質になるというメリットもあるんですが、同時に美味しい香りもなくなってしまうんです」
甕の中で長い時間を過ごすことで、ゆっくりゆっくり、余分な雑味が沈んでいきます

甕の中で長い時間を過ごすことで、ゆっくりゆっくり、余分な雑味が沈んでいきます

ろ過と無添加について、戸塚さんはそんなふうに語り、こう胸を張ります。
「うちは、ろ過をせずに、時間をかけて雑味のもとが自然に沈むのを待って、甕の上澄み部分を商品にしています。だから香りや風味がそのまま残って、酸っぱいだけのお酢にはならないんです」
主力の「心の酢」以外の商品も、もちろんろ過はせず、添加物も加えていません

主力の「心の酢」以外の商品も、もちろんろ過はせず、添加物も加えていません

無ろ過のお酢を、お客さんも自然と選んでくれた

実は先代に酢づくりを教えてもらっている頃、ろ過したものをつくっていたときもあったのだそう。しかしそのときも「ろ過しないほうが絶対うまい」と思ったという戸塚さん。そこで戸塚さんは、「ろ過したもの」と「ろ過しないもの」の二種類の販売を提案します。

「そうすると、明らかに『ろ過しないもの』のほうの販売量が増えてきて、お客さんが『無ろ過のほうがうまいね』って言ってくれました。それで『戸塚醸造店』になってからはろ過するのを完全にやめました」と、戸塚さんはうれしそうに笑います。
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昔の人も、データはなくとも感覚で良いほうを選んでいた

「伝統製法は、要は美味しい酢をつくる一番シンプルな製法なんです。昔の人は、完全に感覚で何が美味しいものなのかがわかっていたんですよね」と戸塚さん。

昔の人は感覚で良いほうを選んでいた、という逸話として、戸塚さんはこんな話もしてくれました。

「たとえば水には硬水と軟水がありますよね。今うちは富士山の伏流水を使っていますけど、これは軟水なんです。それと比べて、たとえば温泉の出る場所の水というのは硬水で、お酒づくりには向いていない。だから昔からの酒蔵がある地区っていうのは、軟水の良い水が出るところなんですよね。昔の人は硬水だとか軟水だとか、成分がどうのこうのとかはわからないはずなんですけど、肌で『この水が良い』とわかっていたんでしょうね」
vol.49 戸塚醸造店 戸塚治夫さん- 手で見て、舌を信じる伝統製法。元銀行マンの、米酢づくりの話
「早くつくるための工夫」や「美味しさの数値」といった知識の蓄積は、もちろん多くの研究者やつくり手たちによる尊敬すべきデータです。しかし一方で、そのデータに頼りきらずにつくられる戸塚醸造店のお酢には、自分の手と舌を信じるということの強さを感じます。何もない場所に自分を放りだして、自分の感覚を信じてみること。そしてそのときにしっかりとした選択ができるよう、普段から勉強を怠らないこと。昔の人が当たり前におこなっていた作業を、この一滴のお酢は教えてくれるかもしれません。

おもしろそう、が在るほうへ

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戸塚醸造店は近々、一番質が良いといわれている富士山の伏流水の出る場所に工場ごと引越しをします。
新しい工場では甕をいくつか増やし、現在よりも少しだけ多くの酢をつくれるようにするといいますが、それ以上の規模の拡大を現状は考えていないと戸塚さんはいいます。

「量産はもちろん、分業制も考えていません。つくる作業が好きでやってるっていうのもあるので、一から十まで自分でつくりたいんです。誰かを今後雇ったとしても、その人はその人で最初から最後までつくるほうがおもしろいかな、と思っています。同じ原料・同じ製法でやっても、もしかしたら味が違ったりするかもしれないですよね。そういうのもおもしろいです」
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戸塚さんのお話には「おもしろそう」という言葉が何度も出てきました。そのことを伝えると「実は先代も、50歳の素人で『おもしろそうだ』とお酢屋さんをはじめた人なんです」と戸塚さん。
「この近くのお寺の住職さんが京都からいらした方で、有名な精進料理をつくられる方だったんだそうです。で、その精進料理に欠かせないのが『お酢』だったんですが、当時の住職いわく、『関東には本物の酢がない』と。『ないならつくろう、おもしろそうだ』といってお酢をつくりはじめたのが、うちの先代だったわけです」
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「先代は、素人だから大変さもわからずに『おもしろそう』というだけではじめたんだろうなあ」と戸塚さん。そういったあと、奥さんと顔を見合わせながら「まあ、僕も全く同じですけどね」と、その日何度目かの爽やかな笑顔で笑い合います。

先代同様、シンプルな自分の感覚に正直にお酢をつくってきた戸塚さん。この世界に飛び込んだのは「おもしろそう」だと思ったから。無ろ過を選んだときは「こっちのほうが美味しい」と自分の舌を信じたから。どちらを選べば良いか迷ったとき、正直な自分の感覚に従ってひとつひとつをしっかりと選んできた結果、先代の酢酸菌は戸塚さんに引き継がれ、戸塚醸造店では今日も、しっかりとお米が香る「本物のお酢」がつくられています。

(取材・文/澤谷映)
戸塚醸造店|とつかじょうぞうてん戸塚醸造店|とつかじょうぞうてん

戸塚醸造店|とつかじょうぞうてん

1978年、先代である長谷川邦夫が、戸塚醸造店の前身である青苔寺米酢工場(せいたいじこめすこうじょう)を設立。1998年、現戸塚醸造店代表である戸塚治夫が銀行員として出会う。2005年、先代より酢づくりの心と酢酸菌を譲り受け、戸塚醸造店として新たな歩みをはじめる。現在まで季節ごとの気温の変化などを感じつつ、酢酸菌と対話しながらゆっくり時間をかけて、安全安心そして美味しい米酢を造っている。

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