伝え方一つで空気が変わる
アイ・メッセージとは
【私】を主語にして伝えるメッセージ
例えば、トイレの後に電気を消し忘れる家族へ。
「また忘れてる。なんで忘れちゃうの?もっとしっかりして!」
と言っていたところを、主語が私であることを意識して次のように伝えます。
「(私は)消し忘れてほしくない。無駄な電気代も、代わりに消すことも私は負担に感じる。気をつけてくれれば私は楽になる。」
ともすれば文句や愚痴とも取られかねない要求ではなく、自分の思いや考えを伝えられるのがメリットです。
ユー・メッセージとの違い
先ほどの例文の1つ目、アイ・メッセージを使っていない文について考えてみましょう。主語は誰だと思いますか?
「(あなたが)また忘れてる。(あなたは)なんで忘れちゃうの?(あなたが)もっとしっかりして!」
すべて【あなた】が主語です。これをユー・メッセージと言います。アイ・メッセージに比べ、相手を叱っているような、責めているような印象になりますね。
アイ・メッセージを使った例文には「負担」や「楽になる」など話し手の感情につながるワードがありましたが、ユー・メッセージの例文にはありません。文章全体から感じ取れる感情は、語気にもよりますが「苛立ち」や「怒り」。そのような強い負の感情を向けられた相手も、良い気はしませんよね。
ウィー・メッセージはOK?
ではウィー・メッセージではどうでしょうか。ウィー・メッセージとは、【一般的】や【みんな】という不特定多数を主語にする伝え方です。
先程の例文をウィー・メッセージで伝えます。
「普通の人はちゃんと消すよ。あなたが消したらみんなが助かるんだよ。」
どのような印象を受けますか?
【あなた】を主語とはせず、一見正論を伝えているように感じられるウィー・メッセージですが、十人十色の"一般論"を持ち出し比較することで、相手を批判する形になってしまいます。あくまでも【私】を主語にし、「私はちゃんと消すよ」などのように伝えてみましょう。
アイ・メッセージのやり方
アイ・メッセージが有効なのは、子供を叱らなければならない時や後輩を指導しなければならない時、恋人とケンカしている時など。感情的になっていることが多いためについつい相手を問いただしてしまって、アイ・メッセージは思ったように簡単には出てきません。
そこでおすすめなのが、とにかく「私は」と声に出してしまうこと。「私は悲しい」「私は納得できない」など、短い文章でOK。「私は怒っている」と怒りを伝えても良いでしょう。
その後、どうしてその感情を抱いているか説明すれば、自然とアイ・メッセージが続くはずです。「なんで」「やめて」、そんな相手にぶつけるワードが出そうになったらぐっと飲み込み、「私は」と声に出してください。
アイ・メッセージのメリット
互いを尊重した関係の構築
ユー・メッセージを使うと、相手を責めるようになってしまうことがデメリット。時には命令形になり、支配的な印象を与えます。そこでアイ・メッセージを使えば、互いの考えや思いを交換しあい一緒に解決策を考えられる、互いを尊重した会話が可能です。
自分の気持ちを押さえつけない
アイ・メッセージを使うと、自分がどう考えているかや、どうしてほしいかを伝えられます。ユー・メッセージやウィー・メッセージを使って伝えた方が相手にずばっと発言しているように感じますが、実は相手を攻撃するばかりで言葉の真意を伝えられていないのです。「私は怒っている」って、言ってはダメな気がしていませんか?
指示すべき時ははっきりと
ユー・メッセージは支配的になる場合があると解説しましたが、それが必要な時もあります。時間のない時や危険が伴う時など、互いの考えよりも優先して伝えなければならないことがある時にユー・メッセージが有効です。アイ・メッセージを意識しながらも、臨機応変に使い分けましょう。
アイ・メッセージの具体例をチェック
アイ・メッセージの具体例<職場編>
職場でアイ・メッセージを使うことは、同僚同士のコミュニケーションを円滑にし、気持ちの良い職場環境作りにつながります。
例1)上司から部下へ
◆ユー・メッセージ
「(あなたは)まだ書類できてないの?(あなたは)早くして。」
◇アイ・メッセージ
「書類が未提出だから(私は)心配している。今日の会議に間に合うよう作ってくれると(私は)助かる。」
例2)同僚へ
◆ユー・メッセージ
「ここを間違えるとは、(あなたは)ありえない。(あなたは)もっとしっかり確認して。」
◇アイ・メッセージ
「ここを間違えるとは、(私は)少しがっかりしている。もっとしっかり確認してもらえると(私は)嬉しい。」
気をつけたいのが、アイ・メッセージのフリをしたユー・メッセージ。
「私は、あなたはもっとしっかり確認すべきだと思う。」
この伝え方は「私は~」で始まって自分の考えを伝えているように感じられますが、実は「あなたはもっとしっかり確認すべき」というユー・メッセージに「思う」をつけただけのなんちゃってアイ・メッセージなんです。ユー・メッセージで伝えるよりやわらかくはなりますが、あと一工夫して伝えられたらいいですね。
アイ・メッセージの具体例<パートナー編>
パートナーだからこそ感情をそのままにぶつけられるけれど、売り言葉に買い言葉になる場合も。アイ・メッセージを使い、互いを思いやって伝えてみませんか?
例1)
◆ユー・メッセージ
「(あなたは)少しは家事を手伝って。」
◇アイ・メッセージ
「家事を分担してもらえると(私は)助かる。」
例2)
◆ユー・メッセージ
「あなたはいっつもそう!」
◇アイ・メッセージ
「あなたがそう言う度に(私は)悲しい。」
パートナーは、相手があなただからこそ自分の言い分を主張するかもしれませんね。家事の分担を願い出たら、「(あなたは)どうしてできないの?ほかの家の人は(みんな)できてる。」とユー・メッセージを放つかも。そこで試合開始のゴングが鳴っては意味がありません。思った着地点へ向かわずとも、落ち着いてアイ・メッセージで伝えてみましょう。
アイ・メッセージの具体例<育児編>
アイ・メッセージは「親業」で提唱されたものですので、育児にももちろん活用できます。しかし、自分の考えを確立しておらず公共の場のマナーもまだわからない子供。使用には一層の注意が必要かもしれません。
例)
◆ユー・メッセージ
「(あなたは)うるさい!(あなたは)静かにしなさい!」
◇アイ・メッセージ
「(私は)今静かに過ごしたいな。(私は)もっと小さな声で離してくれると嬉しいな。」
静かにしてほしい場所が自宅ではなく図書館の場合、母の思いよりも「図書館では静かにする」というマナーを教えなくてはいけませんよね。子供に対してはユー・メッセージとその根拠を伝えるべき場面も多いと言えるでしょう。特に危険を伴う場面ではユー・メッセージが適していますよ。
また、「ママは~してくれたら嬉しい」という伝え方は、子供の承認欲求を育ててしまうこともあります。「ママは悲しい」というメッセージが想像以上に子供をショックを与える場合も。幼い子供にとって、親はこの世のすべてとも言える大きな存在。感情の伝え方に注意するとともに、「だって~」が満載の子供の主張、思いをしっかりとすくい取ってあげましょう。
アイ・メッセージとは、伝える言葉の最初に「私は~」がくるように伝えること。自然と、自分が思っていること、自分の感情を伝える形になります。アメリカの心理学者、トマス・ゴードン氏が、自らが提案するメソッド「親業訓練」の中で提唱したコミュニケーション策です。