3つの整えメソッド
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食欲不振をケアする、中医学の優しい養生―8月の不調「胃腸機能の低下」

取材・文:仁田ときこ イラスト:小池ふみ

年を重ねるにつれ、少しずつ現れるマイナートラブル。肩こり、片頭痛、便秘、さらには、気持ちが沈みやすくなったり、妙にイライラしたり。病気とまではいかないけど、心身の不調に悩まされる現代女性は多いもの。そこで、四季のある日本人の暮らしの基盤「衣・食・住」からヒントを得た「3つの整えメソッド」なるケア方法を提案します。毎回ひとつの不調に対して、日常生活でできる養生法を専門家からアドバイス。連載第2回目の今回は、夏の胃腸機能の低下や食欲不振のケアがテーマです。

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2019年08月15日作成

目次

食欲不振をケアする、中医学の優しい養生―8月の不調「胃腸機能の低下」
本格的な猛暑が続き、外が暑いからと冷房が効く室内で過ごしてばかりでは、汗をかけずに体内で熱がこもってしまいます。そうすると、体内にこもった熱を冷やそうと、体は冷たい食べ物や飲み物を欲します。夏に胃腸が冷えて、消化吸収する力が弱る原因はここ。胃腸機能が低下すると食欲も低下するので、知らず知らずのうちに夏バテに。熱のこもりと胃腸の弱りは秋冬になって体調を崩す要因になるので、夏こそしっかり汗をかき、生活環境を整えましょう。

今回は胃腸ケアを中心に取り入れるべく、「ミドリ薬品 漢方堂」三代目の櫻井大典先生に中医学の観点からアドバイスをいただきます。

「高い気温」と「多い湿気」に悩まされる日本の夏

ジメッと肌にまとわりつく、高い気温と多い湿気が特徴の日本の夏。中医学では高い気温と多過ぎる湿気も体に害をもたらす「湿邪」になり、健康を損ねるものとされています。

櫻井先生いわく、「頭が重くなったり、胃腸が弱くなったり、エネルギーがつくりにくくなるのも湿邪のせい。例えば、スポンジを想像してみてください。スポンジは水を吸うと重くなり、冷たくなります。人の体もスポンジと同じ。湿邪の影響を受けると体は冷え、重くなっていきます。普段から代謝が悪い人やむくみやすい人は、湿邪によって悪化することも」と話します。

櫻井先生の『3つの整えメソッド』

【食のメソッド】体にこもった熱を逃がす食べ物

では、こうした症状が見られる場合、体の熱を逃がすために食事ではどんなことに気をつけたら良いでしょうか?
食欲不振をケアする、中医学の優しい養生―8月の不調「胃腸機能の低下」
「体の熱を逃がすには、体内の水分のバランスを整えることが大切です。利水作用の高いきゅうりやスイカなど、ウリ科のもので熱い体を冷ましましょう。冷え症の人は火を通したり、温める食材の生姜と合わせて食べるのもおすすめです。他には、三つ葉、いちじく、バナナ、アサリ、こんにゃく、豆腐、ズッキーニ、ハトムギ茶、クレソン、緑豆をどうぞ。
逆に、摂り過ぎに注意したいのが、冷たい麦茶やビール、冷蔵庫で冷えた果物や刺身、アイスです。これらは体内の水分調整機能を低下させ、体のむくみの原因になるもの。体温より冷たいものや水分の摂り過ぎを控えましょう」

「そして体に熱がこもる人の他に、潤い不足の人もこの時季に増えてきます。喉が異様に渇く、寝汗をかく人は、血が足りないことから来る潤い不足。中医学では、冬に悪化する病気や冷えのトラブルは、夏の暑さに力を借りると回復が早い“冬病夏治”といわれています。
夏は発汗で潤いを消耗するので、血を巡らせて補血作用のあるアスパラ、オクラ、エリンギ、鮎、イカ、牡蠣、豚肉、リンゴ、ブドウを積極的に摂取してください」
この時季はどんな不調が増えるのでしょうか?
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「4〜5月は新学期で気が張っていますが、7〜8月になるとその頑張りが息切れしてくる時季。寝汗やのぼせ、空咳がひどくなったり、夕方になると微熱っぽくなる人、肌が乾燥する人が増えてきます。そんなときは胃腸の負担を減らすために辛い物を避けて。油っこい物も体に熱をこもらせるので控えるように気をつけてください」

酸っぱい物を意識的に摂ろう

食欲不振をケアする、中医学の優しい養生―8月の不調「胃腸機能の低下」
「夏バテで食欲が低下したら、まずは朝にお粥と梅干しをどうぞ。ミネラルとエネルギーと失いがちな水分をすべて同時に補え、さらに消化器系の負担にならない最適な朝食です。
また、夏は酸っぱい物を摂るのに適した季節。中医学で「酸味」には収斂作用といって、漏れ出るものを抑える働きがあるとされています。汗のかき過ぎを抑える力、必要な潤いを体内に蓄えておく働きがあるので、レモンや酢の物、らっきょうなどをぜひ適量摂ってください」
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「飲み物でおすすめなのは、緑茶に少しの塩を足したもの。涼性の緑茶はこもった熱を冷まし、発汗で失った電解質(塩分・ナトリウム)を塩で補給できるので、猛暑にこそ最適です」
最近は薬膳や漢方食材を実生活に取り入れた食養生を行う女性が増えているそうです。初心者にも取り入れやすい薬膳や漢方食材はありますか?
「クコの実は“枸杞子(くこし)”と呼ばれる生薬で、五臓の肝と腎を養い、目をはっきりさせて、呼吸器系を潤すとされています。肝はストレスのクッション的役割を担う場所で、弱るとイライラしたり、情緒が不安定になります。その影響から胃腸の働きが弱まり、食欲が低下してお腹が張ることも。腎は発育と生殖を司り、生命エネルギーを蓄えるタンクの役割。腎が弱くなると集中力や記憶力が低下して元気がなくなります。
クコの実は、そんな体と心の両方をケアする食べ物なので、1日5〜15gは食べたいですね。ひとつかみを目安にしてください」
クコの実なら5〜10分ほど水に浸しておけばすぐに食べられるので、サラダのトッピングに加えてもおいしそうですね。中華スープや魚ベースのスープに使うなら、ドライのまま加えて煮込むだけなので簡単です。
普段の料理などに使いやすい食材は、他にもありますか?
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「食養生に迷ったら“黒きくらげ”を選べ、といわれるほど、黒きくらげは中医学的に体に重要な働きをしてくれます。血行を良くしたり、出血を防いだり、喉や肌を潤す働きがあるうえ、胃腸を丈夫にして便通を整える力も。ニキビなどの肌トラブルや肩こり、月経痛がある人にもおすすめなので、現代女性に頼もしい食材ですね。乾燥した黒きくらげなら水で戻して刻み、炒め物や味噌汁、鍋の具材にどうぞ」
確かに、薬膳カレーには黒きくらげが入っているのをよく見かけます! アクがなく、コリコリした歯ごたえが楽しめるので、いろいろなレシピに活躍できそうです。

【整のメソッド】日常で取り入れる養生

自分自身で体調をチェックする方法はあるのでしょうか? 今、自分がどんな状況で、どこが弱っているかを自己診断できたら、暮らしに役立ちそうです。

毎朝の舌診でその日の体調をチェック

「朝起きたら、舌をベーッと出して観察してください。これを舌診(ぜっしん)といいます。舌は前日の食事の内容や体調で大きく変わるもの。
健康な人の舌は、淡紅舌薄白苔(たんこうぜつはくはくたい)という状態。適度な赤みがあり、薄く白い苔がまんべんなく付着しています。しかし、病的な状態になるとひどく赤くなったり、白っぽくなったり、苔が分厚くなったりと、さまざまな状態に。では、初めての舌診でも判断しやすい4つの舌の状態をご説明します」
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気虚(ききょ)
やや大きく腫れぼったい舌。左右にギザギザと波打ったような歯跡があり、色は薄い紅色、もしくは淡白で、白く薄い苔が付着。この場合、エネルギーが不足しがちで疲れやすく、風邪を引きやすい状態に。冷えを感じる人もいます。精をつけようと焼肉やステーキを食べると消化のためのエネルギーを費やして逆に悪化することも。睡眠をしっかり取り、エネルギー不足を補う米や豆類、イモなどを適度に摂って。
陰虚(いんきょ)
舌に裂紋(溝や割れ目)があり、色は深紅。苔はないか、もしくは少ない。この場合、体内の水分が不足することによって冷ます力が減退している状態です。体内に熱がこもって、手足のほてりやのぼせの症状が表れる。香りが良くて食欲を引き出す香味野菜や柑橘類、ハーブなどを食生活で取り入れて。
血虚(けっきょ)
舌がやや痩せて薄く、舌の表面に溝や割れ目があります。色はやや淡白、または淡く白いピンク色で、苔は薄くて少なめ。この場合、血の働きが弱い状態です。顔色は白く、めまいや立ちくらみがあり、肌や髪の乾燥も見られます。抜け毛か白髪が多くなることも。血を補う黒豆、黒胡麻、黒きくらげを摂取して。
瘀血(おけつ)
舌が紫っぽい暗い色になり、黒いシミが見えることもあります。舌の裏の静脈が太くなり、コブのようなものが出ることも。瘀血ではシミやそばかすが多く、慢性的な肩こり、頭痛、月経痛などが見られ、経血にはレバー状の固まりが交じることもあります。これは血の巡りが悪くなっている状態。毎日の生活習慣を整えることが大切で、適度な運動や十分な睡眠、バランスの良い食事、イライラしないでリラックスできる時間を持つことも重要です。

体調の変化を読み解ける舌の苔の色

「舌の苔はない方がいいと思われがちですが、薄く白い苔が全体にあるのが正常で、まったくないのは乾燥して潤い不足です。厚くべとべとした苔があるのはドロドロとした必要のないものが溜まっている状態。色からも体調を読み解けるので、ぜひ自身の体調の変化の判断材料にしてください」
食欲不振をケアする、中医学の優しい養生―8月の不調「胃腸機能の低下」
痰湿(たんしつ)
フチにギザギザの歯形がつくほど、舌が大きく腫れぼったく肥大した状態です。色は淡白で、苔は白く厚く粘りがあります。体を温める力が足りず、体内に過剰な水分や体液が滞って冷えている原因なので、過剰な水分を排出することが重要。小豆やトウモロコシなど、利尿作用の高い食材を積極的に摂り、適度な運動も心がけましょう。日常でしっかり汗をかくことも大切です。
湿熱(しつねつ)
黄色い苔がべっとり付着。舌はぽってり太り、大きくなっている。体に熱が溜まった状態で、皮膚状態が悪くなっていることも。お酒をたくさん飲む人や濃い味を好む人に多く見られる。熱を取る働きの高いきゅうり、冬瓜、トマト、海藻類がおすすめ。
最近、オーラルケアの流行とともに、舌磨きや舌ケアなどの舌苔を掃除する商品がたくさん販売されています。これは、中医学から見ていかがでしょうか?
食欲不振をケアする、中医学の優しい養生―8月の不調「胃腸機能の低下」
「苔を取るグッズは今やたくさん流通していますね。口臭予防や見た目の清潔さを目的にしたものが大半だと思いますが、過度な掃除は実は危ないんです。味覚を感じる味蕾(みらい)という細胞を傷つけ、苔をさらに付着させやすくします。掃除するよりも食生活を整えて、過度な苔が増えないようにケアすることが大切です」

【心のメソッド】心と体を労る過ごし方

中医学では「自然とともにある」ことを何より大切にしていると伺いました。猛暑の8月、私たちが生活の中で心がけたいことはありますか?
食欲不振をケアする、中医学の優しい養生―8月の不調「胃腸機能の低下」
「太陽の動きとともに暮らすことが大切です。夏の日の入りは遅く、日の出は早いことから、遅く寝ても早起きすることを心がけて。夏の養生はまずは早起きから始まります。
直射日光を避けながらも適度に汗をかき、熱をこもらせないようにしましょう。エネルギーを発散できずに内側にこもらせてしまうと、行き場のないエネルギーが熱となり、体内で潤いを消耗します。そうすると、秋に体調を崩す原因になるので、夏の過ごし方がとても大切です」

翌朝の目覚めが良くなる23時の就寝

食欲不振をケアする、中医学の優しい養生―8月の不調「胃腸機能の低下」
「中国最古の医学書【黄帝内経(こうていだいけい】に“子午流注(しごりゅうちゅう)”という理論があります。“子牛”は時刻の意味で、1日24時間を12等分にし、“流注”は人体の十二臓腑の気血運行の流れを意味し、時刻によって内臓の働く場所が異なることを指しています。子の刻に当たる23〜1時は胆経の働きが盛んになる時間帯。胆汁の新陳代謝が活発になります。この時間帯にしっかり眠りにつくと、血液がきれいになり、翌朝の目覚めが良く、頭もスッキリしますよ。
ただし、暑いからといって扇風機の風に直で当たるのはやめましょう。風に長時間当たると頭痛が起こりやすくなるので、部屋を適度に除湿して寝るのがおすすめです」
夏に限った話ではありませんが、つい就寝前にスマホをチェックする習慣がある現代人が多いように感じます。この場合、体にどんな影響が出ますか?
食欲不振をケアする、中医学の優しい養生―8月の不調「胃腸機能の低下」
「目を使い過ぎると、目だけではなく周囲の筋肉も疲労します。すると、目や周囲の筋肉がこり固まり、血行不良に。栄養や潤いが行き渡らなくなって、こめかみの張りや痛みにつながります。また、スマホで同じ画面を見続けていると、目が極端に乾燥します。目の酷使は、血液も使います。体の潤い成分が減るので、髪の毛もパサパサになっている人が多いんですよ。普段からまばたきを意識して行うことで乾燥を防げますので、ぜひドライアイ対策を」
最後に、ストレス社会で生きる私たちにストレス緩和の方法を教えてください。
食欲不振をケアする、中医学の優しい養生―8月の不調「胃腸機能の低下」
「夏は室内と室外との温度差から、気分が憂鬱になる傾向にあります。些細なことでイライラしたり、不安になったり、憂鬱感や不眠などの症状も見られます。ストレス対策で重要なのは、自分が感じやすいストレスをできるだけ回避すること。
でも、ほとんどのストレスは、自分でコントロールできない要因が絡んでいますよね。友達に話してスッキリするのも手段ですが、もしかしたら相手にとっては迷惑なときもあるかもしれません。物や人に当たったり、大量のお酒や食事に走るのは、他人も自分も傷つけるのでやめましょう」

「ストレッチをする、空を眺める、運動をする、写経をする、瞑想をするなど、自分に合った発散方法を何でもいいので1つでも多く持ってほしいと思います。
そんな中でも、私は“ストレス手帳”をつけて、自分を知ることをおすすめしています。ノートの左に今日起こったストレスをメモし、そのストレスに1~5までのレベルを自分でつけて、ストレス具合を評価します。ノートの右にはストレスに対して行った発散方法とそれによってどれだけストレス度合いが減ったかを5段階評価で記します。こうすることで、自分がどういったタイプのストレスに対して敏感なのか、どういった発散方法が適しているのかが分かってきますよ。
モヤモヤした夜はまずノートに書き出して、頭の中から出しましょう。夜に思う存分書いたものを朝読み直すと、案外バカバカしくなるものです(笑)。まずは問題を整理することから始めましょう」

次に訪れる季節も、健やかに過ごせますように

食欲不振をケアする、中医学の優しい養生―8月の不調「胃腸機能の低下」
中医学ではよく「養生」という言葉が出てきます。櫻井先生いわく、養生とは「備える生き方」で、今とこの先を快適に過ごすための方法とのこと。夏に適した養生をすることで、その次に訪れる秋や冬も健やかに過ごせるのです。これを「冬病夏治」というそう。発汗によって潤いを消耗する夏、適した食材をしっかり摂って、その栄養を貯められるように早寝早起きを心がけたいものです。

櫻井先生は「すべて完璧にするのが目的ではない。できそうだと思ったことを取り入れてみてください」と話します。自分が無理なくできる、夏の健やかな過ごし方をぜひ実践してください。

プロフィール

櫻井大典

北海道北見市にある1948年創業の「ミドリ薬品 漢方堂」の三代目。アメリカのカリフォルニア州立大学で心理学を学び、帰国後はイスクラ中医薬研修塾で中医学を学ぶ。現在、北見市に3店舗ある薬店の総括を務める。分かりやすい養生法を毎日Twitterで発信し、多くのファンの心をとらえる。著書「まいにち漢方 体と心をいたわる365日のコツ」(ナツメ社)。公式Twitterアカウントは@PandaKanpo
ミドリ薬品
公式HP

仁田ときこ

ファッション誌やライフスタイル誌で暮らしに関する記事を執筆するライター。2人目を出産してから血が足りていないことを実感し、血を巡らせる食材を積極的に摂ることを実践。補血効果の高い漢方茶も愛飲。4歳と7歳の男児を育てる母。
仁田ときこ(@tokikonitta)
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illustrator/小池ふみ
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