知れば知るほど好きになる、日本のうつわ
日本の各地では、その土地の歴史や風土を引き継いだ多種多様なうつわが作られています。伝統的工芸品に指定されている陶磁器だけでも30種類以上あり、こだわってうつわ選びをする時は困ってしまうほど。しかしだからこそ、うつわは知れば知るほど奥深く、面白さや愛おしさも増していきます。まずは代表的なうつわの種類や歴史を知って、自分の好みや暮らしに合うものを探してみましょう。
知れば出会いが楽しくなる!日本の代表的なうつわ10選
どんなシーンにもなじむ多彩なうつわ
①瀬戸焼|使うシーンに合わせて選べる多様さ
愛知県瀬戸市では、古墳時代には焼き物が作られていたと伝えられています。「日本六古窯(にほんろっこよう)」の一つにも数えられる代表的な産地で、焼き物のことを「せともの」と呼ぶこともあるように、その名は古くから各地で知られていました。日本六古窯の中で唯一施釉陶器が作られてきたほか、焼き物の産地としてはめずらしく陶器と磁器どちらも産出するなど、多様な焼き物を作っています。
②美濃焼|特徴がないからこそ、どこにでもなじむ
美濃焼が作られる岐阜県の東濃地方は、食器類の生産量の6割を占める、日本有数の焼き物の産地。その始まりは瀬戸焼と同様古墳時代にさかのぼるという説と、瀬戸焼の陶工が美濃に移り住み、焼き物を作り始めた時からという説があります。多様な釉薬を開発してきたのが特徴で、新しい焼き物を次々と生み出してきました。
③波佐見焼|日常使いのためのうつわ
波佐見焼は、長崎県波佐見町で作られる陶磁器。16世紀末に焼き物づくりが始まったと考えられており、最初は施釉陶器を作っていました。そのうち良質な陶土が発見され、磁器づくりがメインになっていったため、現在でも陶器と磁器がどちらも作られています。古くから大衆向けの日常使いのうつわを多く生産していたことで知られ、たくさん作って気軽に買ってもらえるよう、簡略化された勢いのある絵柄が描かれています。
一枚あるだけで華やかに。食卓の主役になるうつわ
④有田焼|鮮やかで繊細な絵柄が白地に映える
有田焼は、佐賀県有田町周辺で作られる磁器。17世紀初頭、朝鮮の陶工が有田で磁器の原料となる良質な陶石を見つけ、日本で最初に白磁を焼いたことから始まりました。海外への輸出が伊万里港から行われたため、海外では「伊万里」の名前でも知られています。
⑤やちむん|南国のあたたかみを感じる絵柄
やちむん、とは沖縄の言葉で「焼き物」のこと。沖縄が琉球王国だった14~16世紀ころには、すでに交易を行っていた中国や東南アジアから陶磁器が伝わっていました。17世紀初頭、薩摩からやってきた陶工が焼き物づくりを伝えたことから、本格的なやちむんづくりが行われ始めたと考えられています。
素材や作り手を肌で感じるうつわ
⑥小鹿田焼|リズミカルな模様が美しい
江戸時代中期から、300年の歴史を一子相伝で守り続けてきた小鹿田焼。福岡県小石原村の小石原焼の兄弟窯で、当時の技術を引き継ぎつつ、現在でも9件の窯元が大分県日田市の山間の小さな集落で作り続けています。
⑦益子焼|ぽってりフォルムと土らしい肌ざわり
益子焼は、江戸時代末期に栃木県益子町で作られ始めた陶器。益子町で産出する陶土には砂気と鉄分がふんだんに含まれており、粘り気が少なく、耐火性も弱いという特徴があります。割れないようできるだけ厚手に作るため、焼き上がるとどっしり重みがあり、フォルムもぽってりとしたものに。また細かな細工も難しいので、土の肌ざわりを活かした素朴なうつわになります。
⑧信楽焼|アンティークのようなマットな質感
狸の置物で知られる、滋賀県信楽町の信楽焼。日本六古窯の一つにも数えられる、歴史ある焼き物の産地です。13世紀ころには焼き物づくりが始まっていたとされ、粘土のある良質な陶土が産出したことから、甕や壺など大型の焼き物が作られました。釉薬をかけずに高温で焼き上げることで生まれる赤褐色の肌色や、窯の中で灰がかかってできる自然薬などが特徴です。
使ってこそ楽しい。時とともに変化するうつわ
⑨九谷焼|白磁に浮かび上がる貫入が魅力
九谷焼は、17世紀ころから作られ始めた石川県南部の陶磁器。藍青色の下絵に加え、赤・緑・黄・紫・紺青の「九谷五彩」と呼ばれる上絵を施すなど、彩り豊かな絵付けが特徴的です。作り手によって描かれる絵のテイストが異なり、好みの職人さんを探す楽しみもあります。
⑩四日市萬古焼|使うほどに深まる肌ざわり
四日市萬古焼は、江戸時代中期から三重県四日市市で続く焼き物。土鍋や急須などで知られ、特に土鍋は国内のシェアの8割を占めると言われています。ペタライトという鉱物を混ぜた独自の陶土を開発したことで、直火などの高温にも耐えられる焼き物が誕生。調理用はもちろん、そのまま食卓にも出せる多様なうつわを生み出してきました。
好みや暮らしになじむうつわを見つけよう
今回ご紹介した以外にも、日本では地域によってさまざまなうつわが作られています。その土地の陶土や風土、作り手を反映したうつわは、二つとして同じものがない、かけがえのないもの。実用的な観点からだけでなく、自分や家族の生まれ故郷、旅行で訪れて気に入った土地、歴史を知って好きになった窯元など、作られる場所に焦点を当ててみるのもおすすめです。ぜひ種類ごとの特徴や魅力をおさえて、お気に入りのうつわを見つけてくださいね。
瀬戸物の多様さは、特徴的な模様や釉薬によってつくられます。例えば瀬戸の陶器に見られる「馬の目」は、江戸時代から描かれ始めたもの。馬の目を渦巻に見立ててうつわのふちに描くシンプルな模様ですが、手書きだからこそ一つ一つ異なる表情や、和洋問わず使える合わせやすさが魅力です。