「自分らしく生きる」って難しい?
- 寒さに負けない体を目指す!ゆらぎがちな冬のご自愛ケアキナリノ編集部
違う世界もあり*新たな世界に「自分らしさ」を見る小説
れんげ荘|群ようこ|角川春樹事務所
毎日の仕事や家族のしがらみから解放され、穏やかな隠居生活をしたい。そんなふうに思う人は多いのではないでしょうか。たくさん持っている荷物を思い切って手放すことで、今の自分が本当に惹かれるモノがわかるのかもしれません。れんげ荘の住人がつくるほのぼのとした空気もあいまって、生活の中で見落としがちな温かさや優しさが見えてくるお話です。
ブルーもしくはブルー|山本文緒|角川文庫
広告代理店勤務のスマートな夫を持ちながら、年下の同僚と不倫し、共に旅行に出かけている佐々木蒼子。別れ話をしながら帰路にあった飛行機が、悪天候のために福岡に降り立ち、その地で偶然自分と同じ顔をした女性に出会います。その女性、河見蒼子は自分と同じ過去を共有し、なんとかつての恋人と結婚したもう1人の自分でした。そして2人は、期間限定で入れ替わることにするのですが・・・。
現実ではありえない「ドッペルゲンガー」の存在を通し、「パラレルワールド」を体験する蒼子。「あの時こうしていれば・・・」と、人生のifを考えることは誰しもあるでしょう。とりわけ、昔の恋人を思い出して「あの人と結婚していたら」と考えたことがある人は少なくないはず。パラレルワールドの体験は、2つの世界を比較できてしまうということ。見たいような怖いような世界ですが、自分ならどうだろうと想像しつつどんどんと読んでしまう1冊です。
だから荒野|桐野夏生|毎日新聞社
46歳の誕生日当日、朋美は鏡の中の老いた自分を見つめて人生や家族を反芻します。いつも身勝手な夫と子どもたちは「おめでとう」も言ってくれないけれど、家族で食事をしようとレストランを予約していました。ところが家族は朋美の化粧や服装に文句をつけ、レストランについてからも朋美の料理下手を馬鹿にする始末。ついに限界に達した朋美は家出をします。
どんなに仲の良い家族でも、むしろ本音を話せる家族だからこそ、どんどんと思いやりが欠けてしまうことがあります。「母とは?妻とは?私とは?」そんな考えが頭の中を支配し、なんでもないことまで不満の対象になってしまうことも。本作の主人公は募ったイライラから家出をしますが、現実にはなかなか家を飛び出すなんてできませんよね。潔い主人公を通して、もし狭い世界を飛び出したら見えてくるものを疑似体験してみてくださいね。
リセット|垣谷美雨|双葉社
女優の夢を諦め平凡な結婚生活を送る知子は、偶然、中学・高校の同級生の薫と晴美に再会します。それほど仲の良かったメンバーではないけれど、久しぶりの再会を祝うため飲みにいくことに。ところが酒の席は腹の探り合いや互いの不平不満が癇に障りギクシャク。そんな3人が、40代の記憶を持ったまま高校時代にタイムスリップしてしまって・・・。
誰しも、「人生をやり直せたら」と思うことがあるはず。もしも本当にタイムスリップできたら、どの時代から何をやり直すでしょうか。本作では、親になったからこそわかる高校生の時の母の姿に感謝する描写なども描かれます。もちろん、過去に戻って新たにやり直すことはできないけれど、未来の自分にとって過去は「今」。私らしくあるために、今どうすべきか、気持ちが変わるかもしれませんよ。
今ある幸福に気づく*日常に「自分らしさ」を見る小説
癒し屋キリコの約束|森沢明夫|幻冬舎
店に入ると大きな神棚に賽銭箱。そんな一風変わった喫茶店「昭和堂」のオーナーが有村霧子(キリコ)です。オーナーなのにコーヒーも紅茶も美味しく淹れられない彼女が営む裏稼業が「癒し屋」。噂を聞きつけた客がやってきては、神棚に向かって「弱音」をこぼしていくのですが・・・。
実は元カウンセラーというキリコは、とっても自由。ロッキングチェアに座っていつもだらだら。でも、癒し屋を訪ねてくるさまざまな客の問題を解決し、印象的な言葉を残します。それは、これまでの自分を作ってきた価値観や概念を変えてくれるはず。読み終わったら、毎日の過ごし方や日々の出来事への想いがちょっと変わる優しい物語です。
長女たち|篠田節子|新潮社
40女の島村直美は、離婚し、母の介護のために仕事も辞めます。熱烈なアプローチを受けて結ばれた6歳年下の彼氏にも振られてしまい、パッとしない日々。それでも家を守るため、母や妹の理不尽を受け流す毎日ですが、そんな中1人の男性と出会い毎日が少し色づいて・・・。3人の「長女」を描いた中編小説集です。
「長女だから」と必要以上の期待や責任を押し付けられたことがある人もいるのではないでしょうか。そうでなくても、「母だから」「女だから」という社会に漫然とあるプレッシャーを感じたことがきっとあるでしょう。本作は3人の長女にフォーカスしており、3人とも独身で親との関係に悩んでいますが、その心の機微が痛いほどに共感できます。介護という、いつか直面する重いテーマも考えさせられますよ。
下流の宴|林真理子|毎日新聞社
48歳の福原由美子は、中流階級の家庭にプライドを持つ女性。高校を中退しフラフラしたまま成人を迎える息子の翔に手を焼いています。それでも大検だのなんだのと翔に言い続けますが、価値観の違いから思わず勢いで出て行けと言ってしまいます。その翔が結婚相手として「下流」の珠緒を連れてきて、由美子は猛反対するのですが・・・。
一種のステータスや、「あの家よりは・・・」というマウント、プライドなどは、誰しも少なからずあるもの。むしろ、家族を愛し家族のために生きる人だからこそ、「こうでなくては」という思いに縛られてしまうこともありますよね。本作では珠緒が驚きの変化をなし得るのですが、必死で生きる中で知らず識らずのうちに身につけた色めがねやフィルターに気付かされます。それを思い切って手放せたら、世界はもっと優しくしなやかに見えるのかもしれません。
コンビニ人間|村田沙耶香|文藝春秋
36歳独身の恵子の仕事は、コンビニのアルバイト店員。そこは、ちょっと変わり者の自分が唯一「普通の人」として社会の一部になれる場所でした。周囲の人々の服装や言動をマネて周囲に溶け込み、“普通”の生活をしていた恵子ですが、ある日新しいアルバイトスタッフが入ったことで、少しずつ不和が生まれて・・・。
大なり小なり、多くの人は時に無理をして周囲に合わせたり、大勢の中で“普通”であろうとしたりします。こうして言葉にするとストレスにしか思えない習性ですが、果たしてそうなのでしょうか。もしかしたら自分に欠かせない、もっと強く言えば「私らしさ」をつくっている1つかも。“普通”がわからず人をマネるしかない主人公から、そんなことを考えさせられます。どんな道を生きているかより、どんな気持ちで生きているか、改めて考える時間になりますよ。
45歳のキョウコは、大手広告代理店でバリバリと働くキャリアウーマン。連日の接待や母の愚痴に、人生これで良いのかと思い始めたある日、テレビで見たアメリカ人女性ののびやかな暮らしに触発されます。さっそく希望退職をし、貯金で慎ましく生活するために安アパートの「れんげ荘」へお引越し。そこにあったのは愉快な住人と少しの不便、そして忘れていた穏やかさでした。