春にぴったりの小説をご紹介。
【さくら】|西加奈子
サクラが子犬の頃から老犬になるまで、そして三兄弟それぞれが成長していく様子が時間の経過とともに描かれています。大人になって人を愛することとは?生と死とは?人生における苦難をどう乗り越えていくのか?という深い部分にまで触れられているのに、物語は決して暗くなりません。そこには、やはり愛犬・サクラと長谷川家の人々の交流があったからであるように感じます。西さんの豊かな比喩表現にも注目です!
【花桃実桃】|中島京子
43歳独身の主人公・茜は、父が遺した「花桃館」という古びたアパートを継いで大家さんになることに。「花桃館」の空き部屋に移り住み、風変わりな住人たちとの交流が始まります。茜の背中を押すきっかけを作ったバーテンダーの尾木くん、「花桃館」に父一人息子三人で住む妙蓮寺一家、父の愛人だったという李華さん、幽霊の夫婦などに囲まれながら、40代の茜が大家として奔走する様子をユーモアたっぷりに描いた作品です。
【四月になれば彼女は】|川村元気
4月。精神科医の藤代の元に、ウユニにいるという昔の恋人・ハルから手紙が届きます。結婚を控えた藤代ですが、結婚相手の弥生とは同じ家で暮らすも別々の寝室で寝ているような関係。本当に愛し合っているのかわからない藤代と弥生、学生時代に本気で恋をしていた藤代とハル、そこに入り込む他者の想いが交差していきます。
【春、戻る】|瀬尾まいこ
結婚を控えた主人公・さくらの前に、突然現れた”兄”と名乗る見ず知らずの男の子。どう見ても年下だし、知らない人のはずなのに自分のことをとてもよく知っている”おにいさん”に困惑するさくら。結婚式に出席したいと言ったり、結婚相手の”山田さん”がどんな人物なのか確かめに仕事場の和菓子屋まで来たりと、突飛な行動に出る”おにいさん”に振り回される、騒々しくも楽しい結婚までの日々が始まります。
“おにいさん”の飄々とした雰囲気や言動に、こちらの気分まで明るくなってしまうお話です!”おにいさん”の存在を通して徐々に強まっていくさくらと山田さんの関係性にもほっこり◎読めば元気になれること間違いなしです!
【ふたつのしるし】|宮下奈都
美しい容姿と優秀さを隠してきた”遥名”、いつも周りと比べて遅れたテンポで生きてきた”温之”。別々の場所で、全く異なる人生を送ってきた二人の”ハル”は、2011年3月11日の東京で出会うことになります。二人がどのように生きてきたのか、そして出会うべき人と出会えた彼らがその後どのような人生を送るかまでを丁寧に描いた作品です。
不器用に生きる”ハル”たちが運命の日を迎えるまでには、幼い頃から大なり小なり関わってきたたくさんの人々の存在がありました。この作品の最終章は2011年から10年程経った日々が描かれています。ぜひ、今のタイミングで読んでもらいたい一冊です。
【春のオルガン】|湯本香樹実
小学校を卒業したトモミ、四年生になる弟のテツが過ごした春休みの日々を描いた作品です。家を頻繁に留守にする父、働きに出る母、納戸の整理ばかりする祖父、図鑑が大好きな弟と暮らすトモミは、他者との関係や、大人になっていく自分の心と身体を上手に扱えなくなってきていました。
そんな日々の中で出会ったのは、野良猫と、彼らに毎日餌をやるおばさん。猫の溜まり場となっていた場所で一夜を過ごしたり、風邪をひいたおばさんの代わりに餌やりをしたりするうちに、トモミの心に少しずつ変化が訪れます。忘れかけている子どもの頃の世界の見え方が、湯本さんの文章によってパッと甦るような作品です。
【三月は深き紅の淵を】|恩田陸
勤め先の会社の会長から、お茶会へ招待された巧一。大豪邸で待っていたのは、読書好きの奇妙な人たちでした。彼らから、作者未詳の「三月は深き紅の淵を」という幻の本の存在を聞き、本だらけの豪邸からその一冊を探すことになった巧一。発行部数は限られていて、持ち主は一人にだけ(それも一晩限り)貸すことが許されたその本の正体とは…?
この作品は、作中に登場する「三月は深き紅の淵を」という本と同じ4部作になった入れ子構造の作品です。そのため、今自分は「三月は深き紅の淵を」を読まされているのか、また違う何かなのか?と思わず考え込んでしまう不思議な感覚を味わうことができます。ミステリー好きの方にもオススメしたい一冊です。
【旅屋おかえり】|原田マハ
主人公はアラサーの売れないタレント・丘えりか。略して"おかえり"。担当していた旅番組が自身のミスによって打ち切られてしまい、所属しているプロダクションと共に絶体絶命のピンチに陥ります。そんな時、大切なカバンを電車の中に置き忘れて泣きっ面に蜂状態。しかしそのカバンを届けに出向いてくれた女性から、仕事の依頼をされることになります。その仕事とは、病気で動けなくなった娘の代わりに旅をしてきて欲しいというもの。娘の希望する旅先、秋田県の角館へ満開の桜を見に行く事になった"おかえり"は無事に仕事を果たすことができるのでしょうか?
【津軽百年食堂】|森沢明夫
弘前で百年続く食堂の息子である陽一は、現在東京でピエロのアルバイトをしながら生活中。ある時、仕事の現場で出会った同じく弘前出身の七海という女の子と恋に落ちます。彼女はカメラマン志望でアシスタントの仕事に奮闘していました。実家の後継が脳裏をよぎる陽一と、東京で独立を目指す七海。離れ離れになるかもしれないという予感がしていたある日、陽一の姉から父親が骨折したという電話がかかってきます。ちょうどその頃、食堂では弘前の一大イベント"さくらまつり"の出店が控えており、陽一は店の手伝いに行くかどうか選択を迫られます。
【天使の卵】|村山由佳
主人公の歩太は19歳の予備校生。ある日電車で一人の女性に一目惚れします。後日、奇跡的に再開を果たしますが、彼女は歩太の父親が入院している病院の精神科医で、しかも歩太が付き合っている女の子の姉でした。8歳年上の彼女と、10代の青年の淡く切ない恋のお話。
歩太の真っ直ぐな恋心と、大人になり切れていない自分へのやり切れなさがひしひしと伝わってきます。2006年には映画化もされた作品です*
みんなのヒーロー的存在の兄ちゃん、誰もが振り向いてしまう美しい妹の二人に挟まれた次男の”薫”が語り手の物語。仲の良い三兄妹と両親、「サクラ」と名付けられた一匹の犬で構成される”長谷川家”の幸せな日々は、兄ちゃんの死により一変してしまいます。