【連載】#インスタとわたし vol.6 –北岸由美さん（@yumikitagishi）

1年365日、毎日可愛らしいイラストが投稿されているのは、イラストレーター北岸由美さんのインスタグラム。

「おはよう！」窓越しにお隣のふくろうに挨拶しながら、お花に水をあげるハリネズミ。寝坊して怒られている黒猫。ハリネズミママは、家族の朝ごはんなのか、たくさんの目玉焼きをこしらえています。
ながめていると、今にも楽しいおしゃべりが聞こえてきそう。まるで、北岸さんのインスタの向こうに別の世界が広がっていて、住人の暮らしぶりを覗いているようです。「今日もハリネズミや猫たちは元気にしているかな？」と、楽しい想像がふくらみます。

イラストには、毎日の日付入り。その日だけのイラストです。そのため、「私の誕生日なんです。この日のイラストを楽しみにしていました」というコメントもちらほら。

1年という月日は、うっかりしているとまたたく間に過ぎ去ってしまいますが、毎日がだれかの誕生日であり、だれかにとっての特別な日だと思うと、今日という日をもっと丁寧に暮らしていける。北岸さんのインスタを眺めているとそんな風に思えます。

海外からもラブコール！北岸由美さんのほっこりイラスト

──いつから1日1イラストをインスタにアップするようになったんですか？

それまでもイラストやネイルペイントを投稿していたんですけど、日付入りのものを投稿するようになったのは2年ほど前からです。めいっこのバースデープレゼントに小さな絵を描いて贈ろうと、誕生日の日付とメッセージを描いたんですが、それをみて「ずらっと１年分、日付入りの小さな絵を並べたらかわいいかな」と思い、はじめてみました。

──こちらのノートに描いてあるイラストですか？
そうなんです。これに毎日描いています。最初はもっとラフな紙だったんですけど、まとめて見れるものがあるといいなと思い、ノート型のものに描きためています。

インスタグラムからはじまった
交流やイベント

──インスタグラムをはじめて良かったと思うことは？

海外の方からメッセージやお手紙をいただくこともありすごく嬉しいです！あとは、オランダの雑誌『Flow』にご紹介いただくなど思いがけず海外のお仕事につながったこともありますし、インスタに投稿していたイラストが『366日のちいさな物語』としてまとめられて書籍化もしました。

──可愛らしいお手紙ですね！どちらの国の方からですか？

イギリスで私と同じイラストの仕事をされている方なんですが、手紙と一緒に自分の作品や絵を一緒に送ってくださって。以前からお互いフォローはしていたんですけど、さらに距離が近づいたように感じました。
インスタのお陰で、気軽にほかの方の作品を見ることもできるようになり、作家同士の繋がりが増えたことは嬉しいことのひとつです。

小さな爪に描かれる
小さなイラストが話題に

──フォロワーさんが増えたきっかけは？

爪にイラストを描いた写真を投稿していたら、海外の人にとって新鮮だったのか、リポストで紹介してくださる方もいて……そういうところから広がりました。ネイルペイントのイベントを始めるようになったのも、それがきっかけなんです。

──爪に絵を描こうと思ったのはどういうところからですか？

私がイラストを描く時に使っているのと同じアクリル絵の具で、ネイリストさんがネイルペイントをすると知って、なんとなく描いてみたのが始まりです。小さい絵がもともと好きだったので、最初は遊びで描いて自分で楽しむだけのものでした。

──ご自分の右手にも！描かれるのは大変ではないですか？

そうなんです、左手で描くのは大変なんですけど、段々上達してきました（笑）

イラストのヒントは
日常からアンテナを張って

──インスタに投稿されているイラストをみていると物語を読んでいるかのような気分になります。ストーリーなどはあるのですか？

全てのイラストにストーリーがある訳ではないですが、羊のおばさんと黒猫が登場するイラストは、羊のおばさんが猫を拾って帰り、お家で一緒に過ごす様子を描いています。それは時々登場させると、フォロワーさんの反応がいいです。あとは、「12月はクリスマス」など月ごとにテーマを設けているときもあります。

──毎日となると大変だと思うのですが、1つのイラストを描き上げるのにどれくらい時間をかけていますか？

仕事とは別に時間をとって30分～1時間くらいで仕上げるようにしています。朝、起きぬけで温かい飲み物を淹れて「よし！」と、すぐ机に向かって（笑）。上手にできると朝からいい気分で嬉しくなるので、朝の短い時間でできるくらいのサイズで無理せず続けようと思っています。

──日付を入れる以外に、自分なりに決めているルールは？

「毎日やらなきゃいけない」と思うと追い詰められてしまうので、気負わずにやるようにしています。ただ、やっぱり見てくれている人がいるっていうのは意識して、楽しい気分になるものを描くよう気をつけてますね。

──毎日イラストをアップするとなると、テーマに煮詰まってしまうこともあるのでは？

そうですね、テーマを絞り過ぎちゃうとそういうことも……。前に「動物を抱っこしているシリーズ」というのを月のテーマにしたときは大変で、最後の方はイソギンチャクや恐竜が登場しました（笑）。テーマを絞ることで面白いものが生まれることもありますが、なるべくテーマは決めすぎないようにしています。あとは、普段の生活のなかから使えそうなものを探すようにしています。

──なるほど、意識的にイラストのヒントをどこかに探しに出かけたりはしますか？

わざわざそのために出かけるというよりは、通りすがりの人からヒントをもらったりすることが多いですね。たとえば、自転車の親子とすれ違ったとき、後ろに乗った女の子がお花を大事そうに持っているのが可愛らしくて、前に絵に描いたことがあります。

──ミニキャンバスの作品も、その小ささがとても可愛らしいですね。

これは、毎日インスタに投稿しているものを発表できる場はないかな？と思っていたときに、画材屋さんでたまたま小さなキャンバスをみつけたので、366枚購入して描きました。ちょうど1年前に個展をやったときにずらっと並べて展示したのですが、お誕生日プレゼントに買ってくださる方や、日付に思い入れがあるという方が選んでくださって「なるほど」と思いました。

──こんなお誕生日プレゼントもらったら嬉しいですね！

インスタグラムでも、そのままリポストして誕生日メッセージに使ってくださる方も多いんです。どの日もだれかの特別な日だと思うと、毎日楽しい絵にしたいなと思います。

最後に――ズバリ、北岸さんにとってインスタグラムとは？

"わたしが毎日、自分だけのルールで描いている小さなイラストレーションは、インスタグラムがなかったら、時々自分で見返したり、親しい誰かに見せたりするためだけのささやかなものだったと思います。
それが毎日投稿することによって、誰かの誕生日のメッセージになっていたり、記念日のお祝いになっていたり。
描いた時には思いもよらなかった形で楽しんでもらえて、その反応をこちらでも見ることができる、とても大事なものになりました。"

「北岸さんにとってのインスタグラム」をイラストで表現していただいたのがこちらの一枚。

さて今年もまた北岸さんのインスタでは、今日という誰かの特別な1日が、物語のように綴られていきます。それは語られることはなくとも、見ている人それぞれの心をほぐしてくれる優しい物語。

1年365日は、”特別な1日”が積み重なってできているということを、可愛いイラストとともにしみじみ感じさせてくれる北岸さんのインスタグラムでした。

北岸由美さん(@yumikitagishi) • Instagram

北岸由美さんのインスタグラムはこちらから。

（取材・文／西岡真実）

北岸由美さんの作品展「おでかけ」開催中！

北岸さん 7回目の作品展「おでかけ」が、青山のギャラリー・ドゥー・ディマンシュで開催中です。
あちこちに「おでかけ」を楽しむねこやいぬ、ひつじにわに、ハリネズミたちが描かれた楽しいイラストが並びます。記事中でご紹介したインスタ投稿をまとめた書籍『366日のちいさな物語』や雑貨の販売も。
北岸さんの可愛いらしい世界観がぎゅっと詰まった作品展、ぜひ足を運んでみてくださいね。

◯北岸由美作品展「おでかけ」

◯期間:12月26日(火)〜1月14日(日)

◯場所：ギャラリー・ドゥー・ディマンシュ
　　　　〒150-0001　東京都渋谷区神宮前3-5-6

◯営業時間：12:00～19:30　
◯定休日：月曜