最後に学んだのはいつですか?
たとえば仕事上で必要になった場合、専門資格取得のための試験勉強に励むこともありますよね。通常業務に追われながらの勉強にもかかわらず、時間を見つけてはこまめにテキストに向き合いますし、英語を身につけたいとなれば、学生時代よりよほど熱心に効率の良い勉強法を探そうとします。自分の意欲によって『学ぶ』ことの意味や姿勢は全く違ってくることに、大人になってから改めて気付いたという方も多いのではないでしょうか?
また、年を重ねてさまざまなものを見、いろいろな経験を積むほど、知りたいことも増えていきます。趣味をもっと深めてみたかったり、昔興味があったことにもう一度好奇心が湧くこともありますよね。大人の『学び』は、まさにそんな瞬間が最大のチャンス。「今さら?」なんて思わずに、これから始める新しい『学び』の魅力について見ていきましょう。
脳は使わずにいると能力がどんどん失われていく
人間の脳が秘めている力って…?
新しいことを始める不安への言い訳に、「もう若くないから」などと年齢の話が持ち出されるのはよくあること。年をとればとるほど人間の脳はパフォーマンスが落ち、記憶力も判断力も下降すると一般的にも思われがちです。確かに物忘れや度忘れは、大人になってからどんどん増えているような気もしますよね。
でも近年の研究によると、『人間の身体の中で最も老化しにくい臓器は脳である』とも言われているのをご存知でしょうか?
脳には年齢に関係なく発達し続ける部分がある
脳にある神経細胞(ニューロン)は、接合部のシナプスを介して電気信号を送り、さまざまな情報を伝達しています。細胞間を複雑に走るこの回路こそ、脳の働きを左右するもの。何かに挑戦したり好奇心をくすぐられるなど、刺激が多いほど回路はどんどん広がり、脳も活発に働くという仕組みです。
実はこのニューロンは身体のほかの細胞に比べて明らかに老化しにくく、中には70〜80歳でも再生する力を持っているものもあるのだそうです。つまり脳は、しっかり使い続けていれば年齢に関係なく若さを保ち、回路を発達させ続けてくれるということ。
「何かを始めるのに遅すぎるということはない」とよく言われるように、むしろ年を重ねるほど、未知の分野へのチャレンジは脳の活力にとって大切な栄養なのです。
常に変化する『脳の力』を鍛えよう
脳がそれほど衰え知らずな臓器なら、なぜ年を取るほど記憶力に自信がなくなってくるのでしょう?
それは、大人は子ども時代に比べ、既に蓄えている情報量が桁違いだからです。膨大な知識の中から必要な正解を取り出すのには時間がかかりますし、あまり取り出されず必須でないと判断された記憶はどんどん消されていきます。
記憶がきちんと定着するための条件はいくつかありますが、ひとつは繰り返し復習すること。もうひとつは、興味を持って覚えることです。好きな芸能人の名前など、ワクワクした感情を伴った事柄は、いくつになってもすぐに記憶に残りますよね。日々の情報を取捨選択し、常に変化を続ける私たちの脳は、意欲的な学習によって鍛えることでその機能を若々しく保つことも可能になります。
脳を使う事によって起こる変化とは?
記憶力や認知機能が高まる
脳は使うほどに新しい回路を繫ぎ、活性化していきます。以前はあまり覚えられなかったような事柄も、自分の興味が持てる分野から切り込んだり、関連付けやグループ分けなどの方法を駆使して情報を整理するうちに、誰でも自然と記憶力が向上するのだとか。また、効率的な思考に慣れた脳は、現状把握や未来予想を次の行動に上手に役立てることもできるようになってきます。
視野が広がる
脳を活発に動かしていると、新しい情報に触れた時にも柔軟に対応できます。今までに得た知識や経験と摺り合わせることでさらに物事への理解が深まったり、多角的な判断力が身に付いたりして、視野を広げることにも繋がります。
新しいひらめきが生まれる
問題にぶつかってその解決に悩んでいる時、ただ堂々巡りを繰り返すだけでは良い方法はなかなか見つかりません。全く違う視点からのアプローチや発想を転換など、思わぬ解決の糸口を発見するチャンスの多くは、脳を活発に働かせている時にやってきます。
ワクワク感が生活にハリを与える
新しいことを覚えたり、いいアイデアが浮かんだ時は、誰でも少し胸がときめいたりしますよね。そんなワクワクした気持ちは日常生活にもやる気を与え、ポジティブで健康的な心身を育む良いサイクルへと促してくれます。
久しぶりの『学びはじめ』のヒント
自分にとって興味のあること・ものを学ぶ
新しく学びたいものがたくさんある時でも、まずは自分にとって興味があることや好きなことを優先的に選んでみましょう。はじめから苦手な分野に無理にチャレンジして大変な思いをするより、ファーストステップとして『新しい知識が増える楽しさ』をしっかり味わうと、学びも長続きします。
大事なのは結果ではなくプロセス
頑張って新しい学びに挑戦すると、その成果を実感したくなるのは当然のことです。でも、資格取得等を目的とする勉強でない限り、結果は二の次だとのんびり構えてみて下さい。自分のための学びは、誰の目を気にすることもありません。多少つまずくことがあっても大丈夫。やりたいことを自由に始め、次の好奇心へ繋げていくプロセスこそが一番大切な成果です。
学び方にきまりをつくらない
学生時代の勉強法をふと思い出してみても、ノートに一通り書き出して覚える派や、図書館に籠もる方が捗る派など、やり方も場所も人それぞれだったのではないでしょうか。大人になってからの学びも同じく、やり方は好みでOK。ワークショップに参加したり、ゆかりのある場所に出向いてみるなど、学びを実感するための方法をいろいろ試してみましょう。
気になることにはどんどん手を伸ばそう
ひとつのテーマについて深い学びを追求するのは充実感や満足感を得やすいものですが、もしその過程でほかにも気になるテーマが見つかったなら、ためらわずつまみ食いしてみるのもおすすめです。自分の時間とお金の許す範囲で、知りたいことを何でも自由に探究できるのはまさに大人の特権。どんな知識がいつどこで役に立つのかは、人生のお楽しみです。
スモールステップを設定する
スポーツの修練には勝敗や記録更新といった一定の到達目標がありますが、学びの場合には必ずしもわかりやすいゴールが見えているわけではありません。その代わり、もし検定試験のようなものがあれば受けてみたり、芸術分野なら小さなコンクールや発表会に参加するなど、目標となる小さなステップを中間にいくつか設けてみましょう。その結果によって達成感や満足感を得られれば、「次も頑張ろう」という新たなモチベーションの源にもなります。
より本格的な学びに挑戦したい、と思ったら
“インプット“より“アウトプット”を意識しよう
『覚えた内容の復習に最も良いのは人に話してみること』という説を聞いたことはありませんか?人の脳が記憶を定着させるには、「見る・聞く」で情報をインプットした時よりも、「書く・話す・行動する」でアウトプットした時の方が重要だと言われています。一人で黙々と情報を詰め込んでばかりいては、知識はなかなか自分の中に浸透していきません。
自分なりの学習メモを作ったり、模擬試験で実力を試してみるのもいいですが、一番簡単なのはやはり人に話すこと。今覚えている内容を、もし家族や友人に軽く説明するならどんなふうにまとめることができるでしょう?基礎知識のないほとんど相手にも噛み砕いて話すことができるようなら、その知識は自分の中で充分理解できていると言えます。
同じ学びを共有できる仲間を見つけてみよう
学習を深く進めるほどに、行く手を阻む小さな壁も時々出現します。いろいろ調べても答えが出なかったり、一人で頑張ることに張り合いがなくなったら、同じ学びを共有できるコミュニティを探すのもひとつの方法です。同好会や市民サークル、ワークショップ、講演会など、身近なところに参加できるコミュニティがないか調べてみましょう。
『守備範囲外』にも敢えてチャレンジしてみよう
自分の得意な方法で探究した学びにある程度区切りがついたら、今度は苦手としてきた手法にもチャレンジしてみませんか?
たとえば、文献を読んだり収集や実験によって植物を研究をする理化学分野が得意だった人は、今度は絵画や音楽の分野からその植物にアプローチしてみるといったやり方です。
情報として蓄えてきた草花のさまざまな知識も、いざデッサンの一枚も描こうとするとちっとも役に立たないかもしれません。
でも、花束にするならどんな植物と相性がいいかを試したり、その花を題材にした音楽や文学に触れてみたりすることは、一見関わりがなさそうでも、意外な新しい発見をもたらしてくれる場合があります。ちょっと苦手だなと思うことでも、たまには思い切って飛び込んでみるのも経験のうち。気が付けば、学びのテーマはより深く豊かに掘り下げられているはずです。
新しい学びで人生をもっと豊かに
新しいことを覚えたり、今までできなかったことができるようになったり。あるいは、知りたかったことをもっと深く知って「なるほど!」と納得した時の爽快感は、やはりいくつになっても子どもの頃のように嬉しいものですよね。
この楽しみは、私たちが何かを『知りたい』と思う限りずっと続きます。たとえ普段は気付かなくても、悩んだ時や行き詰まった時、ふと人生の足元を照らしてヒントをくれるに違いない知の輝きを、新しい大人の学びから見つけてみませんか?
学生の頃、試験勉強に追われると「こんなややこしい数式、本当に将来役に立つのかな?」と思ったことはありませんか?
逆に大人になってから、「学生の時にもっと英語をちゃんと勉強しておけば…!」なんて少し悔やんだことはないでしょうか。
あらゆる分野の基礎知識をまんべんなく、半ば強制的に詰め込んできた学生時代と違い、大人になると『学ぶ』ということへの印象は少しずつ変わってきます。