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足のだるさや、痕残りの原因になる「むくみ」とは?
そして、この水分とは「血管の中の水分」「細胞の中の水分」「細胞と細胞の間の水分」の3つに分けられています。むくみとは、この細胞と細胞の間に水分が過剰にたまり、皮膚が腫れてしまった状態のことをいいます。医学用語ではこれを「浮腫(ふしゅ)」と呼びます。
むくみのメカニズムをチェック!
病院でのむくみの判断方法としては、「脛の前や額などの骨が硬いところを5秒以上押し続けての確認」が行われています。その際に痕が付いてしばらくそのままの場合は「水分が細胞間にたまるむくみ」だと考えられます。あるいは足の場合、靴下などの痕が付く、履けていた靴が夕方以降きつくなる場合はむくんでいると判断ができます。
もし、運動しても治らない、朝起きてもむくんでいる、5秒以上押しても弾力をもって元に戻ってきてしまう「痕の付かないむくみ」の場合はリンパ浮腫や甲状腺の病気の可能性も考えられますので、病院への受診をおすすめします。
体のさまざまな場所のむくみの原因は5つ
①体を循環している水分が多くなりすぎたり、流れが悪くなったりすることで、特定の場所に水分が滞り血管外へ漏れ出る
②血液中のタンパク質濃度が下がり、血液中に水分が保てなくなり、血管外へ水分が漏れ出る
③炎症やアレルギー反応、ホルモンの影響により血管の壁が水分を通しやすくなり、血管外へ水分が漏れ出る
④リンパ管の流れが悪くなり、リンパ液が滞留する
⑤薬剤による副作用
原因のほとんどは日常で起こる「一過性のむくみ」
長時間座りっぱなしor立ちっぱなし
一般的なむくみとして一番多い原因です。
人が地上で生活していると、どうしても重力には逆らうことができず、より低い所に水分(血液)はたまりやすくなります。長時間の座りっぱなしや立ちっぱなし、そして寝ている間でさえも動かないとむくみの原因になります。
例えば座ったり立っている場合は足、寝ている場合は逆に普段水分が引いている顔などに一時的に水分が増えてしまうため、むくみを起こします。
基本的な解決策は弾性ストッキングや靴下をはいたり、小まめにむくみやすい部分を動かしたり、高く上げたりといった方法になります。
塩分の取りすぎ
お酒のおつまみやちょっとしたファーストフードなどの、塩分が多い食事を日常的に取っていませんか?
塩分が体内に多くなると喉が渇いてしまい水分をより摂取するため、水分過多になってしまいます。すると、細胞間の水分は増えむくんでしまいます。
また、塩分が腎臓で尿からの水分の再吸収を促す(水分を外に出しにくくする)ため、水分過多となりむくみの原因になります。
冷え
末梢の血の巡りが滞ったときに、同時に冷えを感じることがあります。
水分の流れが悪くなる①に該当しますが、実際は冷えるからむくむという直接的なことが原因ではありません。よく冷え自体がむくみの原因と考えられていますが、冷えが先にくると、血管が縮んで末梢の血液(水分)量は減るのでむくみは逆に起こりにくくなります。
アルコール飲料の飲みすぎ
アルコールは当然水分を多く含んでいるため、過剰摂取をすると水分過多になります。
さらに、アルコールには③の原因となる炎症やアレルギー反応によって、血管を拡張させ血管の壁から水分を通りやすくする作用があるため、水分が細胞間に漏れ出してしまいます。一方で、アルコールには利尿作用がありますが、これは飲酒をし始めて血中アルコール濃度が増加しているときにだけ認められます。さらに、飲酒を続けアルコール濃度が過剰になってくると今度はかえって尿量は減少します。そのため、そのままの状態で朝をむかえてしまうと、血管の外に漏れ出た水分を回収できないまま翌日までむくんでしまうことが多いのです。
足の筋肉量の少なさ
運動などで筋肉が収縮すると周りの組織を押すため、細胞間にあった余分な水分が血管の中へと押し返されます。また、静脈の壁もこのときに押されるので、血液も心臓の方向へと返っていきます。
すなわち、筋肉がポンプの役割をして、重力などで滞ってしまった細胞間の水分を血液にのせて循環させる役割をしています。
「長時間座りっぱなしor立ちっぱなし」と関連しますが、この際も足の筋肉のポンプ作用が働いていないためむくみが起こってしまうのです。さらに、女性の場合は平均的に男性よりも、足の筋肉量が少ないため元々筋力が弱く、特に水分の滞りやすい足がむくみやすくなる原因となっています。
生理
女性ホルモン増加によるむくみのメカニズムは多数あるのですが、主要なものとして水分をため込む作用と血管からの水分を通しやすくする作用があります。特に生理前に女性ホルモンの分泌量は変化します。体内の水分量が増え、血管から外へ水分が漏れ出やすくなるので、生理前に女性はむくみが起きやすくなります。
ストレス・疲労
ストレスや疲労が原因のむくみに関しては、直接的な因果関係ははっきりしていない部分もありますが、ストレス時に出るホルモン(コルチゾール)の影響により、細胞間に水分がたまりやすくなる可能性が指摘されています。
また、ストレスが原因で血液の流れが悪くなることもあるため、①の水分の流れが悪くなることにも該当します。
薬、漢方、サプリメント
薬や漢方、中にはサプリメントなどにより体の水分をコントロールする腎臓の機能が低下したり、あるいはその薬等の副作用でむくみが起こることがあります。ある種の抗がん剤や抗けいれん薬などに多いとされますが、風邪薬などでも時と場合によっては起こる可能性もあります。
また、漢方の不適切な使用でもそうした事例はよくありますので、むくみなど体に不調が起こった場合はすぐに服用をやめ病院で受診しましょう。
見逃さないで!病気につながる「むくみ」
怪我、やけどなどの外傷、虫刺され
ケガや虫刺されでも範囲が広いとその周辺が腫れたり、むくんだりします。熱を持って腫れている場合は冷やして、心臓よりも高い位置に置いて安静にしましょう。
アレルギー反応
アレルギーのある方は皮膚にアレルギー物質が接触するとその部分が腫れたりむくんだりすることがあります。また、食べ物や薬などのアレルギーの場合、それらを摂取すると全身にむくみが出ることがあります。
下肢静脈血栓
こちらの病気はいわゆるエコノミークラス症候群です。足の静脈の中に血が滞ってしまうことで、血の塊ができてしまいます。すると足先で血液が滞留してしまい、むくみへとつながります。
飛行機などで長時間同じ座位姿勢を取っていると起こることからこの名前が付いたように、日常でも長時間全く動かない座位姿勢などを取っていると起こす可能性があります。災害時にも車などで寝ていてよく起こります。そのような状況になった際は水分をよく摂取し、小まめに足を動かすようにしましょう。
リンパ浮腫
すでに冒頭で説明した、むくんでいる部分を5秒以上押しても戻ってくるむくみの代表です。
手術をした後や、がんといった腫瘍によってある部分の片側だけそのようになる疾患と、両足がむくむ甲状腺機能低下症などが代表的です。どちらも水分ではなくリンパ液が滞ってしまうことで起きるむくみです。手術をした場合は原因が判断しやすいのですが、なんの前触れもなく片側だけある部分がむくむ場合は注意しましょう。
また、甲状腺機能低下症の場合むくんでいるのに体重が減少したり、倦怠感があったりと他の症状も伴います。
低栄養
血液中のタンパク質には水分を保つ作用があるため、通常あまり起こり得ないことですが、過度なダイエットや先天的に消化吸収の悪い方で、血中のタンパク質が不足してしまうと、血管内の水分を保てなくなり全身がむくんでしまうことがあります。
心不全・腎不全・肝不全
②血液中のタンパク質濃度が下がり、水分が保てなくなったとき
③炎症やアレルギー反応、ホルモンの影響で血管の壁が水分を通しやすくなったとき
臓器がそれぞれ十分に機能しなくなるとむくみます。原因となる病気はさまざまですが、通常むくみ以外にも症状を伴うことが多いです。早期発見のためにも、健康診断はしっかりと受けるようにしましょう。
特発性浮腫
⑤薬剤による副作用が起きたとき
20~50代くらいの女性に病気や薬の影響でもないのに、定期的におこる全身のむくみというものがあります。
定期的に過度な食事制限やダイエットをしている、むくみを防ごうと利尿薬を乱用する、下剤の乱用、体質的に毛細血管の壁が水分を通しやすいなどが原因の可能性として考えられており、鬱といった精神疾患との関連も指摘されています。
食生活の改善、利尿薬の減薬、低塩食などにより改善されます。
医師に相談した方がいいむくみの特徴
むくみ以外にも倦怠感や発熱などといった症状を伴う場合はすぐに病院で受診しましょう。また、今回挙げたむくみで思い当たる原因がない場合も注意してください。
「むくみ」の対策・解消方法
1. むくみ取りには、バランスの良い食事を
むくみ取りにいいといわれる「栄養素のホント」
タンパク質には、血液中の水分を維持する作用があるといわれています。
むくみは原因②にあたる疾患のときにも起こるので、タンパク質は水分維持に重要であり、基本栄養素でもあるので適度な量は必要になります。ただ健常な方ですと偏食をしていない限り、それなりにタンパク質は体内に維持されていますので、摂取は適量が望ましいです。
★タンパク質を多く含む食品:肉や魚、豆類など
ビタミンBが不足することによって起こっていた脚気(かっけ)は、むくみの症状も引き起こすことから、ビタミンBがむくみ解消の栄養素といわれるようになりました。しかし、こちらも現代では通常の食事を取っていれば、ほぼ起こり得ない疾患の1つとなっています。
★ビタミンB群を多く含む食品:豚ヒレ肉、玄米、たらこ、豚・牛レバー、アーモンド、にんにく、しじみ、海苔など
むくみにいいといわれていますが、実はカリウム自体には水分を排出する作用はありません。
腎臓ではナトリウムとカリウムが中と外で交換される仕組みがあり、ナトリウムが水分を引き寄せるので、カリウムを多く取ればむくみにもいいと誤解されていますが、カリウムを摂取したからといって、尿中のカリウム濃度が高くなるだけで水分排泄が増えるわけではないのです。
また、カリウムはタンパク質とビタミンB群と違い、過剰摂取は不整脈などにつながるため、注意が必要です。
むくみ対策として控えたい食品や食べるタイミング
塩分が多いスナック菓子や食事、アルコールの過剰摂取は避けた方がよいでしょう。また夜間は身体の水分や通常尿量を減らすホルモンが出ますので、寝る前にこうしたものを取ると朝にむくみを感じやすくなるかもしれません。
2. むくみ解消を手伝ってくれる飲み物
お茶(麦茶やカフェインレスのお茶以外)はカフェインに利尿作用があるので、水分バランスに多少影響を与えます。またコーヒーも水分過多になっているときはいいかもしれません。
グレープフルーツジュースもむくみにいいといわれていますが、グレープフルーツに含まれるカリウムは、水分を排出する作用がないので、むくみに影響を与える飲み物ではありません。
3. むくみに効果的なマッサージ
むくみ改善は体内からのアプローチだけでなく、外からのフィジカルなアプローチも有効です。特に効果が期待できるのがマッサージ。
心臓に遠い部位から近い部位に向かって、血液を返すようにするのがおすすめです。痛くない程度に行いましょう。
4. 立ちっぱなし・座りっぱなしでもできるストレッチ
特にむくみやすい足に効果的なストレッチ。オフィスや家事中など、忙しいときでも場所・時間を取らず手軽にトライできますよ♪ゆっくり伸ばすというよりは、むくみを治したい部分の筋肉を動かすイメージで行うようにしましょう。
5. 東洋医学の漢方やサプリメント
冷えからくるむくみや水分過多のむくみなど、むくみの原因や体質に応じた漢方を使って改善させることも可能です。
ただ東洋医学は本人の体質と症状に合わせて漢方薬を調合するため、薬局などでの自己判断での購入は効果が出なかったり、かえって副作用を起こしたりする可能性があります。
漢方やサプリメントを試してみたい場合は医師から処方してもらうことをおすすめします。
「むくみ」予防のためにできること
1. なるべく体を動かす
ずっと座りっぱなしor立ちっぱなしの方は、先ほどご紹介した「立ったまま・座ったままできる」ストレッチを取り入れてみるだけでなく、日常で動く頻度を高めてみましょう。
1駅歩いてみる、たまにはエレベーターではなく階段を使う、目的地が徒歩圏内なら歩いてアクセスしてみる…など、小さなことからぜひ取り入れてみてくださいね♪たいていのむくみはこれだけでかなり改善されるはずです。
体を動かすことで、ストレスも解消できるかもしれませんね。
2. 水分補給は小まめに
むくみが起こると、水分が血管の外に出てしまい脱水状態に陥ることがあります。喉の渇きを感じる前に、お水やお茶を少しずつでも飲んで予防を心掛けましょう。
3. 季節問わず湯船に浸かる
一日の疲れ取りや、リラックス効果が期待できる入浴。
日々知らず知らずのうちに蓄積するストレスは、ホルモンに影響を与え細胞間に水分がたまりやすくなる③のストレスからくるむくみに該当します。“その日の疲れはその日のうちに”を合言葉に、湯船にしっかりと浸かることを習慣にしましょう。
4. 食事習慣・内容を見直そう
栄養の偏りでむくみやすい傾向にあるなら、食生活の見直しもぜひ行っておきましょう。
特に、日々の食事バランスが偏りがちなら、自炊する日を多くしてみる、アルコールの大量摂取や塩分過多は避け栄養バランスを考え直してみるなど、改善できるところからはじめていきましょう。
栄養の偏りがなくなることで、便秘や貧血などの気になるトラブルが解消されることもありますよ♪
5. むくんだ部分を心臓より高くする
普段、心臓より下の血管(静脈)では、血液を心臓に返すのに、重力に逆らいながら、筋肉のポンプ作用や動脈の血圧によって血液を送っています。そのため、むくんだ部分を心臓より高くすることで、重力で高い所から低い所へと滞った血液(水分)を返しやすくできるのです。
寝る前のちょっとした時間などに意識して足を上げ、血液を心臓に返す手助けをしてあげましょう。
6. 弾性ストッキング・靴下を着用
弾性ストッキングや靴下は足に外から圧力をかけるため、足の血管から水分が外の細胞間へと逃げ出しにくくなります。そのため長時間足を静止していてできるようなむくみには効果的です。
7. 体を締め付ける服は避ける
むくみやすい部位を圧迫すると、水分はたまりにくくなりますが、逆に心臓に近い所を圧迫してしまうと、血液が心臓に返りづらくなり血流が滞ります。そうするとむくみの原因になるので、着ていて窮屈に感じない締め付けの少ない服装を選ぶようにしましょう。
また、むくみ対策として弾性ストッキングなどを使って締め付けるのは、足や手など体の端に当たる部位がいいでしょう。
8. 体を休め睡眠を取る
ストレス性のホルモンなどの影響もありますが、体調が崩れるとむくみやすくなるため、十分な休養は必要です。
スポーツ医学・整形外科・救急科。信州大学医学部卒業、同大学院スポーツ医科学講座にて医学博士取得。市中病院で臨床をしながら同大学院にて研究を行っている。循環、神経調節、脳機能の生理学を得意とする。
・信州大学ホームページ