インタビュー
vol.84 harapecolab・野尻知美さん
- 誰もが笑顔に。テーブルの上のアートな革のカバー画像

vol.84 harapecolab・野尻知美さん
- 誰もが笑顔に。テーブルの上のアートな革命

写真:岩田貴樹

お花畑のように食材をあしらったテーブルアートや宝石のような美しいお菓子。見る人に驚きと笑顔をあたえる"食"のアートは、福岡県のフードクリエイター集団harapecolab(ハラペコラボ)によるもの。ケータリングからお菓子まで、生み出す料理は、”作品”とよびたくなるような美しい品々です。福岡市内のアトリエをたずね、harapecolabのストーリーを伺いました。

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2018年06月07日作成

アートで起こす食の革命。harapecolab(ハラペコラボ)

どの時代、どの国でも、テーブルを囲み「美味しい」を共有することは心通わせるコミュニケーションのひとつ。特に、祝いの席では”食”そのものが祝福の役目を担うこともあります。
(画像提供:harapecolab)

(画像提供:harapecolab)

 福岡県で活動するフードクリエイター集団「harapecolab (ハラペコラボ)」は、食とアートを掛け合わせ美味しい料理と楽しい空間を提供しています。

ビーツを使ったピンクのマッシュポテトにエディブルフラワー、紫キャベツなど……彩り豊かな素材をふんだんに使用した演出は、その名も”サラダロード”。 テーブル上にお花畑が出現したようなケータリングは、見る人の気持ちまでもが華やぎます。 
(画像提供:harapecolab)空間演出の役割も担うサラダロードが楽しいイベントに彩りをそえる

(画像提供:harapecolab)空間演出の役割も担うサラダロードが楽しいイベントに彩りをそえる

(画像提供:harapecolab)シンプルなケーキに額縁のようにあしらわれたエディブルフラワーやハーブ

(画像提供:harapecolab)シンプルなケーキに額縁のようにあしらわれたエディブルフラワーやハーブ

一見、自由に配置されているようで、バランスは計算づく。植物が呼吸ができるか、色がぶつからないか、立体感はあるか……、”食べ物も植物”とみなし、生け花の考え方で配置されています。そうして、躍動感あふれる生き生きとしたテーブルアートが生まれるのです。
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こちらは、和菓子の琥珀糖からヒントを得て作られたもの。実際にありそうで実在しない架空の鉱物をデザインしたお菓子は、ひと口かじると、外側はしゃりっと、なかはしっとり。本物の宝石のような見た目と食感がおもしろくも美しい作品は、「イトヲカシ」をもじって「こうぶつヲカシ」と名付けられました。
(画像提供:harapecolab)

(画像提供:harapecolab)

ベレー帽をかぶった小さな画伯がなんとも可愛らしい!こちらは食育の一環として行っている、野菜やディップを使った”食べられるアート”のワークショップ。この日ばかりは大人も子どもも、自由に創造力を働かせ野菜で絵を描きます。苦手な野菜が食べられるようになるお子さんもいるそう。
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人を一瞬で笑顔にする。テーブルの上に広がるアート 

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harapecolabから生み出されるのは、見た瞬間、誰もが無条件に笑顔になってしまう料理の数々です。クリエイティブな感性でデザインされた料理たちは、目にも美味しい”食べられる作品”のよう。 

お祝いごとやイベントの席でふるまわれる harapecolabの料理は、テーブルの上を行き交うおしゃべりに華を添えるように、第二の主役として催しを盛り上げます。
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代表の野尻知美さんは「提供した料理を喜んでもらえたとき、料理をみた人が笑顔になるのが原動力」と話します。
野尻さんがケータリングについて話すとき「インスタレーション」という言葉が何度もでてきます。インスタレーションとはアート分野のひとつで、空間全体を作品とした"体験できる芸術"のこと。そこには、空間ごと「楽しい」や「美味しい」を提供したいという野尻さんの想いが込められています。

アートと食を組み合わせ、"非日常”の空間を生み出すharapecolab。そのはじまりは、野尻さんとアートとの出合いにありました。
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思いがけずアートに出合い、世界が変わった

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自然豊かな静岡に生まれ育ち、大工である父の影響で建築家を志した野尻さん。ところが、建築系の大学は野尻さんの苦手な理系の分野。諦めかけた野尻さんは、美術大学なら文系でも建築を学びやすいことを知ります。
そこで美大受験のため予備校に通いだした野尻さんを待ち受けていたのは、デッサンなどの創作をひたすら行う日々。

「もともとは絵心があるタイプではなかったのですが、そんな私でも『クリエイティブなことしてもいいんだ!生み出せるんだ』というのは、大きな、そしてうれしい発見でした」 

思いがず出合った”アート”が、野尻さんのその後に大きな影響を与えていくことになります。
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その後、多摩美術大学で建築とデザインを学ぶため上京すると、瑞々しい感性をもつ年頃には、東京のあらゆるものが新鮮な驚きとともに映りました。

もともと建築を学ぶのが目的とはいえ、美大に通うと、常に”アート”がある生活がはじまり、野尻さんの世界は大きく広がりをみせます。おもしろいのは、アートが野尻さんのなかに浸透していくごとに、どんどん「ものをみる角度が変わっていった」ということでした。

「外を歩いていても、看板とか影とか、いろいろなものが違った風にみえてくるんです。美術館めぐりをしたりと今までにない世界に夢中になりました。ものを見る眼や感性が養われ、自分の土台が形成されていったのは、そのころだと思います」

――視点を変えれば、だれでもクリエイティブなことはできる。そもそも、ものづくりは特別なことではないし、もっと身近なものとして日常にあるべきではないか。

アートに染まっていくほど、今までにない自由な感覚を手に入したような気分でした。 
アート×食のはじまりは
友人たちとの”ハラペコ会”
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自称・食いしん坊の野尻さんの日常には、あたり前のように食とアートがありました。大学卒業後、友人たちと集っては月1回「ハラペコ会」なるものを開催していた野尻さん。新卒でやりたい仕事をまだ任せてもらえない野尻さんたちは、クリエイティブな欲求を満たすため、音楽担当や空間担当、料理担当と役割を決めて、とことん自分たちの世界を作り込んでいました。

ただでさえ、気心知れた友人たちと一緒にごはんを食べる時間は特別なもの。それが作り込まれた世界感とあいまって、ハラペコ会はどれほど「楽しい」と「美味しい」があふれる空間だったのでしょう。
1年ほど続けていると、除々に増えた参加者から依頼がくるようになり「これは、仕事にできるかもしれない」と思ったといいます。


アートと食べることが大好きな野尻さんが今の仕事に行き着いたのは、ごくごく自然な流れだったのです。 
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福岡に惚れ込み
「この地でケータリングを」
その後、野尻さんは、当時婚約していたご主人の転勤で東京から移り住んだ福岡に惚れ込み、この地で食とアートをテーマにしたケータリングをやろうと決意します。

「福岡はとにかく住みやすくて人の感覚もよくて。パーティ好きで華やかなことが好きな人が多いんですが、当時の福岡ではまだ”ケータリング”というものに馴染みがないようでした。そういったこともあって、『この地でケータリングをしたい』と思ったんです」 
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ヨチヨチながら一歩一歩着実に。
halapecolabの歩み
生まれたばかりのharapecolabは、ゆっくりスタートを切りますが、ヨガスタジオとカフェを併設した施設の設計ディレクションをお願いされるなど、トントン拍子に仕事が舞い込みます。野尻さんは、空間デザインからカフェ運営までの仕事を1年ほど任され、その後そこで学んだ立ち上げのノウハウをもとに、さらにharapecolabを育てていくことになります。 
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当時は、順調に依頼が増え続けるhalapecolaboのケータリングを野尻さんが一人で切り盛りしていました。ただでさえ重労働な飲食業、一人ですべての工程を行うのは、相当な体力と精神力が必要です。

「当時のスケジュールを見返すと、1時間程度の仮眠をとるだけの日が続いていたり……お客さまに喜んでもらうためとはいえ、自分の生活のバランスが崩れていて『何のためにやってるんだろう』という感じでしたね」

材料の調達から仕込み、大人数の料理をほぼ徹夜で作る日々が続き、ついに体調を崩してしまった野尻さん。信頼できるスタッフを増やそうと、以前飲食店で一緒に働いていた縁ある人たちに声をかけます。

そうしてヨチヨチ歩きだったhalapecolaboは、 今や9名のスタッフを抱えるまでになったのです。

harapecolabは、チームであり家族

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昔からリーダー気質ではなく一人で過ごすのが好きだったという野尻さんは「うまく人の上に立てているか分からない」といいつつ、誰かに負担がかかってないか、スタッフひとりひとりが輝けるもち場を与えられているか……細やかに気を配ります。

食業界での経験が長く職人気質なスタッフが多いのは、「デザイン重視だけでは終わらせず、食べても美味しいものを作りたい」という野尻さんの想いから。野尻さんが食のアイディアやデザインを考え、ほかのスタッフが美味しいものにするため味の試行錯誤をしていく、という共同作業を繰り返しています。
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2017年10月に誕生した宝石のようなお菓子「こうぶつヲカシ」もそのひとつ。
もともとは、夏にエディブルフラワーを飾ったかき氷にさらに彩りを添えるアイテムとして和菓子の琥珀糖を使用していたのがはじまりでした。
作りたての琥珀糖は、しっとりと弾力のある質感である程度干す必要があります。くっつきやすい性質の琥珀糖は、扱いづらく作業が大変だったそう。

ところがその後「宝石のようなお菓子を作ってほしい」と依頼があり、野尻さんは逆にその性質を活かすことを思いつきます。
「琥珀糖の扱いづらい性質を利用して、小さく削った琥珀糖をくっつけたデザインにしたら、おもしろいのではと思ったんです」
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野尻さんの思惑どうり、天然の色素で鮮やかな色を出し、ひとつひとつ手作業で形を作った琥珀糖は、宝石のようにきらめく美しいお菓子に生まれ変わりました。料理長であるスタッフは味を美味しく出すため奮闘し、現在は、ルビーのような赤い「紫蘇」、見た目も味も爽やかな透明感のある「シャンパーニュ」、ピリッとしょうがの効いた「レモンジンジャー」など、約30種類の味とデザインが揃うまでに。

「私がうれしいと思うのは、ケータリングとは違い、こうぶつヲカシは全国に旅立っていくことです。北海道から沖縄までharapecolabの『美味しい』と『楽しい』を届けることができるのは、今までにない喜びです」


ロゴが箔押しされた箱のなかに宝石のようなお菓子が納まった様子は、誰もが「わぁ!」と感嘆の声をあげるはず。福岡から旅立つこうぶつヲカシは、その先々でどんな笑顔に出逢うのでしょうか。
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「美味しさとデザインの両立ができるのは、スタッフの存在があってこそです。一緒にいる時間も長いので、仲間であり家族のような存在。距離感が近いだけに感謝を伝えるのはむずかしいですが、最近はお給料袋に手紙をそえています。一方で、その子のためと思えば延々と説教することもありますが(笑)」 
そう笑う野尻さんは、厳しくも愛ある指導者といった風。 

 
実は、野尻さんは3人目のお子さんを妊娠中で出産間近だそう。

「私がいないことで大変なことはありますが、harapecolabが成長するためのチャンスだと捉えています。私がいるとどうしても声や手がでてしまうところを、スタッフそれぞれの力が試される。スタッフにとっても成長の機会なんです」


ヨチヨチ歩きながらも、しっかり一歩ずつ進んできたharapecolab。これからもテーブルの上に笑顔をまき起こしながら力強い歩みで進みます。
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(取材・文/西岡真実)
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代表の野尻知美さん率いるアートに特化したフードクリエーター集団。福岡を拠点にアートとフードをつなげるべくケータリング、フード食育ワークショップ、お弁当、出張社食、お菓子制作などを行い、驚きと感動、美しさのある食を提供している。和菓子の琥珀糖をもとにした「こうぶつヲカシ」は公式サイトより購入可能。
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