使い心地とものの佇まいにこだわる食器ブランド「アトリエテテ」は、ひとつとして同じ仕上がりになっていない「手仕事の跡」による器の表情や景色が人気のブランド。この商品の誕生の裏では、いったいどのようなものづくりがおこなわれているのでしょうか。
手仕事と量産体制の間で、「手仕事の跡」にこだわって生み出されるアトリエテテの、ものづくりの向こう側をのぞいてきました。
コロンとした小石などをイメージして
そう言って、アトリエテテの商品開発担当の田中さんは、コロコロっと机に小石を置いてくれました。
(画像提供:KINTO)
Pebble(ペブル)シリーズのティーポットとティーカップ。Pebble(=小石)という名前がつけられたこちらのシリーズは、その名の通り、コロンと小石がころがっているような佇まいです。
こちらはアトリエテテのDune(デューン)シリーズ。Duneは「砂漠」を意味します(画像提供:KINTO)
手仕事の跡を感じて欲しい
アトリエテテ商品開発担当の、三浦さん(左)と田中さん(右)
「私たちの会社(KINTO)は、とてもシンプルでモダンなプロダクトもつくっているんですけども、それとは別に『職人さんがひとつひとつ手をかけて作っている』ということがもっと感じられるような食器をつくりたかったんです。手作りの良さを伝えていける食器にしたいなって」
Duneシリーズのプレート。触ってもわからないレベルの表面の凸凹によって、職人のかける釉薬が一枚一枚違う流れでかかり、ひとつひとつ違う表情を持つものができあがります
「このブランドを通して届けられることはなんだろう、と話し合う中で、何度も『手』という言葉が出てきたんです。『つい手に取りたくなるような』とか、『手仕事の跡を楽しめるような』とか。atelier teteの『te』は『手』という意味なんです」
そうして「手」をキーワードに出発したアトリエテテは、現在4つのシリーズを展開しています。
からはじまったPebbleシリーズ
アトリエテテ初となるティーポット製作の背景には、「いつも使っている風合いのある食器にもしっくりとくる表情豊かなティーポットが欲しい」という思いがあったのだそう。
「まずは、口からちゃんと綺麗にお茶が出る水切れの良さがあって、手に馴染む大きさで、茶漉しも使いやすく洗いやすくて、もちろん美味しくお茶が入って……そして大事なのは、自分が持っている他の食器の世界観にも馴染むこと。ティーポットって、条件がたくさんあるんです」
こうして「手仕事」に着目したブランドのもと、「理想のティーポットとティーカップ」を目指してつくられたPebbleシリーズ。そんな理想のティーポットをより多くの人に届けるための工夫と、ひとつひとつのものの表情を大切にする制作過程はどのようなものなのでしょうか。
今回、貴重な産地での取材をさせていただきました。
いくつもの手を経由して、ティーポットができるまで
陶磁器は粘土や石を土状にしたものによってつくられるのですが、これをまた泥状にしたものを型に流し込み、乾かし、成型していくかたちのつくりかたを「鋳込み」と呼びます。この成型方法は、できあがる商品の「質の均質化」を可能にします。また、鋳込み成型でつくった器はぴったり美しく重なるスタッキングが可能なかたちをつくることに適していることも嬉しいポイントです。
Pebbleのティーポットに必要な鋳込み型は本体・取っ手・蓋の3種類。型は真っ白な石膏で出来ています。図案をもとに原型師さんがティーポットの原型をつくり、それをもとにした見本型ができあがり、最後に量産するための石膏型(写真のもの)ができあがります。サラッと説明しましたが、ここまでが全ての土台になる大仕事。出来上がりを左右する大事な工程です
聞くよりも見るが易し。どれだけ多くの職人の「手」が関わっているのか、まずは鋳込みの作業を見ていきましょう。
ここから始まる、「鋳込み(いこみ)」と「排泥(はいでい)」
石膏型に、毎朝その日の湿度や温度で職人によって粘度を調整される「泥」を入れます。この作業を「鋳込む」と呼び、これが鋳込み成型のはじまりです。5分ほどたったら、余分な泥を捨てていく「排泥(はいでい)」という作業をおこないます。このとき、ガバッと排泥することから、この鋳込み技法は「ガバ鋳込み」ともよばれるのだそう
かたちが見えてくる「型抜き」
泥を流し出してから1時間~1時間半で、型から生地を取り出す作業をおこないます。すでにティーポットのかたちですね。なんでもないような雰囲気で作業されていましたが、このときはまだきちんと乾燥して固まっていない状態なので、素早くも丁寧に型から抜いていきます
取っ手と蓋も同様に
使い心地を左右する「取っ手付け」と「口切(くちきり)」
型から出した本体に、泥を使って取っ手をつけます。このとき筆を使って馴染ませています。水きりをよくするために口を綺麗にします。ピュッピュっと手際よくこの「口切り」の作業をされていましたが、実はここの作業の良し悪しが、お茶を煎れて注ぐときの水切れの良さの良し悪しに関わります
夏は一日、冬は三日かかる「乾燥」
土の泥からつくられた器は、このあとの作業のため、一度休憩。乾燥させます。夏場は温度が高いので、朝乾燥をはじめれば、夕方には乾くのだそう。冬はこれが、三日かかることもあるのだとか。泥の色だったものが、白く乾けば乾燥終了です。ちょこんと鎮座する様子がかわいらしいですね
全体をやさしく綺麗にする「拭き上げ」
乾燥させたら、柔らかなスポンジに水を含ませ、全体を拭き上げます。どうしても付いてしまう型の合わせの部分の凸や表面についた余分な泥を拭きあげ、綺麗につるつるに仕上げます。口の部分も専用スポンジで綺麗に拭き、水切れの良さを高めるのを忘れずに
同じものをいくつも産み出す技術。そして、産み出したものをつくり続けていくために、誰か一人にしかつくれないものにしないための型。均質なものづくりをすることで、できる限り多くの人に届けるということが可能になります。しかしそんな中でも、それらの作業の過程では、熟練した職人の「手」が不可欠であることがわかりました。
ひとつとして同じ表情にならない理由
特徴のある釉薬(ゆうやく)を使うことで現れるふちの部分は、「サビ」や「コゲ」と呼ばれる反応。使う釉薬の種類や、釉のつけ方、焼き上げるときの窯の中の位置などで、器に現れる景色や表情が異なります
「素焼き」をし、ロゴを押印
成型が終わったティーカップは、まずは「素焼き」をします。お昼頃に窯に入れ、夕方頃に窯を火を切り、そのまま朝まで窯にいれておきます。素焼きをすることで生地に吸水性が出て、このあとに塗る釉薬を上手に吸い込んでくれるようになるのだそう
素焼きをしたあとは、まずはロゴの押印。こちらもひとつひとつ手仕事で、使われているのはアトリエテテのために調合された絵具なのだそう
器の表情に変化を出す「釉掛け(くすりがけ)」
そのあと、ティーポットに付着している粉などを目視でチェックしながら空気圧で吹き飛ばし、綺麗な状態のものにいよいよ釉薬(ゆうやく)をかけます。こちらは焼くと「ホワイト」になるように調整された釉薬をつけているところ。職人さんは、手ごと釉薬にティーポットを入れて釉薬を手塗りしていきます
色と景色を浮かび上がらせる、最後の「焼成(しょうせい)」
釉薬がかかり、窯入れを待つティーポット
大きな窯の場合は特に、窯の下の方や上の方など、どの位置に入れるかによって温度がかわるので、組み方によってもできあがりの器の表情が変わってきます。また、どんな窯を使うかもまた仕上がりに大きな差を生みます。アトリエテテのPebbleシリーズの場合、「ホワイト」「ブラック」「モスグリーン」は写真に写っている窯で焼き、「ブラウン」はまた別の窯で焼き上げるのだそう
やっとできあがり、「窯出し」
こうして焼きあがったティーポットとカップは、最後の検品を受け、出荷されます。ちなみにこの焼き上がりの窯出しカップの近くはとても熱く、職人さんも汗だくで作業をおこなっていました。量産品とは言いつつも、大勢の職人たちの手を経て、こうしてやっと出来上がるのです
良いものを、より多くの人へ
「ティーポットってシンプルなんですけど、『漏れないか』とか、『注ぎやすいか』とか、『茶葉がちゃんとひらくか』とか、色々な機能が問われるんです。つくりあげる工程にはいろんな要素がつまっていて、だから、とても仕事が綺麗で、良いものを仕上げてくれる職人さんにしか頼めないんです」
量産品はときどき、手仕事の良さを語る場面で比較に出されることがありますが、丁寧にきちんと作られた量産品というものは、必ずしもその図式には当てはまりません。むしろ、アトリエテテがつくられる過程には、「良いものをできる範囲でより多くつくり、より多くの人へ」という、一番最初の量産の動機を感じます。そして、機械よりもずっと良い仕事ができる職人の手と目によって生みだされる商品は、アトリエテテの言葉でいえば「日本の“手仕事”として誇れるもの」です。
コロンと小石のようなティーポットやティーカップは、手から生まれ、手へと渡っていきます。そして最後に行き着く先は、私たち使い「手」の食卓です。
(取材・文/澤谷映)
(画像提供:KINTO)