インタビュー
vol.97 KARMAN LINE - 星座のように結ばれて。
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vol.97 KARMAN LINE - 星座のように結ばれて。
想いがつながり、生まれる靴下

写真:吉森慎之介

一度履いたら虜になってしまう「KARMAN LINE」の靴下。その履き心地の良さは、ブランドを手がける板井さん・玉井さんが、奈良の工場と力を合わせることで生まれています。職人と話し合いを重ねて進化する靴下は、お店の人を通して、履く人へ。靴下に関わるすべての人を大切にしたいと語るふたりの気持ちは、たくさんの出会いによって育まれたものでした。

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2019年02月22日作成
しんと静けさを感じる冬の空気。その度合いが高まるほど増すように感じる寒さに、心まで縮こまってしまいそう。
シャツに、ニットに、仕上げにアウター。どんなに一生懸命着込んでも、からだにじわじわと響く冷え込み。それは、足元のケアがおろそかになっているからかもしれません。

温かく包み込んでくれる、とびきりお気に入りの靴下があれば、冬の暮らしがもっと心地いいものになるはず。
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想いがつながり、生まれる靴下
その履き心地の良さに、一度履いたら虜になってしまう「KARMAN LINE」の靴下。
ブランドを手掛ける板井美紀さんと玉井綾子さんが、素材や編みの組み合わせを考え抜き、足がきれいに見えるように丈感までこだわってデザインしています。同じシリーズでも、さまざまなカラーバリエーションを展開するなど、飽きずに楽しんでもらえる工夫がいっぱい。

足元から湧き上がってくる喜びは、おしゃれをもっと楽しみたくなる気持ちにしてくれます。本来の使われ方とは異なりますが、「おしゃれは足元から」というフレーズがぴったり。愛用する人の中には、こう嬉しそうに口にする人も。
冷えとり靴下セット「PLUTO」。左のシルクの5本指靴下から交互に4足重ねます。「PLUTO」とは、冥王星という意味。冷えとり靴下、シルクのコレクションには、太陽に近づくほど温度が高まる惑星をイメージして名前をつけています

冷えとり靴下セット「PLUTO」。左のシルクの5本指靴下から交互に4足重ねます。「PLUTO」とは、冥王星という意味。冷えとり靴下、シルクのコレクションには、太陽に近づくほど温度が高まる惑星をイメージして名前をつけています

履き口が重ならないように、靴下はそれぞれ異なる長さに。段違いに重なることで、足首を締め付けず、すっきりと見えます

履き口が重ならないように、靴下はそれぞれ異なる長さに。段違いに重なることで、足首を締め付けず、すっきりと見えます

年々関心が高まっている冷えとり靴下。シルクに、綿やウールの靴下を交互に重ね履きすることで、からだの冷えをとってくれるというもの。「KARMAN LINE」の冷えとり靴下は、普通の靴下を2足重ねた程度の厚みになるよう、1足1足が極限まで薄くなるように編まれています。

まだ冷えとり靴下を販売するメーカーが少ない時代。冷えとり健康法を知った板井さんは、シルクの5本指靴下を履き始めると、小さな変化を実感したといいます。
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「毎年できていたしもやけができなくなったんです。それまではナイロンのタイツを履いて、さらに上から靴下を重ねることで、汗の行き場がなくなって足を冷やしていたことがわかりました。シルクは呼吸をするように、汗を吸収して外へ出してくれます。また、消臭効果もありますし、保温性が高いので肌の水分が保たれ、かかとの角質もやわらかくなりました。シルクのすごさを知ったんです」
工場の人と冗談をいいながら楽しそうに話す板井さんと玉井さん

工場の人と冗談をいいながら楽しそうに話す板井さんと玉井さん

冷えとりの魅力を伝えようと、お話会を開くようになった板井さん。そこで出会ったのが、冷えとりを始めて苦しんでいた症状が改善したという人たち。みんながとても幸せそうな顔をしていたといいます。そんな笑顔を原動力に作られる冷えとり靴下は、看板アイテムのひとつ。

「KARMAN LINE」の製品は、奈良県のいくつかの工場で製造されています。「工場があってこそのブランド」と話すふたりにとって、工場はチームの一員のような存在。
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「大切な工場で話ができたら」というおふたりの希望から、取材の日には、ふたりが10年お世話になっているという奈良県葛城市にある株式会社ニットウィンを訪れました。1950年から3代続く老舗の靴下工場は、「KARMAN LINE」の冷えとり靴下やシルクを使用したコレクションを中心に、工場一丸となって靴下を作ってくれています。
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取材の日、ニットウィンの工場を案内してくれた小坂さん。板井さん、玉井さんと会うと、たちまち世間話が始まり、笑い声が響いてきました。工場の技術を結集して作られる、冷えとり靴下。横編み機で編まれることで、ゆったりとフィットする縫製面のない靴下に。上に重ねても、締め付けがなく、やさしく足を包み込んでくれます。
ひと続きになっている袋状の冷えとり靴下(3足目/シルク)

ひと続きになっている袋状の冷えとり靴下(3足目/シルク)

そして、シルクの良さを知ってもらおうと作った「URANUS」は、肌へのやさしさを考え、肌があたる裏面にシルク、伸縮性のある糸が表面になるように編まれています。本来、シルクを裏面に編むのは、一般的な靴下の編み方としては逆。そのため、編み機には特別な技術が必要になります。

「ときおり、裏面のシルクが表面に入り込んでしまったり、指を入れる部分に傷が入ってしまうことがあるんです。そうならないように、微調整できるのは、職人の手しかありません。一旦、きれいに編まれ始めても急に不備を起こすこともあります。そうすると生地の表情も変わってしまうので気は抜けません。常に編み機の周りをぐるぐると回って職人の目で確認し続けるんです」

小坂さんの表情は、穏やかながら真剣な眼差し。引き受けたブランドの価値を担うという責任がにじみます。
「URANUS」の5本指靴下は、靴下やタイツのインナーとしても使用できます

「URANUS」の5本指靴下は、靴下やタイツのインナーとしても使用できます

「自信を持てない状態では出荷しないですね。それをするとブランドさんの商品価値を下げてしまいます。『そんなものなんだ』というイメージがブランドに一度付いてしまうと取り戻せないですから。僕らは頼まれたブランドの品質を受け持っているので、本当に大丈夫なのかという眼で常に品質をチェックするようにしています」

まるで自分たちのブランドという心意気で、「KARMAN LINE」の靴下を作ってくれる工場。その誠実さに触れ、ふたりが奈良でものづくりをする理由が見えてきました。
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冷えとり靴下は、履き心地がいいとはいえ、4枚を重ねて履き続けることを負担に感じてしまう人も多いと板井さんはいいます。

「臓器がある上半身に比べ、下半身は冷えやすいんです。そのため、下半身を温めるために、冷えとりの基本は、半身浴だといわれています。そして、その状態を保つために冷えとり靴下を履きます。半身浴をする時間がないとき、外出時など冷えとり靴下を履けないときは、湯たんぽや足湯をしたり、家にいるときだけ冷えとり靴下を履いたり、生活スタイルに合わせて取り入れてみては?とお伝えすると、『なるほど、じゃあ家にいるときだけ』『寝るときだけしようかな』って気持ちが変化するんです」

目で見ることができない冷えとりの力を体感したことで、あらゆる物事への見方が広がり、さまざまな可能性を信じることができるようになったと板井さんはほほ笑みます。
ずらりと並ぶ横編み機。その名のとおり横に早いスピードで動きながら靴下が編まれていきます

ずらりと並ぶ横編み機。その名のとおり横に早いスピードで動きながら靴下が編まれていきます

奈良県は、江戸時代から始まった日本有数の靴下の産地。その生産量は日本一を誇ります。同じ種類の編機でも、工場ごとに仕様がカスタマイズされ、独自の高い技術が培われています。しかし、ときに工場同士で機械を借り、助け合いながら靴下を作ることもあるという温かな街。今日も、上質な靴下がそこかしこで生まれています。

「奈良という場所よりも、奈良の人たちに惹きつけられているんです。ここに来れば間違いのないものができるんじゃないかというわくわく感がすごくあります」
玉井さんは目を輝かせてこう答えてくれました。
靴下の帯には、ブランドロゴの下に星座が描かれています
(オフホワイト)ARIES、(カーキ)TAURUS、(ツートーン)GEMINI

靴下の帯には、ブランドロゴの下に星座が描かれています
(オフホワイト)ARIES、(カーキ)TAURUS、(ツートーン)GEMINI

「KARMAN LINE」の靴下には、デザインの元になった星座の名前がつけられています。
ひとつでは気にとまりにくい星も、それぞれの星がつなげられることで、人々の胸に響く星座として姿を現します。それぞれの星をつなぐラインは実在するわけでありません。いわば、人の想いによってつながれたもの。

そんな星座のように、目には見えない、人の想いがつながり生まれる靴下。奈良の工場と一緒に、理想の靴下に近づけようと模索しながら進む道のりに、「KARMAN LINE」の魅力が生まれる理由がありました。

デザイナーになりたい。一途に、ひたすら真っ直ぐに

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中学生のときには「デザイナーになりたい」と思っていたという板井さん。そのきっかけは、ファッションデザイナーになるまでの道のりを描いた一冊の漫画でした。小学生の頃から服が好きだったこともありましたが、何より惹かれたのは、登場人物たちが夢に向かって情熱的に頑張る姿。その一途な姿勢に、「私もかけがえのないと思える仕事に打ち込みたい」という想いが湧きあがりました。

高校卒業後、夢を叶えるためにファッション系の大学に進学した板井さん。服作りやビジネスなど幅広く学び、山積みの課題に追われながらも、ファッションが好きという気持ちが濃くなっていったといいます。
冷えとり靴下の4足目を、1足でも履きたいという声から生まれた「PLUTO」。足首から上の部分を、冷えとり靴下と同様の編み方にすることで、ゆったりとやさしい履き心地

冷えとり靴下の4足目を、1足でも履きたいという声から生まれた「PLUTO」。足首から上の部分を、冷えとり靴下と同様の編み方にすることで、ゆったりとやさしい履き心地

ファッション業界での経験を積もうと大学在学中はアパレルブランドで販売員をし、卒業後はセレクトショップへ入社。忙しくもやりがいを感じ、日々の仕事に全力で打ち込んだ板井さん。さまざまな役割を担い、5年が経とうとする頃には、やりきったという達成感を感じるように。そこで、いよいよデザイナーになるため会社を退社すると、アパレルメーカーの企画職に応募します。面接では「経験がないと難しい」といわれ、あきらめていたところに、営業で入社してみないかという声が掛ったのです。
ツートーンカラーが印象的な「GEMINI」。スニーカーはもちろん、革靴などきちんと感のあるシューズにもよく似合います

ツートーンカラーが印象的な「GEMINI」。スニーカーはもちろん、革靴などきちんと感のあるシューズにもよく似合います

希望の職種ではありませんでしたが「やっとものづくりの現場に行ける!」と、板井さんの胸は高鳴りました。しかし、営業として働き始めて1年が経とうとするころ、担当のブランドがなくなることに。ようやく足を踏み入れることができた、ものづくりの世界。もっとここで学びたい――板井さんは、思いきった行動にでます。
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「実際に服を作っている現場を見て、服を作りたいのかと自問したときにふと思い出したんです。私は、身体が小さかったので、昔からずっと帽子やアクセサリー、そして靴下などの小物でファッションを楽しんでいたなって。また、卸し先であるお店の方から、靴下を作ってほしいという声も頂いていたので、応えたい気持ちもありました。だから、社長に靴下ブランドを立ち上げさせてほしいと直談判したんです」

当時を振り返り、「突然のことで社長は驚いていましたね」と笑います。
自分にとってそうだったように、おしゃれが楽しくなるような靴下を作りたい。その想いをぶつけると、社長は靴下を生産してくれる工場を見つけるために動き始めてくれました。

こうして、終わろうとしていた道のりを、自分の力で切り開いた板井さんは、デザイナーとしての道を歩み出します。

ずっと大切にしてきた、人とのつながり

玉井さんは、お母様の影響で塗り絵と折り紙が大好きだったこともあり、小・中学校では美術部に入部。しかし、高校では一転、身体を動かすことに興味が湧き、厳しいことで有名なダンス部に入部。練習に明け暮れる3年間を過ごしました。
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「ダンス部では、作品と向き合いながら、踊りだけではなく照明や衣装も演出していました。メンバー同士の円滑なコミュニケーションのとり方など、人の関係性も含めたものづくりをダンス部で学びました。今思い返すと、私は、いつも人とのつながりが人生のベースにあったような気がします」

人と一緒にひとつのものを作ることこそ、玉井さんにとってのものづくり。心を通わせることで生まれる喜びや絆が、目標に向かわせてくれる力をくれました。

「奈良の職人」と出会い、好きになった糸

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大学卒業後、玉井さんは靴下とニットの糸を取り扱う繊維商社に就職し、営業アシスタントに配属になります。それまで人とのつながりを大切にしてきた玉井さんにとって、一日の大半をパソコンと向き合う日々に違和感を感じていました。そんなある日、上司から営業に出てみないかと声がかかります。

「出ます!」と迷うことなく引き受けた玉井さんは、奈良の靴下工場へ糸を販売する営業担当に。女性が営業を担当する中で、たくさんの苦労がありました。
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「職人さんと話しをして糸を販売することがとても楽しかった記憶があります。でも、職人さんには頑固な方も多く、女性が営業にくることに抵抗がある方もいて、何度も担当を替えてくれといわれました。ですが、通いつめて、結果的にすごく仲良くなりました。最初は嫌だといっていた職人さんも本当にかわいがってくださり、とてもお世話になりました」

受け入れられていない相手に向き合うのは誰もが怖いもの。しかし、玉井さんが、真正面から向き合い、より良い糸を提案しようとする真摯な姿は、職人さんに伝わったのです。きっと通じ合えるはずだ。そう信じる玉井さんの気持ちが何よりの武器だったように思えます。

玉井さんは、職人が情熱をかけてものづくりをする姿を目のあたりにし、次第に靴下を好きになり、いつしか糸の魅力に惹きこまれていきました。
ダブル機という編み機では、複雑な柄も1本の糸から編むことができ、余計な厚みのない生地が生まれます。伸びが良く、ゆったりと履くことができるため、むくみに悩む女性からの支持も多く人気も上がっています

ダブル機という編み機では、複雑な柄も1本の糸から編むことができ、余計な厚みのない生地が生まれます。伸びが良く、ゆったりと履くことができるため、むくみに悩む女性からの支持も多く人気も上がっています

ダブル機は、複雑な編み柄を生み出すため、車輪のようなパーツを一つひとつ計算して組み合わせる熟練した技が必要。長年のキャリアを持つ職人さん。手を油で真っ黒にしながら調整が続きます

ダブル機は、複雑な編み柄を生み出すため、車輪のようなパーツを一つひとつ計算して組み合わせる熟練した技が必要。長年のキャリアを持つ職人さん。手を油で真っ黒にしながら調整が続きます

デザイナーとして全速力の日々。そして、ふたりが出会うまで

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前の会社で靴下ブランドをスタートさせた板井さん。

「すごく楽しくて、ずっと前のめりでやっていました(笑)。デザイナーになる夢が叶った!という喜びもありましたが、今思うと靴下を作るという仕事に惹きつけられていましたね。でも、営業の方や工場や出荷してくれる人など、ブランドには大勢の人が携わっているのを知って、仕事として成立させなければならないという責任感も同時にありました」

社内には、靴下の製造ノウハウがなく、右も左もわからない状態。板井さんは、知識を身につけようと工場に足を運び、どんどん質問していきました。板井さんの探究心は留まることがなく、工場では使用していない糸にまで質問が及ぶことも。そこで、より専門的な知識が必要なら、と職人に紹介してもらったのが糸を扱う商社で働いていた玉井さんだったのです。
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想いがつながり、生まれる靴下
「板井は、使いたい糸が明確で、これがほしい、とはっきりいうのでわかりやすかったですし、私も答えるために色々と調べることで知識が深まり勉強になりました」

当時のことを鮮明に覚えていた玉井さん。板井さんとの出会いが、とても印象的だったことがわかります。こうして、刺激し合い、互いの世界を広げながら、ふたりの靴下作りはスタートしました。

ふたりなら面白いことができる。スタートした「KARMAN LINE」

上質なウールを贅沢に使用した「ARIES」のハイソックスとレッグウォーマー。くしゅくしゅと足首をたるませて履くとコーデのアクセントに

上質なウールを贅沢に使用した「ARIES」のハイソックスとレッグウォーマー。くしゅくしゅと足首をたるませて履くとコーデのアクセントに

板井さんは、デザイナーとして、忙しくも充実した日々を送っていた中、オーナーと仲良くなったお茶屋、玉井さんの友人が営むカフェで靴下の販売会を開くことに。そこでの経験が大きな転機となりました。

「実際に履いて頂く人に靴下を直接販売することは初めての経験でした。その中で、靴下が何年か履いたらこうなるとか、こういう履き方をしたらいいとか、もっと靴下と共に言葉を届けたいという気持ちが出てきたんです。後ろ向きではなく、前向きな目線で、ものづくりをふと振り返りたくなりました」
冷えとり靴下の梱包に使われているのは、食品用のパッケージ。どこかケーキのようで美味しそう

冷えとり靴下の梱包に使われているのは、食品用のパッケージ。どこかケーキのようで美味しそう

「次の場所へ……」という気持ちが強くなった板井さん。すると、靴下を作りたいという人が社内で現れます。安心してブランドを任せられる。そう思えたことで、板井さんはブランドを引き継ぎ、新たなブランドを立ち上げることを決意します。

板井さんが、迷うことなく誘ったのは玉井さんです。会社は違えど、一緒に靴下を作り続けていたふたり。「玉井さんとなら面白いことができる。何か始めるなら玉井さんしかいない」。板井さんの気持ちはずっと前から決まっていました。

実は、玉井さんも同じ想いを抱いていたのです。
「ふたりでいると色んな偶然が起きるんです。できないと思っていたことも意外とできたり、憧れの人と出会えたり。一緒にやったときに何かを超えられるんだろうなとずっと思っていました」

こうして「KARMAN LINE」はスタート。ふたりはより絆を強くして前に進み始めました。
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想いがつながり、生まれる靴下
「靴下は、工場でたくさんの方が工程を分担して作っています。そして、お客さんに届けてくれるお店があって、その先に履いてくださる方がいる。すべての方と出会うことはできませんし、履いた方がどう思うかは見えない部分でもありますが、大切な家族や友人へ贈りたい、また履きたいと思って頂けたら、そういう気持ちもつながりとして大切にしたいと思っています」

「KARMAN LINE」というブランド名に込めた想いを話してくれた板井さん。「KARMAN LINE」とは、宇宙と地球の大気圏の境目をあらわす架空のラインを指す言葉。宇宙は、無限大で、地上から見える星もあれば、見えない星もある。靴下に携わる人やものごとを星に例え、想いを馳せています。
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想いがつながり、生まれる靴下
そして、ふたりには「KARMAN LINE」をスタートさせたときからずっと変わらない想いがあります。

「自分たちが本当にいいと思う靴下だけを作るというのがひとつと、自分たちも靴下を何年も履いて、どう変化していくのかを見る。工場の方にも、機械にもムリはさせない。どこかに負荷をかけると履き心地が悪くなり、靴下のバランスがくずれてしまいます。「デザイン」「糸」「履き心地」を互いに引き立て合う一足を作るということを、ものづくりのベースとして常に持っています」

取材の日にふたりが履いていた靴下は、ブランドとして初めて作った、それぞれの星座の靴下。これまで出会った人、見てきた風景、自身が感じたことをしっかりと胸にとめ、「KARMAN LINE」を続けています。
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姿を変え続ける靴下

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想いがつながり、生まれる靴下
こだわりのたくさんつまった「KARMAN LINE」の靴下。あの糸で編みたい、こんなデザインにしたい。板井さんの頭の中にある一つひとつのイメージが連なり、作りたい靴下の像が現れます。そんな板井さんの着想をもとに、靴下作りは、素材やデザインについてふたりで話し合うことから始まります。
靴下の帯留めやブランド名の転写など、出荷に向けて作業するニット・ウィンの方々

靴下の帯留めやブランド名の転写など、出荷に向けて作業するニット・ウィンの方々

「ふたりで話し合った後に、必ず前職の商社へ行って糸を見せてもらい、そこでも話し合って。それから、工場に行ってまた話し合ってアドバイスをもらいます。素材のプロや職人の目から思う意見をすべて聞いて、柔軟により良いものを作るようにしています」と玉井さん。

話し合うごとに靴下は進化し、「最初にふたりが描いていた仕様から最終形が変わることもある」といいます。それは、靴下が編まれる過程と一緒。糸が折り重なるように、プロたちの知恵と技術、そして情熱が編み込まれ、誰もが想像しなかった特別な一足が生まれるのです。
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想いがつながり、生まれる靴下
定番の「TAURUS」には、ウール素材のほか、ナイロンなど化学繊維が使用されています。ここには、お客さんに親しんでもらうための理由があるんです、と玉井さん。

「ウール素材は、繊維が少し短いので強度が弱く破れやすくて悩んでいるお客様が多いんです。天然繊維にはこだわりがあるんですけど、それだけでは補えない何かがあるんです。だから、長く履いてもらうために、前職の上司に相談をして、少しナイロンが混合された素材を使うことで強度を増すことにしました。「TAURUS」は私も3年以上履いていますし、4年以上履けるときも。ナイロンに助けてもらうことで、愛されている靴下もあります」

大切な人たちと一緒に作る、ふたりのものづくり

カフェの一角には、たくさんの靴下が大切に並べられています

カフェの一角には、たくさんの靴下が大切に並べられています

取材の日の最後に訪れたのは、玉井さんの前職の先輩で、奈良でcafe bralivaを営む黒川さん。「KARMAN LINE」を立ち上げたころからお店に置いてくれています。

「すごくありきたりな答えかもしれないんですけど、まず見た目にかわいい。冬物の靴下が本当にあったかくて。汗も抜けるので、履き心地がいいんです」と黒川さん。そして、コレクションのひとつである「LYRA」を手にとって、「これは、ほんとに足がきれいに見えるんです」と興奮気味に続けます。

先日は、カフェにお米を卸してくれているご年配のご婦人が、履き心地がいいからとお孫さんにも買って行ってくださったのだとか。その話を聞いて、ふたりは顔を見合せると、うれしそうに笑います。お店の方からお客さんの反応を聞くのも、楽しみであり、次の靴下作りの原動力。

定番アイテムも、糸の太さや組み合わせなど、気づいたことはその都度見直し、より良いものへの探究は続きます。気になったことを、すぐに相談できる信頼する人たちがいる。ふたりのものづくりの環境こそ、何よりの強みであり、魅力です。


(取材・文/井口惠美子)
KARMAN LINE | カーマン ラインKARMAN LINE | カーマン ライン

KARMAN LINE | カーマン ライン

板井さん、玉井さんが手掛ける靴下ブランド「KARMAN LINE」。一度履いたら虜になってしまう心地良さは、奈良の工場と一緒に力を合わせることで生み出されています。1年を通して、それぞれの季節に合った素材、色を選び、履き心地の良さを大切にしています。「愛着を持ってもらえたら」そう願いが込められた靴下は、多くのファンを生み出しています。「デザイン」「糸」「履き心地」が互いに引き立て合う一足は、日々の生活にやさしく寄り添います。

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