インタビュー
vol.68 MAITO・小室真以人さん
– 草木染めから生まれる、ものづくりののカバー画像

vol.68 MAITO・小室真以人さん
– 草木染めから生まれる、ものづくりの輪

写真:松木宏祐

桜、桑、縄文杉など、自然の色を抽出した色素で染められる草木染め。「MAITO/真糸(マイト)」に並ぶ服や小物は、すべて「草木染め」で染められています。アイテムに温もりを感じるのは、自然の色の優しさだけではなく、全国の職人さんの技術と想いが込められているから。人にも、自然にも優しく、そしてものづくりに関わる全ての人が幸せであってほしい。この想いをカタチにするために歩み続ける小室真以人さんに会いに行ってきました。

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2017年09月08日作成
風にそよがれながら咲き誇る花、力強く根をはりめぐらす木々。太陽を反射してきらきらと輝く湖。
ほっとしたり、力が沸いてきたり、心が弾んだり……自然の彩りは、私たちに豊かさをもたらしてくれます。

いくつもの絵具が混ざり合って偶然生まれたような「自然の色」。赤のようでも、ピンクのようでもある。青のようでも、緑のようでもある。ひと言で表現できないもどかしさは、美しさをより深く感じさせてくれるようです。
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– 草木染めから生まれる、ものづくりの輪
そんな自然の生命力ともいえる色を映し出す「草木染め」。

「草木染め」は、植物の葉、樹皮、実、花などを煮出して抽出した色素で染める技術。藍染めされた生地を川で洗う様子を、テレビや雑誌で1度は目にしたことがあるのではないでしょうか。そのはじまりは太古にまで遡ります。自然の美しさに憧れ、尊ぶ気持ちは、今も昔も変わらないのです。
草木染めがつくり出す美しい彩り。包み込んでくれそうな温かみを感じるニット(画像提供:MAITO/真糸)

草木染めがつくり出す美しい彩り。包み込んでくれそうな温かみを感じるニット(画像提供:MAITO/真糸)

色々な表情を見せてくれる藍染めのブルーが美しい(画像提供:MAITO/真糸)

色々な表情を見せてくれる藍染めのブルーが美しい(画像提供:MAITO/真糸)

ものづくりの街として注目が集まる蔵前。そこにお店を構える「MAITO/真糸(マイト)」のアイテムは、すべて草木染めで染められています。店内は、まるで大自然の風景を切り取ってきたような、美しいグラデーションで彩られています。心も体もほぐしてくれるようなやわらかな色合いは、草木染めならではの魅力です。

細部までしっかりと作り込まれたアイテムの美しいラインは、職人さんの手によって丁寧に作られているから。和歌山でカットソーに、京都でストールに、今治でタオルに……それぞれの地で発展してきた技術が、「MAITO/真糸」の上質なアイテムを生み出しているのです。
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インタビューに伺うと、清々しいあいさつとともに迎えてくれた「MAITO/真糸」の店主 小室真以人さん。その笑顔には、楽しいという気持ちがあふれ出ているかのよう。頭の中には、楽しい計画が膨らんでいるにちがいない。そんなことを想像してしまうほど、わくわく感が伝わってくるのです。

日々、草木染め、ひいては産業全体の活性化を目指してものづくりに邁進する真以人さんは、あるとき、草木染めの未来を担う新たな道ともいえる答えを見出しました。

ものづくりに幸せの輪を広げる、1つの答え

ふんわり優しい色から、どっしりと深みのある色までさまざま。草木染めされた綿は、紡がれて糸になります

ふんわり優しい色から、どっしりと深みのある色までさまざま。草木染めされた綿は、紡がれて糸になります

それは、「生地でもなく、その原料となる糸でもなく、さらにその前の原点『綿』を染め上げること」

「最初は生地だなとか、色だなとか思ってたんです。もちろん、それも大事なんですけど、糸の良し悪しで最終的な製品のクオリティが決まるなって実感するようになりました、織りでも編みでも」

糸の重要性を感じた真以人さんは、”糸の原料となる綿を草木染めで染める”という新たな試みをスタート。まだ誰もしたことがない挑戦でした。「研究を重ねて、道具も仕組みもすべてゼロから作りました」そう気負いなく話してくれましたが、前例がないことを成し遂げるには、大変な時間と労力を必要としたことは想像に難しくありません。
もとの植物の色とは表情の異なる色に仕上がることも。植物がどんな色を映し出してくれるのか読み取れないところに、生命力を感じます

もとの植物の色とは表情の異なる色に仕上がることも。植物がどんな色を映し出してくれるのか読み取れないところに、生命力を感じます

こうして完成した「草木染め綿」は、これまでの草木染めのデメリットをカバーしてくれる、可能性に満ちたものでした。

原綿を染めることで、色落ちしにくく、深い風合いのある糸が作れるように。その糸をもとに作られたアイテムは、草木染めの美しい色をより長く楽しむことができるのです。そして、色を濃くしたり、色落ちを防ぐために繰り返す”染め・洗い”の作業を大幅に省けるため、価格も抑えることができる。それは、多くのお客さんの手に届けられることも意味します。
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「自分のことをデザイナーとも芸術家とも思ったことはないし、職人ともあまり思わないです。新たに作る過程や技法を構築する方が好き」そう潔く話す真以人さん。
まさに好きなこと――草木染めの新しい技法をつくりだして完成した「草木染め綿」は、繊維業界の活性化という大きな輪を作りはじめています。それはまるで、小さな芽から枝が広がり、花を咲かせ、やがて豊かな森ができていくようです。

「この綿は、草木染めの1つの答えではあるけれど、答えは1つじゃないんです」

まだまだ草木染めにはたくさんの可能性がある。そう確信し、ものづくりの未来を見据えて歩み続ける真以人さんの原動力はどこからくるでしょう。

最初の転機は、導かれるように

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真以人さんの最初の転機は、導かれるようにやって来ました。小学校3年生のとき、お父様が福岡で染物屋を立ち上げるために東京から家族で引っ越すことに。突然のでき事だったにも関わらず、「新たな地での生活に胸を躍らせた」と話す真以人さんの笑顔には、好奇心に満ちた少年の姿が見えるようです。

福岡どころか、九州ということもわからないまま、車ごとフェリーにのって海を渡り、さらに車で先へ先へ……やっと辿り着いたのは、福岡の秋月という場所。目の前には、大自然が広がっていました。
見えてきた、自然の本当の姿
「はじめの印象は、山だらけだな、田んぼがすごいなと。あと月は明るくて、本当に夜は暗いんだなと。東京だと闇ってないじゃないですか、街灯もあるし。でも秋月では、本当に何も見えないくらい真っ暗なんですよ。引っ越して1週間くらいのときに田んぼに落ちましたからね、あまりにも見えなくて(笑)」

好きという気持ちを超えて、尊ぶに近い感覚なのかもしれない。自然との思い出を話す真以人さんを見ていて、ふとそう思う印象的な笑顔です。

お父様が自然が好きで、東京にいたころから、近所の仲のいい人達と山にキャンプに行ったりと自然に親しんでいた真以人さん。自然の中で過ごす楽しさは知っていたはずでしたが、秋月の大自然は、自然とともに暮らすという本当の意味を教えてくれました。
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お父様が、お母様や地元の大工さんと草木染め工房やお店を作り上げていく姿に、自分の描く未来の1つに「ものづくり」という世界を映し出すようになります。

「ものを作って、お店にお客さんが来てくれるというのが自然で……。東京から急に引越してゼロから一生懸命、楽しそうにつくっていくのを見ていて、それはそれでいいなぁと。割と反発せずに、すっと馴染めたというのはありますね」

まさに、ものづくりの循環の中で暮らした少年時代は、東京暮らしとのコントラストによって、より鮮明に景色として刻み込まれました。

通りはじめた「ものづくり」への1本道

いつしか実家の染物屋を手伝うようになって感じたのは、手を動かして何かを作るのが好きだということ ――そうして入学したデザイン系の高校で出会った友人は、美容師になりたい人、漫画が好きな人など、好きなことや夢を持っている人ばかり。「入ったら変な人ばかりだった(笑)」と懐かしみながらうれしそうに話します。
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人の分だけ好きなことがある。そんな個性があふれる環境の中で、自分のしたいことを自然と問い続ける日々だったのかもしれません。「手を動かして、何かしらの素材を触って形づくることがすごく好きだし、そうやって生きていけたら面白いなと思ったんです」

高校生活で想いを強くしたものづくりへの道。真以人さんの目の前に、人生の道が通りはじめました。

偶然と必然で紡がれるようにたどり着いた「草木染め」

四季の豊かさを感じる染料となる植物。同じ植物でも、その年の天候や収穫する時期によっても異なる色をつくりだします

四季の豊かさを感じる染料となる植物。同じ植物でも、その年の天候や収穫する時期によっても異なる色をつくりだします

素材を触って「何か」を作りたい、そして日本が培ってきた技術を学びたいと思い進学したのは、東京藝術大学の工芸科。ここから「何か」を明確にするため、さまざまな世界を体験していく学生生活がスタートします。

授業で陶芸、彫金、鋳金、漆芸、木工など、日本に伝わるひととおりの工芸に取り組むだけではなく、コレクションブランドで指輪などの原型を作ったり、映画で使われる小道具を作ったり、広告代理店やグラフィックデザイナーのアシスタントをしたり、学校を飛び出してさまざまなアルバイトも経験した真以人さん。
何よりも感じることを大切に。自分で体感する中で行き着いたのは「やっぱり染めって面白い」という気持ちでした。

こうして染織を専攻した真以人さんでしたが、授業で学んだのは、友禅染めなど伝統技術を用いて絵を描くハイアートのような手法でした。面白さを感じながらも、自分が染色でしたいこととの違和感があったといいます。

「布は人に使ってもらう、着てもらってこその布だし、その過程で進化した技術。飾るだけでは面白くないから、着るものを作りたいと思いました」
自分で選んだことでできた、ぶれない軸
桜の美しいピンクは、枝から抽出されるというから驚き。使う部位や色どめの方法によって、さまざまな色合いを映し出してくれます(画像提供:MAITO/真糸)

桜の美しいピンクは、枝から抽出されるというから驚き。使う部位や色どめの方法によって、さまざまな色合いを映し出してくれます(画像提供:MAITO/真糸)

そして、学校の授業やアパレルブランドで使用される染料がほぼ化学染料であることに、草木染めへの危機感を募らせるように。「現在も残る江戸時代以前の能衣装などのコレクションは、すべて草木染めで染められているんですよ。せっかく昔から草木染めという技術があって、自分は勉強できる立場・環境にあるのだから、自分がやらないともったいないというのと、なくなってしまうのではないかという思いがありました」

楽しいという感覚に素直に従って歩んだ先に行き着いたのは、小さいころから慣れ親しんだ「草木染め」。

喜びを与えてくれた自然、そして、実家の草木染め工房での経験。こうした幼少のころの感覚が心の奥にじんわりと染み入っていたこともあるのでしょう。ですが、外の世界でさまざまなものづくりに触れ、自分の意志で草木染めを選べたことで、ぶれない軸ができた。それは、奇しくもお父様がカメラマンを経て草木染めを選んだ道のりと同じでした。

楽しいだけでは、「草木染め」は続けられない

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– 草木染めから生まれる、ものづくりの輪
大学卒業後、草木染めを学び直すため実家で修行をはじめた真以人さんは、ある課題にぶつかります。草木染めをよく知らない人にとっては、価格の高さや繊細さばかりが見えてしまい、ハードルが高くなってしまうのです。

「僕らも染めた後、製品を1から10まで自分達で作っているのではありません。もともと糸偏と呼ばれる繊維業は分業で成り立っているんです。生地を織る人、染める人、アイロンをかける人、生地をカットして縫う人……本当にいろいろな人の力を借りて作られています」

「『継ぎ手がいないから続けられない』という言葉をさまざまな職人さんから何度も聞きました。そうすれば僕らも仕事ができなくなってしまうし、お客さんに届けられなくなってしまう。それを何とか止めるためにも、草木染めへのいろいろな入り口を作って、たくさんの人に見てもらう必要があるんです」

職人さんの素晴らしい技術も、アイテムを使ってもらってこそ継承されていく。どの業界においても、使い手がいてこそ循環していく世界です。草木染めを次の時代へ繋いでいくためには、暮らしの中で息づいていく新しいアイテムを生み出すことが必要でした。楽しいだけでは続けられない。業界にとっての大きな課題でした。
最先端とアナログの融合。見えてきた新しい入り口
草木染めの新しい入り口を模索しはじめたとき、テレビで「島精機製作所」が開発した「ホールガーメントⓇ横編機(*)」でニットが編まれる様子を目にしました。
「ホールガーメントⓇ横編機」でニットが編まれていく様子(画像提供:MAITO/真糸)

「ホールガーメントⓇ横編機」でニットが編まれていく様子(画像提供:MAITO/真糸)

「そうか、ニットは機械で編めるんだ!」
手編みのイメージしかなかった真以人さんは、機械に糸をセットするだけでニットが編まれていく様子に心が弾みました。通常であれば裁断によって出てしまう40%もの無駄な生地もなくなるばかりか、無縫製のため身体にやさしくフィットするニットが作れます。
肩部分や前身ごろ・後ろ身ごろなどのパーツを縫い合わせることなく、1本の糸から無縫製で編まれるニットは、身体を優しく包み込み、着る人のシルエットに合わせてフィットしてくれます(画像提供:MAITO/真糸)

肩部分や前身ごろ・後ろ身ごろなどのパーツを縫い合わせることなく、1本の糸から無縫製で編まれるニットは、身体を優しく包み込み、着る人のシルエットに合わせてフィットしてくれます(画像提供:MAITO/真糸)

古くから伝わる「草木染め」と最先端テクノロジーの「ホールガーメントニットⓇ横編機」の融合に可能性を感じ、銀行からお金を借りることを決意。「ホールガーメントⓇ横編機」を購入し、ニットづくりをスタートしたのです。
※WHOLEGARMENTおよびホールガーメントは、株式会社島精機製作所の登録商標です。

逃げられない覚悟を込めた「MAITO/真糸」

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– 草木染めから生まれる、ものづくりの輪
決してお給料が多いとはいえない修行時代に銀行からお金を借りることは、生半可な覚悟ではできないこと。
草木染めの未来を担うニットを生み出すには、まずは機械をすべて自分で動かせなければ話になりません。仕事を終えた後、機械の操作を習得するため、寝る間を惜しんで試行錯誤する日々が続きました。時には、横に置いた簡易ベッドで仮眠をとることも。

ようやく努力が実を結び、商品化の目途が立ったとき、商品として世に送り出すためにブランド名をつけることに。
友人との何気ない会話からつけたのは、自分の名前と同じブランド名。それは自分自身の想いや行動がそのまま映し出されることを意味します。

「僕の名前が真以人、僕らの仕事は糸偏(いとへん)というので、真実の糸と書いて”マイト”で面白いかもねって。それに、自分の名前なら逃げようがないじゃないですか、飽きたから辞めたとはいえないし。自分を追い込むためにつけたというのもありますね」

草木染めを通して広がっていく、それぞれの夢

2012年にオープンした「MAITO/真糸」蔵前本店。一面ガラス張りのお店の奥には、草木染めで彩られたアイテムたちが温かみのある空間をつくりだしています

2012年にオープンした「MAITO/真糸」蔵前本店。一面ガラス張りのお店の奥には、草木染めで彩られたアイテムたちが温かみのある空間をつくりだしています

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– 草木染めから生まれる、ものづくりの輪
覚悟を込めたブランド名を掲げて、秋葉原にある商業施設2k540へ初出店。お客様にアイテムに直接触れてもらい、草木染めの魅力が伝えられる場所ができました。そんなころ、お店の仕入れなどを通じで少しずつ広がりはじめたものづくりの縁。「蔵前は面白い街だよ」――すでにその地に出店していた方が楽しそうに話す姿に引き寄せられるように、真以人さんも2年後には蔵前に2店舗目をオープンしました。

蔵前店の一角には、念願の染め場をつくりました。その理由は2つ。1つ目は、タイミングを逃さずに植物が持つ最も美しい色で染め上げるため。すぐに染めないと色が変わってしまうもの、生じゃないと染まらないものなど、植物の特性はさまざま。
(画像提供:MAITO/真糸)

(画像提供:MAITO/真糸)

「植物の命を頂いて、物に映し出すお手伝いをさせてもらっている感覚」
草木染めに対する想いをこう話す真以人さんにとって、染め場をつくることは、植物に対する礼儀でもあり、愛情表現なのかもしれません。
誰かにとっての「何か」のはじまりに
ワークショップのひとコマ。色の濃さや柄に、それぞれの個性が表れます(画像提供:MAITO/真糸)

ワークショップのひとコマ。色の濃さや柄に、それぞれの個性が表れます(画像提供:MAITO/真糸)

そして、もう1つの理由は、草木染めを体験できるワークショップを開催するため。この活動に、真以人さんが草木染めを続ける大きな意味が込められています。

「どうして僕は草木染めが好きなんだろうって考えたときに、やっぱり楽しいんですよ。この植物はこんな色になるんだという感動がある。普段から植物を見るときも、これを染めたらどんな色になるのかなって想像を膨らますんです。職業病ですけど(笑)。 綺麗だと思う感動もあるけど、染色という楽しみ方もあるってすごい豊かだなって思う。そういう感動って商品を見せるだけでは伝わらない部分があるんです」

「自分の手で染めて、たとえ綺麗に染まらずにムラになっても、”こんな色になるんだ”という感動から輪が広がっていくかもしれない。僕ならもっと作ってみたいと思うだろうし、草木染めの先生になる人もいるかもしれない、田舎で暮らしてみたいと思うかもしれない。何かのきっかけになる気がするんです」
蔵前店の染め場に保管されている染料となる植物たち

蔵前店の染め場に保管されている染料となる植物たち

草木染めが真以人さんの人生に感動や豊かさをもたらしてくれたように、誰かにとっての何かの1歩になれば……そんな願いが込められています。
好きという真っすぐな気持ちを表現し続けてきた真以人さんは、心の奥にある十人十色の好きという原動力が見えているのかもしれません。楽しさの先に、人の夢がある ――それは、真以人さんが歩んできた道のりが証明しているかのようです。
藍は、緑から青へ。草木染めの不思議な魅力
古来から人々の心を虜にしてきた草木染めは、その工程にも魅力があります。目に見える染料の色と異なる色へと変化を遂げる草木染めの様子をのぞかせてもらいました。
植物の藍を用いた草木染め。抽出された染液の色はなんと深い緑。液の中に適度な時間浸けたら取り出して、しっかりと水気を絞ります

植物の藍を用いた草木染め。抽出された染液の色はなんと深い緑。液の中に適度な時間浸けたら取り出して、しっかりと水気を絞ります

取り出したばかりの生地は、まだ緑色。藍は、空気中の酸素によって酸化して色が発色し、定着します。他の染料では、定着させるために金属鉛を使用することも。色の抽出、調整、定着など、すべての工程において一切化学性のものを使用しないというから驚きです。自然の不思議な力を感じずにはいられません

取り出したばかりの生地は、まだ緑色。藍は、空気中の酸素によって酸化して色が発色し、定着します。他の染料では、定着させるために金属鉛を使用することも。色の抽出、調整、定着など、すべての工程において一切化学性のものを使用しないというから驚きです。自然の不思議な力を感じずにはいられません

藍は、酸化すると緑から青に変化していきます。染めて、絞って、酸化させるという工程を繰り返すことで、青の色は深みが増していきます。夏に取れた藍で沈澱藍を作ってしまえば、季節に関係なく染めることができるのだとか

藍は、酸化すると緑から青に変化していきます。染めて、絞って、酸化させるという工程を繰り返すことで、青の色は深みが増していきます。夏に取れた藍で沈澱藍を作ってしまえば、季節に関係なく染めることができるのだとか

こんなに鮮やかな青に。深い温かみの中に、凛とした美しさを感じます(画像提供:MAITO/真糸)

こんなに鮮やかな青に。深い温かみの中に、凛とした美しさを感じます(画像提供:MAITO/真糸)

つくれる場所を、つくり続けるために

vol.68 MAITO・小室真以人さん
– 草木染めから生まれる、ものづくりの輪
真以人さんは、今、使われなくなった機織り機を買い取り、次の世代に引き継いでいく取組みをはじめています。

もともと、日本では高品質の機織り機が製造され、高度経済成長の繊維業の躍進を支えてきました。今でも、海外のハイブランドは上質な生地を求めて日本に染織を発注してくるほど。そんな機織り機が、日々姿を消しているというのです。

「職人さんが引退するとき、次に機織り機を使う人がタイミング良く見つからないんです。使わなくなった機械は、鉄で売ってしまったほうが高く売れる。だから1日~2日の間にスクラップされてしまうんです」

日本から機織り機がなくなるということは、職人の技術も育たなくなるということ。真以人さんは、その危機的な現状を放っておくことはできませんでした。

「だから僕らが使われなくなった織り機を集めて、これから機織り職人になりたい人に使ってもらいたい。
独立したいときは、その機械で独立してもいいし。僕らが機織り機を次の世代に引き継ぐタイミングを合わせる作業をしてあげないと、次に絶対つながらないんです」
結局、ものづくりって人間関係なんです
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– 草木染めから生まれる、ものづくりの輪
「職人さんの才能って、不器用とか器用とか関係ない。本当は不器用のほうがいいくらい。やる気があるかとか、これしかないんだと思うかどうかなんです」と力を込めて話す真以人さん。つくりたい人が、つくることができる場所を生み出すために、ゆくゆくは自分で織り工場を開こうとしています。

機織り機の組み上げ、修復、メンテナンスのすべてを依頼するのは、その道一筋で腕を磨き上げてきた90歳近い職人さん。その方のもとへ月に2回通い、織り機について学んでいる真っ最中です。

「ものづくりって、人間関係なんです」そういいきる真以人さんは、納得のいくアイテムを生み出すために、全国の生産者の元へも足を運びつづけます。
みんなの得意なことで、いいものをつくりたい
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– 草木染めから生まれる、ものづくりの輪
「もちろん技術的な問題はあるんですけど、その人が何が得意なのか知りたいんです。その人が苦手なことを無理にしてもらってもいいものはできない。職人さんはこだわりがあるので、何に自信を持っていて、どんな人なのかをまず知らないとお互いに気持ちよく仕事ができないですから」

「新しいものをつくるって、すごい面倒くさいし、労力がいるんですよ。だからこそ、その大変さも面白がれるかが大切なんです。楽しいほうがいいですよね」
そう話す笑顔の奥には、ものを売ることの責任を背負った覚悟もにじみます。
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– 草木染めから生まれる、ものづくりの輪
好きという気持ちは、楽しさを生み出すエネルギー。そのエネルギーは、自分の軸となって道となり、やがて枝分かれして多くの人たちの道をもつくり出していきます。自分の夢に向かって歩むことは、皆が好きなことを表現できる豊かな世界につながっているのです。

「1人ではものづくりはできない」という脆さを知る真以人さんの強さ。それは、縁という糸を紡ぎながら、今日もまた全国へと輪を広げていきます。


(取材・文/井口惠美子)
MAITO/真糸 | マイトMAITO/真糸 | マイト

MAITO/真糸 | マイト

MAITO/真糸(マイト)は、小室真以人さんが手がける草木染めアイテムを展開するブランド。全国の職人さんの技術をつめ込んで作られたアイテムは、すべて草木染めで染められています。オーガニックコットンの原綿を草木染めすることで、色落ちしにくく、より深みのある色合いの糸を紡ぎ、長く寄り添ってくれるアイテムを生み出しています。自然にもヒトにも優しくありたい。使い手と共に歳を重ねていけるようなものを作りたい。ものづくりに関わるすべての人たちが幸せであってほしい。そんな思いを込めて、日々ものづくりをしています。

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