‘スパイス’が私たちの暮らしに与えてくれるもの
すり鉢の中で、静かにゆっくりと調合されるスパイス。日本にも昔からあるこの便利な道具には、どこまでも深い包容力を感じさせられます。人の個性や文化に違いはあれど、許容できる精神が紡ぎだされていくような。そう、スパイスは奥が深い。あなたもスパイスの世界を探訪してみませんか?
三条スパイス研究所って?―三条から発信するミックスカルチャー
「にほんのくらしにスパイスを」をモットーに、食文化や生活技術など地域にある新旧の知恵を混ぜ合わせまちや暮らしを新たな形に再編集していくことを目指す組織です。 当研究所の研究対象とする食材、技術、道具などを、ここに集う人たちが使いこなすことで、自分好みの「くらしの調合」ができるようになることを目標に、これからの活動を進めていきます。
地域の取り組みと呼応する特別なレストラン
全体が巨大な縁側空間のようなこの特徴的な建物は、その名も「ステージえんがわ」。三条市の公共プロジェクトとして出来たこのスペースは、老若男女が集い、休憩や待ち合わせにも使える憩いの場であり、展示やイベントなど、クリエイティブな活動の場でもあります。この空間に、今年の春オープンした「三条スパイス研究所」は、地域の取り組みと呼応する特別なレストラン。食だけでなく、暮らしと繋がるスパイス文化。ここから、新たなカルチャーが誕生します。
「三条スパイス研究所」がある場所は、ガラスなどで仕切られてはいますが、屋外と一体化したような開放感あるスペース。店内には、木の温もりを感じさせる家具、個性豊かなスツールや椅子が並びます。お洒落だけど、どこか懐かしい空間は、ついつい長居したくなってしまうような居心地の良さを感じさせます。
三条スパイス研究所の美味しいスパイスメニュー
「三条スパイス研究所」が提供するワンプレートのスパイス料理。ランチで人気のターリーセット、ビリヤニセットはじめ、旬の食材をたっぷり使ったスパイスおかずやカレーは、日替わりなので、毎度新鮮な味わいです。1つ1つの具材をじっくり味わうもよし、お皿の上で、おかずやカレーを混ぜて味覚の変化を楽しんでもよし。好みで色んな食べ方を試してみて。
ターリーorビリヤニ?充実のランチセット
‘ターリー’とは、日本でいう定食のようなもの。1つのお皿にご飯やカレー、おかずなどが盛られたセットメニューは、インドでは国民食といってもよいほど日常的なもの。「三条スパイス研究所」のターリーセットは、日替わりのカレーが2種、スパイスの効いたおかずが4種、さらにデザートとドリンクもついて、とてもバランス良くお腹を満たしてくれます。おかずとカレーを少しずつ混ぜ合わせながら食べ進めると、さらに風味が増していくのを実感できます。
インドやネパールなどでよく食されるスパイス入りの炊きこみご飯、‘ビリヤニ’。スパイスの香りが、食欲を刺激し、どんどん箸(スプーン?)がすすんでしまいます。カレーとおかずが3種類、デザート、ドリンクも付くのでボリュームたっぷり。複雑かつ奥深い味わいを存分に堪能してみて。
スパイス体験を満喫!ディナーコース
カレーやビリヤニ含め、様々なスパイスおかずや豪華な鉄鍋カレーまでついたディナーコース、‘モダンターリーセット’。滋味深い味わいを誰かと共有し、語らいながら過ごす特別な時間。要予約なので、ご興味がある方は、お店のHPなどから問い合わせしてみて下さい。
他にも、ビリヤニ、鉄鍋煮込みカレーなど、ディナータイムはアラカルトで注文できます。鉄鍋やダッチオーブンなど、燕三条のプロダクトが使われているのも注目したいですね。
充実のドリンクメニュー
珈琲、紅茶はもちろん、ラッシーやチャイ、ジンジャースパイスなど、スパイスを扱うお店だからこそ揃うドリンクメニュー。さらに、ワインやウィスキー、さらには日本酒まで、アルコール類も揃えています。カフェタイムをスイーツと共に過ごしてもいいし、芳醇なスパイス料理を美味しいお酒と楽しんでみてもいい。時間帯、シチュエーションを変え、訪れてみたくなります。
機会があれば、お試しあれ!あさイチごはん
毎月、2、7が付く日に開催される朝市に合わせて、提供される「あさイチごはん」。市場のお漬物や美味しいご飯、旬を感じる和のおかず...。胃袋をほっこり温めてくれます。
もっと知りたい!三条スパイスカフェのこと
「三条スパイス研究所」の所長は、知る人ぞ知る押上の人気店「スパイスカフェ」のオーナーシェフ、伊藤一城さん。世界中を旅して体得したスパイス料理を基に、オリジナルの解釈を加えた日本人のためのスパイス料理を提供しています。
店内に開かれたキッチンスペース。雑然としているようでとてもスマートな作業場。スパイスのいい香りが漂い、料理が出来上がるのを待つ間も、何だか心豊かな体験をしている気分になれます。このお店で使われるカトラリーなどのテーブルウェア、調理道具などは、燕三条製のものが使われています。店内をぼんやり眺めながら、食だけでなく、様々に感性に響く体験ができる場なのです。
棚に何気なく置かれているのは、保存食であったり、愛嬌がある形の酒瓶があったり、書籍や絵本があったり、さらには、こけしまで...。新しい椅子、古い椅子、お客さんはめいめいに好みの場所に落ち着くわけですが、きっと誰もがしっくり馴染んでしまう許容力をこの場所に感じます。私たちよりずっと経験豊富なおじいちゃん、おばあちゃんは、もしかしたら、人が思うよりずっと気軽にスパイス料理を愉しんでるのかもしれません。何だかちょっとお話したくなってしまいませんか。
こちらは「Nihon no / Spice lab vol.1 里山十帖×三条スパイス研究所」のイベントで振舞われた一皿です。「三条スパイス研究所」では、様々なジャンルの才能溢れる料理人と共に、地元の食材をメインに使い、ここでしか食べられない特別なメニューを展開。ワークショップや料理教室、イベントなども定期的に開催しています。
土地の記憶と繋がり、今の暮らしを慈しむこと
スパイス料理の基本である郷土の料理には、ずっと昔のくらしの知恵や工夫、そして人々の記憶と経験、より良い生命を目指すための「食べ方」のお手本がぎっしりと詰まっていました。
次世代に繋ぐ‘三条産ウコン’
この地域の山間部には、昔から、野草や山の果実など、高機能な自然の食材が暮らしの中にあり、常備して使う文化がありました。ただこういった暮らしの知恵を持っているのは、高齢の方ばかりで、このままでは、いつかその文化ごと消滅してしまうかもしれません。そんな状況の中、伊藤シェフが1人のウコン農家と出会ったことで、新たなプロジェクトが始まりました。
三条の山間部の下田で、25年以上ウコン栽培を手掛ける、山崎一一(かずいち)さん。定年旅行で訪れた沖縄でウコンと出会い、地元に苗を持ちかえり、好奇心から独学で栽培方法を編み出されました。栽培のあれこれを熟知した山崎さんはまさしくウコンのスペシャリストなのです。
「三条スパイス研究所」では、三条産ウコンを使用するだけでなく、次世代へウコン栽培を継承するための活動も始めました。ステージえんがわの外の土の広場に、山崎さんが育てた苗を埋め、ウコン栽培に励みます。こうやって土地の大先輩の経験を受け継いでいけることは、本当に尊いこと。未来への希望を感じます。
朝市で仕入れる旬の食材
「三条スパイス研究所」のお隣には、毎月2、7が付く日に朝市が開かれます。この朝市がなかなか豪華。ここを回れば、この土地の旬が一目了然。スーパーではなかなか見ることのできない新鮮なお野菜がたくさん並びます。中には、ちょっと調理法に迷ってしまうような珍しいものも...。「三条スパイス研究所」では、そんな朝市を担当シェフと一緒に巡り、見つけてきた食材を使って料理している様子が見られるワークショップを定期開催。できたてのおかずの試食タイムも楽しみなイベントです。
作り手の愛情が伝わってくる値札。食材にも表情があります。色んな表情を見ているうちに、段々と目が肥えていくのかもしれませんね。
東京でも手に入る!‘ビリヤニキット’も
「三条スパイス研究所」から、何と家庭で、ビリヤニが手軽に作れてしまうキットが登場!内容は、三条産スパイス、新潟産のインディカ米、大根、ごぼう、人参、柿などの干し野菜や乾燥果樹など...。干し野菜の出汁が沁み出たビリヤニは旨みが凝縮。インドのスパイス文化と日本の伝統食材のコラボレーションで生まれる絶品の一皿。自宅用にはもちろん、お土産にも喜ばれそうです。
たとえば、1種類のスパイスを単体で使えば、そのものの個性がぴりっと引き立ちますが、ガラムマサラのようにミックスしてみると、それぞれの個性が見事に調和します。だから、同じスパイスでも、使い方、合わせる食材によって、全く違った味わいになるのです。その繊細さ、豊かさは、私たちの暮らしに彩りを与えてくれます。