作家さんにとっての日常的な舞台とは何だろう?
この手づくり市を2006年10月の第一回目から現在まで開催し続けているのが手創り市代表の名倉哲さんです。
はじまりは名倉さんから生まれたこのひとつの疑問でした。もともとロジカフェというカフェを経営し、そこで作家さんの個展や企画展を開催していた名倉さんは共に仕事をしていく中で彼らが抱える現実を知ります。
「個展というのは、時間もお金もかかるし作家さんにとって負担が大きい。その負担はハレの舞台を作るために必要で、それはそれで大事なこと。でも、そのハレの舞台を非日常と仮定した場合、日常的な舞台ってなんだろう?と思ったんです。毎週末とは言わないけれど、月に一回くらい作家さんが出てくる場所があってもいいんじゃないかと。それをずっと考えていました」
食品ブースは一番最初にチェックしておくのがおすすめです
「そこでの光景を見てこういうことだなって思ったんです。作家さんが責任を持って、自分で作った作品を並べてお客さんとコミュニケーションを取りながら販売する。それって、シンプルでわかりやすいじゃないですか。僕が作りたいのは、こういう場所なんだと思いました」
さまざまなツールを使い、何でも手に入れることができる現代。それは便利な半面、作り手と買い手の距離を遠ざけ、複雑にさせてしまっている部分もあります。作った本人が直接お客さんとやりとりすることができる手づくり市に、名倉さんは作り手と買い手の本来あるべき形を感じたのです。
「続けていくこと」が場所を作る人の最初の責任
「僕自身の感覚だとスムーズな流れで10ヶ月かかったという感じです。時間の問題でいったら時間がかかったと言うのかもしれないですけど、いろんな話ができました。僕がどういう人物なのか鬼子母神さんに観察されていた期間だったのかもしれないですね」
それぞれディスプレイも凝っていて、見ているだけも楽しい気持ちに
アクセサリー作家さんも多く出展しています
出展する作家さんも毎回出ている方、初めての方とその時々によってさまざま。毎月行っても新しい出会いがあります
「もともと、そんなに期待してなかったんです。一回やったくらいじゃわからないからこそ、続けるしかないと思いました。最初からいたスタッフは今でも『3ヶ月くらいで終わるかと思った』って言っています。確かに冬の時代だったけど、僕は続けていけば春が来るって思っていました」
名倉さんにとって手創り市を開催する上で何より重要なのは「続ける」ということ。
「“場所を作る”って、作った以上はその場所と参加している人たちに対して責任があるんです。ということは、場を作る側の人間が可能な限りのスパンで開催していくというのが最低限の責任。だから毎月やっていくというのは当たり前だと思っています」
「続けることが場所を作った者の責任」。その覚悟とも言える思いは10年目を迎えた今も変わらず名倉さんの心の中にしっかりと根を張っています。
なんと言っても直接作家さんと会えるのが手創り市の醍醐味。気になる作品があったらどんどん話しかけてみましょう
珈琲豆の試飲用に直接珈琲を淹れてくれる出展者さんの姿も
グラデーションのように広がる手創り市
静岡市足久保にある木藝舎・SATOで年に一度開催している「くらしのこと市」の様子 画像提供:手創り市
ARTS&CRAFT SHIZUOKA手創り市(左)、手創り市雑司ヶ谷(右)のDM。イラストを手がけているのは画家でありイラストレーター、グラフィックデザイナーでもある山口洋佑さん 画像提供:手創り市
&SCENE手創り市のイラストは湯本かなえさんによるものです 画像提供:手創り市
では、変わらない色である「青」の部分は何なのでしょうか。
「手づくり市というものには最低限のシンプルなルールがあるわけです。例えば、作家が自分で作ったものを並べ、作品を語り、販売するということ。それが代理の人でもいいということになったら、主催者側の意図や魂胆が透けて見える気がするんです。言うなら、たくさんの人に出てもらいたいからルールの幅を広げていくってことですよね。そういった根本に関わるルールが変わるのであれば、僕が手創り市を開催する意味はないと思っています」
逆に言うと、その部分以外だったら、基本的に受け入れていきたい、というのが名倉さんのスタンス。手創り市の中で生まれた「パン祭り」、「BOOKS&SCENE」、「meets brooch」などはスタッフが自主的に企画したものです。
10/25(日)には第二回BOOKS&SCENEが開催される予定。「新しい本の付き合い方、楽しみ方を思い思いに体験できる場所だと思います」と名倉さん 画像提供:手創り市
「スタッフには『名倉さんは黙っていた方がよく見えるからあんまり話さない方がいい』なんてことも言われるんですよ」と苦笑いしながら話す名倉さん。そんな会話も含めて、長年関わっているスタッフが多いというのもうなずける、風通しの良い現場の空気を感じます。
一番の目標は継続していくこと
「『これからの目標は何ですか』って聞かれるんですけど、やっぱり一番の目標は継続していくこと。継続することに意味はあるけど答えはないと思っています。継続していく中で変化をしていく。だから、ベストな手創り市というのはなくて、常にベターですよね。かけるべき時間をかけてよりよくしていきたいです」
代表の名倉哲さん。今回は木漏れ日が射す中でインタビュー。会場の和やかな空気を感じながらお話を伺いました
「今ある場所は控えめに言うと、決して悪い場所ではないと思っています。いや、自分からするとすごくいい場所だと思うんですよ(笑)」
最後にそう言って、いたずらっぽく笑う名倉さん。その笑顔には自分が好きなこととまっすぐに向き合っている人が持つ清清しさがありました。
器、布、アクセサリー、食品とあらゆる作家さんが集まります。会場はあっという間に人でいっぱいに