物語を支える存在
登場人物が印象的な小説
ジャイロスコープ|伊坂幸太郎|新潮文庫
注目の脇役・稲垣
頭と体のバランスが悪い、いかにも胡散臭そう、そんな印象に稲垣は描かれます。相談屋は意外に仕事があっていろいろな訪問客が来るわけですが、その対応や浜田とのやりとりを通して、稲垣の印象は随分と変わるでしょう。ちょっと変わり者だから、物語を読む時の目線は浜田を通して稲垣を見ていますが、どんでん返しが待っていますよ。この物語に絶対欠かせない人物ですし、本書は短編集なのですがラストのお話にも登場します。
ネバーランド|恩田陸|集英社文庫
男子校の寮・松籟館で暮らす菱川美国は、みなが帰省する冬休みに寮に残ることを決める。美国と同じく寮に残ったのは友人の光浩と寛治。寮に残って一日目のクリスマスの夜、三人で食事を始めようとしたときにバッドマンの面をつけた人物が登場する。それは昼間買い物途中であった友人の統だった。こうして四人の長い一週間が始まる。
注目の脇役・統
残った四人の青年は、それぞれに人には話せない悩みを抱えています。おそらくは、光浩の告白が物語に大きな衝撃を与えているでしょう。しかしこの告白の流れを作るのが、統。クリスチャンである彼は、負けた人が告白をするというゲームで"懺悔"を始めます。四人の中で一番変わり者の統が、みんなの心を救うきっかけを作るのです。
本と鍵の季節|米澤穂信|集英社
高校二年生の堀川次郎は図書委員。週に一度、友人の松倉詩門とともに当番を務めており、二人で言葉遊びなどをして暇をつぶしている。ある日、元図書委員の先輩が二人に、祖父が遺した開かずの金庫の番号を探して欲しいと依頼する――。
注目の脇役・松倉詩門
いかにも物語の主人公らしい、優しく素直な次郎に対し、松倉は男前だけど皮肉屋さん。疑り深いところがあって、いつも否定的な視点からスタートします。一見、正反対の二人だけど、淡々とした会話の中に爽やかさが感じられ、松倉が成長していく姿が若々しくてなんともいえません。
美しい距離|山崎ナオコーラ|文藝春秋
ある日、妻が末期がんで余命幾ばくもないことを宣告された。夫は献身的に妻を支える。妻を見舞う会社の同僚たちに、これまで知らなかった妻の一面をみたり、病院の方針と患者の希望のズレを感じたり。そうして妻に寄り添い続ける夫の深い愛の物語。
注目の脇役・妻
実はこの物語は登場人物に名前がありません。よく「僕」や「小生」など一人称が用いられることもありますが、それもありません。淡々と描かれる妻と夫のやりとり。作者である山崎さんは死を日常のことのように軽く描きたかったそう。死を前にして妻が語る死生観や因果応報に胸打たれます。
レインツリーの国|有川浩|新潮文庫
会社員の向坂伸行は、昔好きだった小説のレビューをインターネットで検索するうち、あるブログに辿り着く。ブログの名前はレインツリーの国、管理人はひとみという女性。そこで伸行はひとみへダイレクトメールを送り、二人のやり取りが始まる。伸行は二人で会うことを提案するがひとみはなかなかイエスとは言わなくて――。
注目の脇役・ひとみ
ひとみがなかなか会ってくれない理由、それはひとみが難聴の障害を持っているからでした。物語の多くが二人のメールのやりとりで進みますが、彼女が自分の傷や人間のエゴイズム、面倒臭さを真摯に伝える姿に強く共感します。
うさぎパン|瀧羽麻子|幻冬舎文庫
高校一年生の優子はお嬢様育ちの優しい女の子。お父さんは単身赴任中で、仲良しの継母みどりさんと暮らしている。初めてできたボーイフレンドの富田くんとの共通の趣味はパンで、二人でパン巡りへ。そんな中初めてできた学校以外の友達が、家庭教師の美和ちゃん。優子は次第に富田くんとのことなどを美和ちゃんに相談するようになり――。
注目の脇役・美和ちゃん
物語は、二人の淡い初恋にとてもほのぼのします。ボーイフレンドの富田くんも注目ですが、ここでは美和ちゃんに触れたいと思います。美和ちゃんは大学生のいわゆるリケジョ。優子の良き相談相手となり、アドバイスをくれますよ。かわいい初恋を温かく見守る美和ちゃんに共感しつつ、美和ちゃんを介して思わぬ人物が登場するのです。
絶対、最強の恋のうた|中村航|小学館
大学に合格した大野くんに初めてできた彼女。「恋はスタンプカードのようなもの」と表現し、二人は少しずつスタンプを押すように恋を育んでいく。前半は大野くんの視点で描かれ、後半は同じ時系列を彼女の目線で描かれる。あの時、彼女はどう思っていたのか――。
注目の脇役・坂本と木戸
物語は、一言でいってしまえば「平凡」。どこにでもありそうな二人の初めての恋物語にとにかく胸が熱くなります。そんな恋愛ストーリーにユニークさをプラスしているのが、変わり者の名脇役、坂本さんと木戸さん。特に木戸さんは、木戸さん語録を作りたいほど名ゼリフが満載ですよ。
車を走らせある町にやってきた浜田は、ホテルのそばにあるスーパーの駐車場で知らない男に話しかけられた。駐車場内のプレハブで相談屋をやっているというその男、稲垣は、浜田にアシスタントをやらないかと持ちかける。宿泊先や食事代が浮き、仕事は意外と簡単だといわれ、浜田はアシスタントを引き受けることにするが――。