ページをめくるごとに、「おいしい!」に出合える
PART1:みんな毎日食べている。暮らしに寄り添う食の記録
松浦弥太郎『明日、何を作ろう』(KADOKAWA)
森下典子『こいしいたべもの』(文藝春秋)
表紙のホットケーキの、なんと美味しそうなことでしょう!この本には、このホットケーキのように素朴で愛らしいスケッチがそれぞれにまつわるエッセイと共に収められています。作者はスケッチ・エッセイ共に森下典子さん。昭和30年代生まれの森下さんが、食べ物にまつわる両親や祖母との思い出などを懐かしみながら振り返ります。戦後色が残るその時代の、楽しい美味しいだけではない切なさが、奥行きのある味わいとして心に余韻を残す名エッセイ集です。
辻仁成『50代のロッカーが毎朝せっせとお弁当作ってるってかっこ悪いことかもしれないけれど』(主婦の友社)
辻仁成と言えば、あなたにとってはロッカーでしょうか?作家でしょうか?この本は、フランス在住、息子と2人暮らしシングルファーザーの辻仁成が、毎朝息子に作り続けるお弁当の記録です。フランスで作られたとは思えないような和風弁当や、見慣れない野菜を使ったお弁当、そんな毎日のお弁当写真がずらり。そこに添えられた父・辻仁成の文章には優しさ・愛情が溢れています。プライベートな記録でありながら、ユーモラスで読み手を楽しませようとする文章は作家そのもの!こんなお弁当を食べて、こんな風に愛情を伝えられて育った息子さん、きっと素敵な青年なんだろうなと、そんなことまで想像してしまいました。
オトクニ『広告会社、男子寮のおかずくん 』(リブレ)
多忙を極める広告会社で働く営業マン・西尾君。会社の独身寮に住んでいます。そんな西尾君の週末毎のお楽しみは、寮に暮らす男子4人で集まって、作り食べる晩ごはん!いかにも広告会社〜な個性的なイケメン4人が、仕事の愚痴やらお悩み相談やらしながらパパパッと料理を作っていきます。なんといっても4人のキャラクターがそれぞれ魅力的で、会社で働く姿もしっかり描かれているので親近感も感じます。そんな彼らがリラックスして楽しそうに料理し食べる姿に、こちらまで癒されます。セリフに混ぜてさりげなくレシピも紹介されているので、どれも実際簡単に作ることができますよ!
PART2:文字だけでよだれが出ちゃう!名手が綴る食エッセイ
阿川佐和子『魔女のスープ 残るは食欲 2』(マガジンハウス)
軽妙なエッセイが大人気の阿川佐和子さん。このエッセイでは、自宅で、テレビ局で、ゴルフ場で、出かけた先々で阿川さんが食べて食べて食べまくります。庶民の味あり、高級料理あり、好奇心旺盛な阿川さんらしく出てくる食べ物はバラエティー豊か。ああ、本当にこの人は食べることが好きなんだな…と痛快な気持ちになってきます。食欲と元気が出る1冊です。
よしもとばなな『ごはんのことばかり100話とちょっと』(朝日新聞出版)
小説だけではなく数多くのエッセイを手掛けるよしもとばななさん。エッセイを読んだことがある方ならご存知かと思うのですが、とにかく食べ物の話がしょっちゅう出て来るのです。食べるのが好きで、食べることをとても大切にしているのだな、としみじみ伝わってきます。そんなばななさんが、食に関することばかり、これでもかと語り倒します。好きな食べ物、いきつけのご飯屋さん、友人と食べる幸せ…。圧倒されるほどのLOVE!から目が離せません!
西加奈子『ごはんぐるり』(NHK出版)
タイトルの「ぐるり」は「周辺、まわり」のこと。この本は、普段の『ごはんまわり』のあれこれについて西加奈子さんが思うがままに綴るエッセイ集です。西さんといえば、勢いがあり力強い中にもどこか陰がある小説が印象的ですが、このエッセイは勢い!力強さ!以上!!という弾けっぷり。西さんの新しい魅力に触れたい方も、ぜひ読んでみてください。
向田邦子『海苔と卵と朝めし』(河出書房新社)
食べ物エッセイといえば、忘れてはいけないのがこの人、向田邦子さん。食へのこだわりは、ご本人が「作家にならなければ板前さんになりたかった」とまで言うほどだったとか。丁寧な描写と文章の巧みさで、出てくる料理どれもこれもが本当に美味しそう!向田さんの芯の通ったシュッとした文章は、食べ物の話でさえもベタベタせず爽快な気持ちにさせてくれます。向田さん、板前でなく作家になってくれてありがとう。
PART3:食を通して異世界を知る。旅と食の美味しい関係
石井好子『バタをひとさじ、玉子を3コ』(河出書房新社)
シャンソン歌手であった石井好子さんは、元祖お料理エッセイストとしての顔も有名です。シャンソンを志し渡ったパリでの暮らしを綴った『パリの空の下オムレツのにおいは流れる』は、1963年の初版以来1度も絶版になっていない大ベストセラーとなりました。そんな石井好子さんの単行本未収録作を中心に収録したのがこのエッセイ集です。今読んでもまったく古く感じない洗練された文章にパリのエスプリが香り、ああ、フランスに行かなければ食べられないとは!とフランスに恋してしまう名作です。
原田マハ『やっぱり食べに行こう。』(毎日新聞出版)
『たゆたえども沈まず』『暗幕のゲルニカ』など海外に題材を求めた作品も多い原田マハさんが、取材で訪れた土地で食べた思い出の食べ物について語ります。軽やかな文体で綴られるパリやニューヨークの描写からは現地のざわめきが聞こえてくるよう。食べ物も、美味しい・好きを超えた「異国らしさ」が匂い立ちます。取材先での思い出ということもあり、原田さんの作品にまつわるエピソードなども添えられ、ファンには2度嬉しい内容になっています。
西村淳『面白南極料理人』(新潮社)
旅とは少し違うのですが…ご紹介させてください!この本、とにかく本当に面白いんです。著者は南極越冬隊の一員として南極ドーム基地で料理を作る“南極料理人”。想像もつかないような過酷な環境の中で、それでも食べることにこだわり創意工夫で日々の食卓を盛り上げる著者。話題は料理のことだけではないのですが、8人の隊員の硬い絆に、やっぱり同じ釜の飯を食うというのは偉大なことなのだな、と食の力に改めて感嘆する思いです。そして、普通に何でも食べられる日本の生活って幸せだな、とも思うのでした。
秀良子『おしゃべりは、朝ごはんのあとで。』(小学館)
引きこもりのかけ出し漫画家(作者秀さんご本人)が、充実の朝ごはんを求めて自腹で旅するコミックエッセイ。表紙を見て、少女漫画的な美形さんが出てくるのかしら?と思っていたら、なんとスプーンに乗っているほっかむりの生物(?)が主人公秀さんでした。このゆるキャラのような主人公のキャラが面白くて可愛くて、テンポよく進むストーリーにすぐに引き込まれてしまいました。主人公はゆるキャラ風ですが、旅の風景や食べ物の絵はとてもきれいで、実際の旅気分・グルメ気分が味わえます。スタート1回目から突然パリに行ってしまう展開も面白い!
PART4:これはもはやレシピ本!読んで作れる実用書
イシヤマアズサ『真夜中ごはん』(宙出版)
作者曰く「料理が得意でない人間の、自分をいやすためだけにつくる夜食エッセイ」である今作は、夜中の仕事に備えて日々夜食を作り食べるコミックエッセイです。ほんわかした絵柄と素朴な語り口がここちよく、出てくる料理はどれも本当に美味しそう!夜中だから、とカロリーを気にしてみたり、夜中だけどとチーズをモリモリ盛ってしまったり、ああ、共感!レシピに添えられた真夜中の食事に関するエピソードが秀逸で、夜食を食べるために夜更かししたい、とまで思ってしまうほど。
高山なおみ『気ぬけごはん』(暮らしの手帖社)
シンプルで日常的な料理で人気の料理家高山なおみさんの、これでもか!と力の抜けたお料理エッセイです。エッセイの中で触れられるレシピもすべて文章として書かれた読み物レシピですが、これがなんとも美味しそうなのです。文章でつづられるレシピって、レシピ本とは違った独特の魅力があると思いませんか?読み物としても、レシピとしても楽しめるお料理が60点ほど紹介されており、読み応え・作りごたえ抜群ですよ!
本多理恵子『料理が苦痛だ』(自由国民社)
このタイトル、ちょっとびっくりしませんか?私はびっくりして手に取ってしまいました。最初に始まるのは「毎日料理を作りつづけること」に疲れた人・嫌になった人への共感と労い、そしてなぜ料理が苦痛になるのかという細かな分析です。読み進めるうちに、そうか料理が苦痛だと思う理由は単純ではないんだな、確かに思い当たることが沢山あるぞ、と心が軽くなっていくのを感じます。ごはん作るのヤだな〜、と思っても何にも悪くないんだね!とモヤモヤが晴れてきます。しかし、この本はそれで終わりではありません。じゃあ、その苦痛な根本のところを解決して、毎日の料理が辛くないようにしましょうよ、と提案してくれるのです。その提案パートに具体例として載っているレシピがこれが素晴らしい!これなら作ってもいいかな、なんなら美味しそうだし作ってみたいな、と思わせる料理ばかり。本を手に取った時には「料理が苦痛だ」と思っていたのに、最終的にはちゃーんと「さあ料理しようかな」と思わせてくれたのでした。
寿木けい『わたしのごちそう365』(セブン&アイ出版)
著者の寿木(すずき)けいさんは2人のお子さんを育てるお母さんです。日々の食卓の写真とレシピを発信するツイッター『今日の140字ごはん』は今年2020年で開設10年を迎え、フォロワー数は12万人を超えています。たった140文字で?と思うかもしれませんが、この短文レシピが心にビシバシ伝わってくるんです!材料も少なく身近にあるもので、調味料の細かい分量は記載されていません。手順とコツだけがぎゅっと詰まった140文字のレシピは、普段お料理を作る人達に絶大な支持を得ています。なんだか料理のモチベーションが上がらない、そんな時にぜひ開いてみてください。読んでいるうちに自然と手が動いてくるような、そんな軽やかなレシピ集です。
PART5:好きが高じて本になりました。嗜好品への想いが溢れる4冊
アンソロジー『こぽこぽ、珈琲』(河出書房新書)
港かなえ、阿川佐和子、村上春樹に畑正憲、井上ひさしから團伊玖磨まで!名だたる名作家が名を連ねてお送りする珈琲エッセイ31篇を収録。作家と珈琲って、なんだかそれだけで絵になります。そんなちょっと憧れる作家さんの珈琲談義を、どうぞゆっくりとお楽しみください。これまで読んでこなかった作家さんとの新しい出会いを探すにも、おすすめの1冊です。
三浦しをん・岡元麻理恵『黄金の丘で君と転げまわりたいのだ』(ポプラ社)
のんべえで有名な作家(?)三浦しをんさんが、ワインのスペシャリスト岡元先生に弟子入り志願、ワインのイロハを面白おかしく学んでいくワイン入門書的エッセイ本です。とはいえそこは三浦しをんさん、堅苦しい内容は一切なし、なんならワインにさほど興味がない人が読んだとしても、読み物として大変面白く仕上がっています。もちろん、ワインのことを知りたい方もご安心ください。講師役、共著者の岡元麻理恵さんがまた魅力的で、可愛く朗らかにワインについてレクチャーしてくれます。“最終的には飲めればOK”な三浦さんと“知らなくても美味しいものは美味しいですけどね〜”な岡元先生の、結局最後は飲みたいだけ?な掛け合いに、読みながらワインが飲みたくなってしまいます。
長野まゆみ『お菓子手帖』(河出書房新社)
耽美的な作風で若い女性を中心に長くファンを獲得してきた長野まゆみさん。そんな長野さんがお菓子にまつわる思い出話を綴る、自伝的お菓子小説です。昭和34年生まれの作者の記憶力は素晴らしく、流れるような文章で当時の文化・生活が描かれていきます。引き込まれて読み進めて行くと、そこかしこに出てくるのが懐かしい昭和のお菓子!登場するお菓子はどれも魅力的で、昭和を知る人には懐かしく、知らない人には新鮮に映ることでしょう。
伊藤まさこ『フルーツパトロール』(マガジンハウス)
日々を大切に暮らすアイデアを紹介する著書でおなじみの伊藤まさこさん。そんな伊藤まさこさんが「果物のことならなんでも話したい!」という情熱で作ったフォトエッセイ集が『フルーツパトロール』です。一見レシピ集を思わせる表紙ながら、めくって目次を見ただけで驚くほど内容が盛り沢山!フルーツを美味しく食べられるお店を紹介したり(しかもその数22店!!)、果樹園を訪ね歩いたり、ついには海外までフルーツを求めて旅に出てしまったり。おうちで出来るレシピやフルーツを使ったおすすめのお土産の紹介はとっても実用的です。瑞々しいフルーツやきれいなパフェの写真など、目にも美味しい1冊です。
「暮らしの手帖」の編集長を務めていたことでおなじみの松浦弥太郎さんの、食べ物にまつわるフォトエッセイ集です。料理への想いがこもった美しい写真は、松浦氏本人の撮影によるもの。思い出の味や繰り返し作る好きな味など、66点のエッセイにレシピを添えた充実の1冊となっています。松浦氏が信条とする「正直・親切・笑顔・今日もていねいに」の言葉がぴったり当てはまるレシピの数々をお楽しみください。