辞典を読む
知って欲しい、辞典のこと
辞典のはじまり
「語釈」を知る
辞書を作る際、まず行うのが「用例採集」という言葉集めです。あふれかえる言葉の中から、ひとつひとつ拾い集め、その言葉の説明文を考えます。その説明文のことを「語釈」と言います。
この「語釈」に決められたルールはありません。つまり作る人間の解釈によって、その言葉の説明文が変わるのです。後ほどご紹介しますが、ここに辞典読書のおもしろさが詰まっています。
作り続ける意味
辞典は一度作ってしまえば終わり、というものではありません。どんどん生まれてくる新しい言葉、もしくは今までの意味と違う意味として使われていく言葉も、“使える辞典”であり続けるために更新していかなければいけません。
辞典読書のすすめ
1、【おもしろさ】辞典によって異なる語釈
同じ言葉を調べても、辞典によって語釈が全く違います。それは先ほど述べたように、辞典によって作者が異なり、その辞典をどんな辞典にしたいかの「演出」があるからなんです。1冊の辞典に留まらず、ぜひ複数の国語辞典を引き比べてみてください。
2、【気軽さ】どこから読み始めてもいい
辞典に頭から読まなければいけないというルールはないので、「あ」から順に読み進めても良いですし、好きなページ、例えばパラパラっとめくって止めた偶然の1ページから何気なく読んでみるのもおすすめです。好きな言葉をランダムに探してみるのも楽しいですよ。
3、【続けやすさ】寝る前・朝起きての 1ページ習慣
辞典にはストーリーがありません。忙しくて読む間隔が空いてしまい、物語の内容を忘れてしまう…なんて心配も辞典読書にはありません。1日1ページ読むだけなら本が苦手な人でも続けやすいですし、朝活にもおすすめです。
4、【身に付きやすさ】少しずつ読んでいるだけでいい
辞典を1ページ読むと、小説1冊分の語彙力が身につく、とも言われています。辞典によっては使用例が詳しく記載されており、次の日からさっそく会話に使える言葉が身に付きます。
5、【コレクション】アップデートを楽しむ
言葉は日々進化しています。同じ辞典でも版によって語釈が変化してきます。改定して、前回と正反対の視点で語釈を書いてることもあります。その違いを楽しむために、古書店に出かけて前の版を探してみるのも楽しいですよ。
おすすめ辞典8選
新明解国語辞典/三省堂
著者・編集者:上野善道/井島正博/笹原宏之/山田忠雄/柴田武/酒井憲二/倉持保男/山田明雄
辞典読書を広めた代表的な1冊。独特な語釈が有名で、ときには皮肉が混じったような言い回しにくすっとなることも。作者がその言葉に持つ主観的なイメージを取り入れ、想像・共感させることで伝えてくる内容が実におもしろいです。
三省堂国語辞典/三省堂
著者・編集者:見坊豪紀/市川孝/飛田良文/山崎誠/飯間浩明/塩田雄大
実用性の高い辞典を目指し、新しい言葉も積極的に取り入れていて、日常生活にあると便利な1冊。語釈に回りくどさがなく、短文で簡潔なため、分かりやすい。新明解国語辞典と引き比べるとより発見がありますよ。
岩波 国語辞典/岩波書店
著者・編集者:西尾実/岩淵悦太郎/水谷静夫/柏野和佳子/星野和子/丸山直子
「辞典とはこういうものである」という一般的なイメージ通りの辞典。最も模範的な語釈と言っても良いでしょう。グーグルで言葉の意味を検索すると出てくるのは、岩波国語辞典の語釈だそうです。
明鏡国語辞典/大修館書店
著者・編集者:北原保雄/北原保雄
こちらもスタンダードな辞典として人気です。誤用について別冊付録がついているほどの面倒見の良さが、この辞典がファンを増やしている理由です。言葉を教わっている感覚のある1冊です。
三省堂現代新国語辞典/三省堂
著者・編集者:小野正弘/市川孝/見坊豪紀/飯間浩明/中里理子/鳴海伸一/関口祐未
いわゆる若者言葉やネットスラングのような、一部の界隈のみで使われている言葉も積極的に取り入れています。例えば「バズる」など。新語になりたての言葉たちが、一般的に根付くのか、それとも死語になっていくのか…今後のワードチョイスにも注目したい1冊です。
小学館日本語新辞典/小学館
著者・編集者:松井栄一
一般的な辞典と比べ、収録語数は少ないですが、1項目を丁寧に詳しく解説しています。その言葉の正しい使い方を知り、語彙力を高めるのにおすすめ。レイアウトも読みやすい1冊です。
新潮現代国語辞典/新潮社
著者・編集者:山田俊雄/白藤礼幸/築島裕/奥田勲
文豪、作家からの用例が豊富な1冊。近代文学や唱歌・詩歌から引用した文章が使われています。言葉を知ると同時に、文学作品にも触れることができる辞典です。気になる一節を見つけたら、その作品を読んでみるのも良いですね。
てにをは連想表現辞典/三省堂
著者・編集者:小内一
ひとつの言葉に続く「てにをは」から、類語表現や、その言葉で思い浮かぶ感情・シチュエーションなど、表現力が磨かれる辞典。想像力を掻き立てられ、物語を読んでいるような気分になる1冊です。
国語辞典のはじまりは、1889年発刊の「言海」と言われています。それから辞典文化はどんどん発展し、常にその時代の“新しい言葉”を取り入れ、また“使われてきた言葉”の歴史を残していきます。
小説と同じように、辞典にも作者がいます。国語辞典の表紙を見てみると、携わった人物の名前がずらっと並んでいることがほとんどです。何人もの人間が、ときにはものすごい時間をかけて、辞典を作り上げているのです。