インタビュー
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vol.62 salvia・セキユリヲさん -心地よい「場所」から生まれる、のびやかなものづくり

写真:岩田貴樹

日本の伝統工芸や職人技術にこだわり、新たなものづくりを提案している活動体「salvia(サルビア)」。その主宰であり、グラフィックデザイナーであるセキユリヲさんのデザインには、鳥や動物、色鮮やかな木々など、いつもやさしく暖かいモチーフが描かれています。まるで自然に触れたときのような心地よさを持つパターンは、どんなところからやってきて、どのように生み出されているのでしょうか。大きな隅田川が見渡せる蔵前のアトリエで、セキさんの「心の風景」をのぞいてみました。

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2017年06月09日作成
vol.62 salvia・セキユリヲさん -心地よい「場所」から生まれる、のびやかなものづくり
ゆったりと流れていく雲、いきいきと伸びる木々、つつましくも色とりどりに咲く花たち……。グラフィックデザイナー・セキユリヲさんの生み出すデザインには、いつも豊かな自然と季節が描かれています。

広告から装丁、アートディレクションなどセキさんの活躍は多岐に渡りますが、その取り組みはデザイナーのみに留まりません。もうひとつのライフワークは、主宰している活動体「salvia(サルビア)」。salviaでは、「古きよきを新しく」をテーマに各地の伝統工芸や地場産業を活かしたさまざまなものづくりを展開しています。
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出典:
素材や質感にこだわった靴下やハンカチなどのプロダクトには、セキさんがデザインしたパターンが。かわいらしさだけでなく、ぬくもりあるアイテムたちに癒されている使い手も多く、2000年の発足以来、着実にファンを増やしてきました。
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木の幹に触れたとき、風のささやきを聞いたときのように……気持ちの隙間を埋めてくれるような、温かみと心地よさのあるセキさんのデザインは、ものや場所を通して多くの人々を癒してきました。まるで自然の中に身を置いているような、不思議な安心感をもつパターンはどんなところから生まれてくるのでしょうか。セキさんの心のルーツを辿ってみました。

「やっぱりものづくりがしたい!」事務職からデザイナーの道へ

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小さいころからものを作ることが大好きだったというセキさん。チラシの裏など余白をみつけては絵を描いたり、手芸好きのお母様の影響で物心つくころから「かぎ針編み」などを教わっていたといいます。

「手を動かす楽しさを教えてもらったのは母でしたね。父はすごく外交的で、外に出て人前で喋ったりするのが好きな人なので、人とのつながりを大事にすることを学んだのかもしれないですね」
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小学生のころに見たピカソの絵に衝撃を受けたり、高校生のころはパンクバンドが大好きで、ライブに行ったりコピーバンドを組むなど、さまざまなカルチャーから影響を受けたセキさん。高校卒業後の進路を決めるときも美大に通いたいという想いがありましたが、進学したのは一般の大学でした。

「うちの父が割と厳しい……というか、芸術方面にそこまで理解がなかったんですね。『まずは普通の大学で一般的な知識を学んで、本当に好きだったらそれから自分の好きな道に進みなさい』という薦めがあって、短大の幼児教育学科に進学しました。そこで学んだ絵本の授業や、幼児心理学みたいなものは、今でも役に立ってるなあと思うんですけど……」
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お父様の薦めもあって、卒業後は企業に就職することに。そんな中でも、「すこしでもものづくりに近づける仕事はないか?」と考えたセキさんはマスコミ系の企業をいくつか受け、大手人材派遣会社に入社します。

「制作職を志望していたんですけど、配属されたのが事務職の部署だったんです。実際にその仕事をやってみたんですけど、ほんっとに本当に自分に合ってなくて、もう毎日のようにポロポロ泣いたりしていましたね(笑)」
刺繍やグラフィックとはまた違う表情が楽しめるゴム判

刺繍やグラフィックとはまた違う表情が楽しめるゴム判

毎日デスクに座り、淡々とルーティンワークをこなすという生活……。向き不向きはあるものの、小さいころから当たり前にものづくりに触れてきたセキさんにとって、それはあまりにも窮屈なものだったのかもしれません。

「やっぱりものづくりに関わる仕事がしたい!」
ぎゅうぎゅうに押し込められた心の中で、その想いは日に日に膨らんでいくばかり。そんなある日、多摩美術大学に夜間コース*があることを知ります。どうやら社会人優先枠というものがあり、一度社会に出た人たちがもう一度学ぶ場所として進学するコースらしい……。「ここなら、もしかして自分のやりたいことに近づけるかもしれない」。セキさんに迷いはありませんでした。
* 多摩美術大学 造形表現学部(夜間)。2014年度で学生募集を停止
セキさんのスケッチブックより。雑誌『イラストノート』に掲載されたもの

セキさんのスケッチブックより。雑誌『イラストノート』に掲載されたもの

「絵を描くのが好きだったので、グラフィックデザイン科を受験しました。でもその当時はデザインってものをよく知らなかったんですよね。デザインと絵画と映像のコースがあるんですけど、その中で一番自分にできることかなあって選んだのがグラフィックデザインのコースで。なんかほんとに、なにも知らなかった。作れればなんでもいいやって思ってたんだと思う(笑)」
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それから4年間、日中は社会人として働き、夜は大学へ……という、怒涛の学生生活がスタートしました。入学してから2年が経ったころ、セキさんはそれまでの事務職を離れ、日本を代表するグラフィックデザイナー、サイトウ・マコトさんの事務所で働くことに。美大へ通いながら、一流デザイナーの元で働く。当時を想像するに、相当大変だったのでは……。

「本当に大変でした(笑)!サイトウ・マコトさんはすごくクオリティの高いものを作る人なので、大きいポスターから雑誌広告までひとつひとつにこだわりがあって、とにかく厳しくて。でも、その質の高さを身体で体感できたことはすごくよかったな、と思っています。少しは自信がついたというか、この厳しさを知っていたらどこでもやっていけるっていうのはあるかもしれないです」
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デザイナーとしての基盤や経験を着実に積んでいき、刺激的な毎日を過ごしていたセキさん。しかし、昼間に働き夜は学校に通い、深夜に課題をこなすという生活は決して楽なものではありませんでした。20代前半を全速力で駆け抜けたセキさんは、疲労が重なりついに体調を崩してしまいます。

「salvia」が生まれるまで

その場ですらすらと鉛筆を走らせます。ご本人曰く、迷うことはないそう。「手のエクササイズみたいな感じです」と、楽しそうに絵を描いてくれました

その場ですらすらと鉛筆を走らせます。ご本人曰く、迷うことはないそう。「手のエクササイズみたいな感じです」と、楽しそうに絵を描いてくれました

体調を崩したことをきっかけに、休養することを決めたセキさん。そこから半年間は、自宅の窓から見える木々や葉などをスケッチして過ごしたといいます。

「誰からも頼まれることなく、ただただぼーっとしながら描いた植物の絵が、今の作風に繋がっているのかなと思います。やっぱり自然界にあるものが一番美しいと思っていて。コンピューターでは出せないなにかがあるんですよね。そんなものに近づきたい、とはいつも考えていますね」
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こんがらがってしまった頭と心をいったん解きほぐし、自分の本当に好きなものづくりと向き合う時間があったからこそ、現在の「心地よいデザイン」が生み出されているのかもしれません。その後、休養しながら先輩の仕事を手伝うなど、少しずつ、緩やかに独立へ向かっていったセキさん。30代を目前に控えたころ、同じデザイナーである旦那さんと一緒に「ea(エア)」というデザイン事務所を立ち上げます。

そのころ、休養中に描き貯めたスケッチをもとにパターンを作り、友人と一緒に趣味として雑貨を作っていたセキさん。現在の「salvia」が誕生したのは、遊びともいえるそんな小さな活動がきっかけでした。

「趣味で作っていたマッチ箱を、たまたま原宿のギャラリーの方に見せたところ『うちで一回展覧会やってみる?』ってお話をいただいて、それまで作った物を発表する会を開かせてもらったんですね。で、そのときに展覧会の名前が必要だねってなって。マッチ箱から着想を得て、60~70年代の純喫茶っぽい名前を……と思って。友人とあーでもないこーでもないっていいながら、つけた名前が『サルビア』だったんです」
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その展示をきっかけに、salviaの活動は少しずつ広がっていきました。salviaといえば、全国の職人さんの技術や伝統工芸を取り入れたプロダクト。人気アイテムの「ふんわりくつした」もそのひとつです。

「salviaを始めたときから、靴下はずっと作りたいと思っていたのですが、靴下って最小ロットがある程度ないと作れないところが多いので、全然実現できなかったんです。でもある日、ネットでたまたま新潟の『くつ下工房』という工房をみつけて、代表の方のブログを読んだらすごく面白い方だったので、すぐにコンタクトを取ったんです。東京まで足を運んで下さって、お話したらなんだか意気投合して。一緒に靴下を作ってもらえることになりました」
発売以来、大人気の「ふんわりくつした」

発売以来、大人気の「ふんわりくつした」

どの柄にしようか迷ってしまいますが、その時間すらも楽しい

どの柄にしようか迷ってしまいますが、その時間すらも楽しい

こうして形になった「ふんわりくつした」ですが、当初は「勝手がわからず大変だった」と、セキさんは笑います。

「読めないことがいっぱいありました。立体ですからね。編み機にもいろいろ制約があるので、なかなか思っているような絵にあがらなかったり。それまでのプリントや染物の感覚でやってきたので、『この部分はどうやってデザインするんだろう?』とか、理解するまでに時間がかかりました」

現場の技術や作り手に時間をかけて向き合うことで生み出されるsalviaのプロダクト。長年の経験で作られるたしかな技術だけでなく、セキさんが職人さんや受け継がれている伝統工芸に惹かれているのは、ものづくりの「芯の部分」があるから。

たとえば「ふんわりくつした」の原型となった靴下は、“体調を崩して入院していた家族のために、足がむくまない靴下を作りたい”という「くつ下工房」代表の想いから生まれたもの。根本に「想い」があること――ものづくり通して出会った人々によって、今のsalviaが作られているのです。
2006年創刊の『季刊サルビア』は、中身はもちろんのこと、表紙のデザインも楽しめます。現在までで40冊発行されています

2006年創刊の『季刊サルビア』は、中身はもちろんのこと、表紙のデザインも楽しめます。現在までで40冊発行されています

salviaでは、プロダクトだけでなく、『季刊サルビア』という小冊子が刊行されています。セキさんをはじめとしたスタッフが実際に見たものづくりの現場を、少しでも多くの人へ届けたいという想いから、自分たちで取材をおこない、2006年から現在まで発行されてきました。
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出典:
「本当に、ものづくりの現場っていうのはすごく面白くて、ためになることがいっぱい。ちょっとでも作ることに携わっている人だったら、職人さんや、こだわりのある作り手の話ってすごく面白いと思うんですよね。それをスタッフだけが聞いているのがすごくもったいないと思って。salviaのアイテムを使ってくださる方にも、それが聞こえるように届けていけたらいいなと思っています」

スウェーデンで暮らして学んだ「豊かな暮らし」とは

(画像提供:セキユリヲ)

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「セキユリヲのデザイン」を語る上で切り離せないのが「北欧」です。のびのびとした自然が描かれたセキさんのパターンには、古くから人々の暮らしの中で生み出されてきた北欧のテキスタイルやデザインに通ずるものを感じます。ご自身もまた北欧に強く惹かれるものがあり、20代のころから旅行で訪れていたそう。そして2009年には、一年間のスウェーデン生活をスタートさせます。

「20代のころからお金が溜まってはちょこちょこと行ってたのかな。それは単純に趣味で。そのころから、なーんかどうも『すごく居心地がいいなあ』と思っていたんです。北欧の人たちは自然が好きで、すごく自分に近しいものを感じたり、色使いにもとても惹かれるものがあって。いつかは一度、日本以外の国に住んでみたかったんですけど、それなら“北欧のどこか”がいいなあとずっと思っていたんです」
salviaの「よそおいブローチ」。暖かく美しい色使いが、どこか北欧のテキスタイルを思わせます

salviaの「よそおいブローチ」。暖かく美しい色使いが、どこか北欧のテキスタイルを思わせます

背中を押したのは、ある雑誌編集者さんのひとこと。
「取材で、セキさんにすっごく合う学校に行ってきたよ」――それは、“スウェーデン家具の父”と呼ばれるカール・マルムステン*が1957年に設立した、「カペラゴーデン」という学校でした。エーランド島という自然豊かな土地で、園芸・陶芸・木工・テキスタイルのコースに分かれ、自由な校風の中でものづくりを学んでいきます。

「『衣食住で必要なものは、自分たちの手で作って生活しよう。作りながら暮らしていこう』ってコンセプトの学校で。野菜は園芸科が作り、それを盛る器は陶芸科、食事のテーブルは木工科、テーブルクロスはテキスタイル科が……というふうに、生活全体を自分たちで作ろうっていう校風が、ほんとうにいいなって思って。試しに『サマーコース』っていう体験入学に10日くらい参加してみたら、さらに魅力的で。いろいろ悩んだのですが、一年間行ってみよう!と決意し、その夏から通い始めたんです」
* スウェーデンを代表する家具デザイナー。伝統や工芸を基本に、現代に繋がるスタイルの家具を産みだした
セキさんが通っていた「カペラゴーデン」(画像提供:セキユリヲ)

セキさんが通っていた「カペラゴーデン」(画像提供:セキユリヲ)

(画像提供:セキユリヲ)

(画像提供:セキユリヲ)

毎日織物を学んでいた校舎。すっかり織り物の虜になったセキさんは、帰国後も大きなスウェーデンの折り機をアトリエに置いていたそう(画像提供:セキユリヲ)

毎日織物を学んでいた校舎。すっかり織り物の虜になったセキさんは、帰国後も大きなスウェーデンの折り機をアトリエに置いていたそう(画像提供:セキユリヲ)

それからの一年間は、まさに「夢のような毎日だった」とセキさんは話します。朝目覚めると窓の外には美しいキジが。一番近くのスーパーまでは車で約30分かかるから、週に一度は買い出しに行き、保存食を作ります。「もう、作り置きしておかないと本当に生活が大変で。雰囲気で保存食を作るんじゃなくて、本当に必要だから作るんです(笑)」とセキさん。学校は朝の8時から夕方4時まで。午前中は先生の講義を聞き、午後は自主制作の時間で、それぞれが自由にものづくりに取り組みます。そして、朝礼もユニーク。その日の当番が今気になっている映画を少しだけ流したり、マイブームの切り紙を実演してくれたり、各々が知恵を出し合う楽しい場だったといいます。

「スウェーデンではそれが普通みたいですね。小学校でも、自分の考えを毎日出して、それを共有する時間をすごく大切にしているみたいで。10時と15時に『フィーカ』というおやつの時間があるのですが、そのときだけはみんな15分くらい手を休めて、お茶を飲みながら今思っていることを話し合うという大事な時間なんです。寮生活をしている人は、授業が終わるとすぐ夕飯だったんですけど、私は家に帰って自炊していました。することもないのでまた家でも織物をしたり、冬なんかは暖炉の前で、みんなで編み物をしたり」
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「24時間ものづくりのことを考えていいという、素晴らしい時間でしたよ」と、うれしそうに話してくれたセキさん。学校で染色や織物を学ぶ中、一番影響を受けたのは、現地の人々の生き方だそう。

「必要なものは全部自分で作って、それをまた必要としている誰かに届けて。自分ができないことは、ほかの人が作ったなにかをいただいて……という感じで、そんなにたくさんのお金を持たなくても暮らしていけるんですね。それこそが豊かというか。『豊かさってなんだろう』ということは、すごく考えさせられる一年だった。それまで東京の忙しい時間の中で過ごしていたから、ものすごくカルチャーショックでした」
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本当に必要なものは、世の中でほんの少しなのかもしれません。身近にあるもので自分たちでなにかを生み出し、それをおすそ分けしていく。できないことは助け合う。当たり前にできることではありませんが、人と人との関わりを大切にするsalviaやセキさんの活動にも通ずるところがありました。

こうして一年の学校生活を終えたセキさんは、先生と再会を約束し、東京に帰ってきました。それまではデザイン事務所「ea」を拠点としていたsalviaでしたが、セキさんの帰国後は単体での活動により力を入れるため、現在の蔵前に拠点を移し、あらたなスタートを切りました。今でこそショップやアトリエが軒を連ね、ものづくりの町として知られるようになった蔵前ですが、こんなに盛り上がってきたのはここ数年のことだそう。salviaを含めた、ものづくりの道を志す同士が相乗効果を産み、作り上げてきた新たなこの町の風景。スウェーデンで改めて学んだ「人と人との関わり合い」が色濃く残る下町に惹かれ、この場所をアトリエに選んだ判断は間違ってはいませんでした。

どんなときでも「ご縁」をたいせつに

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セキさんは、子育てのため、現在仕事をお休み中。小さいうちは子どもと向き合うことに決め、二児の母として日々奮闘しています。ものづくりがまた、人との繋がりから生まれ来るように、家族である子どもたちともまた、「縁」で結ばれていると、セキさんは笑顔で話してくれました。

「全然隠してないんですけど、うちの子どもたちって私が産んでなくて。二人とも養子縁組で授かったご縁なんです。なかなか子どもに恵まれなかったんですけど、どうしても子育てしたいという気持ちを諦めきれなかったんです。上の子は2歳10ヶ月の女の子なんですけど、喋り方とかは似てきますよ、やっぱり」
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「ねっ。来てくれたんだよね」と、腕の中のちいさな家族にやさしく話しかけるセキさん。セキさんの仕事の信条をたずねると、「ご縁が一番大事」と、きっぱり言い切ります。

現在、salviaでは「月いちサルビア」として、月に一度だけショップを開いています。そのなかで、セキさんは「ちいさな手仕事とおはなしの会」という、ミニワークショップをはじめました。でもそれは、普通のワークショップとは少し違っています。たとえば、前回のワークショップは「ライブ刺繍」。音楽を一曲流しながら大きな無地のテーブルクロスを6~7人で囲み、自分の目の前にある場所をチクチク縫っていくというもの。音楽が終わったらまた曲を流し、場所を交換して縫っていく……。前の人の縫ったものからイメージを膨らませ、新たな刺繍がほどこされていきます。
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出典:www.instagram.com(@salvia_official)
「最初はスタッフから、『お話会みたいなものをしませんか?』という打診があって。喋るのは嫌いじゃないですけど、どうせ喋るんだったら手を動かしていたいなーと思って。だから、その日会った人とおしゃべりしながらものづくりができるワークショップにしました。『ライブ刺繍』も、スウェーデンの先生に教わったこと。ただ同じものを作るんじゃなくて、コミュニケーションの中から生まれていくワークショップみたいなものが、私にとってはすごく新鮮で面白いなって思って」

セキさんのお仕事が平面に留まらず、いつも多様な広がりを見せているのは、「繋がり」を大切にするセキさんだからこそ。この手から、場所から、これからどんなものが生み出されていくのか、今から楽しみでなりません。

自然に触れたときの気持ちを、これからも形にしていきたい

今後は子どもに関わる場所作りに携わっていけたら、と教えてくれたセキさん。
今は第一線から離れて稼動をセーブしつつ、小児科や保育園の装飾や内装など、空間デザインのプロジェクトがゆっくり進行中なのだとか。日常のなかでも、「子どもから学ぶことがたくさんある」と目を細めて話します。

「ほんとねえ、子どもの世界ってすごいなあって毎日感激してます。正直だしね。思うままに、素直に口とか顔に感情が出て。人としてこうあるべきだなーって思うんです」
現在進行中の小児科の内装スケッチ。こちらは受付のイメージ画

現在進行中の小児科の内装スケッチ。こちらは受付のイメージ画

こんなに可愛い病院だったら行くのが楽しくなりそう!

こんなに可愛い病院だったら行くのが楽しくなりそう!

現在、お子さんと一緒に、園舎を持たない「自主保育」という野外保育の会に参加しているというセキさん。先生はおらず、お母さん同士で預け合いをして子どもの活動を見守ります。目に映るありのままを子どもと一緒に見つめることで、セキさんの中のインスピレーションもぐんぐん育っているのだそう。
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セキさんのスケッチブックには、お子さんの絵も。「親バカみたいだけど、すごく良いんですよ。やっぱり、子どもの自由な線には負けます。私だったら、ここまでめちゃくちゃにできないですもん(笑)」

セキさんのスケッチブックには、お子さんの絵も。「親バカみたいだけど、すごく良いんですよ。やっぱり、子どもの自由な線には負けます。私だったら、ここまでめちゃくちゃにできないですもん(笑)」

vol.62 salvia・セキユリヲさん -心地よい「場所」から生まれる、のびやかなものづくり
「今、私は本当に子どもの世界を楽しませてもらっているんです。毎日道を歩いていて、風が気持ちいいなーとか、葉っぱがひらめいているなーとか、なに気ない瞬間を『きれいだな』と思ったり、自然に触れたときの気持ちを、これからも形にしていけたらなって思っています」

「セキユリヲのデザイン」を、私たちが心地よいと感じるのは、その瞬間をしっかりと見つめ、毎日を生きているセキさんが産み出すものだからなのでしょう。自分がすこやかでいられる場所、人、ものから。セキさんの小さなきらめきは、これからも繋がれていきます。

(取材・文/長谷川詩織)
salvia|さるびあsalvia|さるびあ

salvia|さるびあ

グラフィックデザイナー・セキユリヲの個人的なものづくりから始まった活動体。「古きよきをあたらしく」というコンセプトのもと、国内の伝統工芸や地場産業など、職人やつくり手の技術を活かしたアイテムを展開している。ものづくりに留まらず、東京・蔵前のアトリエ兼ショールームでは「月いちショップ」として食のイベントやワークショップなど、人との縁を大切にした活動も精力的におこなっている。

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