『良い圧力』と『悪い圧力』見分けられますか?
たとえば仲間たちの行動を見て『私も皆のように頑張ろう』と前向きに思えるなら、それは圧力が良い方向に働いたと言えます。でも、もし周囲に合わせること自体に苦痛を覚えているとすれば、それは精神的ストレスにほかなりません。
社会的集団には付き物の、同調圧力。私たちはそのプレッシャーとどう向き合っていけばいいのでしょう?
大人にも広がる『ピアプレッシャー』
ピアプレッシャーってどういうもの?
一定の集団の中で、等しい立場の仲間がお互いを常に監視し合い、共通の規範や行動様式に従うよう心理的な重圧がかかることを『ピアプレッシャー(同調圧力)』といいます。ひとりだけ違う行動を取ることを許さない雰囲気が生まれたり、ルールに違反した者はコミュニティから外されるのではという恐怖感を伴ったりするため、時に多大なストレスに繋がる現象です。
ピア(peer)とは、英語で「仲間」「同僚」のこと。周囲からの孤立を恐れるピアプレッシャーは、多感な年代である中高生がよく抱えがちな悩みの一つです。学校という狭い社会の中では、「流行のアイテムを皆と同じように持っていないと不安」「友達の誘いを断ると仲間はずれにされそう」といった焦燥感がたやすく子どもたちの心を支配してしまうため、いじめ問題にも深くかかわっているとされています。
また、大人の職場環境を改善するための取り組みでも、ピアプレッシャーという用語はたびたび取り上げられるようになってきました。特に日本は、皆で協力して農耕生活を送る『村社会』が根付いてきたことから、集団の和を乱す存在に対して過敏になりやすい傾向にあります。「仲間に迷惑をかけない」という職場の不文律によって社員のオーバワークが常態化している場合、仕事の内容よりも周囲の評価を優先する姿勢そのものが、過重労働の大きな一因になっていると考えられます。
ピアプレッシャーの二つの側面
同僚がお互いの仕事への姿勢や成果を常にチェックしている職場は、その雰囲気に馴染めない人にとっては非常に居心地が悪いものです。しかし一方でその相互監視は、仕事が行き詰まっている人を見つけて助けたり、仲間同士の切磋琢磨を促したりするきっかけにもなり得ます。こうした二つの側面を理解し、上手に活用すれば、ピアプレッシャーは職場の連帯感や向上心のアップに役立てることもできると考えられています。
大人の『ピアプレッシャー』を感じる環境とは?
職場の同僚・チームメンバーから
職場に現れるピアプレッシャーの例として、最も頻繁に挙げられるのは『付き合い残業』です。自分の仕事は終わっているにもかかわらず、同僚たちが皆残業していて帰りづらいからと、自分もなんとなく居残ってしまった経験はありませんか?
本当は就業時間内にきちんと仕事を終わらせる人の方が有能なはずなのに、残業した方がより熱心に仕事をしているように見えるなんてそもそもおかしな話ですよね。でも、ひとりだけ早く帰ることに罪悪感を抱かせるピアプレッシャーが先に立つと、こうした根本的な矛盾はしばしば置き去りにされてしまいます。
プライベートの仲間や友人たちから
友人同士の間にも、時にはピアプレッシャーが働く場面があります。みんなでおしゃべりしている時、本当は興味がない話題でも、場の雰囲気を読んでとりあえず盛り上がって見せるのもそのひとつ。内心乗り気でないランチや飲み会にも渋々出掛けたりするのは、参加する面倒よりも、参加しないことで自分の評価が落ちることの方が気になるからなのです。
職場のピアプレッシャーによって生じる弊害
ミスを恐れて萎縮してしまう
チームで仕事をしていると、誰か一人のミスが原因で全体のトラブルに発展したり、プロジェクトの失敗に繋がることも起こり得ます。本来はそこをフォローするのも仲間の役割なのですが、「皆に迷惑をかけてはならない」というピアプレッシャーを過剰に意識すると、萎縮して思い切ったチャレンジができず、本来の能力を発揮できなくなってしまうことがあります。
周囲の目を気にして本音が言えない
仕事を進める上では、違う意見を持つ相手とぶつかり合うことも多く、むしろ議論が活発なほど大きな成果に結びつく可能性も高いと言えます。しかし『仲間との摩擦=人間関係の悪化』と捉えた場合、周囲との軋轢を恐れ、自分の本音や意見はどんどん主張できなくなっていきます。
断りきれずに余計な仕事を引き受けてしまう
同僚から頼まれると、つい余計な仕事まで引き受けてしまう。よくある悩みですが、断りきれない原因は本人の性格の問題だと思っていませんか?苦労は分かち合うべきという間違った連帯意識や、チームの一員としての義務感、拒否すると相手に嫌な顔をされてしまうという恐怖心は、知らず知らずのうちに組織に浸透し、皆が鈍感になっている場合があります。仲間の誰かに偏った負担を強いている時、その原因は本人ではなく職場全体にひそんでいるのかもしれません。
他人との競争を意識してストレスが溜まる
同僚の仕事ぶりを互いに監視している職場では、それぞれの業績や能力を過度に比較しがちです。「人から認められたい」「皆の足を引っ張っていると思われたくない」という気持ちが強いほど上司や周りの評価に敏感になり、気付くと競争心に苛まれて常に緊張状態に置かれてしまいます。
自分だけで抱え込み、相談ができない
周囲との和を保つことを優先し、自分の価値観や意見を表に出しにくい環境で過ごしていると、やがて仲間に対しても本音で話すことができなくなってしまいます。表向きは周囲に同調しながら、内面では悩みを誰にも相談できずにストレスを抱え続けることは、メンタルにとって決して良い状態とは言えません。
ピアプレッシャーがプラスに働いた時のメリット
責任感によって仕事の質が上がる
ピアプレッシャーが良い方向に働いているとき、組織を構成する個人は所属するチームに貢献するべく力を尽くします。皆が責任感を持って自分の役割に果たすことにより、結果として全体的な仕事の質も底上げされることが期待できます。
チームに規律が生まれる
目標達成に向けて良いチームワークを築いている組織は、互いの仕事にも目を配り、自分の間違いを仲間から指摘してもらったり、反対に相手のミスを見つけて事前に知らせるなどのコミュニケーションが活発になります。ミスによってチームに負担をかけないよう一人ひとりに自己規律の意識が生まれるほか、ミスを未然に防いでくれた仲間への信頼感も深まっていきます。
仲間との助け合いで連帯意識が強まる
ピアプレッシャーにおける相互監視は、チームが健全に機能している時には仲間との相互扶助の役割も果たします。メンバーの一部に負担が偏っていないか、誰かトラブルを抱えていないかなど、お互いが目を配ることで結びつきが強まり、生産性の向上や業務効率化などのメリットに繋がります。
ピアプレッシャーとうまく付き合うためのヒント
周囲からの圧力をモチベーションに変える
職場では、ピアプレッシャーが明確なほど周囲の評価が気になり、自分と同僚との能力を比べて不安を覚えてしまうことがあります。しかし人には誰しも得意・不得意があり、他者が苦手とする部分を別の誰かが補っていく助け合いも欠かせません。ピアプレッシャーを克服するためには、自分の個性をチームにどう活かすかを目標にして仕事のモチベーションを上げるのもひとつの方法です。
経験や結果を積み上げて自信をつける
周囲の雰囲気に流されやすく、他人の意見に容易く同調する人の特徴に、自己評価の低さがあると言われます。自身の判断に確信が持てないため、正解を他人の中に求めてしまうのかもしれません。ピアプレッシャーに振り回されないためには、行動の根拠となる経験や自信に繋がる成果を積み、心の中に「自分は自分」と言える部分も確立しておくことが大切です。
コミュニケーション能力を磨く
「自分に自信を持ち、他人の評価を気にしすぎないこと」は、ピアプレッシャーからほどよい距離を保つ方法のひとつではありますが、だからといって自己主張ばかりが先に立つと、チームとの協力関係を損ねてしまいかねません。「周囲と同調すべきところは同調し、譲れないと思う部分は丁寧に説明して相手の理解を得る」というコミュニケーション力は、集団の中でピアプレッシャーに圧倒されないためにぜひ磨いておきたいテクニックです。
自分にとっての許容範囲を明確にする
同僚との付き合いで飲みに誘われたけれど、本当は気が進まない。皆が残業している中、今日はどうしても帰りたい。そんな時は、「誘いをすべて断るのではなく、3回に1回は参加する」「今日は定時に上がって、明日は同僚の仕事を手伝おう」など、許容できる範囲を自分なりに線引きしてみましょう。周囲に同調する時としない時の条件をあらかじめ決めておくと、自分の意志を通すことにいちいち迷ったり、過剰な罪悪感を持たなくてすむようになります。
信頼できる相手に相談する
いくら前向きに気持ちを奮い立たせようとしても、場合によってはどうしても堪え難いプレッシャーに苛まれることがあります。個人の努力ではもう打つ手がないと感じたら、確実に信頼できる同僚や上司に職場の在り方について相談してみましょう。明らかに理不尽な慣習が働き手のパフォーマンスを低下させているようなら、職場全体の意識改革が必要かもしれません。職場に蔓延しているストレスを少しでも軽減できれば、長い目で見た時、組織マネジメントにとっても必ず良い効果が得られるはずです。
圧力に負けない“言葉のスキル”を身に付ける
ピアプレッシャーの中には、その場の雰囲気で同調を求められる無言の圧力もあれば、言葉によって直接的に強制される圧力もあります。もし冷やかしや嫌味めいた言動で傷つけられそうになった時は、同調圧力から自分を守るためのスキルも必要です。
職場の人間関係を乱したくないばかりにつらさを我慢して、自分の心身の健康まで損なってしまうことがないよう、時には自分の意志をはっきり伝える勇気を持ちましょう。
自分をきちんと労わる時間を持とう
職場や学校などの社会集団に属している時、人は誰でも多かれ少なかれ同調圧力に晒されます。全体の規律を尊重して自分を抑え込むとストレスが溜まり、かといって自分の価値観を曲げずに主張を通すのも勇気のいることですが、組織の中では往往にして、両方のバランスをうまく取りながら振る舞うよう求められるのがつらいところです。
そんな葛藤に少し疲れた時は、強ばった気持ちを解きほぐすための時間をきちんと作ってみて下さい。親友とおしゃべりしたり美味しいものを食べたり、思い切りリラックスして過ごしましょう。心に栄養をたくさんあげてまた元気になれば、見慣れたはず職場やいつもの人間関係、行き詰まった仕事にも、ふと別の見方や考え方を発見することができるかもしれません。
人は多くの場合、何かしらの集団に属しています。学校、職場、趣味のサークルやご近所付き合いなど、集団にはそれぞれの規範や暗黙のルールがあり、自分だけが好きなように振る舞うというわけにはいきません。自分の価値観とは異なる、その組織ならではの規律に従って行動することを求められた時、あなたはどんなプレッシャーを感じるでしょうか。