「積読」は本好きさんのひそかな憂鬱
気になる本が多過ぎる!というジレンマ
そんなふうに、読めていない本がどんどん溜まり、いつしか放置されている状態を「積読」(つんどく)なんてダジャレみたいな名前で呼んだりします。意外にも明治時代にはもう生まれていた言葉らしいのですが、この積読本、読書家にとってはちょっとしたストレスになることも。
「積読本」が増えるのは読書家の悪い癖?
「『いつか読むかも』なんて言ったって、どうせいつまでたっても読まないんだから、結局ただの無駄遣いでしょ?」
よく聞かれるそんな言葉は、積読派がすでに重々承知している耳の痛いご指摘です。確かに、手をつけないままの本が何冊も溜まると、なんだかノルマが増えていくようでだんだん憂鬱になってきたりもしますよね。さらに部屋のスペースが次第に本で圧迫されていく様子は、やっぱり見た目にも焦りを生みやすい光景です。
でもふと考えてみると、「いつか読む」の「いつか」とは、誰がどんな根拠で決めている期限なのでしょう。そもそも積読は本当に、読書家にとって必ず改善すべき悪癖なのでしょうか?
実は最近、積読という行為に意味を見いだし、もっとポジティブに捉えようという論評が増えてきています。そうした考え方によると、未読の本がたくさんあっても、必ずしも悪いことばかりではないのだとか。まずは、積読にどんな役割があると言われているのか、その内容を見ていきましょう。
積読本がもたらしてくれる意外な効用
本棚=自分の知的好奇心が並ぶ一覧表
本棚に並んでいる本たちは、たとえそれが未読であっても、過去に興味を持った事柄の遍歴そのものと言っても過言ではありません。改めて蔵書を眺めてみると、「以前こんなことを知りたかったんだな」「どうしてこれを読みたかったんだろう?」と、自分自身を客観的に振り返るきっかけにもなります。
そして一度興味を引いた対象は、熱が冷めて暫くの間忘れていても、ある日突然再び気になってくることがあります。その時こそ、以前買った関連本をもう一度引っ張り出すタイミング。同じ本でも、二度目のきっかけで開いた時の方が内容に対する関心が強く、より集中して読み込むことができると言います。今読みたくない本はもしかすると、将来本当に読むべき出番を待って、じっくり熟成されているだけなのかもしれません。
本の存在感そのものを味わう楽しみ
折しも時代はペーパーレス。分厚い紙の本をわざわざ買って部屋のスペースを占領されるより、何冊分ものデータを薄くて小さな端末に詰め込める電子書籍の方がよっぽど合理的、という意見も多く聞かれます。お出かけのお供には、電子ブックを一台持ち歩けばOK。確かに軽くて楽チンですよね。
それなのになぜわざわざ紙の本を買うかといえば、綺麗な装丁を眺めて楽しんだり、1ページずつ自分の手でめくって読み進める感触が好きだったりと、紙の本ならではの存在感を求めているからではないでしょうか。
また、棚に並んでいる背表紙を眺めているだけでも、本は無意識のうちに私たちの知的好奇心を刺激すると言います。タイトルやブックデザイン、そこから連想される内容など、読む前からその佇まいで何かを訴えかけているというわけです。つまり積読本は、本棚にいるだけでちゃんと仕事をしてるってことなんですね。
積読本を無駄にしないためのポイント
本は常に見えるところに整理しておく
本棚に並んでいる光景そのものが積読本の効用だとすれば、どこに何があるかわからないような状態でいくら蔵書を増やしても、必要な本との二度目の出会いはまずやってきません。自分がどんな本を持っているのか、ちゃんと把握しておくことが積読本を活かす大切なポイントです。
電子書籍も併用して収蔵スペースを節約
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あまりに本を溜め込みすぎて、もう仕舞う場所もないという状態になると、さすがに積読も考え時。それでも新しい本を買い続けたいなら、電子書籍と使い分けてみるのはいかがでしょう?本の内容だけを楽しみたいなら電子書籍にし、紙の本を購入するのは厳選した数冊に絞ります。もちろん、電子書籍でも読まなければ積読状態なわけですが、少なくとも部屋の本棚には少しゆとりができ、スペースの問題で本を処分する哀しみは軽減するはずです。
焦って結論を出さず、積読本とはのんびり付き合う
未読の本たちを「こなすべきノルマ」だと感じると、読みたくて買ったはずの本もたちまち色褪せてしまいます。でも、「こんなにたくさんのお楽しみが出番を待ってる」と考えれば、積読本はまだ開けていない宝箱のようなもの。無理に焦らず、その一冊ともう一度向き合えるタイミングが来るまで、積読本とのんびり付き合っていくのもひとつの方法です。
次はこんな本を本棚に加えてみませんか?
気持ちをゆっくりほぐしてくれる一冊
漫画家の西原理恵子さんが、ちょっと難しいお年頃の娘さんに贈る、力強いエールを綴ったエッセイです。「王子様を待たないで」「『あたしさえ辛抱すれば』は間違い」など、ふと共感してしまう言葉の数々に、すべての女性がいつのまにか元気をもらえる一冊です。
時間を忘れて世界観に浸れる文芸作品
大学卒業後、コンビニのバイトを続けて18年目。生活の拠点をすべてコンビニに依存しながら同じ毎日を静かに生きる女性を主人公に、「普通」とは何かを問いかける芥川賞受賞作。皆が「正常な世界」と呼ぶ社会のルールに当てはまらない彼女が、それでも自分の居場所で粛々と生きる姿にいつのまにか惹き込まれます。
「しゃべれどもしゃべれども」「一瞬の風になれ」などのヒット作で知られる佐藤 多佳子の長篇青春小説。若者の瑞々しい描写が得意な著者らしく、本作も対人関係に少々難のある高校生を主人公に、深夜ラジオで繋がった若者たちのリアルな群像劇となっています。深夜ラジオを聴きながら受験勉強をした覚えがある方なら、読みながら懐かしいあの頃がじんわり甦ってくるのでは?
美しい写真集でひとときの小旅行を
知的好奇心をくすぐる文化と科学の世界
たとえば「りんご=apple」のように、一つの単語に一つの意味が対になっているのではなく、その国の文化に裏打ちされた複雑なニュアンスで表現する、なんとも訳し難い世界の言葉が紹介されて話題になった本です。日本語の「わびさび」や、それこそ「積ん読」も含まれているそう。なるほど…。
児童書だと侮るなかれ。動物たちの健気で意外で、そしてなんとも残念な生態の真実に笑うやら感心するやら、隅々まで楽しめる本になっています。軽い読み物のようでありながら、進化や生物の多様性についてもきちんと解説されているので、子どもと一緒に大人も勉強できますよ。
科学者18人に同じ質問を投げかけ、その答えを集約することで地球外生命について考える本です。果たしてこの宇宙に知的生命体はいるのか、いるとすればそれはどこで、どんな生き方をしていると思うか。もし地球人とコンタクトをとるとしたら?
時にはこんな壮大な謎に触れてみるのも楽しいですね。
積読という名の、本との長いお付き合い
たとえば、買い集めた本が棚にずらりと並んでいる、その光景に幸せを感じるという人。買いたての本が入った書店の袋を家に持ち帰る、そのわくわくした時間がやめられないという人。そんな本好きさんは、今さら積読を気にやむことはないのかもしれません。本との出会いは一期一会。縁あって手元にやってきた本たちと、これからもゆっくり気長に寄り添ってみませんか?
ちゃんと読むつもりで本を買っても、仕事や家事に追われて読書の時間が思うように取れないこともあります。あるいは、一度開いてみたものの、「今はちょっと気分じゃないな」と閉じてしまった本もあるかもしれません。読書にだってフィーリングは大切ですものね。