インタビュー
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vol.32 graf・服部滋樹さん -触れ合いと繋がりから生まれる「暮らし」を豊かにするデザイン

写真:神ノ川智早

大阪を拠点に「暮らし」にまつわるあらゆるものをデザインしているクリエイティブ集団「graf(グラフ)」。その活動はデザイン制作から家具作り、カフェの運営、国際的アーティストとのコラボレーション、企業のブランディング、マーケット形式のコミュニティプロジェクトなど多岐に渡ります。ジャンルにとらわれず、独自の視点でクリエーションを続けるグラフの始まりのストーリーと、ものづくりにかける想い、そしてグラフの「これから」について代表の服部滋樹さんにお話を伺ってきました。

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2016年02月26日作成
「僕ね、どうしてデザイナーやってはるんですかって聞かれたら、いっつもこう答えるんですよ。「おじいちゃんになった時に、世界中にたくさん仲間がいたら良いと思うから」って(笑)」

人懐っこい関西弁で、屈託のない笑みを浮かべながらそう話してくださったのは、クリエイティブ集団「graf(グラフ)」の代表である服部滋樹さん。
グラフはグラフィックや空間、プロダクトのデザイン制作に加え、家具、アート、食といったあらゆるジャンルで「生活」をベースにしたものづくりを行っているクリエイティブチーム。デザインを手がけたりプロダクトを作成するだけでなく、カフェの運営、イベントの開催、有名ブランドや大手メーカーとのコラボ、ブランディング、自治体と連携したコミュニティプロジェクト等々、その活動は他に類を見ないほど多岐に渡ります。

でも、そんなグラフのデザイナーであることと「世界中にたくさん仲間をつくる」ってことが一体どのように結びつくのか…。一般的な感覚でいえば、ちょっと不可思議にも感じられますよね。
実は、冒頭での服部さんのこの一言こそが、幅広い分野を横断するグラフの活動を象徴的に表した言葉だとも言えるのです。
「生活」のためのものづくりをベースにして、誰にも真似できない独自の活動を続けるグラフ。その成り立ちのお話と、ちょっと先の未来について、そして“仲間をつくる”という言葉の意味を探るべく、大阪にある活動拠点「graf studio(グラフ スタジオ)」でお話を伺ってきました。
グラフスタジオの1階はショップとカフェが併設されたスペース。2階はデザインオフィスになっています

グラフスタジオの1階はショップとカフェが併設されたスペース。2階はデザインオフィスになっています

vol.32 graf・服部滋樹さん -触れ合いと繋がりから生まれる「暮らし」を豊かにするデザイン

“横”に繋がるものづくりの大切さに気付いて

服部さんが大学を卒業するちょうど2年前にバブルが崩壊。大学を卒業しても、ほとんどの人が就職もままならない「就職氷河期」と呼ばれる時代を迎えていました。このバブル崩壊をきっかけに、これまでの社会構造に疑問を持ったことがグラフのそもそもの始まりだったのです。
お話しを伺った服部滋樹さん。人気のクリエイティブ集団の代表でありながら、全く気取ったところのない、気さくで楽しいお人柄の方でした

お話しを伺った服部滋樹さん。人気のクリエイティブ集団の代表でありながら、全く気取ったところのない、気さくで楽しいお人柄の方でした

「バブルの時代って大量生産、大量消費っていう部分でものづくりをやってきた結果、崩壊してしまったように見えたんです。”縦型”の社会だったというのを凄く感じたというか。縦型って、まずトップにメーカーがいて、その下に生産者がいてユーザーがいて、その中で強いのはいつもメーカー側。泣かされるのは結局、生産者なんですよね。そういう構造的な問題を考えたときに、デザインや企画をする人達も生産者もユーザーも、みんなに上下のない”横型”のものづくりができひんかなって思ったんですよ。グラフを作ろうと思った最初のきっかけは、そこなんです」

生産の効率上の問題で、あらゆる分野がカテゴリー化されて細分化していき、縦型の生産構造になっていった20世紀。しかしあらためて考えてみれば、もともと経済も文化も食も、全て同列に日常生活の中に格納されているもの。そうした意識をもとに考えると、自分たちがすべきは全ての基盤である「生活」と向き合い、横の繋がりを大切することなのではないかという考えに辿り着きました。

「バブルをきっかけにして、社会ではなく”生活”に注目できたっていうのは大きかったですね。生活をベースにした上で、自分たちでものづくりをして生きていく仕組みってどうなんやろって議論して。そこからグラフの基本理念である「暮らしのための構造」という考え方が生まれました」

カテゴリーにとらわれず、様々な視点を持って「生活」を考える。
実はこうしたグラフ独自のものづくりの発想は、立ち上げ当初、全く個性の違うメンバーが集まっていたからこそ生まれたものでもありました。
学生時代は美大で彫刻を専攻していたという服部さん。今でも忙しい合間を縫って作品を作っていらっしゃるのだとか。オフィスに置かれていたこちらも服部さんの手によるものだそう

学生時代は美大で彫刻を専攻していたという服部さん。今でも忙しい合間を縫って作品を作っていらっしゃるのだとか。オフィスに置かれていたこちらも服部さんの手によるものだそう

つくりたかったのは「少年探偵団」のようにそれぞれの個性が活きるチーム

”クリエイティブ集団”と聞けば、数名のデザイナーやクリエイターで構成されたチームを想像しますが、グラフのスターティングメンバーはとてもバラエティー豊か。グラフィックとプロダクトのデザイナー、映像作家の他に、家具職人や大工、シェフまでいるという、他では考えられないかなり異色の編成でした。しかしこうした個性豊かなメンバーが集まったからこそ、様々なジャンルを飛び越え、縦横無尽に活躍する現在のグラフという存在ができあがったのです。
スタジオを入って右手に設けられているカフェスペース。大きな窓から射す日差しが気持いい空間です

スタジオを入って右手に設けられているカフェスペース。大きな窓から射す日差しが気持いい空間です

ショップではオリジナル家具やプロダクトを中心に、活動を通じて出会った方々の商品やグローサリーなども置かれています

ショップではオリジナル家具やプロダクトを中心に、活動を通じて出会った方々の商品やグローサリーなども置かれています

「学生時代に出会った仲間たちと一緒に何かものづくりをしたいって考えて、みんなに”オレ、「少年探偵団」みたいなチーム作りたいねん!”って話したんですよ(笑)。何か立ち上げるにしても自分一人じゃ難しいし、得意なことの違うみんなが集まって、あらゆる視点を持ってチームを組めたらいいなって。例えば、「分厚い眼鏡をかけた博士君」とか、「図体のでかい特攻隊長」みたいな子がおって、それぞれが自分の個性を活かしたチームが作れたら面白いですよね。その考えに共感して、一緒にやろうって言ってくれたのが最初の六人だったんです。デザイナーも家具職人もシェフもいて、得意なことはバラバラやけど、そういう多様なメンバー構成だったからこそ、衣食住を兼ねるグラフという集団ができたんだと思います」

こうして、ジャンルは違えど志を共にする仲間が集い結成されたグラフ。しかし、その当時はみんなまだ若く、それぞれプロと呼べるほどの状態ではありません。結成後しばらくは、昼は各々に修行を続けながら仕事が終わった後に集まり、未来のグラフについての構想を練るという日々が続きます。その後、それぞれの技術力も上がり発表したいアイディアも溜まったことから、自分たちの作品を見てもらうためのショールームを持つことに。しかし、ショールームができてもすぐに人気が出たわけではなく、始めてから3年は苦しい状況が続いたと言います。

「最初はそんなにメジャーでもないし、やっぱりお客さんも少なくてね。とにかく、来てくれはる人達を少しでももてなせるようにって、毎日ひたすら考えてました。例えば、飲み物を出すにしても”古伊万里の器にカプチーノを入れて”出したりして。最低限しかない状態なんやけど、ちょっとしたアイディアでお客さんに少しでも喜んでもらいたいって、毎日ずっと考えてましたね。はじめの3年は全然食えなかったけど、とにかく考える時間は沢山あったから、そこで培ったアイディアの幅は本当に良かったなって思ってるんです。この時の、身を削りながらも日々考え続けた経験が、今の活動の幅にも影響しているんだと思います」
グラフと「暮らすひと暮らすところ」との共同企画で生まれた真鍮のプロダクト。こうした他ブランドとのコラボを多数手がけているところもグラフの特徴の一つです

グラフと「暮らすひと暮らすところ」との共同企画で生まれた真鍮のプロダクト。こうした他ブランドとのコラボを多数手がけているところもグラフの特徴の一つです

カフェで使用されている家具も、もちろん全てグラフの作品

カフェで使用されている家具も、もちろん全てグラフの作品

こうした地道な活動を続けていくことでグラフの名は徐々に浸透していき、やがて多くの人に知ってもらえる存在に。その後、カフェやショップの出店、デザイン事務所の設立と進化を続け、現在のように多様な側面を持つ集団へと成長していきました。

「ものづくり」だけでなく「コトづくり」も同時に考える

今では老舗ブランドや名だたる有名企業ともタッグを組み、空間設計やデザイン、ブランディングなどを数多く手がけているグラフ。小さなショールームからスタートした無名の存在だった彼らに、そうした有名企業からのオファーがくるようになったのには、ちゃんとした背景があったのです。
内装と什器のデザインを手がけた「中川政七商店」の店舗。ショップスタッフが道具のようにお店そのものを使いこなすことができるように、とのコンセプトで設計されています 撮影 / Yasunori Shimomura

内装と什器のデザインを手がけた「中川政七商店」の店舗。ショップスタッフが道具のようにお店そのものを使いこなすことができるように、とのコンセプトで設計されています 撮影 / Yasunori Shimomura

同じく内装や什器、グラフィックのデザインを手がけた「スタンダードブックストア あべの店」 撮影 / kentahasegawa

同じく内装や什器、グラフィックのデザインを手がけた「スタンダードブックストア あべの店」 撮影 / kentahasegawa

実はグラフはスタート当初から、「ものづくり」だけではなくそれにまつわる「コトづくり」も同時に大切にしながら活動してきました。
つまり、単に「もの」だけをつくるのではなく、そこに至るまでのプロセスや、購入してもらった後にいかに使い手側が育てていくかという「コト」の部分も考えた上でのものづくりをしていたのです。

「自分たちがつくったものを長く使ってもらうために、例えば、使い手に家具をメンテナンスする方法をレクチャーしたりとか、僕らはものだけじゃなくて同時にコトも設計するって作業を自然とやってきてたんですよね。僕らのそうした「コトづくり」の活動をちゃんと見てくれてた人達が、メーカーの問題を解決するための空間設計や、ブランドの将来的なビジョンを考えるといった「コト」をつくるお仕事をオーダーしてくださるようになったんです」

長く大事にしてもらうために、ものにまつわるコトも一緒に考える。それは「生活」の中にちゃんと溶け込むものづくりを基本にしているグラフだからこそ、自然と導き出された姿勢だったのでしょう。しかし、大きな企業や有名ブランドとの関わりが増えれば、自ずとユーザー側の視点からは離れてしまいがちなもの。でもグラフは、立ち上げ当初と変わらぬ「生活者としての視点」を今も失わないままに活動を続けています。

「丁寧に使ってもらいたい、長く付き合ってもらいたい。そういう想いって、どんなメーカーさんでも最初は持っているものだと思うんです。でも、事業が大きくなっていくと、使い手との距離ってだんだん開いていってしまう。だけど僕らは、過去に身を削りながらやってきた経験が身にしみていることもあって、自分たち自身が生活者としての感覚を失わないように、そしてちゃんと”顔が見える人たちのためのものづくり”をしたいって気持ちを、変わらずに持ち続けようって思ってるんです」

使い手としての感覚を失わず、ユーザーに共感してもらえるものづくりを続けていきたい。そんな気持ちの表れのひとつが、カフェとショップが併設された「グラフ スタジオ」でもあるのです。
おいしいごはんやコーヒーに誘われて行ってみたら、思わぬ新しい発見に出会える…なんてことも。カフェとショップ、デザインがクロスオーバーしているグラフスタジオという場所だからこそのお楽しみです

おいしいごはんやコーヒーに誘われて行ってみたら、思わぬ新しい発見に出会える…なんてことも。カフェとショップ、デザインがクロスオーバーしているグラフスタジオという場所だからこそのお楽しみです

こだわりの素材と有機野菜がふんだんに使われた人気の日替わり定食。ボリュームたっぷりなのにヘルシーなのが嬉しいですね

こだわりの素材と有機野菜がふんだんに使われた人気の日替わり定食。ボリュームたっぷりなのにヘルシーなのが嬉しいですね

「カフェは自分たちのプロダクトを体験してもらえる場だとも思っているので、実際に使ってみて「このスプーンすごく口当たりが良いね」って気に入ってもらえたら、併設のショップですぐ購入できるようになっているんです。”体験を持ち帰る”ってことが、ものとの出会いではすごく大切な部分だと思っているので。僕ら自身にとってもお客さんの反応をダイレクトに知れる機会って貴重だし、ここを訪れてくれる人たちと対話して、新しい発見やアイディアを共有しながらものをつくれるってことが、やっぱり大事なんですよね」
取材時にもちょうど店内でお茶をしている女性客の姿が。彼女たちにも新しい発見や出会いがあったかもしれません

取材時にもちょうど店内でお茶をしている女性客の姿が。彼女たちにも新しい発見や出会いがあったかもしれません

vol.32 graf・服部滋樹さん -触れ合いと繋がりから生まれる「暮らし」を豊かにするデザイン
お客さんと直接関わることでものづくりのヒントが得られ、またお客さん側も、「体験」してから購入することで、ものへの愛着がさらに増すのだそう。
そして、こうしたグラフならではの触れ合いと共感を大切にしたものづくりの象徴ともいえるのが、もう一つの活動拠点である家具工場「graf labo(グラフ ラボ)」なのです。

すべての出発点は「長く愛着を持って使ってほしい」という想いから

「せっかく来てくださったんなら、ぜひ覗いていってください」

そう言って服部さんが案内してくださったのは、「グラフ スタジオ」から車で20分ほどの距離にある家具の工場「グラフ ラボ」。もともとはスタジオと同じ場所にあったというラボですが、家具職人さん達からのある提案をきっかけに、現在の場所へと移ることになりました。
豊中市にあるグラフの家具工場「グラフ ラボ」。家具の製作だけでなく、木工に触れてもらうためのワークショップも開催されています

豊中市にあるグラフの家具工場「グラフ ラボ」。家具の製作だけでなく、木工に触れてもらうためのワークショップも開催されています

vol.32 graf・服部滋樹さん -触れ合いと繋がりから生まれる「暮らし」を豊かにするデザイン
「以前からスタジオで木のスプーンや椅子を作るワークショップを開催していたんですが、そこからさらに一歩踏み込んで「木」をもっと理解してもらうためのワークショップができないかって話になったんです。“木そのものをちゃんと理解してもらう”ところまで行けたら、家具もなおさら大事にしてもらえるだろうって、家具職人の子達が言ってくれて。ものだけじゃなくて素材のこともちゃんと伝えていくって作業は、まさに僕らが大事にしている、「ものづくり」と「コトづくり」の同時進行ってことなんですよね。それで、もっと生活者の方が多く住んでいる地域で、作り手と使い手が直接触れ合える場を作りたいと思って、今のラボへと引っ越したんですよ」

また、こうした愛着を持って長く使ってもらうための工夫は、お客さんとの関わり方においてだけでなく、設計やデザインを生み出す過程にも共通しているのだそう。

「長く使ってもらうために、100%のものをつくらずにあえて80%でつくるよう心がけているんです。例えば、テーブルの仕上げをものすごく分厚い塗装にすれば、傷はつきにくいですよね。でも、使えば傷がつくのは当たり前だし、傷がついても簡単にメンテナンスできて、使い手が自分でキレイにできるなら、その人にとっての愛着度はむしろ増すと思うんです。もし使っていて「輪染み」が沢山できたとしても、それが”思い出の輪染み”になれば良いと思うし。塗装が分厚くて傷つかない100%のものよりも、20%の隙間を残した”少しだけ不便”なものの方が、その人なりの使い方ができて暮らしに馴染んでいくと思うんですよね」
グラフの家具はこのラボで職人さん達の手仕事によって生み出されています。組み立てから塗装まで、全ての作業を一貫してこの場所で行っているのだそう

グラフの家具はこのラボで職人さん達の手仕事によって生み出されています。組み立てから塗装まで、全ての作業を一貫してこの場所で行っているのだそう

もちろん、80%のものを作るとは言っても、それは残り20%を作らないということではありません。むしろ、あえての余地として残す20%の部分こそが、一番頭を悩ませるところなのだとか。

「愛着の湧く加減をどうやって見出すかが難しくて。例えば、すごく造形の美しいものの素材を、あえて傷つきやすいアルミで作るとかね。そうすると、少し傷つきやすい素材だからこそ、触ってるうちにどんどんその人ならではの”味”が生まれるんですよ。そういう、素材のこともデザインのこともしっかり計算した上での20%が、僕の思う隙間作りなんです」

残りの20%を、お客さん自身が工夫したり使いこんでいくことで、本当の意味での100%に近づく。そういう意味では、グラフの作品は”お客さんも一緒になって作り上げている”ともいえるんですね。
そう服部さんにも投げかけると、「お客さんも仲間やと思ってるから」という答えが、てらいのない笑顔とともに返ってきました。
製造過程で余った木っ端は、希望する方に無料で提供しているそう。子供の積み木用にと持ちかえる方や、時には近所の小学生から「もっと小さいサイズに切って」とオーダーされるなんてことも。こうしたところからもコミュニケーションの輪が広がっています

製造過程で余った木っ端は、希望する方に無料で提供しているそう。子供の積み木用にと持ちかえる方や、時には近所の小学生から「もっと小さいサイズに切って」とオーダーされるなんてことも。こうしたところからもコミュニケーションの輪が広がっています

「お客さんとも売り手と買い手の関係じゃなく、少年探偵団みたいな仲間になれれば良いなって思ってるんです。お客さんのほうから「あのテーブル、もう使って5年になるけど、ちょっと脚弱いで!」とか言われて、こっちも「すんません! じゃあ、どういう脚が良いと思います?」とか言い合えたら、すごく良い関係やなって。一緒になって楽しめれば最高ですよね(笑)」

そう、グラフが考える少年探偵団は、なにもチーム内に限った話ではないんです。広い意味ではお客さんも仲間。横の繋がりを大切にし、枠組みにとらわれることなく活動を続ける彼らにとって、それはむしろ当然の感覚なのかもしれませんね。
こうして、垣根なく様々な人たちと触れ合い、繋がっていくグラフの活動は、実はちょっと意外ともいえる”食”の分野にまで及んでいるのです。

「食」を通しても繋がり、広がる、ものづくりの輪

グラフが開催しているファンタスティックマーケットの様子。商品販売のほか、体験型ワークショップなども開かれています 撮影 / Hideaki Hamada

グラフが開催しているファンタスティックマーケットの様子。商品販売のほか、体験型ワークショップなども開かれています 撮影 / Hideaki Hamada

会場の構成やテント、ロゴマークなどはグラフの手によるもの。生産者と消費者が触れ合うための新たな「場」を作り出しました 撮影 / Hideaki Hamada

会場の構成やテント、ロゴマークなどはグラフの手によるもの。生産者と消費者が触れ合うための新たな「場」を作り出しました 撮影 / Hideaki Hamada

2010年、ある雑誌の企画で畑づくりをはじめたグラフのスタッフたち。しかし、不慣れな農作業に苦戦が続き、作物はなかなか思うように育ちません。それを見かねて助けてくれたのが周囲の農家の方達でした。そして彼らと親しくなったことをきっかけに、農家が抱えている生産者としての悩みを知ります。

「卸し先に出荷するだけの“生産工場”として野菜をつくるんじゃなく、顔の見える人達のためにものをつくりたい。農家の人達もそう悩んでいたんですよね。だったら、そういう「場」をグラフでつくろうよって始まったのが、マルシェ形式のコミュニティプロジェクト「ファンタスティックマーケット」なんです」

「ファンタスティックマーケット」は、不定期で開催している生産者と消費者が直接触れ合える市場型のイベント。食材を購入できるだけでなく、こだわりをもって生産している人たちと対話でき、調理法や保存法なども楽しく学べる「出会い、繋がる、広がる」をテーマにしたマーケットです。
デザイン事業と食や農業は、一見して繋がらないもののようにも見えますが、実は広い意味で考えればどちらも同じ「ものづくり」。そしてその根底に流れる、「顔の見える人たちのためにものをつくりたい」という想いは共通しているんです。
撮影 / Hideaki Hamada

撮影 / Hideaki Hamada

ファンタスティックマーケットでは、食料品の他に雑貨なども販売されています 撮影 / Hideaki Hamada

ファンタスティックマーケットでは、食料品の他に雑貨なども販売されています 撮影 / Hideaki Hamada

「今では、マーケットで出会った生産者どうしがコラボしたり、参加した農家の方が自分で「田植えのワークショップ」を開いたりと、僕らの想像を超えて活動が広がっています。農家の方達の悩みを解決しようと、入り口になる「コト」のきっかけは僕らでデザインしたけど、その先の新しいものづくりを参加者たちが自ら生み出してくれているんです。触れ合うことで新たな発見や視点が生まれる、そんな場を「食」の分野でも作れたことはすごく嬉しいですね」

またファンタスティックマーケットの例のように、産地を豊かにしたり生産者の悩みに応えるといった、様々な“問題解決”のための提案をしていくことも、これからのデザインの役割なんだと、服部さんは話して下さいました。

あらゆる垣根を越えて、デザインの力で新しい明日を生み出していく

「今の時代に必要とされるデザインって、ものが生み出されるまでの“過程”から、ユーザーに“届いた後”までを全て網羅していなきゃいけないと思うんです。ものが生み出されるプロセスがすごく重要だし、プロセスに問題があれば、それを改善していく作業もデザインがやるべきだし。使い手自身も、ちゃんとものの”背景”にこだわって選ぶ人達が増えていますしね」

表面的な部分やカタチだけを作るのがデザインではないという考え方は、わたしたちにとっては少し意外ともいえる発想かもしれません。しかし服部さんは「柔軟な発想で様々な問題を解決できる能力こそが、これからのデザイナーには必要」と続けます。

「例えば、超最先端のサイエンスとかテクノロジーってものすごく難しくて、普通の人にはなかなか理解できないじゃないですか。でも、難解なテクノロジーやサイエンスを、デザインの力でみんなに分かりやすく表現していくことはできると思うんです。デザインには、いろんなものを繋いで、国境やあらゆる枠組みを飛び越えるボーダレスな能力があるんですよ。ジャンルの違う人たちと協力し合って、デザインによる問題解決をもっと実践していきたいですね」

服部さんは、ごく自然なことのようにそう語ってくださいました。しかし、こうした「デザインの力による問題解決」は、立ち上げ当初から「コトづくり」を大切にし、たくさんの仲間とそれぞれの個性を尊重しあって走り続けてきたグラフだからこそ実現できることなのではないでしょうか。
ラボのスタッフさんたちと一緒に。「家具つくる人に、悪い人はおらんと思うんですよ」服部さんのそんな言葉どおり、皆さん気さくで優しい方々ばかりでした

ラボのスタッフさんたちと一緒に。「家具つくる人に、悪い人はおらんと思うんですよ」服部さんのそんな言葉どおり、皆さん気さくで優しい方々ばかりでした

「オレ、少年探偵団みたいなチーム作りたいねん!」

そう夢を語っていた若者は、20年近く時を経た今でも変わらずに、分野も立場も飛び越えて「手を取り合える仲間」を増やし続けているんですね。服部さんがおっしゃっていた「おじいちゃんになった時に、世界中にたくさん仲間がいたら良いと思うから」という言葉も、彼らの活動を知れば納得です。

「グラフはあと2年で活動20周年。記念にどんな面白いことをやろうかなって、みんなで構想中なんですよ」

そう言って、いたずらっ子のような笑顔を浮かべる服部さん。
”少年探偵団グラフ”の冒険ストーリーは、この先もまだまだ続いていくようです。新しい章にはきっと、これまでは未開拓だった分野での冒険譚も綴られていくのでしょうね。そしてグラフは、いつの日か本当に「世界中に仲間がいる」大きなチームへと成長していくのではないでしょうか。
彼らにとっては、デザイナーも職人も、農家も、そして自分たちの作品や活動に触れてくれるお客さんも、みんなが仲間。
ひょっとしたら、次にグラフ少年探偵団の仲間に加わるのは、他でもないあなた自身かもしれませんね。
graf|グラフgraf|グラフ

graf|グラフ

大阪を拠点に家具の製造・販売、グラフィックデザイン、スペースデザイン、プロダクトデザイン、カフェの運営、食や音楽のイベント運営に至るまで暮らしにまつわる様々な要素をものづくりから考え実践しているクリエイティブユニット。中之島と家具工場のある豊中を拠点に、複数の業種から生まれるアイデアを実験的に試みながら、暮らしのための豊かさについて模索しています。近年では、生産者や販売者と生活者が新しい関係性を育む場づくりとしてのコミュニティ型プロジェクト「FANTASTIC MARKET」を始動させるなど、新たな活動領域を開拓しています。

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