憧れの「ハンス J. ウェグナー」の椅子
筆者自身がインテリアを学ぶなかで、幾たびも登場するウェグナーの椅子は、いつかはわが家にお迎えしたい、座ってみたい…そう憧れる存在。時代を超えて今もなお世界中で愛される彼の作品たちを、もっと深く知りたくなりました。
今回は、彼が手掛けた500以上の作品のなかから厳選して5脚の名作椅子をご紹介します。
世界的デザイナー、そして家具職人。「ハンス J. ウェグナー」
「椅子の詩人」と呼ばれる、デンマークの世界的デザイナー「ハンス J. ウェグナー」。生涯をかけてゆっくりと地道に、しかし着実に進化させながらつくり続けた作品は、実に500脚以上だと言われています。世界的なデザイナーという華やかなイメージとは裏腹に、いち「家具職人」という堅実で謙虚な人柄も魅力のウェグナー。彼は実直な「職人らしさ」を大切にしながらも、現代に合わせて柔軟性も持ち合わせていました。手仕事の良さ、機械化の良さをいずれも認め、安全で美しく、より良い商品を求めやすい価格で提供することこそ最善だと考えたのです。
「日本は自分にとってきわめて特別な国…」
彼自身の言葉のなかにも、日本の建築や工芸美術に心惹かれていたことが残されています。だからこそ、彼の作品は今日も日本人の心に響き、どこか親近感を覚えるのかもしれません。
一度は座りたい。ウェグナーの名作椅子たち
ウェグナーの名作椅子1‐普遍的なデザインが魅力「CH24 / Yチェア」
ウェグナーの作品のなかで最も日本人に人気があり、最大のベストセラーとなっているのが「Yチェア」。正式名称は「CH24」ですが、Y字型の背もたれのデザインがその名の由来です。
ウィッシュボーンチェアとも呼ばれ、1950年に発表されて以来長きに渡り愛されている作品。
Yチェアの特徴は、どんなインテリアにもなじむ普遍的なデザインと、体にフィットする座り心地。無垢材とペーパーコードを取り入れているため、使い続けるほどに風合いを増し経年変化を楽しめるのも魅力です。
このYチェアのデザインルーツは、中国の明代の椅子にあるのだとか。日本人の好むインテリアに自然に溶け込むのは、どこかに東洋の香りを残しているからかもしれません。
ウェグナーの名作椅子2‐東洋的美を兼ね備えた「PP56・66 / チャイナチェア」
中国、明時代の椅子をリデザイン、改良して生み出されたと言われている「チャイナチェア」。中国の伝統的な椅子が持つ力強さを残しながらも機能性とシンプル化を追求し、かつ木の温もりも大切につくられた作品です。
後に数々の名作が誕生したウェグナーの椅子ですが、この作品がなければ、それらは生み出されなかったのではと言われているチャイナチェア。その横顔も、凛とした端正な美しさです。
1943年にデザインされたものが機械工程を入れることで量産できるようになり、より軽く丈夫なチャイナチェアがフリッツ・ハンセン社から発売されました。その後廃盤となってしまいましたが、1970年に再びPPモプラー社から販売されるようになったという歴史ある作品。
これまでに少なくとも9種類のチャイナチェアが生み出され、その時代にマッチした椅子へと進化を遂げています。どの時代にも愛されるどっしりとした佇まいは、シンプルな空間にこそ映えて上質感を演出してくれます。
ウェグナーの名作椅子3‐人間工学的な美しさ「PP550 / ピーコックチェア」
イギリスの伝統的な「ウィンザーチェア」をリデザインした作品が、1947年に発表された「ピーコックチェア」。無垢材とペーパーコード(樹脂を含ませてよった紙ひも)を組み合わせてつくられています。
その名のとおり、まるで孔雀が羽根を広げたようなデザインが特徴。実際よりも大きく感じさせる、背もたれの華やかなデザインが目を惹きます。
平らになった部分は、人が座るとちょうど肩甲骨が当たるように設計されているのだとか。ウェグナーの椅子らしい、人間工学的な美も魅力です。
ゆったりと座れる広めの座面は、程よくしなるペーパーコードならではの座り心地。リビングや書斎など、ゆったりと過す部屋に置きたいですね。
ウェグナーの名作椅子4‐世界中を魅了する大スター「PP501・503 / ザ・チェア」
ウェグナー作品のなかでも最高傑作のひとつだと謳われ、JFKの「椅子の中の椅子」という言葉をきっかけに愛称としてこう呼ばれるようになった「ザ・チェア」。
その品格のある佇まいと快適な座り心地から、世界の王室や政治家などにも愛用されている名作椅子です。
1960年アメリカ大統領選、テレビ討論会でJFKとニクソンが座ったことから、世界的な大スターとなった「ザ・チェア」。
無駄のないシンプルかつ洗練されたデザインもさることながら、JFKにも絶賛されたという快適な座り心地も魅力。その完成度の高さは、ウェグナー本人も「初めて自分のよさが出た椅子」と語っているほどです。
無駄のない美しさと、人に寄り添う優しい座り心地…
現代においても、決して古びてしまうことなく「この椅子と一緒に年を重ねていきたい」そう思える特別感と、他にはない魅力に満ちています。
ウェグナーの名作椅子5‐永い眠りから覚めた名作椅子「PP130 / サークルチェア」
ウェグナーの椅子のなかでも、ひと際華やかでデザイン性に優れた椅子が「サークルチェア」。放射状に広がるロープで軽快に仕上げられています。
ウェグナーが最初にこの作品をスケッチしたのは、1965年だったのだとか。それから永い間アイデアは眠っていましたが、PPモプラー社のアイナー・ベデルセン親子の協力により製作が実現しました。
この優美な丸いフレームを製作できる加工用機械が、彼らによって開発されたことで、サークルチェアは世に出ることになったのです。
優雅な曲線美と、ハンモックのように優しく包み込むような座り心地が魅力のサークルチェア。ひとつ置くだけで、お部屋の印象をがらりと変えるほどのインパクトがあります。大きな椅子ですが、軽量なうえキャスター付きなので移動もラクにできるのだそう。頑張った自分をいつも癒してくれる場所…リラックスタイムの相棒としてお迎えしたい、そんな暮らしに寄り添う名作椅子です。
日々に寄り添う一生モノ。暮らしの風景にウェグナーの椅子を
「デザイナーズチェア」と聞けば、その上質感から一瞬近寄りがたさを感じるもの。
しかしウェグナーの名作椅子は、いずれもうっとりとするような美しさを持ちながらも、触れてみたい、座ってみたいと思わせる親近感を覚える作品ばかりです。
文章を書くことが苦手…と彼は自分について語っていますが、多くを語らずともその実直で謙虚な人柄は全て作品に昇華されていると感じます。彼が残したスピリットは、これからもその名作たちを通して脈々と受け継がれていくことでしょう。
暮らしに寄り添う一生モノの椅子、あなたもウェグナーの名作椅子のなかから、ゆっくりとじっくりと…相棒を探してみてはいかがでしょうか。
デンマークの世界的デザイナー「ハンス J. ウェグナー」。彼は、長く愛用したくなる優れた機能性、そして木の温もり溢れる名作椅子を数多く生み出しました。