周りの空気までおだやかにしてしまう、やさしい表情の器たち。
土が溶け合うような色の層。ときに土が自分の魅力を主張するように層がはっきりと分かれることも。
――これらが、土そのものの色が活かされていると知れば、未知なる自然の力を感じ、尊ぶような気持ちが湧いてきます。
土が溶け合うような色の層。ときに土が自分の魅力を主張するように層がはっきりと分かれることも。
――これらが、土そのものの色が活かされていると知れば、未知なる自然の力を感じ、尊ぶような気持ちが湧いてきます。
「顔料を入れなくても十分じゃないかなって思うくらい、土そのものに十分個性があるので、ちょっと変わった色の土をうまく見せたいなと思っています」
そうやさしい眼差しで話すのは、岐阜県・土岐市に工房を構える陶芸家の藤居奈菜江さん。
顔料といわれる着色料をほとんど使わず、土の色を活かして、器を中心に花器や小物入れなど暮らしにまつわるものを制作しています。
そうやさしい眼差しで話すのは、岐阜県・土岐市に工房を構える陶芸家の藤居奈菜江さん。
顔料といわれる着色料をほとんど使わず、土の色を活かして、器を中心に花器や小物入れなど暮らしにまつわるものを制作しています。
個性を放ち、変化していく土
(左から)火を入れる前、素焼き、本焼きをした土のピース
はじめは、黒や灰色など暗い色をしている土も、火を入れるごとに個性を放って輝きはじめます。最初は、灰色だったものが、素焼きをすることで薄い茶色に、そして、本焼きをしてさらに火を入れることで、やわらかな黄色へと変化を遂げるのです。
子どもたちを対象に陶芸のワークショップをひらくことがある藤居さん。火の入れ具合の違う土のピースを使って、どれが同じ土なのかを当てるクイズを出すことも。答え合わせをすると、別物のように色を変化させる土に、子どもたちからはわぁ!と歓声があがるのだそう。
子どもたちを対象に陶芸のワークショップをひらくことがある藤居さん。火の入れ具合の違う土のピースを使って、どれが同じ土なのかを当てるクイズを出すことも。答え合わせをすると、別物のように色を変化させる土に、子どもたちからはわぁ!と歓声があがるのだそう。
白い石や砂っぽいものが混ざっていたり、木の破片のようなものが入っていたり、土の個性は地域によってさまざま。どうやって土を選ぶのかをたずねると「焼いたときに面白い表情を見せてくれるもの」と藤居さん。その表情は、土の個性を慈しむようなあたたかな雰囲気であふれています。
藤居さんが用いるのは「練り込み」という陶芸の装飾技法のひとつ。ひも状の土を貼り合わせたり、積み上げることで市松模様やストライプ柄を作りだす方法で、中国では8世紀の唐時代からはじまったといわれる歴史ある技法です。
しかし、藤居さんの技法は、それとは異なり独創的。最初に、いくつかの種類の土を串団子のように縦に重ねてひとつの塊に。それを、ろくろで成形していくのです。このとき、土どうしがゆるやかに混ざり合って層を成し、美しい色の世界が生まれます。
しかし、藤居さんの技法は、それとは異なり独創的。最初に、いくつかの種類の土を串団子のように縦に重ねてひとつの塊に。それを、ろくろで成形していくのです。このとき、土どうしがゆるやかに混ざり合って層を成し、美しい色の世界が生まれます。
火を入れる前は同じような色をしている土。丸めた土の団子をくっつけ、ひとつの塊にしてからろくろを回します
何種類かの土で塊を作る段階で、どう色が混ざり合うのか完成形がある程度見えるという藤居さん。土の個性を理解しようと、何度も作りなおし、試行錯誤を重ねたからこそわかるようになった感覚です。
「洋服を決めるような感覚と一緒ですね。このパンツだったら、どんなシャツが合うかなとか。きめの細かい白い土のほうが夏は合うな、冬だと少し黄色の温かみがほしいなとか。黄色の隣にはちょっと荒っぽい信楽の土を使ったほうが見た目に温かく感じるなとか。そういう感じで季節に応じて組み合わせています」
「洋服を決めるような感覚と一緒ですね。このパンツだったら、どんなシャツが合うかなとか。きめの細かい白い土のほうが夏は合うな、冬だと少し黄色の温かみがほしいなとか。黄色の隣にはちょっと荒っぽい信楽の土を使ったほうが見た目に温かく感じるなとか。そういう感じで季節に応じて組み合わせています」
あたたかな気持ちにしてくれる藤居さんが生み出す色の世界。土は、藤居さんの手を通して器として生まれ変わることで、人々の暮らしになじみ、日常に幸せを届けてくれます。
そして、ふと手に持ったときに気づくのは、忘れかけている自然の尊さ――たくさんのことを伝えてくれる藤居さんの器には、どんな想いが込められているのでしょう。
そして、ふと手に持ったときに気づくのは、忘れかけている自然の尊さ――たくさんのことを伝えてくれる藤居さんの器には、どんな想いが込められているのでしょう。
目の前に広がった豊かな陶芸の世界
小さいころから運動が得意だったという藤居さん。高校ではその能力を活かそうとスポーツ学科に入学しました。そんなある日、近所の人から楽しい学校があるよと教えてもらったのが、デザイン系の学科が充実した滋賀県の信楽高校。なんだか楽しそう!――通っていた高校になじめずにいた藤居さんは、思い切って高校を辞めると信楽高校に入学しました。
しかし、藤居さんが惹かれたのは、あくまで自由な校風。デザインや美術に特別な興味はなかったといいますが、信楽高校での生活は、気持ちががらりと変わってしまう環境で満ちあふれていました。
「信楽高校の目の前に陶芸を勉強する学校があったんです。同級生に陶芸家の息子さんがいたり、そういう陶芸を仕事にする人が身近にいる友達が周りにいたので、陶芸がすごく身近にあって自然だったんです。あまり陶芸に対してハードルが高いイメージがなくなって、ああこういう仕事があるんだって」
「信楽高校の目の前に陶芸を勉強する学校があったんです。同級生に陶芸家の息子さんがいたり、そういう陶芸を仕事にする人が身近にいる友達が周りにいたので、陶芸がすごく身近にあって自然だったんです。あまり陶芸に対してハードルが高いイメージがなくなって、ああこういう仕事があるんだって」
信楽高校の前にあったのは、信楽窯業技術試験場。県内の窯業の後継者を育成するため、ろくろで成形する技術や、土をコーティングする釉薬を調合する方法など、専門的に陶芸を学ぶことができる学校です。
藤居さんが通う高校があった滋賀県・信楽は、日本六古窯のひとつに数えられる信楽焼の産地。何代にもわたる窯元も多くある歴史ある陶芸の街です。
突然目の前に広がった、豊かな陶芸の世界に魅了された藤居さん――通学路には地元の人が営む食器屋、友達の家の食卓に並ぶさまざまな器。窯元には、陶芸を生業とする職人の姿がありました。信楽の街は、陶芸が暮らしを彩り、ときに人の人生そのものになっていたのです。
藤居さんが通う高校があった滋賀県・信楽は、日本六古窯のひとつに数えられる信楽焼の産地。何代にもわたる窯元も多くある歴史ある陶芸の街です。
突然目の前に広がった、豊かな陶芸の世界に魅了された藤居さん――通学路には地元の人が営む食器屋、友達の家の食卓に並ぶさまざまな器。窯元には、陶芸を生業とする職人の姿がありました。信楽の街は、陶芸が暮らしを彩り、ときに人の人生そのものになっていたのです。
陶芸を仕事に― 自然に生まれた強い想い
「陶芸を仕事にしよう」――そんな環境の中で、藤居さんの中で自然に生まれた想い。卒業を控えた頃、信楽窯業技術試験場に進むことを決めると、驚いたのは担任の先生。それもそのはず、このとき藤居さんは陶芸どころか、土もまったく触ったことがなかったのです。
「美大に入る感覚で選んだ感じです。就職していずれものづくりを仕事にしていくんだったら、美大に行ってもまだふわふわして決まらなそうだったので。作ること自体が楽しい。絵を描くのは苦手なんですよ、でも作ることは楽しいので、それで陶芸に」
「美大に入る感覚で選んだ感じです。就職していずれものづくりを仕事にしていくんだったら、美大に行ってもまだふわふわして決まらなそうだったので。作ること自体が楽しい。絵を描くのは苦手なんですよ、でも作ることは楽しいので、それで陶芸に」
よみがえってきた自信と喜び
陶芸未経験だった藤居さんの気持ちをあと押ししてくれたのは、今でも心に鮮明に残る、小学校のころの出来事――
「美術はあまり得意ではなかったんですけど、小学校のときに粘土細工でぞうさんの足がしっかりしていると先生に褒められたことが自信になっていたんです。いい足してるって言われて(笑)。褒められたことをすごく覚えていたんです」
そのときの気持ちを思い出したようにうれしそうに話してくれた藤居さん。信楽での生活でよみがえってきたのは、いつの間にか眠っていた、土でものを作ることの自信と喜び。陶芸の世界は、小さなころに体験した心躍る気持ちをぱっと花開かせてくれました。
「美術はあまり得意ではなかったんですけど、小学校のときに粘土細工でぞうさんの足がしっかりしていると先生に褒められたことが自信になっていたんです。いい足してるって言われて(笑)。褒められたことをすごく覚えていたんです」
そのときの気持ちを思い出したようにうれしそうに話してくれた藤居さん。信楽での生活でよみがえってきたのは、いつの間にか眠っていた、土でものを作ることの自信と喜び。陶芸の世界は、小さなころに体験した心躍る気持ちをぱっと花開かせてくれました。
いつもたどり着くのは陶芸の道
しかし、藤居さんが進学したのは、粘土だけでなく、石や木などの素材を彫って造形を学ぶ短期大学の彫塑科。卒業後、一度、陶芸の工房に入りますが、その後は美容院で2年間アシスタントとして働くなど、陶芸以外の世界を体験し、存分に楽しんだ藤居さん。
さまざまな道のりのきっかけになったのは、「もっと自由に幅広い世界を学んだほうがいい」という先生や先輩たちからのアドバイス。どの場所でもまっすぐに、ひたむきに物事に向き合おうとする藤居さんの姿は、周囲の人たちにとって可能性に満ちたものだったのでしょう。
でも、いつだって気持ちが戻ってくるのは、陶芸の道でした。それは、経験を重ねるほどに強くなっていったのかもしれません。
陶芸を仕事にして生きていく――強く決意した藤居さんは、京都にある訓練学校に通いはじめます。
さまざまな道のりのきっかけになったのは、「もっと自由に幅広い世界を学んだほうがいい」という先生や先輩たちからのアドバイス。どの場所でもまっすぐに、ひたむきに物事に向き合おうとする藤居さんの姿は、周囲の人たちにとって可能性に満ちたものだったのでしょう。
でも、いつだって気持ちが戻ってくるのは、陶芸の道でした。それは、経験を重ねるほどに強くなっていったのかもしれません。
陶芸を仕事にして生きていく――強く決意した藤居さんは、京都にある訓練学校に通いはじめます。
陶芸への想いが引きよせた、思わぬ転機
その頃、時間を見つけてよく通っていたのが滋賀県にあるギャラリー「季の雲(ときのくも)」。
空間いっぱいに並ぶ素敵な器たちの中でも、藤居さんを魅了したのは、百草(ももぐさ)というギャラリーを営む安藤雅信さんの器でした。夏休みに作家に話を聞きに行くという課題が出ると、迷わず安藤さんに会いに行くことに――そこで、思わぬ転機が訪れます。
空間いっぱいに並ぶ素敵な器たちの中でも、藤居さんを魅了したのは、百草(ももぐさ)というギャラリーを営む安藤雅信さんの器でした。夏休みに作家に話を聞きに行くという課題が出ると、迷わず安藤さんに会いに行くことに――そこで、思わぬ転機が訪れます。
「百草に電話をして安藤さんに連絡をとってもらい、訓練校に通っていて工房見学をさせてもらいたいって伝えたら『いいよ』って言ってもらえて。そしたら、ちょっと意味合いを違うふうにとらえられていて……面接のように『それで、いつから働く?』って聞かれたんです(笑)」
「いいかん違い」と、ふふっと笑う藤居さん。
結婚や子育てなど、継続的に作り続けることが難しい場合もあるため、女性は補助的な仕事をすることも多い陶芸の世界。しかし、安藤さんの工房は、女性が中心となって活躍しており、その姿はとても魅力的に映りました。
「いいかん違い」と、ふふっと笑う藤居さん。
結婚や子育てなど、継続的に作り続けることが難しい場合もあるため、女性は補助的な仕事をすることも多い陶芸の世界。しかし、安藤さんの工房は、女性が中心となって活躍しており、その姿はとても魅力的に映りました。
このとき不安でいっぱいだったという藤居さん。訓練学校に入ってまだ半年で、習得したと自信を持っていえる技術がない状態でしたが、もうこんなチャンスはないかもしれない――藤居さんは訓練学校を辞めると思いきって安藤さんの工房に飛び込みます。「出会いを大切に」そんなあたたかな先生の言葉も味方をしてくれました。
大切な言葉を胸に。進みはじめた独立の道
工房では、先輩たちに陶芸の技術を教わりながら、多くのことを吸収しようと夢中で働く日々。アシスタントとして充実した時間を送る中で、少しずつ気持ちに変化が起こりはじめます。
「あんまり私は器用ではなく、不器用な方なので、人のアシスタントをするのが向いているかなって思っていたんです。でも、アトリエに入ったときに、安藤さんに私は個性的なのにまだ方向性が定まっていないんだねって言われて。きっと独立するんだろうっていう個性を持っているのはわかるんだよって言ってくれたんです」
そう話す藤居さんの表情は、ふわっと明るくなり笑顔がにじみます。それは、そっと背中を押してもらった感覚だったのかもしれません。この言葉で、作家として独立する未来を淡く描くようになったころ、ワークショップに参加することに。
「あんまり私は器用ではなく、不器用な方なので、人のアシスタントをするのが向いているかなって思っていたんです。でも、アトリエに入ったときに、安藤さんに私は個性的なのにまだ方向性が定まっていないんだねって言われて。きっと独立するんだろうっていう個性を持っているのはわかるんだよって言ってくれたんです」
そう話す藤居さんの表情は、ふわっと明るくなり笑顔がにじみます。それは、そっと背中を押してもらった感覚だったのかもしれません。この言葉で、作家として独立する未来を淡く描くようになったころ、ワークショップに参加することに。
「百草で木の動物を作る木工作家の前川さんのワークショップがあって参加したときに、すごく楽しかったんですよ。神様を作ろうというテーマで、架空のものを作るってすごくわくわくして。制限時間が1時間くらいあったのかな。でも私は30分かからないくらいでばーと作ってしまったんです。それもそこにいる人たちの中で一番大きいものを作って。興奮してわぁと子どもみたいに楽しく作ったときに、すっごいすっきりしたなと思って」と、藤居さんは声をはずませます。
出会いと経験を糧にして
自由にものを作る楽しさを心の底から感じた出来事は、藤居さんに独立を決意させてくれました。しかし、どんなことも楽しむ才能のある藤居さんですが、ひとりで歩む道のりを前に不安に巻き込まれて足がすくんでしまったことも。そんなとき、心の支えになってくれたのが、安藤さんがかけてくれた言葉です。
「独立しても焦ってはいけない。すぐに売れようとしないように。地道にコツコツと頑張っていると、必ず見てくれている人がいるから」
さまざまな人から大切な言葉をもらい、ひとつひとつの経験を糧にしてたどり着いた独立。まるで導かれているような道のりは、藤居さんの陶芸へのまっすぐな気持ちが生み出したものです。
「独立しても焦ってはいけない。すぐに売れようとしないように。地道にコツコツと頑張っていると、必ず見てくれている人がいるから」
さまざまな人から大切な言葉をもらい、ひとつひとつの経験を糧にしてたどり着いた独立。まるで導かれているような道のりは、藤居さんの陶芸へのまっすぐな気持ちが生み出したものです。
自然が導いてくれた「自分らしさ」
岐阜県・多治見市が3年に1度開催する国際陶磁器フェスティバルという公募展に応募することを決めた藤居さん。独立へ向けて「自分らしいものを作りたい」という想いがありましたが、答えがわからずに焦る日々。何かの足がかりになれば……とオブジェを作りはじめました。
「ちょっと変わったことをやりたいなと思って、わざと収縮率の違う土を一緒にろくろでひいて焼いたときに、それがヒビ割れて裂けるような器を作りたかったんですよ。あまり縮まない土とすごく縮む土と隣合わせにろくろを引いて焼いたら、そこがぎゅっと切れたり、裂けたりするのをイメージして作ったら、すごいきれいにくっついてしまって(笑)」
――それは、自然の限りない力を目のあたりにした瞬間でした。
理論では考えられない目の前の出来事に、藤居さんは首をかしげながら何度も作ってみましたが、結果は同じ。そうこうして生まれていく器を見て、周りの人が「おもしろいね」と言ってくれるようになったのです。
――それは、自然の限りない力を目のあたりにした瞬間でした。
理論では考えられない目の前の出来事に、藤居さんは首をかしげながら何度も作ってみましたが、結果は同じ。そうこうして生まれていく器を見て、周りの人が「おもしろいね」と言ってくれるようになったのです。
藤居さんの器は、ふんわりと丸いフォルムも魅力的。両手で包み込むように持つと、心が安心感に包まれてあたたかくなります。この感覚は、まさに藤居さんの記憶に残るものと一緒。
「私が高校生のときに雑誌に載っていたカフェでカフェオレボウルが使われているのを見て、なんじゃこれって思って、それで飲むために滋賀から大阪まで行ったんです(笑)。そしたらカフェオレボウルにすごくはまってしまって。手で覆うように、両手で持って飲むってすごく気持ちがほっとするなって思って、やわらかい器がいいなと思って」
「私が高校生のときに雑誌に載っていたカフェでカフェオレボウルが使われているのを見て、なんじゃこれって思って、それで飲むために滋賀から大阪まで行ったんです(笑)。そしたらカフェオレボウルにすごくはまってしまって。手で覆うように、両手で持って飲むってすごく気持ちがほっとするなって思って、やわらかい器がいいなと思って」
想いを叶えてくれる、蹴ろくろ
右足でペダルを蹴ると下に見える車輪が動き、ろくろが回りはじめます
この想いを叶えてくれるのが、今では使う人が珍しいという蹴ろくろ。ペダルを蹴ることでろくろが回り、反動で力強く戻ってくるペダルを蹴りながら、体でリズムをとるようにろくろを回していきます。
成形するときは、ぐっと前に体を倒して。ペダルを蹴ると、体がゆれて手を通って土へと伝わっていきます
一定のリズムでペダルを蹴りながら、指先にも意識を集中。思わず難しそう…と口に出すと、「慣れれば大丈夫ですよ」と藤居さんがにっこり
「体力はすごくしんどいんですけど、ろくろをひいているときにペダルを蹴ると身体が結構動いたりするんです。動物っぽくなるというか、独特のやわらかさが出て、自分の呼吸がうつるような感じがするんです」
ゆらゆらとやさしく揺らぐ器を見ていると、土が雨を受け止め、木や花を育んできたような命の営みを感じるようです。蹴ろくろを使うことを「楽しくてしかたがない」という藤居さんの躍る気持ちが、よりいっそう、そう感じさせてくれるのかもしれません。
ゆらゆらとやさしく揺らぐ器を見ていると、土が雨を受け止め、木や花を育んできたような命の営みを感じるようです。蹴ろくろを使うことを「楽しくてしかたがない」という藤居さんの躍る気持ちが、よりいっそう、そう感じさせてくれるのかもしれません。
手をかけるほど輝く土の魅力
こうして成形されると、土が溶け出し、混ざり合った土で表面が覆われます。土の見分けはつかず、ほとんど一色に見える状態。その後、一度半乾きさせてから、かきべらや輪ガンナと呼ばれる道具を使って土を削ぎ落していくことで、混ざりきっていない内側の土の層が次第に顔を出してきます。
半乾きさせた器を削っていく道具。作業を重ねるほど、道具の先の金具も細くなっていくほど力が必要な作業
「外側と内側とでは模様が変わるんですよ。削って模様が出てきたときに、どういう模様で終わらせようかなっていうのも考えながら作っているので、模様の出方がいまいちだなと思って削っていたら、最終的に貫通してしまうこともよくあります。ペラペラになっちゃったり」
話すうちにどんどん目が輝きだす藤居さん。「一番わくわくして、今日は早く寝ようって思っても、やりだすとどんどん目が冴えてきちゃって、お、お、こうきたか!って」
その表情に、思わず楽しいですか?とたずねると、「楽しいですね」と声をはずませます。藤居さんが愛情込めて削り出すことで、土の個性が輝きを増していきます。
話すうちにどんどん目が輝きだす藤居さん。「一番わくわくして、今日は早く寝ようって思っても、やりだすとどんどん目が冴えてきちゃって、お、お、こうきたか!って」
その表情に、思わず楽しいですか?とたずねると、「楽しいですね」と声をはずませます。藤居さんが愛情込めて削り出すことで、土の個性が輝きを増していきます。
焼きあがった器は、持つ箇所によって手触りが異なりますが、それは、想像していたよりずっと微かなもの。これは、素焼き、本焼きと窯で2回焼く工程で、手や道具で器の表面を丁寧に磨いているからこそ。
本焼きしたあと、ペーパーで何度もこすって表面をなめらかに
土が暮らしになじむように
「手で持ったときの手ざわりを考えて磨いています。あと表面のくぼんだところに汚れが入ってカビが生えたら…と妄想してしまって。なので、汚れが入らないように上薬をちょっと埋め込んでいます。そのとき、キラキラと光る上薬を埋め込んでいるので、光にあたったときにきらんって光ったら、はっとしてうれしいじゃないかなって。使っている人が触って気持ちいいなとか、口があたったときにざらざらしないとか、器を重ねたときにざらざらしているのいやかなと思うので、ペーパーをかけたりしています」
藤居さんの頭の中にあるのは、いつも使う人のこと。土そのものの魅力を十分感じながらも、毎日使うものだからこそ、暮らしにすっとなじむものを――そのために、藤居さんのやさしい手間がたくさんかけられているのです。
藤居さんの頭の中にあるのは、いつも使う人のこと。土そのものの魅力を十分感じながらも、毎日使うものだからこそ、暮らしにすっとなじむものを――そのために、藤居さんのやさしい手間がたくさんかけられているのです。
「土を練るのも、ろくろで成形するのも、削るのも楽しいですね。すごく変わった削りかすが出てきたときに感動するんです。すぐにぽろぽろになって崩れてしまうので、そういうのを発見したときにガッツポーズが出たり。なんかうれしいなって。何もかもが楽しいです」
「釉薬がけ以外は(笑)」そうつけ加えると、子どものようにむじゃきに笑う藤居さん。
「釉薬がけ以外は(笑)」そうつけ加えると、子どものようにむじゃきに笑う藤居さん。
「生活の中でふすまに色の紙を貼ってみたり、たとえば料理であったり。今はお味噌づくりを夫としているんです。そういう意味で、器だけじゃない生活自体をまるまるものづくりで楽しめたらいいなと思って」
これからの夢をたずねるとこう答えてくれた藤居さん。同じ陶芸家であるご主人と、窯から出した器を見て、合いそうな食事や家を想像するのも大きな楽しみだといいます。
何気ない日常にあふれる、たくさんの楽しみがつめこまれた藤居さんの器は、人々の暮らしの中できらめき続けます。
(取材・文/井口惠美子)
これからの夢をたずねるとこう答えてくれた藤居さん。同じ陶芸家であるご主人と、窯から出した器を見て、合いそうな食事や家を想像するのも大きな楽しみだといいます。
何気ない日常にあふれる、たくさんの楽しみがつめこまれた藤居さんの器は、人々の暮らしの中できらめき続けます。
(取材・文/井口惠美子)
明るさがにじみ出た可愛らしい笑顔の藤居さん。うしろにいるのは、愛猫のむーちゃん