京都市の北西、丹波高原へと連なる山間部。
京都北山の隠れスポット“三尾”
“三尾(さんび)”とは、「高雄(高尾)」と、そこから北に連なる「栂尾(とがのお)」、「槇尾(まきのお)」の三つの地域を合わせた総称です。
SNSの発達により京都の魅力は様々に紹介されている現在では、京都の観光スポットは、古来の名所に縛られることなく、実に多彩で多様です。
また京都郊外や山間部においても、貴船や鞍馬、嵐山や嵯峨、大原や伏見等に人気が集まり、高雄を含む“三尾”は、紅葉時は混雑しても、他の季節の注目度は今ひとつです。
いわば、京都の隠れた観光スポットです。他所では味わえない格別の魅力があります。
三尾観光の魅力は、“ゆったりと”世界遺産の名刹を周りながら、“心静かに”京都北山の自然を満喫出来ることです。
世界遺産の名刹「神護寺」&「高山寺」
緑深い三山には、それぞれ「高雄山 神護寺(じんごじ)」、「槇尾山 西明寺(さいみょうじ)」、「栂尾山 高山寺(こうんざんじ)」と、由緒ある寺院が在しています。
「神護寺」は、日本の仏教史上において重要な役割を果たした寺院として名高く、また両寺院ともに美術史上欠かせぬ絵画や仏像、建築物など、多くの宝物を擁している古刹として有名です。
四季折々に美景が広がる三尾周辺
清流と木々が織りなす景色は爽快で美しく、その中でも、落合から清滝、清滝から高雄までは、それぞれ「金鈴峡(きんれいきょう)」、「錦雲峡(きんうんけい」と称され、近畿圏の景勝地として有名です。
雪木立の冬景色も、墨画のような味わいで、初夏から秋にかけては、木々が青々と美しく、川面も陽射しを受けて光り輝き、その眺めは、爽快で実に涼やかです。
ドライブも。ハイキングも。
一大パノラマを展望「嵐山-高雄パークウェイ」
山間部を走るパークウェイは、四季折々に花々が咲き乱れ、緑豊か。一般の高速道路と異なり、パークウェイ内には、保津峡のダイナミックなパノラマを見渡せる展望台の他、バーベキュー場やドックラン、釣り場等などの様々なレジャー施設が散在し、また三尾散策に便利な「高大雄駐車場」もあるので、ドライブがてら、思い思いに楽しむことが出来ます。
鯖街道の一つ「周山街道」
北山杉の美林と渓谷美を楽しむ「東海自然歩道」
清滝川沿いには、遊歩道や休憩所が整備されているので、気軽にハイキングやウォーキングが楽しめます。
紅葉時が特に素晴らしいですが、新緑から深緑の頃は、木陰も広く、涼やか。三尾から歩くのなら、清滝、鳥居本を経て、嵐山へと抜けるのがお勧めです。道案内も親切で歩きやすい遊歩道です。
ランチも。甘味も。三尾の景色とともに。
店内に腰を下ろせば、清滝川渓谷や三尾の景色を眺めながら、鮎や山菜等、地元の食材を用いた美味しいランチや名物の甘味が味わえます。
深緑も、清流も、世界遺産も楽しめる“三尾”を訪ねましょう。
本記事では、モデルコースに沿って、“三尾”の代表名所、高山寺・西明寺・神護寺を案内しながら、周辺のスポットやお勧めの飲食店を紹介します。そして、京都北山の豊かな自然を感じる、高雄から嵐山方面へのハイキングコース(東海自然歩道/京都トレイル)についても合わせて解説します。
=本記事の目次=
“三尾”へのアクセス&モデルコース
1.栂尾 高山寺
1-1.高山寺の必見!国宝「石水院」
1-1-1.光と緑と陰。庇の間&南縁
1-1-2.高山寺の国宝 『鳥獣人物戯画』と『明恵上人樹上坐禅像』
1-1-3.国宝・石水院で、一服。
1-2.高山寺(栂ノ尾バス停周辺)~西明寺周辺でランチ!
とが乃茶屋・高雄錦水亭・瓦そば 松右衛門
2.槇尾山 西明寺
2-1.自然豊かな槇尾山に抱かれた「西明寺」
3.高雄山 神護寺
3-1.険しくも美しい。石段の参道&茶店
3-1-1.参道の茶店で、ちょっと休憩。
高雄茶屋・硯石亭
3-2.山岳寺院ならではの風情と景色
3-3.空海と最澄が活躍。日本密教発祥の地「神護寺」
3-4.「神護寺」宝物の数々。
3-5.神護寺周辺でランチなら。
もみぢ家別館 川の庵・山本食堂
4.軽快にハイキング&ウォーキング。「東海道自然歩道」&「京都一周トレイル」
4-1.歩いてみよう!(所要時間)
4-2.荷物・足元に気をつけて!
旅のInformation
旅のおわりに
“三尾”へのアクセス&モデルコース
以下のモデルコースは、「栂尾高山寺」から「槇尾山西明寺」を周り、「高雄山神護寺」を周るコースです。
三尾散策のモデルコース
★1.高山寺⇒徒歩12分⇒★2.西明寺⇒徒歩20分⇒
★3.神護寺⇒徒歩20分⇒◆山城高雄バス停→約50分→京都駅
※◆~◆の所要時間:約3~4時間(京都駅からのバス往復時間、食事、休憩含まず)
1.栂尾 高山寺
奈良期に創建、平安期に神護寺の別院となり、鎌倉期において、名僧・明恵上人によって中興開山された名刹です。明恵上人は、華厳宗と密教、学問研究と実践修行の統一を図った名僧として知られ、その人柄は無欲無私にして清廉だったと伝わります。
それぞれを結ぶ敷石や石段の参道は、杉や楓、松といった老木が、天を貫かんばかりに生い茂り、猛暑の時分でも涼やかです。参道を周り歩けば、古刹ならではの神聖なる雰囲気とともに、快適な森林浴も楽しめます。
高山寺の歩き方
1-1.高山寺の必見!国宝「石水院」
明恵の再興した後の「高山寺」は、兵火によって失っているため、寺内における明恵時代の遺構はこの「石水院」のみ。入母屋造の住宅風建築を拝殿風に改めた建物は、移築と改造を繰り返し、明治中期になって現在の場所に移されました。
1-1-1.光と緑と陰。庇の間&南縁
1-1-2.高山寺の国宝 『鳥獣人物戯画』と『明恵上人樹上坐禅像』
仏像や仏画、絵画や彫刻等など、国宝、重文指定の文化財は数多く、建造物以外の指定文化財の大方は、東京国立博物館と京都国立博物館に寄託されています。
『明恵上人樹上坐禅像』は、一般的な肖像画としては人物が小さく、樹木(松林)が大きく描写された画面構成で、人物描写も、他の定型的で理想的な肖像から脱した似絵(にせえ)風に描かれています。
また、松林を仔細に観れば、小鳥が群れ、リスも生息し、樹木も自由闊達に生き生きと描かれています。自然と一体となり調和する明恵の人となり、成忍の師への愛慕、崇敬の念が、鑑賞者にしみじみと伝わってくる名画です。
1-1-3.国宝・石水院で、一服。
1-2.高山寺(栂ノ尾バス停周辺)~西明寺周辺でランチ!
川がせせらぎぐ音は、リラックス効果があることで知られています。三尾周辺の清滝川沿いには、川にせり出すように設えた川床料理の店や茶屋が数々あります。涼やかな景色と音、ランチを楽しみながら、心身をリフレッシュしましょう。
とが乃茶屋
高雄錦水亭
瓦そば 松右衛門
2.槇尾山 西明寺
西明寺の歩き方
高山寺から西明寺、神護寺へと至るのなら、以下のルートをたどるのがお勧めです。
2-1.四季折々に美しい槇尾山に抱かれた「西明寺」
西明寺はその後、神護寺から独立、兵火による再合併等の紆余曲折を経て、慶長7(1602)年に明忍(みょうにん)により再興、現在の本堂は、第五代将軍・徳川綱吉の実母、桂昌院の寄進によるもので、重要文化財に指定されています。
倍がえり!?のお守り
3.高雄山 神護寺
神護寺の歩き方
(★は必見!)
3-1.険しくも美しい。石段の参道とお休み処
清滝川のほとりから続く、急勾配の石段を登りきると、最上段には、威風堂々たる楼門が参拝者を出迎え、その先に深い緑と静寂に包まれた境内が広がります。
乱れ積みの石段と楼門の景色は、神護寺の象徴とも呼べるもの。緑に包まれた山岳寺院らしい風情と風格は、市街から足を伸ばさなければ出逢えない光景です。
3-1-1.参道の茶店で、ちょっと休憩。
高雄茶屋
硯石亭
3-2.山岳寺院ならではの景色と風格
仁王門までの参道を含め、境内は緑豊か。松や楓、紅葉や桜の古木を背景にした諸堂の景色は、秀逸。山岳寺院ならではの眺めです。神気に満ちた雰囲気も魅力です。
3-3.空海と最澄が活躍。日本密教発祥の地「神護寺」
寺院の歴史は深く、創建は天長元(824)年。
和気氏の氏寺「高雄山寺」と、和気清麻呂建立の「河内神願寺」が合併したことにより、「神護国祚真言寺(略して神護寺)」が誕生しました。
唐から帰朝したばかりの最澄により、日本初の*灌頂壇が開かれ、その数年後に、空海による金剛界の灌頂壇、わが国初の鎮護国家の*密教修法が行われました。それ以後は、和気一族から大きな信頼を得た空海が、大同4(809)年から14年間にわたって高雄山寺の住持(じゅうじ)として一切を任され、清麻呂創建の「河内神護寺」と「高雄山寺」の寺地を交換し、「神護国祚真言寺(神護寺)」と寺号を改めました。
*修法(しゅほう)とは、密教で行う加持祈祷などの法。祈願の目的によって様々な法がある。
この密教に対するものとして、言語によって明らかに説き示された(公開された)仏教のことを、“顕教(けんぎょう)”と言います。空海は、文字や言葉では真理を全て伝えられないものとして、密教の優位性を説いています。
日本における密教は、空海が伝えた真言宗系の東密(とうみつ)と、最澄による天台宗系の台密(たいみつ)があります。
しかしそれもまた、応仁の乱、戦国期の戦火等によって諸堂は焼失。現在ある寺内の堂宇や伽藍は、江戸期以降になって再建、整備したものです。
3-4.「神護寺」宝物の数々

【本尊が安置されている「金堂」内部】
特に名高く必見なのは、国宝の「薬師如来立像」です。
高さ170cmもある「薬師如来立像」は、量感たっぷりで、迫りくるような力強さ。頭部から蓮肉まで榧(かや)の一木で彫られたもので、眼と唇以外には一切彩色を施さない素木造で、貞観時代(平安前期)を代表する傑作です。「日光・月光菩薩立像(重文)」を左右に従え、金堂に安置されています。
多宝塔に安置されている木造「五大虚空蔵菩薩坐像」も、真言密教彫刻の代表作として名高く、また和気公霊廟の奥にある「梵鐘」も、日本三名鐘の一つに数えられ、共に国宝に指定されています。(「多宝塔」の塔内は、通常非公開。御開帳は、一年を通じて6日間のみ。)
当代の仏像彫刻は、前代までの乾漆造や塑造、鋳造の仏像が影を潜め、一木造が主流となり、衣紋が波打つような“翻波式”と呼ばれる表現様式が多用されるが特徴です。
仏像の素木造への転換については、様々な理由が挙げられますが、山林修行が盛んだった当代の人々が山の木々にも、呪力や霊力を感じていたことによるものが大きいと云われています。
【画像は、神護寺尾本尊「木造薬師如来立像」頭部。】
「神護寺」の国宝は他に、藤原隆信筆といわれる似絵(肖像画)、絹本著色の『伝平重盛像』『伝源頼朝像』『伝藤原光能像』、現存する最古の大曼荼羅『紫綾金銀泥両界曼荼羅(高雄曼荼羅)』、“赤釈迦”の俗称で有名な、平安仏画の最高作『絹本著色釈迦如来像』などがあり、重文の文化財も多く擁していますが、実物は京博や東博などに寄託されています。
【画像は、足利直義像とする新説がある『伝源頼朝像』。レプリカが金堂内に飾られています。】
3-5.神護寺周辺でランチなら。
もみぢ家別館 川の庵
山本食堂
4.軽快にハイキング&ウォーキング。「東海道自然歩道」&「京都一周トレイル」
4-1.歩いてみよう!(所要時間)
高雄橋→(清滝川沿いのハイキングコース)→清滝 3.8km(徒歩約1時間)
清滝→(清滝川沿いのハイキングコース)→落合橋 (徒歩約35分)
落合橋→六丁峠(保津峡の眺め)→鳥居本(徒歩約45分)
鳥居本→嵐山公園→渡月橋 (徒歩30分)
4-2.荷物・足元に気をつけて!
旅のInformation
旅のおわりに
梢を揺らす風。飛沫をあげてせせらぐ川。
木々の間に零れる光。迫くる参道の石段。
朱塗りの須弥壇。如来の波打つ衣紋。射すくめる眼。
ここ「三尾」は、霊験あらたかな、古からの山林修行の地。
仏像にも、諸堂にも、境内にも、渓谷にも、連なる山々にも。
空海の独創的な活躍や、薬師如来の存在感が示すような、溢れんばかりの活気があります。
人を含めた天地万物のすべてが、生き生きと調和しています。
森羅万象の調和から生じる“真の力”。
そうした力を肌で感じられるのが、「三尾」の魅力です。
眠っていた自身の“力”が輝き出し、
全てと繋がるような、穏やかな心持ちになるかも知れません。
蒸し暑い時分は、身も心も滞り、精彩に欠ける頃。
ぜひ「三尾」へと足を運び、“真の力”に目覚め、心休まる一時をお過ごし下さい。
【高雄山 神護寺「地蔵院」からの眺め】