「純文学」を改めて読む~vol.3~【生と死について考える物語】

「純文学」を改めて読む~vol.3~【生と死について考える物語】

日本の純文学の名作をご紹介するシリーズの第3弾。第1弾では純愛の物語、第2弾では人生の苦悩について描いた物語を扱ってきましたが、今回は生や死について考えることができる作品を集めました。重いテーマではありますが、いずれも短くてあっという間に読めるものばかりです。一度は読んでおきたい珠玉の名作をぜひ手に取ってみてください。2020年08月29日作成

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アート・カルチャー
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純文学で「生と死」に思いを馳せる

「純文学」を改めて読む~vol.3~【生と死について考える物語】
出典:stocksnap.io
「純文学ってなんだか難しそう…」そう感じている方に、初心者さんでも読みやすい&大人になってからこそ読みたい作品をご紹介するシリーズの第3弾!教養としても一度は読んでおきたい、日本の文豪の作品をご紹介します。

重いテーマに触れたい人におすすめなのが、生と死について扱った作品。以下の5つの作品は、短くてわずかな時間で読めてしまうのに、読み終わった後も心に残るものばかりです。
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目次

生と死について考えることができる純文学5選

城の崎にて(志賀直哉)

【志賀直哉について】
1883(明治16)年、宮城県生まれ・東京府育ち。「小説の神様」と呼ばれ、芥川龍之介がその文章を理想としたことでも知られます。
『城の崎にて』は、鉄道事故の療養のために城崎温泉に訪れたときのことを記した短編小説です。
出典:

『城の崎にて』は、鉄道事故の療養のために城崎温泉に訪れたときのことを記した短編小説です。

事故に遭いながらもたまたま生きながらえた自分。その一方で、何気ないことで命を落としていく、ハチやネズミ、イモリなどの小さな生き物達。その双方を静かな視線で見つめた作品です。
出典:www.pexels.com

事故に遭いながらもたまたま生きながらえた自分。その一方で、何気ないことで命を落としていく、ハチやネズミ、イモリなどの小さな生き物達。その双方を静かな視線で見つめた作品です。

生きている事と死んでしまっている事と、それは両極ではなかった。それ程に差はないような気がした。
出典:志賀直哉『城の崎にて』新潮文庫 2005年
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文庫本で10ページほどのごく短い文章ながら、生と死の本質に迫っています。

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高瀬舟(森 鴎外)

【森鴎外について】
1862(文久2)年に島根県で生まれ、10歳で上京。陸軍の軍医を務めていたことでも知られ、衛生学を学ぶためにドイツ留学をしています。代表作『舞姫』は、このドイツ留学の時の実体験が元にされています。
安楽死について考えさせられる短編。
現代で議論となっている安楽死ですが、医師でもあった森鴎外だからこそ大正時代でもその是非について思案していたのではないでしょうか。
出典:

安楽死について考えさせられる短編。
現代で議論となっている安楽死ですが、医師でもあった森鴎外だからこそ大正時代でもその是非について思案していたのではないでしょうか。

苦から救ってやろうと思って命を絶った。それが罪であろうか。殺したのは罪に相違ない。しかしそれが苦から救うためであったと思うと、そこに疑いが生じて、どうしても解けぬのである。
出典:森鴎外『高瀬舟』新潮文庫 2006年
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物語の聞き手である、殺人犯の護送役が抱いた「これは本当に殺人として裁かれるべきなのか?」という疑問を読者も同じように持つはず。

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銀河鉄道の夜(宮沢賢治)

【宮沢賢治について】
1896(明治29)年、岩手県生まれ。37歳の若さで急性肺炎のために亡くなりました。童話や詩を中心に『注文の多い料理店』『風の又三郎』『セロ弾きのゴーシュ』『春と修羅』など数々の優れた作品を残しています。
『銀河鉄道の夜』は、優しく語りかけるような文体で、幻想的な世界が描かれた童話です。
出典:

『銀河鉄道の夜』は、優しく語りかけるような文体で、幻想的な世界が描かれた童話です。

子供向けではありますが、他者のために命を投げ打つエピソードが3つ描かれています。それらの自己犠牲の死を通して「幸せとは何か?」を問う、哲学的な作品でもあります。
出典:unsplash.com

子供向けではありますが、他者のために命を投げ打つエピソードが3つ描かれています。それらの自己犠牲の死を通して「幸せとは何か?」を問う、哲学的な作品でもあります。

「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進む中でのできごとなら峠とうげの上りも下りもみんなほんとうの幸福に近づく一あしずつですから。」
出典:宮沢賢治『銀河鉄道の夜』新潮文庫 1989年
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大人になって様々な価値観に触れてきたからこそ、子供のときとは違う感想を持てる一冊。

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春は馬車に乗って(横光利一)

【横光利一について】
1898(明治31)年、福島県生まれ。川端康成と共に「新感覚派」と呼ばれました。また、「文学の神様」と称された他、志賀直哉と同様に「小説の神様」とも讃えられています。
結核にかかった妻との実話を元にした短編。死期が迫っている妻と衝突を繰り返しながらも、いずれ来る死を共に受け入れていく心理が描かれています。
出典:

結核にかかった妻との実話を元にした短編。死期が迫っている妻と衝突を繰り返しながらも、いずれ来る死を共に受け入れていく心理が描かれています。

vol.1の記事でご紹介した『風立ちぬ』も結核療養をする婚約者との話ですが、『風立ちぬ』は静かに物語が進んでいくのに対し、この作品では、病による不調や死への不安などによって引き起こされる患者の苛立ちや、それを受け止める夫の苦悩が生々しく描かれています。
出典:

vol.1の記事でご紹介した『風立ちぬ』も結核療養をする婚約者との話ですが、『風立ちぬ』は静かに物語が進んでいくのに対し、この作品では、病による不調や死への不安などによって引き起こされる患者の苛立ちや、それを受け止める夫の苦悩が生々しく描かれています。

「この花は馬車に乗って、海の岸を真っ先きに春を撒き撒きやって来たのさ」
 妻は彼から花束を受けると両手で胸いっぱいに抱きしめた。そうして、彼女はその明るい花束の中へ蒼ざめた顔を埋めると、恍惚として眼を閉じた。
出典:横光利一『春は馬車に乗って』新潮文庫 1969年
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重いテーマではありますが、会話が多いので読み進めやすいはず。美しいラストシーンは、二人が苦しみを乗り越えて至った穏やかな心情を思わせます。

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檸檬(梶井基次郎)

【梶井基次郎について】
1901(明治34)年、大阪府生まれ。結核のために31歳という若さで亡くなっています。文壇に認められ始めたのが亡くなる前年からだったため、評価が高まったのは死後でした。
学生時代から結核の症状が出ていた梶井基次郎。死を身近なものとして捉えていたからこそ、研ぎ澄まされた感覚で描かれた短編が『檸檬』です。
出典:

学生時代から結核の症状が出ていた梶井基次郎。死を身近なものとして捉えていたからこそ、研ぎ澄まされた感覚で描かれた短編が『檸檬』です。

その檸檬の冷たさはたとえようもなくよかった。その頃私は肺尖を悪くしていていつも身体に熱が出た。事実友達の誰彼に私の熱を見せびらかすために手の握り合いなどをしてみるのだが、私の掌が誰のよりも熱かった。その熱い故だったのだろう、握っている掌から身内に浸み透ってゆくようなその冷たさは快いものだった。
出典:梶井基次郎『檸檬』2003年 新潮文庫
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生や死について直接述べられている作品ではありませんが、死をもたらす病と共に日常を送っている作者から見た世界が詩的に表現されています。

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深く思考を巡らす時間を純文学と共に

「純文学」を改めて読む~vol.3~【生と死について考える物語】
出典:stocksnap.io
人の死について考えることは、日常生活ではなかなかないもの。しかし、これらの作品を通して自分の死生観が変わるかもしれませんよ。作品自体は短時間で読めてしまいますが、読了後にぜひゆっくりと考えてみてください。

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