『不祥事』は、「半沢直樹」で知られる池井戸潤による小説です。中心人物となるのは、銀行の各支店で起こった問題を解決する調査役である相馬健と、元花形窓口担当者で相馬の部下になった花咲舞。この2人がタッグを組み、訪れた支店で起こる腐敗、蹴落とし、融資トラブル、情報ディスクの紛失…といった問題を、エンターテインメント性豊かに描き切っています。女版「半沢直樹」との呼び声も高い花咲舞が、清清しくバッサバッサと問題を解決していく様子は痛快！銀行員でなくても分かりやすい文章なので、ストレスなく小説を楽しみたい方にもおすすめです。

社労士とは、企業における人材についての専門家。採用や退職、社会保険、年金など、社員の疑問に答えつつ、社会保険の手続き業務などを担当しています。こちらの物語の主人公は、そんな社労士として働く朝倉雛子。26歳、恋人なし、社労士としてはまだ駆け出しです。雛子はクライアントの会社で問題が起きるとすぐ解決に乗り出していくなど、困っている人を放っておけない性格。新米ながら頑張って問題に取り組むその姿は、読み手をさわやかな心地にしてくれます。社労士というお仕事について詳しくなれるだけでなく、社員として企業に勤めている方であればいつかは直面するかもしれない労働問題についても知ることができるのも魅力です。

藤崎亜季は、中堅飲料メーカーで働くOL。新たに移動になった知的財産部で、これからしっかり学ぼうと張り切っていました。しかし、上司を怒らせて落ち込んでいた矢先に、今度は服飾ブランドを手掛ける親友に商標について訴えると「警告書」が届き…。知的財産にかかわるさまざまな問題に直面しながら、知識を深めていく亜季。みんなが力を尽くして生み出した、”汗と涙の結晶の技術”を守る物語です。読みやすい文体ですが、知的財産を守ることに真っ向から向き合っており、亜季と一緒にストーリーをなぞることで、普段はなかなか知ることのできない知的財産を身近に感じることができます。

主人公は、都内で正社員として働く28歳のテルコ。マモちゃんという付き合ってもいない男性にほれ込み、次第に生活の中心がマモちゃんになっていく様子が描かれます。仕事終わりに熱があるからと呼び出されては、「帰ってくれないかな」と言われ引き下がる。食事に誘われれば、仕事中にも関わらず退社してしまう。次第に気持ちがエスカレートし、マモちゃん以外は「どうでもいいこと」になり、仕事や生活もままならなくなっていきます。恋人に全力で尽くす、片思い、いや依存小説。かつてそんな恋をしたことがある方なら、苦々しく思いながらも共感できる物語になっています。

理想の人はちょうどよく自分を愛してくれず、特に愛していない人は熱烈に愛してくる―恋愛のもどかしさを体現するような状況に陥っている、26歳の江藤良香が主人公です。中学時代の片思い以来恋愛経験のない良香は、理想と現実、2つの恋愛の間で、妄想を膨らませたり、葛藤したり…。主人公のあまりの妄想ぶりに痛々しささえ感じますが、それは読み手が共感してしまうところもたくさんあるから。自分の恋を客観的に見てみたい方や、日常的につい妄想してしまうという方におすすめの1冊です。

主人公の知世は、仕事に忙しい30歳。最近、仕事で知り合いになった年上の椎名さんとデートを重ねています。旅に出かけたり、おいしいものを食べたり、時には自宅で一緒に同じ鍋をつついたり。しかしある時、椎名さんから衝撃の事実を伝えられて…。知世は、友達や家族とも向き合いつつ、しっかりとした考えや価値観を持った普通の大人の女性。知世が椎名さんの秘密を知り、どう受け入れ、どのような関係になっていくのかが描かれます。大切な人と過ごす何でもないひとときがいとおしくなる、そんな物語。ぜひ二人の恋の行方を、本を手に取って確かめてみてください。

『チョコレートコスモス』は、有名な映画プロデューサーが手掛ける舞台をめぐって、二人の天才少女がぶつかり合う物語です。1人は若手女優の響子。才能豊かですでに十分に評価されていましたが、舞台のオーディションには選ばれませんでした。そこで勝手にオーディションに乗り込み、もう1人の少女・飛鳥の演技を目にします。飛鳥は無名ながら、圧倒的な演技力を持っていて…。演技の奥深さや、演者の想いや嫉妬といったものが臨場感たっぷりに書き込まれ、舞台の観客になったかのような気持ちになれる1冊です。時間を忘れて、演劇の世界に入り込んでみましょう。

28歳、生粋の沖縄人である伊波まじむは、「純沖縄産のラム酒を造りたい！」という夢を掲げます。そのために訪れたのは、沖縄本島から東に約400km進んだ海の上に浮かぶ、南大東島。南大東島のサトウキビを使って、島の中に工場を建て、ラム酒造りを始めることが目的です。持前の熱意と行動力で、土地の借り受けや醸造家の獲得などを成し遂げ、夢に向かってまっすぐに進むまじむの姿には心が揺さぶられます。実話をもとにしており、とても読みやすく自然と心の中に入ってくる物語。元気をもらえるサクセスストーリーを読みたいあなたにおすすめです。

会社員の淳子は、仕事の合間を縫っては山に出かける山登り好き。「女なんかに登れるはずがない」という男性の言葉に奮起して、女性だけの隊でエベレストの頂を目指すことになります。通常の登山とは異なり、最高峰のエベレストへ行くには訓練、手続き、装備などさまざまな準備が必要です。そのうえ女同士の人間関係にも軋轢が。エベレストに向かう前には問題が山積していましたが、理解ある夫の励ましで、ついに最高峰へ進み始めます。実はこの物語、女性としては世界初のエベレスト登頂者である日本人をモデルに、唯川恵が読みやすく小説化した実話。淳子の熱意と行動力に胸を打たれること間違いありません。

高校三年生の真理奈は、医学部を目指したいと告げたことで家族が代々続く銭湯を廃業したうえ、慣れない親戚との同居生活が始まったことで悩んでいました。さらに祖母のぼけが進んだり、学校で友人との問題にも巻き込まれたりと、閉塞感で押しつぶされそうな状況です。そこに颯爽と登場したのは、母方の祖父「晴じい」。ハーレーに乗って現れ、真理奈をバイクの旅へと連れ去ります。最初は抵抗感のあった真理奈でしたが、次第に凝り固まっていた心がほぐされていきます。切っても切れない家族だからこその辛さはあるものの、爽快な晴じいが自然と明るい気持ちにしてくれる物語です。

主人公の椿は、文房具メーカーで経理として働くOLです。沖縄に出奔してしまった妹・鈴菜の子供どもである朔と一緒に暮らしています。朔は内気で、集団にはすぐなじめない性格。いわゆる育てやすい「良い子」ではなく、椿はいつの間にか他の子どもと比べてしまっていました。それに気づいた椿は、大人としてどうすべきか考えるようになり…。普通の親子とは？普通の「いい子」とは？子供とのかかわり方を考えさせられます。

彩はフリーターとして働く34歳。バイト先で出会ったボーイフレンドの伊藤さん（54歳、バツイチ）と暮らし始めて1年がたったころ、兄から連絡が入ります。兄からの依頼は、「父と一緒に住んでくれないか」。もちろん彩は断ろうとするのですが、74歳の父は伊藤さんのことを知ってもなお、家に住み着いてしまいます。そんな父は、実はある秘密を抱えていて…。絶妙な共同生活の緊張感がただよいつつも、随所に挟み込まれるユーモアで楽しませてくれます。新しい家族の関係を作っていく物語です。

ダイエットを考えている方、必読！『あなたのゼイ肉、落とします』は、「ダイエットしたい！」「痩せたい！」という気持ちを抱えた4人のオムニバス小説です。登場人物はそれぞれさまざまな理由で太ってしまい、コンプレックスを抱えている人ばかり。大庭小萬里というダイエットカウンセラーから個人指導を受け、ダイエットを目指すことになります。そこで分かるのは、体のぜい肉を落とすためには、心のぜい肉も落とさなければならないということ。ダイエット中や自分の身体に悩んでいる時に、心を爽快にしてくれる物語です。

「周囲にうまくなじめない」「私はどこか欠落している」そんな生きづらさを感じたことはありませんか？この物語の主人公は未熟児で生まれ、父が突然姿を消し、母も家庭を顧みないという環境で育ちました。それゆえか「自分には何かが足りない」という想いを抱いて生きてきましたが、ある時転機が訪れます。ヘルパーとして派遣された「先生」と呼ばれる人の家で、「額装家」である男性と出会ったのです。額装家とは、思い出の品に額をつける人のこと。主人公はその人を手伝うようになり、先生との交流も深めていくうちに、額装したくなるような温かい想いを抱きはじめます。生きづらいと感じている方におすすめしたい1冊です。

夫の小野寺くんが突然いなくなってから、1か月半後。妻のまりあが南の島に降り立つシーンから、物語は始まります。島の助産院の院長をしている鶴田亀子と知り合いになる中で、まりあは思いがけず自分が小野寺くんの子を身ごもっていることを告げられて…。まりあはかつて親に捨てられ、家族から受ける愛を知らずに児童施設で育ちました。追い打ちをかけるように夫に去られ、自分だけが不幸であるかのように落ち込んでしまいます。しかし島の自然やそこで暮らす人々、食べ物に囲まれて過ごすうち、自分の過去と向き合い始めるのでした。読み進めていくうちに心がすうっと軽くなっていく1冊。前に進む勇気が欲しいあなたにおすすめです。