短編集には魅力がいっぱい
PART1:知りたい!本好き作家が選ぶ名短編
米澤穂信 編集『世界堂書店』(文藝春秋)
『女性作家が選ぶ太宰治』(講談社)
言わずと知れた短編の名手・太宰治の作品から、7人の女性作家がそれぞれ1作ずつを選んだ短編集です。有名なものから目にする機会が少ないものまで、太宰治の多面性が光るセレクトで、今更太宰と言わせない新鮮さが感じられます。それに加えて、この本の魅力がもうひとつ。それぞれの選者である作家さんが書き添えた紹介文が秀逸なのです。原稿用紙1枚程度の短文ながら、いえ短文だからこそ?言葉を尽くし、気持ちがこもった7人の紹介文は、それだけでも一読の価値があると感じます。
北村薫・宮部みゆき 編集『とっておき名短篇』(筑摩書房)
選者としても定評のある作家・北村薫さんと、多ジャンルで筆を取る宮部みゆきさんが選んだ短編集です。それぞれが選書するだけでなく、お二人での解説対談が収録されており、北村薫ファン・宮部みゆきファンには嬉しい一冊となっています。宮部さんの頭の中を覗いてみたい!と思っている人はたくさんいらっしゃるはず!チャンスですよ!普段あまり目にすることがない作家さんの作品も多いのですが、ナビゲーターが確かなので安心して読み始めることができますね。
PART2:違和感を楽しむ。どこか不思議な短編集
乙一『箱庭図書館』(集英社)
読者から没になった小説を投稿してもらい、乙一さんがリメイクするという企画小説集です。もう企画からして面白そうではないですか!没ネタだった原案を組み立て直し、別々の作品だった短編達をゆるくリンクさせ、1冊を通してまとまった世界観を構築する。乙一さんの構成力の見事さに惚れ惚れします。そして何よりどの短編も面白い!乙一さんの絶妙な語り口で、あっという間に短編の世界に引き込まれます。これ、本当に没ネタだったの?
中島京子『妻が椎茸だったころ』(講談社)
くも膜下出血で突然亡くなった妻の代わりに料理教室に行く羽目になる男性。妻が残した料理ノートに書かれた日記のような文章を読むうちに、自分が知らなかった妻の一面を知ることに…。表題作「妻が椎茸だったころ」始め、微妙に現実とずれたような不思議な味わいの短編が5編収められています。椎茸、食虫花、ハクビシンなどどこか風変わりな味わいの題材を集めながらも、なんとなく現実と地続きに感じられるのは、登場人物に対する筆者の暖かな視線が感じられるからかもしれません。
『だから見るなといったのに:九つの奇妙な物語』(新潮社)
『奇妙』がテーマのアンソロジーです。『恐怖』ではなく『奇妙』。ぎゃー怖い!というホラーではありませんので、ご安心ください。とはいえ、じわじわ来る薄気味悪さ、尾を引く読後感……。読んだ後も、しばらくはボタンを掛け違えたまま過ごすような気持ち悪さが残るかもしれません。しかしながら、読後の余韻で日常がしばらく違った色に見えるような、そんな時間も読書の醍醐味と言えるでしょう。
PART3:たたみかけるロマンス!恋愛短編集
尾形真理子『試着室で思い出したら本気の恋だと思う』(幻冬舎)
暮らしも悩みもそれぞれ違う5人の女性に共通しているのは、1つのセレクトショップ。試着室でそれぞれ誰かを想い服を選ぶ5人の恋愛をそれぞれ描く短編集です。服を選びながら自分と向き合い、似合う服を見つけていくことで前向きに歩き出す彼女達の姿は、読んでいるこちらまで明るく爽やかな気持ちにしてくれます。“服を買う”という心が浮き立つシュチュエーションが小説全体を明るく軽やかに彩る、元気が出る1冊です。
『運命の恋』(KADOKAWA)
『運命の恋』というタイトルで、甘く切ない恋物語の数々を期待してはいけません。村上春樹さん、角田光代さん始め表紙に並んだ作家名を見ていただければ、一筋縄のラブストーリーでは終わらないのは明白でしょう。内容は期待通り、いえ期待以上!ふわふわした幸福感などなんのその、どっしり地に足がついた読み応えたっぷりの名作揃いです。ああ、本当に恋の形は色々で、まさにこれは『運命の恋』。
『恋愛仮免中』(文藝春秋)
まだ恋愛にはちょっと手が届かない、『仮』がもどかしい恋愛小説集です。仮免という響きと爽やかな表紙で若者の恋かと思いきや、いい年した大人がうまくいかない恋に奔走するホロっと苦いお話も。どれも切なくまぶしくて、でも仮免の先にはきっと本免許が待っている!普段あまり恋愛小説の印象がない作家さんの名前が混じっているのも、ちょっと読んでみたくなりませんか?
PART4:アンソロジーは縛りがあるから面白い
朝井リョウ『発注いただきました!』(集英社)
企業からオファーを受けて書いた文章を『オーダー・作品・感想戦』のセットで収録した、読みごたえたっぷりの短編20本。発注内容を知ってから本文を読むと、「朝井リョウさんのサービス精神が発揮された結果、この作品はこうなったのか!」と2倍面白く感じられること請け合いです。さらにその上、作者自らが解説を加える感想戦では、軽妙なエッセイで知られる朝井節が炸裂!小説もエッセイも、どちらも楽しめるエンタメ本に仕上がっています。必読!
『〆切本』(左右社)
作家さんとは切っても切れないのが〆切。それゆえに、〆切にまつわる書き物は多いものです。そんな〆切にまつわる随筆、日記、手紙など、夏目漱石から村上春樹、はたまた西加奈子にいたるまで、90人の書き手による切実な記述を集めました。追い詰められ、我を忘れてもなお光る文章表現に感嘆したり、大人気ない言い訳に親しみを感じたり。さてさて、表紙の文言はいったい誰のものでしょうか?この先どう続くのでしょうか?お楽しみに!
『20の短編小説』(朝日新聞出版)
20人の作家が、それぞれ『20』をテーマに書いた短編集です。1編ずつが短く、次々違うテイストを味わえるのが本作の楽しいところ。色々なおかずが少しずつ詰まった幕内弁当のようなワクワク感が味わえます。しかも、どれも間違いのない美味しさ!新しい作家さんとの出会いを求めて読むのにも最適な短編集です。
PART5:まるで読むフルコース!名人揃いの短編集
『短編工場』(集英社)
この本は12人の豪華メンバーの作品を集めた短編集です。短編といえども1編ごとのボリュームが少なすぎず、それぞれの作家さんの持ち味が十分感じられるのが嬉しいところ!しっかりとした個性のある作家さんばかりで文章を読み比べるだけでも面白く、内容もバラエティーに富んでいて飽きさせません。みなさん他にも作品をたくさん出している作家さんなので、これを読んで新しく良いなと思う作家さんに出会えたなら、そこからまた読書の世界が広がりますね!
『宮辻薬東宮』(講談社)
宮部みゆき、辻村深月、薬丸岳、東山彰良、宮内悠介の5名の作家が、順番にリレー形式でつないでいく連作短編集です。なんといってもトップバッターの宮部みゆきさんは流石の面白さで、一気に作品の世界に引き込まれてしまいます。そこから物語はどう進んでいくのか……。書き手が変わることでより先が読めない展開が面白く、それでいてうまくリレーしていく構成にページをめくる手が止まりません!
『患者の事情』(集英社)
少し古風な面々をよりすぐり、『患者の事情』をテーマにした短編を集めたのがこちらの作品。三島由紀夫、遠藤周作、北杜夫……椎名誠さんも懐かしいですね!大御所揃い・名人揃いの本作は、ちょっと暗いテーマがまた絶妙にマッチして読み応えたっぷり。日本語の整った筆致も心地よい作品揃いです。コミカルなものから、つい後ろを振り返ってしまうような不気味な話まで、今読んでも新鮮な14の小品をぜひお楽しみください。
好きな作家さんの本棚を覗いてみたい!読書好きなら一度は妄想する夢でしょう。この作家さんのルーツはどこなのか、何を読めばこんな話が書けるのか。これはそんな興味に応えてくれる1冊です。小説好きで知られる作家米澤穂信さんが、これこそはと愛してやまない物語を世界中から集め、全ての読書好きに贈ります。米澤穂信さんが好きな方にも、物語が好きな方にも。