新緑の季節にぴったりな小説はいかが?
- 寒さに負けない体を目指す!ゆらぎがちな冬のご自愛ケアキナリノ編集部
初夏が舞台の小説を読みたいひとへ
凪良ゆう『わたしの美しい庭』(ポプラ社)
梨木香歩『西の魔女が死んだ』 (新潮文庫)
不登校を始めた中学生のまい。西の魔女と言うのはまいのおばあちゃんのこと。春から初夏の花が咲き乱れるイングリッシュガーデンと豊かな自然の中で、まいはおばあちゃんと魔女の修行をする。ワイルドストロベリーでジャムを作ったり、かけがえのない1カ月を過ごす。そしてラストには思いがけない形でおばあちゃんの愛情に触れるあたたかくも切ないストーリー。初夏にぴったり。
有川浩『植物図鑑』 (幻冬舎文庫)
表紙イラストの雰囲気で一見森見登美彦作品かと思うが、『図書館戦争』や『阪急電車』の有川浩作品。酔っぱらっていた23歳のOLさやかは、ある日道端で拾ったイケメンの男の子・樹の手料理に感動。そのまま半年間居候させることに。樹は野草にとっても詳しく、河原などで摘んできて、おいしい野草料理を振る舞ってくれた。そんな日々の中でいつしかさやかに恋心が芽生えてしまい…。きっと野草を摘みに行きたくなる春のラブストーリー。本物の図鑑の様にたんぽぽなどの野草の写真つき。樹の野草料理レシピは必見。
爽やかな青春小説を読みたいひとへ
三浦しをん『神去なあなあ日常』(徳間書店)
『舟を編む』で本屋大賞を受賞した三浦しをんの作品。横浜生まれ都会っ子の勇気は、先生の薦めで高校卒業と同時に山奥の神去村で林業に従事することになり…?!見渡す限り山の現地では携帯の電波は届かないし、ヒルや花粉症に悩ませられたり前途多難。しかし、百年後を考えて木を植えるという山の壮大さや雄大な自然に魅了されていく。山の神事のシーンや主人公が山の神様の娘と出会うなど、青春版のジブリのような日本の田舎のファンタジー要素があたたかい気持ちにさせてくれる。
佐藤多佳子『一瞬の風になれ』第一部 イチニツイテ (講談社文庫)
主人公・高校1年生の新二は天才スプリンターの幼馴染・連の走りに惹かれ、陸上部にへ入部を決意。陸上初心者の新二の目線からストーリーが展開されるので陸上の知識がなくても分かりやすい。短距離走の躍動感が文章からダイナミックに伝わってくる。佳境であるの400mバトンリレーは目が離せない展開に…!風のように疾走する珠玉の爽やかスポーツ小説。
太宰治『女生徒』(角川文庫)
太宰治に送られてきた少女の日記から着想を得て書かれたエッセイ風短編小説。とある少女の一日(5月1日の起床から就寝まで)が瑞々しい語り口で描かれている。相反する気持ちに揺れる思春期特有のメランコリックな感性は、いつの時代も変わらず共感してしまう。着物の合わせの話やボンネット風の帽子など80年前の作品ということが伺えるが、それもまた小粋。庭に咲く苺の花や先生の胸ポケットのカーネーションなど春の草花が彩りを添えている。短いのでさらっと読みたいひとにおすすめ。
新生活の疲れを癒されたいひとへ
古内一絵『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』(中央公論新社)
元イケメン・エリートサラリーマンの過去を持つドラァグクイーンのシャール。路地裏にひっそりとあるカフェを夜だけオープンしている。仕事や日常をひたむきに頑張りながらも、なにかを背負った悩める人びとが導かれるように夜食カフェ「マカン・マラン」へ。何か派手に世直しをするわけではなく、シャールはおいしくて優しさがこもった料理を出し、背中を押す。悩める人びともその人なりの答えを出していくというほっこり癒されるストーリー。
万城目学『鴨川ホルモー』 (角川文庫)
タイトルの『ホルモー』とはホルモン?食べ物のこと?いいえ、違います。実は、摩訶不思議な競技名のこと。二浪して京大に入学した安倍は京都・5月の葵祭でエキストラのアルバイトをした時、同じ京大の新入生である高村と知り合う。その帰り道、ビラを手渡され京大青竜会という怪しげなサークルに勧誘された2人。安倍は、新歓コンパで好みの美鼻の持ち主・早良京子に惹かれ入部を決意する。そして祇園祭りの前、京大青竜会はただのサークルではなく、なんと謎の競技『ホルモー』で戦うためのメンバー集めが目的だと知らされる。しかも競技には鬼や式神が登場…?!現実世界からいつの間にか不思議な世界に迷い込んでしまう古都ファンタジー。思わず日常を忘れて楽しめる。
近藤史恵『ときどき旅に出るカフェ』(双葉社)
カフェ×推理モノ。37歳ひとり暮らしのOL・瑛子は家の近くのカフェに立ち寄る。そのカフェ・ルーズを経営していたのは6年前まで同じ会社で働いていた同僚の円だった。謎解きとカフェのメニューが絡み合うのが気持ちいい。必見なのは、謎解きだけでなく様々な外国のカフェメニューやスウィーツの細やかで鮮やかな描写。表紙の赤いスープは「北欧のイチゴのスープ」。日本では見慣れない食材や調理法に、思わずその国に思いを馳せプチトリップ気分も味わえる。旅行好き・グルメ好きなひとに是非。
あたたかい気持ちになりたいひとへ
坂本司『和菓子のアン 』(光文社文庫)
高校卒業後の進路を決められないまま、5月からデパ地下の和菓子屋で働き始めたぽっちゃりタイプの女の子アンちゃん。ちょうど端午の節句の時期、季節のおすすめ菓子は、練り切りで作られた「兜」「薔薇」「おとし文」。ある日、上生菓子を買いに来たOLの注文を店長の椿が推理し始める。後日また買い物にきたOLは「おとし文」を1つ、「兜」を9つという一風変わった注文をした。一体なぜ、この注文だったのか?和菓子の奥深さや謎を解き明かすほのぼのストーリー。仕事を通してアンちゃんの成長も見られる。読み終わるころにはきっとおいしい和菓子が食べたくなっていること請け合い。
小川糸『キラキラ共和国』 (幻冬舎文庫)
『ツバキ文具店』の続編。鎌倉を舞台に祖母から譲り受けた文具屋を営みながら、「代書屋」も請け負っている鳩子。自分の気持ちを素直に言葉にできないひとに代わって手紙を書く仕事だ。ある日、母親宛てに母の日の手紙を書きたいと盲目の少年が訪ねてきて…。作中に登場する手書きの手紙が挿絵になっていて、手書きの手紙のよさ、あたたかさに改めて気づくことができる。あなたも誰かに手紙を書いてみませんか?
レイチェル・ウェルズ『通い猫アルフィーの奇跡 』(ハーパーBOOKS)
愛する飼い主が亡くなり、路頭に迷うことになった猫のアルフィー。辿り着いた住宅地で"通い猫"として生きていくことを決める。訪れる家々は心がすさんだ無職の男性や育児ノイローゼになった主婦など問題ばかり。それを見かねた1匹の猫が奇跡を起こす…!イギリス生まれのハートフル猫ストーリー。人びとを幸せにしようと奮闘するアルフィーに思わず涙。猫好きにももちろんおすすめ。シリーズもので表紙イラストがどれも可愛い。
前向きな気持ちになりたいひとへ
新生活も1か月を過ぎて新しい悩み事や不安もある時期。そんな時に、前を向いて歩いていけるような、人のあたたかさに触れられる小説をどうぞ。
松宮宏『まぼろしのパン屋』(徳間文庫)
表紙はパンにまつわるほっこりストーリーを連想してしまうが、50代サラリーマン部長のリアルな日常描写から始まる。そこため最初はちょっととっつきにくいかもしれないが、読み進めていくうちにどんどん物語に引き込まれる。突然出世した部長は、ある日見知らぬ老女から幻のパンをもらうことで、人生が思いもよらぬ方向へ動き出していく。ふと立ち止まり、自分の正直な気持ちやしあわせについて考えるきっかけになる作品。テンポよく読みやすい、ほろりと胸がいっぱいになる人情もの。
原田マハ『生きるぼくら』(徳間書店)
いじめに合い、ひきこもりになっていた麻生人生。ある日頼りにしていたお母さんがいなくなってしまう。残されていた年賀状には蓼科に住んでいる祖母から「もう一度会えますように。私の命が、あるうちに」と書かれていた。人生は4年ぶりに祖母に会うために外へ出ることにした。優しい祖母の元で対人恐怖症のいとこ・つぼみとともに田植えなどの米作りを経験し、人のあたたかさに触れ、生きていく素直さを身に着けていく。果たして、収穫のころには人生たちは前を向けて歩けるようになっているのか。こころに浸みる感動のストーリー。疲れた時は、マーサおばあちゃんのあたたかい愛情に触れてほしい。
東野圭吾『クスノキの番人』(実業之日本社)
東野圭吾の最新作。刑務所に送られそうになっていた玲斗は、いきなり現れた叔母から弁護士をつけてあげる代わりに願い事を叶えてくれるというクスノキの番人になるように言われる。伏線やラストの意外性など楽しませてくれる長編エンターティメント。東野作品だけど、殺人など残酷な描写もないので安心して読めます。読後はじーんとあたたかい気持ちに。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が好きなひとにも◎。
統理と小学生の百音は血のつながりのない父娘だけど一緒に住んでいる。同じマンションのゲイ・路有がご飯をよく食べに来るので3人で食卓を囲む。家族じゃないんだけど、家族みたい。マンションの屋上庭園には縁切り神社が祀ってあるため、"縁切りマンション"と呼ばれている。あらすじを読むともしかして悲しいお話しかな?と身構えてしまうが、どんなひとも"あなたのままでいいじゃない"と肯定してくれる思いやりあふれるストーリー。表紙のイラストの様にじんわりあたたかく優しい。