今を生きる貴方の心に、きっと響く― 女性詩人が紡ぐ言葉の世界へ
あなたは普段から詩に親しんでいますか?
もしかしたら学生時代の、国語の授業以来という方がいるかもしれません。大人になった今、あらためて自分のペースで読んでみると・・・言葉のリズムが心地よく、毎日頑張って生きるあなたの背中を押すような、特別な煌めきを与えてくれる作品にも出会えることでしょう。
毎日頑張る女性へ贈りたい、珠玉の7冊をご紹介
人生は楽しいことばかりではありません。辛いことや苦しいこと、全部ひっくるめて、「生きて」いかなければなりません。上手に緩急をつけて生きるためのヒントを与えてくれる詩集を7冊、ご紹介していきます。
気軽に携帯したり、お部屋の中の目の届くところに飾ったり。あなたにとってこころのサプリのように、詩集に親しんでみてくださいね。
見えないけれど、そこに在る。その世界観を感じる
「永遠の詩」
同じものを見ていても、視点を転じるとまったく違うかたちに見える。「永遠の詩」は、わたしたちの暮らしにも新たな視点をくわえるヒントをくれるような一冊です。
優しいふんわりとした気持ちが、心の底からあふれてくる
「くじけないで」
92歳を過ぎてから詩作をはじめたという柴田トヨさん。平成22年に出版した処女詩集「くじけないで」が発行150万部を超えるベストセラーとなり、その半生は映画化もされ、多くの人の心を惹きつける話題となりました。
柴田トヨさんが毎日の暮らしの中で感じるささやかな幸せがふんわりと優しく、わたしたちに寄り添ってくれます。トヨさんの「くじけないで」の中には力強く生きること、いくつからでも始めるのに遅いということはないことなどさまざまなメッセージを読み解くことができます。
長く生きてきたからこそ紡ぎだされるトヨさんの言葉は、これから先、同じように年を取っていくわたしたちを明るく照らしてくれます。
本書は大きな文字で読みやすいので、すいすいとその世界に浸りやすく、時折入る可愛らしいイラストにも注目です。
揺れ動く女性のこころを、みずみずしい感性で表現
「すみれの花の砂糖づけ」
1964年生まれの江國香織さん。「きらきらひかる」や「東京タワー」など映画化された小説も多く、恋愛小説の女王ともよばれています。心の奥深くからふっと湧き出る瑞々しい言葉は、わたしたちにの感性にダイレクトに響くものがあります。
江國香織さんらしい言葉の選び方は、「この感じ、分かる!」という共感を強めてくれるものばかり。読者があいまいに感じている毎日の暮らしの中の感情を、分かりやすく、言葉として表してくれています。
すみれの花の砂糖づけをたべると
私はたちまち少女にもどる
だれのものでもなかったあたし
ときに子供のように、ときに大人の女のように。ひとりの女性の揺れ動く心がじんわりと伝わってくるような詩の数々は、江國香織ファンには慣れ親しんだ空気感のようなものを感じます。ピュアであっけらかんとした中に、影のようにニヒルな視点が息づく。そんなアンバランスなちからの在り方に不思議と魅了される一冊です。
仕事を持つ女性の深層に、共感とともに、鋭く切り込む
「表札など―石垣りん詩集」
1920年生まれの石垣りんさんは、家族を支えるため、14歳から定年まで銀行で働き続けたという職業婦人でもある詩人です。働く女性の生き方、自分自身として生きるとはどういうことなのかと問いかける詩は、現代社会を生きるわたしたちにも共感できることの多いものばかり。
自分の住む所には
自分の手で表札をかけるに限る。
精神の在り場所も
ハタから表札をかけられてはならない
石垣りん
それでよい。
(一部抜粋)
自分の名前を詩の中に組み入れるという実に斬新な手法は、ほかの詩人にはみられないものですよね。代表作の「表札」は自分らしく自分自身を生きるために必要なことを端的にあらわしています。まっすぐでぶれない芯があるからこそ書ける素晴らしい詩ですね。
凛として「生」を全うした女性詩人
「倚りかからず」
2006年に79歳で亡くなるまで凛として、お洒落を愛した生き方をしていたという茨木のり子さん。代表作である「倚りかからず」をはじめとして、「自分の感受性くらい」、「わたしが一番きれいだったとき」など女性のこころに響く詩を多く発表された女性詩人として今なお、人気が衰えることはありません。
「倚りかからず」はわかりやすい言葉で、わたしたちを励まし、心を奮い立たせてくれる詩集です。毎日の繰り返しにちょっぴり疲れて、弱い気持ちが溢れてきたら、そっとページをめくって、静かなひとときを過ごしたい。そう思わせてくれるずっと大切にしていきたい一冊です。
もはや
いかなる権威にも倚りかかりたくはない
ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい
じぶんの耳目
じぶんの二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある
倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ
(一部抜粋)
丁寧な暮らしぶり、潔い生きざま。こうしたものは、今も残されている茨木のり子さんの自宅や、きちんと死を見つめ、用意されていた遺書などを見ても分かります。
人にはいろいろな時が訪れます。茨木さんの詩には、女性が凛として生きるヒントが散りばめられています。読んでいると、ふっと笑みが訪れるような詩。心に厳しく刺さる詩。その時々で、わたしたちの向き合い方、捉え方も変わっていきます。
ありふれた日常の中での心の揺れを、丁寧にすくい取る
「わたしを束ねないで」
こちらは中学生の国語の教科書にも載っている代表作「わたしを束ねないで」をはじめとする新川和江さんの詩集です。
リズミカルな語感の良さと、軽やかな言葉選びはティーンエージャーから大人の女性まで深く魅了しています。「わたしを束ねないで」は2019年に上皇后美智子様が英訳された朗読を出版されたことでも話題となった詩のひとつです。
ふとした日常の中に見つけた胸に迫る出来事やしなやかな心の動きを感じる発見がページを繰るたびに見つかります。
1929年生まれの新川和江さん。吉原幸子さんとともに「現代詩ラ・メール」誌を主宰し、多くの女性詩人の活動を支持してきたことでも有名です。
(前略)
<わたしが生んだ!>
どんな詩人の百行も
どんな役者の名台詞も
このひとことには
適いますまい
吾子よ おまえを抱きしめて
<わたしが生んだ!>
とつぶやく時―
世界じゅうの果物たちが
いちどきに実る
熟した豆が
いちどきにはぜる
この充実感
この幸福
『赤ちゃんに寄す』より
女性として恋をし、妻となり、母となる。「女の一生」を念頭に編集されたという詩集「わたしを束ねないで」は、女性が人生の折々に感じるさまざまな想いを、自由な言葉で綴っています。同じ詩を読んでも、年を経るごとに違った何かを感じられる一冊です。
静かにそっと、心に寄り添ってくれる一冊
「詩集 すみわたる夜空のような」
銀色夏生さんは、1983年に作詞家としてデビューし、詩やエッセイ、物語など150冊を超える著書があるという、日本を代表する作家のひとりです。詩集の累計発行部数はなんと1150万部を超えるそう。いかに多くの人が銀色夏生さんの詩に触れてきたのかということが分かる数字ですよね。
やわらかな日本語が並ぶ「詩集すみわたる夜空のような」は、ふとした瞬間に沸き上がった気持ちが口からこぼれおちるように聞こえてくるのが感じられる詩集です。
写真が添えられた詩集が多い銀色夏生さんですが、こちらの本はシンプルに文字だけが並ぶタイプの詩集です。それだけに、言葉の持つインパクトが、わたしたちにダイレクトに流れ込んできます。
何かがだんだんあいまいに死んでいくようなつきあいより
すみわたる夜空のような孤独を
こころの中に巣くうもやもやとしたなにかに戸惑うときも、銀色夏生さんの詩を読めば、新たな共感や発見に助けられます。ひとりでも、明日に向かう力をもらえるような気持ちになりますよ。
「私と小鳥と鈴と」で有名な金子みすゞさん。26年という短い生涯の中で、神羅万象すべてにやさしいまなざしを注ぎ、多くの人が気づかないような視点で表現し続けた人です。波乱に満ちた人生のなかにありながら、穏やかに、そしてまっすぐに詩を書き続けました。