日常の存在になりたい。そして日常から社会を変えていきたい
東京・学芸大学駅から徒歩6分。グローサリーストア「FOOD&COMPANY(フードアンドカンパニー)」の外観はまるでおしゃれなアパレルショップや海外のお店のよう。店内に一歩入ると、野菜から加工食品、日用品まで、まさに「日常」に根ざした商品がセンスよく並んでいます。セレクトされたアイテムはどれも生産者や加工の工程がはっきりしている安心できるもの。デザイン性の高いパッケージの商品も多く、見ているだけで楽しい気持ちになります。
広々とした店内。中央には、その時のおすすめ商品が並びます
「スーパーって誰でも行く場所だと思うんですよね。毎日はもちろん、一日に何度も行く人もいるかもしれない。私たちは、そんな日常の存在になりたい。そして日常から社会を変えていきたいんです」
こう話してくれたのは、ご主人の白冰(バイビン)さんと一緒にオーナーとして店を切り盛りしているFOOD&COMPANYの谷田部摩耶さん。ふたりは、もともとお店をやりたかったわけでも、食の仕事をやりたかったわけでもありません。自分が本当にやりたいことはなんだろう?自分にとって大切にしたいのは何だろう?それを真剣に考えた時、出てきた答えが、私たちの暮らしにもっとも身近な「食」と「小売」を組み合わせたグローサリーストアという今の形だったのです。
こう話してくれたのは、ご主人の白冰(バイビン)さんと一緒にオーナーとして店を切り盛りしているFOOD&COMPANYの谷田部摩耶さん。ふたりは、もともとお店をやりたかったわけでも、食の仕事をやりたかったわけでもありません。自分が本当にやりたいことはなんだろう?自分にとって大切にしたいのは何だろう?それを真剣に考えた時、出てきた答えが、私たちの暮らしにもっとも身近な「食」と「小売」を組み合わせたグローサリーストアという今の形だったのです。
自分の生活を大切にすることから社会が変わる
谷田部さんと白さんの出会いは大学生の時。谷田部さんは国際開発を、白さんはアパレルを、それぞれアメリカの大学と大学院で学んでいました。その頃から谷田部さんは、さまざまな社会問題の根幹にある社会の仕組みに興味を持ち始めたのだと言います。
「例えば、児童労働の問題がありますが、それを起こしている根源には、どうしても個人の善意だけではどうすることもできない、社会やお金の仕組みがあると感じました。そこが変わっていかないと、本当の意味で社会の変化ってないんじゃないかと思ったんです」
「例えば、児童労働の問題がありますが、それを起こしている根源には、どうしても個人の善意だけではどうすることもできない、社会やお金の仕組みがあると感じました。そこが変わっていかないと、本当の意味で社会の変化ってないんじゃないかと思ったんです」
谷田部摩耶さん。小柄でかわいらしい容姿の中に強い芯がある女性です
その後、谷田部さんがアメリカの大学院を卒業するタイミングで、ふたりは結婚。日本で新しい生活を始めたふたりは、社会問題を解決できるようなビジネスを会社員としてではなく、自分たちでやりたいと思うようになります。
「その時が25歳くらい。世の中への漠然とした違和感があったし、自分自身のことも模索していた時期で、社会をもっと知るために、ふたりで10ヶ月くらい旅に出たんです。そして、旅の中で自分たちが大切にしたい価値というのを再認識することができました」
「その時が25歳くらい。世の中への漠然とした違和感があったし、自分自身のことも模索していた時期で、社会をもっと知るために、ふたりで10ヶ月くらい旅に出たんです。そして、旅の中で自分たちが大切にしたい価値というのを再認識することができました」
「大切にしたい価値」。それは物質的な豊かさではなく、自分の生活を大切にすること。例えば、大事な人と丁寧に作った食事ができる心の余裕を持つ、というような、とてもシンプルなものでした。
「そういうマインドセット(心構え・考え方)を持った人をもっと増やしていきたいと思いました。社会の仕組みは、日々の積み重ねからしか大きく変えることはできません。その時に私たちにとって一番身近なものとして浮かんだのが食と小売だったんです。とはいえ、彼(白さん)も私も、食に関するキャリアはない状態。でも逆に何をやるにもゼロだから、やりたいことをやろうと思ったんです」
それからふたりは現場での経験を積むために、飲食店や食品店でアルバイトをしながらオープンへの準備を着実に進めていきました。そして迎えた2014年3月。目指す社会への第一歩となるFOOD&COMPANYが誕生したのです。
「そういうマインドセット(心構え・考え方)を持った人をもっと増やしていきたいと思いました。社会の仕組みは、日々の積み重ねからしか大きく変えることはできません。その時に私たちにとって一番身近なものとして浮かんだのが食と小売だったんです。とはいえ、彼(白さん)も私も、食に関するキャリアはない状態。でも逆に何をやるにもゼロだから、やりたいことをやろうと思ったんです」
それからふたりは現場での経験を積むために、飲食店や食品店でアルバイトをしながらオープンへの準備を着実に進めていきました。そして迎えた2014年3月。目指す社会への第一歩となるFOOD&COMPANYが誕生したのです。
「オーガニック」とは周りの環境と丁寧に向き合う考え方のこと
FOOD&COMPANYでは、F.L.O.S.S (フロス)という考え方を商品選びのガイドラインとしています。F.L.O.S.S は、Fresh, Local, Organic, Seasonal, Sustainableの頭文字を取ったもの。ポートランドなど、サスティナブル(持続可能)な暮らしを実践する地域で使われ出した言葉なのだそう。
青果ミコト屋セレクトの野菜はパッケージも素敵
HAPPY NUTSDAY(左)やONIBUS COFFEE(右)など、若い作り手の商品も多い
「私が知ったのは、日本に帰ってから。何かの雑誌で見つけました。わかりやすいし、わたしたちが伝えたいメッセージもまとめてくれている。他の国や地域で使われていて、東京以外の同じマインドセットを持った人たちとつながるきっかけになるかもしれないと思い、この言葉をお店の指針にしました」
F.L.O.S.Sという考え方を基準にしながらも、最終的には「どういう人がどういう思いで作っているのか」、その部分を大切にして選んでいるのだと言います。それは、谷田部さんが考える「オーガニック」のあり方にもつながっていきます。
「私が思うオーガニックって、栽培方法や認証のことではありません。人や物、自然も含めた周りの環境と丁寧に向き合う考え方や思想のことなんです。自分だけの利益を追求する考えではなくて、自分の行動が周りの環境にどういう影響を与えるのか。そこまで配慮を置くということがオーガニック。そういう姿勢でお店づくりもしたいと思っています」
「オーガニックは考え方」とは、目からウロコ。そう考えると、オーガニックは、特別なことではなく、私たちが暮らす上でとても当たり前のことのような気がしてきます。
F.L.O.S.Sという考え方を基準にしながらも、最終的には「どういう人がどういう思いで作っているのか」、その部分を大切にして選んでいるのだと言います。それは、谷田部さんが考える「オーガニック」のあり方にもつながっていきます。
「私が思うオーガニックって、栽培方法や認証のことではありません。人や物、自然も含めた周りの環境と丁寧に向き合う考え方や思想のことなんです。自分だけの利益を追求する考えではなくて、自分の行動が周りの環境にどういう影響を与えるのか。そこまで配慮を置くということがオーガニック。そういう姿勢でお店づくりもしたいと思っています」
「オーガニックは考え方」とは、目からウロコ。そう考えると、オーガニックは、特別なことではなく、私たちが暮らす上でとても当たり前のことのような気がしてきます。
自分たちにしかできないことを
「食」や「小売」という世界でのキャリアも経験もなかったふたりが始めたFOOD&COMPANY。2014年3月にオープンしてから約1年半が経ち、谷田部さんの心の中にも変化があったのだと言います。
「『やりたいからやっている』という気持ちから、『使命感』に変わったというのはすごくあります。オーガニックや食品業界の問題点、スーパーの問題点や、お客様が抱えているニーズや不満をいろいろ聞く中で、自分たちにしかできないコンテンツがたくさんあることに気がつきました。私たちがこのお店を存続させて、発展させていかなくちゃいけないという気持ちです。でも、逆にそう思えたことで、迷いがなくなりました」
「『やりたいからやっている』という気持ちから、『使命感』に変わったというのはすごくあります。オーガニックや食品業界の問題点、スーパーの問題点や、お客様が抱えているニーズや不満をいろいろ聞く中で、自分たちにしかできないコンテンツがたくさんあることに気がつきました。私たちがこのお店を存続させて、発展させていかなくちゃいけないという気持ちです。でも、逆にそう思えたことで、迷いがなくなりました」
通路はベビーカー2台が通るスペースを確保。「ママさんたちにストレスを感じずゆっくり買い物をしてもらいたいから」
「FOOD&COMPANYにしかできないこと」。それは、今まで日本と世界のさまざまな価値観に触れてきたふたりだからできること。
「私たちはいつも言っているんですけど、FOOD&COMPANYは中途半端な存在なんです。頭でっかちな考えも、ヒッピー的な考えも私たちにはわかる。いろんなものの見方、考え方をいい意味で中途半端に取り入れて、ブレンドして、幅広い層に受け入れてもらえる折り合い地点を見つけることができる存在は、今は私たちだけだと思っています」
「私たちはいつも言っているんですけど、FOOD&COMPANYは中途半端な存在なんです。頭でっかちな考えも、ヒッピー的な考えも私たちにはわかる。いろんなものの見方、考え方をいい意味で中途半端に取り入れて、ブレンドして、幅広い層に受け入れてもらえる折り合い地点を見つけることができる存在は、今は私たちだけだと思っています」
イベント情報はコミュニティスペースにある黒板に。7月8月は毎週日曜日にサマースタンドが登場
お店には、谷田部さんにとって大切にしたい特別な場所があります。それが、ワークショップやイベントを行うコミュニティスペースです。
「ただものを売るだけではなくて、この場所でお店が伝えたいメッセージをもっと身近に感じてもらいたいです。ワークショップを体験して、日常のささやかな楽しみがちょっとでも増えていけば毎日が変わっていくと思うんです。精神的に満たされるといろんな余裕が生まれますよね。そういうポジティブな流れがこの場所でできていくといいなと思っています」
このスペースもFOOD&COMPANYらしい、そしてFOOD&COMPANYだからこそできる新しい暮らし方へのアプローチと言えるのではないでしょうか。
「ただものを売るだけではなくて、この場所でお店が伝えたいメッセージをもっと身近に感じてもらいたいです。ワークショップを体験して、日常のささやかな楽しみがちょっとでも増えていけば毎日が変わっていくと思うんです。精神的に満たされるといろんな余裕が生まれますよね。そういうポジティブな流れがこの場所でできていくといいなと思っています」
このスペースもFOOD&COMPANYらしい、そしてFOOD&COMPANYだからこそできる新しい暮らし方へのアプローチと言えるのではないでしょうか。
食に対する価値観がその人自身を表す
食べることは生きること。だからその人の食に対する価値観がその人自身を表すのだと谷田部さんは言います。
「食べるって人間の根源に関わること。喜びの根底にあるものなんですよね。だからこそ、食に対する価値観から、どんな服を着て、どんな人たちと関わっているのか、という風に生活の判断基準がすごく見えてくる。食べるという行動を含めて消費するということは、自分のためだけにすることではなくて、どういう社会を作っていきたいかという意思表明であるべきだと私は思うんです」
「食べるって人間の根源に関わること。喜びの根底にあるものなんですよね。だからこそ、食に対する価値観から、どんな服を着て、どんな人たちと関わっているのか、という風に生活の判断基準がすごく見えてくる。食べるという行動を含めて消費するということは、自分のためだけにすることではなくて、どういう社会を作っていきたいかという意思表明であるべきだと私は思うんです」
スタッフの小林さん(左)と谷田部さん(右)。ふたりの笑顔がお店を明るくします
「FOOD&COMPANY」の「COMPANY」は仲間という意味。そこには、友人知人はもちろん、パートナーと呼んでいる生産者の方、近所から遠方までお店に訪れるお客さん、全てが含まれています。
「いろんな人が手伝い、いろんな人が知恵を貸してくれました。ここまでたどり着けた私たちには、責任や使命感があります。みんながみんな、同じようなことができるわけではないと思っています。私たちは本当にラッキーです」
売り場に出る前に一呼吸。気合を入れるかのようにすっと背筋を伸ばし、お店の顔になった谷田部さん。これからも使命感を携えて、たくさんの仲間と共に「『食』から社会を変える」という思いを叶えていくことでしょう。
「いろんな人が手伝い、いろんな人が知恵を貸してくれました。ここまでたどり着けた私たちには、責任や使命感があります。みんながみんな、同じようなことができるわけではないと思っています。私たちは本当にラッキーです」
売り場に出る前に一呼吸。気合を入れるかのようにすっと背筋を伸ばし、お店の顔になった谷田部さん。これからも使命感を携えて、たくさんの仲間と共に「『食』から社会を変える」という思いを叶えていくことでしょう。
木枠の大きな窓が印象的な外観