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【Artek(アルテック)】豊かな暮らしをつくる家具 [後編]

写真:岩田貴樹

作り手のこだわりが詰まった美しい「名品」のストーリーをひもとく連載。自宅にいる時間が増えたことで、家の中を心地よい空間にしたいと考えている人も多いのではないでしょうか。後編では、改めてその価値を見直されているアルテックのテーブルに焦点を当て、その魅力を知る人たちにお話を伺いました。

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2022年05月01日作成
>>インタビュー前編はこちらから

多様な表情のコラボレーション

(写真:Artek)

(写真:Artek)

ここ数年人気が高まっているアルテックのテーブルは、海外メーカーの家具としては比較的コンパクト。スペースに合わせて自由に配置を考えられる柔軟性も、居住スペースが限られる私たち日本人の暮らしにフィットするのでしょう。

テーブルのスタンダードなバリエーションは、黒・白・ナチュラルのカラーや仕上げが揃いますが、それに加えて特別な周年を祝う記念仕様やショップ別注カラーなども。歴史あるブランドの製品でありながら、ここまで多彩なバリエーションを発表することは稀なのでは……。2006年に入社し、アルテック東京オフィスを立ち上げた林アンニさんは、アルテック製品のカスタマイズについてこう話します。
今回オンラインで取材に答えてくれた、林アンニさん

今回オンラインで取材に答えてくれた、林アンニさん

「アアルトは家具をデザインする際に、機能性やフィンランドの自然素材の可能性を広げるために、製品の構造や新しい製法の開発にフォーカスを置きました。アアルト家具の多くは、もともと彼の建築プロジェクトのためにデザインされたもの。さまざまなプロジェクトで使えるように、そして多くの人に届けられるように、フレキシブルに使用できるスタンダード部品とそれを使った数々の家具のシステムを作り上げました。たとえば「スツール 60」と円形の「90B テーブル」は、サイズは違いますがほぼ同じ部品と構造で作られています。さらに、スツールの座面をそのまま使用して脚を長くすれば、「64 バースツール」、背もたれを付ければ多目的に使われる「65 チェア」ができます。一方で、家具の仕上げに関してもプロジェクトに合わせてさまざまなバリエーションがありました」
「1930年代当時のモノクロ写真ではどんな色かまではわかりませんが、色が塗られていたということは確認できます。ヴィンテージとして残っている多くのアアルト家具もとてもカラフルなラインナップとしてその歴史を語ってくれます。アアルトは昔からカラーやサイズの調整については柔軟だったと思います。家具のデザイン自体は完成されているので、現代でもアルテックはカスタム色や仕上げを企画することがあり、その一部にアーティストや他ブランド、パートナー企業とのコラボレーションがあります。ただ、決して誰とでもどんな会社ともコラボするということではなく、信頼しているパートナーとだけ特別な仕様を一緒に作っています」
「FIN/JPNフレンドシップ コレクション」のひとつとして、建築家の長坂常氏が手掛けたシリーズ「カラリン」。日本の伝統技法「浮造」と漆塗りの技術「津軽塗り」を掛け合わせ、木目を浮き上がらせる独自の手法を生み出した(写真:Artek)

「FIN/JPNフレンドシップ コレクション」のひとつとして、建築家の長坂常氏が手掛けたシリーズ「カラリン」。日本の伝統技法「浮造」と漆塗りの技術「津軽塗り」を掛け合わせ、木目を浮き上がらせる独自の手法を生み出した(写真:Artek)

「鈴木マサルの傘展」10周年イベントのコラボ企画。大胆で楽しいカラーリングにおめかしした「L-レッグ」が印象的。ラメラ曲木を用いた「115 傘立て」の特別仕様も。(写真:Artek)

「鈴木マサルの傘展」10周年イベントのコラボ企画。大胆で楽しいカラーリングにおめかしした「L-レッグ」が印象的。ラメラ曲木を用いた「115 傘立て」の特別仕様も。(写真:Artek)

徳島県の藍師・染師集団「BUAISOU」とのコラボレーション「スツール 60 藍染」。2019年のフィンランドと日本の外交樹立100周年を記念したプロジェクト(写真:Artek)

徳島県の藍師・染師集団「BUAISOU」とのコラボレーション「スツール 60 藍染」。2019年のフィンランドと日本の外交樹立100周年を記念したプロジェクト(写真:Artek)

今でこそ北欧インテリアとして支持されているアルテックですが、アンニさんが日本で活動を始めた当時、その名を知るのは一部の建築ファンのみだったといいます。しかし、アルテックはこれまでさまざまな日本のパートナー企業やアーティストとのコラボレーションを通して、ブランドのメッセージを発信してきました。
2007年「コム デ ギャルソン青山店」の展示で、2nd Cycle が日本で初めて紹介された。

「2nd Cycleという取り組みは、日本では最初から注目されていた印象です。アアルトを知っている人はもちろん、知らない人にとっても『年月を重ねても魅力的なプロダクト』ということが伝わったんじゃないかなと思います」とアンニさん(写真:Artek)

2007年「コム デ ギャルソン青山店」の展示で、2nd Cycle が日本で初めて紹介された。

「2nd Cycleという取り組みは、日本では最初から注目されていた印象です。アアルトを知っている人はもちろん、知らない人にとっても『年月を重ねても魅力的なプロダクト』ということが伝わったんじゃないかなと思います」とアンニさん(写真:Artek)

そのような日本のパートナー企業のうちの一社が、長野県を拠点とする「haluta(ハルタ)」。ヴィンテージ家具の輸入とリペア販売を皮切りに、食や住宅設計を通して、北欧の文化を日本に発信してきました。アンニさんは、halutaオーナーとの思い出を懐かしそうに振り返ります。

「前身の会社から新しく『haluta』を立ち上げるとき、オーナーさんから『フィンランド語の名前を考えているんですけど、“ハルタ”というのは変ではないですか?』と相談を受けて。一緒にお茶しながら、いちフィンランド人として(笑)、『とてもいい名前なんじゃないか』と答えましたよ」
「haluta」はフィンランド語で“願い”に近い意味をもつ

「haluta」はフィンランド語で“願い”に近い意味をもつ

「ハルタとは10年以上のお付き合いですが、アルテックのテーブルの魅力に注目し、その可能性を広げてくれた最初のパートナーショップです。ヴィンテージの製品も同時に扱っているからこそ、過去の製品について広く深い独自のリサーチと知識をお持ちで、とても素敵な色や組み合わせやすいテーブルのモデルを企画の対象に選んでくれました。アアルトのテーブルは、1935年に作られた当時から組み合わせて使うことができるようサイズが企画的にデザインされています。ハルタはその点にいち早く着目して、たくさんのコーディネートを提案してくれました。ハルタのWEBブックでは長方形や半円形のテーブルを使って、きれいな写真も撮影してくれ、アルテックの本社からも『この写真を使いたい!』との声があったほど(笑)。本社も日本チームも、コーディネートと写真の美しさに感動しましたし、とてもよい企画になりました」
「haluta」のWEBで使用されている写真。ヴィンテージ製品との組み合わせや、暮らしをイメージできるコーディネートが魅力(写真:haluta)

「haluta」のWEBで使用されている写真。ヴィンテージ製品との組み合わせや、暮らしをイメージできるコーディネートが魅力(写真:haluta)

パートナーショップに聞くアルテックの魅力

軽井沢の倉庫から一部を移動してヴィンテージ家具を展示販売。家具だけでなく、器や小物も購入することができる

軽井沢の倉庫から一部を移動してヴィンテージ家具を展示販売。家具だけでなく、器や小物も購入することができる

長年さまざまなアルテックの製品を取り扱い、オリジナルカラーのテーブルを販売してきたハルタ。その魅力を探るため、東京・原宿のショールーム「haluta tokyo」を訪れました。扉を開けると、美しい佇まいのヴィンテージ家具がずらり。圧巻の空間で、現在別注カラーを展開している「95 テーブル」(通称半円テーブル)についてスタッフの所直弘さんにお話を伺いました。
【haluta tokyo】東京都渋谷区神宮前2-17-6 神宮前ビル2F 13:00~19:00 (18:00 最終入店) 不定休

【haluta tokyo】東京都渋谷区神宮前2-17-6 神宮前ビル2F 13:00~19:00 (18:00 最終入店) 不定休

「アルテックのヴィンテージを見ていると、昔はもっといろんな色があったんですよね。すごく良い色もあって、だったら別注で作ろうよって話になったのが始まりです。なかでも半円テーブルは、うちのオーナーが一番好きだった。潔く半分に切っただけなのに、それが本当に唯一無二のデザインというか。オーダーに少し時間がかかるのでどうしても欠品期間が出てしまうんですけど、オーナーはアルテックが好きなので、たまに『なくなってるよ』といわれることもあります(笑)」
店内の窓際に配置されていた半円テーブル。「こんな感じで置きたいけど置けないって人も多いですけど、それはそのときが来たらでいいと思う。使わないときは脚を外して畳んでおけますし、それまで別の場所に置いていても邪魔にならないサイズ感です」と所さん

店内の窓際に配置されていた半円テーブル。「こんな感じで置きたいけど置けないって人も多いですけど、それはそのときが来たらでいいと思う。使わないときは脚を外して畳んでおけますし、それまで別の場所に置いていても邪魔にならないサイズ感です」と所さん

【Artek(アルテック)】豊かな暮らしをつくる家具 [後編]
アルテックの製品には、スイスのメーカー「Forbo(フォルボ)」のリノリウムが使用されています。別注アイテムも同メーカーの全21のカラーサンプルの中から選ばれていますが、ハルタでは、どのようにテーブルに合う色を見極めていったのでしょうか。

「今までいろんな色で作りましたけど、現在は日本人ならみんなわりと好きな濃いネイビー(スモーキーブルー)と、取り入れやすい淡いペールグレーの2色に絞りました。ペールグレーは、経年変化も表れやすいし、どんな部屋にも合う良い色だなと思います。過去にもう少し濃いグレーを作ったこともあるんですけど、この微妙なニュアンスカラーのほうがアルテックというか、北欧らしさが出るなと思っています。グレーのものって皆さん何かしらは絶対持ってるじゃないですか。だから自然とお部屋に入れたときも馴染むと思いますよ」
別注カラーの「ペールグレー」。光の加減でホワイトや淡いブルーにも見える不思議な色(写真:haluta)

別注カラーの「ペールグレー」。光の加減でホワイトや淡いブルーにも見える不思議な色(写真:haluta)

取材時に用意してもらったのは別注カラーの「スモーキーブルー」。深い色味ながらヴィンテージ感のある落ち着いた雰囲気で、どんな部屋にも馴染みやすい

取材時に用意してもらったのは別注カラーの「スモーキーブルー」。深い色味ながらヴィンテージ感のある落ち着いた雰囲気で、どんな部屋にも馴染みやすい

「Forbo(フォルボ)」のカラーサンプル。左の「オリーブ」と右の「ライトブルー」は過去にhalutaで人気だったが現在は廃盤に

「Forbo(フォルボ)」のカラーサンプル。左の「オリーブ」と右の「ライトブルー」は過去にhalutaで人気だったが現在は廃盤に

自宅でもアルテックのテーブルを使用しているという所さんは、半円テーブル以外にも、思い入れが強いアイテムがあるのだとか。

「僕は『90B テーブル』のシルエットがすごく好きです。『スツール 60』がそのまま大きくなったようなテーブルで、一緒に並べたり上に積み上げるだけでもすごく可愛くて。エッジが効いた半円テーブルよりも、もう少しナチュラルに使えるものとしておすすめです。『95 テーブル』は少しずつ認知されてきているので、『90B テーブル』も個人的に推していきたいアイテム(笑)。あとは、日本の家庭で使うと考えたときに一番多用性があったのが、『80B テーブル』という長方形のもの。今は製品ラインナップから離れてしまっているのがすごく惜しいですね」
スタッフの所さんいちおしの「90B テーブル」。直径75cmなので、一人暮らしの部屋にも、サブテーブルとしても柔軟に使えるサイズ感(写真:haluta)

スタッフの所さんいちおしの「90B テーブル」。直径75cmなので、一人暮らしの部屋にも、サブテーブルとしても柔軟に使えるサイズ感(写真:haluta)

現在の製品ラインナップにはない「80B テーブル」を2台並べて(写真:haluta)

現在の製品ラインナップにはない「80B テーブル」を2台並べて(写真:haluta)

ほかの長方形と組み合わせてもかわいい半円テーブル(写真:haluta)

ほかの長方形と組み合わせてもかわいい半円テーブル(写真:haluta)

テーブルだけでなく、店内にあるスツールなどを手に取りながら、ブランドの歴史や魅力についても愛着たっぷりに話してくれた所さん。天板のラミネートとリノリウム、それぞれのメリット・デメリットや、ほかのアイテムとの組み合わせ……。説明書を眺めるような表面的な情報はそこになく、実際にプロダクトと生活を共にし、向き合っている人だからこその真摯な言葉がそこにありました。

自分に心地よいものを身近に置く、豊かな暮らし

(写真:Artek)

(写真:Artek)

フィンランドには、保護区以外なら誰でも森や沼地を自由に散策できる「自然享受権」という特別な権利があります。かつて私たちがそうだったように、国民は尊敬と親しみをもって自然と共存しています。今年、5年連続で一位となったこの国の幸福度は、そんな環境にも由来しているのでしょうか。

アルヴァ・アアルトもまた自然を愛し、自然の中に現れる有機的なフォルムを建築と家具デザインに応用し、自然素材を用いた製品を大切にしていました。その思いはアルテックで働く人々や現代のデザイナーにも受け継がれています。アンニさんは、これからのアルテックについてこう話してくれました。
(写真:Artek)

(写真:Artek)

「2006年、日本でアルテックの仕事を始めたときと気持ちは変わりません。まだまだ『誰もが知っているブランド』ではないので、より多くの人にアルテックを知ってほしいと思っています。歴史があるからこそ、昔から変わらない面も、“今もなお活き活きとしたブランド”であることも大切だと考えています。すでにアルテックを知って、その活動をフォローしてくれている方々にも、楽しんでもらえるようなことを提供したいですね。世界的に発信されているブランドのメッセージだけでなく、日本の暮らしにアルテックを提案することもこの日本チームのひとつの目標です。アルテックの家具や照明、インテリアアイテムを生活に取り入れてくださっている個人のお客さまのSNS投稿やフィードバック、パートナー企業の皆さまからもインスピレーションを受けながら、良いサイクルを作っていけたらと願っています!」

私たちは「モノ」を手に入れることによって直接的に幸せを得られるわけではありません。しかし、自分の幸せは何なのか、どこにそのヒントがあるのか、問いかけるきっかけになるはずです。

遠い国で生まれた名作は、言葉なくとも「本当に豊かな暮らし」を教えてくれるよう。今日も、そして間違いなく100年後も。このテーブルの上で、あたたかい語らいが生まれていくのでしょう。
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Artek(アルテック)
Artek(アルテック)
北欧モダンを代表するフィンランドのインテリアブランド「Artek(アルテック)」。建築家であるアルヴァ・アアルト、アイノ・アアルト、ニルス=グスタフ・ハール、マイレ・グリクセン、4名の創業者が1935年に設立。創業85年を超えた現在も、革新的かつタイムレスな製品を作り続けています。
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