halutaの中心にある思いは『引き継ぐ』ということ
向こう側には真夏を象徴するような入道雲がさらにその輪郭を大きくさせています。ここは、長野県上田市。今までは中心街近くに店舗を構えていた北欧ヴィンテージ家具を取り扱うhaluta(ハルタ)が、4,000坪の広さを持つ工場跡地に引越しをするという話を聞き、やって来ました。
こちらの倉庫はスタジオになる予定
haluta代表の徳武睦裕(あつひろ)さんを表現するならこの言葉がしっくりきます。なんだかつかみどころがないけれど、ある時は疾風のごとく力強く、ある時は、そよ風のように優しい。そんなふうに、いろいろな風を操りながら「今」を生きている人。
「大学を1年で辞めて、オーストラリアに行き、帰ってきてすぐ起業しました。やりたくないことはやりたくない、という思いのままに行動していました」
そして、2006年に販売を目的とした北欧ヴィンテージ家具の仕入れを始めたのを機に、店名を「haluta」に改め、家具を中心とするお店へ転換していきました。
「halutaというのは、フィンランド語で、“希望”と“願い”の中間にあるような言葉です。ロゴを作ってもらうときに、いいなと思って。この名前にしました」
そして、「店を持つことが自分の夢というわけではない」と徳武さんは続けます。
「ものを売る商売をしているので、矛盾して聞こえるかもしれませんが、僕がビジネスをしているのは、『ものを買うなよ』ということを言いたいからなんです。暮らしていく中でたくさんのものは必要ではない。だから、新しいものを買うのではなく、昔からあるいいものを引き継ぐ選択肢を提供したい。halutaの中心にある思いは『引き継ぐ』ということです」
halutaが新しい家具ではなく、徹底してヴィンテージ家具を取り扱うのはこの「引き継ぐ」という思いがあるから。それがhalutaの行動力の源にもなっているのでしょう。
いい素材で作られた家具だからこそ修理できる
通路を挟んで右側が修理済みのもの。左側がこれから修理するもの
「船で日本に運ぶときにばらしたものも中にはありますが、例えば、脚一本くらいなくても、天板が二つに割れていても直せます。けれど、化学塗装や化学的な材料が使われている家具は直せません。大事なのは素材。いい素材で作られた家具だからこそ修理できるんです」
リペアスタッフのエンリーコさん。傷や汚れがある部分を美しく塗り変える「塗装」をメインで担当しています。ひとつひとつ状態が違うため、やることもその都度で異なってきます。「修理の過程で大事にしているところは強度。修理の後も長く使ってもらいたいと思っています」
リペアスタッフになって4ヶ月の雨宮さんは、割れがあったり、折れてしまった部分を修理する「接着」を担当。「もとの形をなるべく維持できるように気を付けて修理しています。大きな機械もないので、全てひとつずつ手作業で行っています」
この仕事の前までは、メッセンジャーや飲食の世界で働いていたという小嶋さんは「研磨」を担当。「美しく仕上げるのが大前提ですが、ヴィンテージのよさとして傷や汚れを残すこともあります。その見極めが難しいんですけど、そこは他のスタッフと相談しながらやっています」
汚れが染み付いてしまった修理前のテーブル
リペアスタッフの手にかかれば、このように美しく生まれ変わります
「今は復刻版が出ていますけど、やっぱり当時作られたものと全然違う。昔の方が長い時間をかけて木を寝かせていたので、材料の質がいいんです。いい木を使って作られていたものと、そうでないものはすぐにわかります。これからどんどんいい木を使った数は減っていくと思います。うちの家具はメンテナンスも無期限なので、絶対に捨てることなく使い続けてほしいです」
「ビジネスとしては厳しいんですけどね」と徳武さん。確かに修理をするということは新しい家具を買ってもらうチャンスを失うことなのかもしれません。けれど、halutaが本当に伝えたい「引き継ぐ」という精神は手にした人たちの元へしっかりと伝わっていくはずです。
「ビジネスでやっているけど、お金儲けのためだけではなくて、デンマークや北欧の文化の中にあるまだ日本人が体験したことがない生活を伝えていきたいです。『引き継ぐ』という文化もそのひとつです」
修理が終わった家具がずらり。次の持ち主を待っています
いい形で文化を残し、次の世代に引き継いでいきたい
AndelStayの1F。広々とした空間 写真:松村隆史(まつむらたかふみ)
「いつか物が売れなくなる時が来るので、その時には物ではなく“事”を伝えていくことが必要になります。このメディアでは、デンマークと日本の暮らしと、上田のローカルな情報を届けていく予定です。ここでも『引き継ぐ』というのがコンセプト。僕たちは、時代の中のわずかな時間しか生きていけない。だからいい形で文化を残し、次の世代に引き継いでいけたらと思っています」
美しい風景が多く残っている上田 写真:松村隆史(まつむらたかふみ)
自由に身軽に。風のような徳武さんが、この先halutaをどんな場所へ運んでいくのでしょうか。まずは、10月のhaluta AndelLundのオープンを楽しみにして待ちたいと思います。
水色の屋根を持つ倉庫がいくつも並んでいます