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【Artek(アルテック)】豊かな暮らしをつくる家具 [前編のカバー画像

【Artek(アルテック)】豊かな暮らしをつくる家具 [前編]

写真:小澤ジェイムス

作り手のこだわりが詰まった美しい「名品」のストーリーに迫る本連載。今回紹介するのは、1935年にフィンランドで創業した「Artek(アルテック)」。今回は、ブランドを代表するプロダクト「スツール 60」のみならず、チェアやテーブルなどアルテック製品に宿る哲学と、その魅力を探ります。

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2022年04月29日作成

アルヴァ・アアルトの仕事と「L-レッグ」

(写真提供:Artek)

(写真提供:Artek)

北欧を代表するインテリアブランド・Artek(アルテック)の「スツール 60」。同ブランドを象徴するアイコン的なデザインであり、多くのアルテック製品の基礎となる「L-レッグ」が採用された最初の製品でもあります。
アルテック製品を作る様子を撮影した1930年代の写真(写真:Artek)

アルテック製品を作る様子を撮影した1930年代の写真(写真:Artek)

1920年代に絵画・文学・建築など、あらゆる分野で巻き起こった世界的なモダニズム運動。伝統にとらわれない数々の前衛的な芸術が生まれ、とりわけ建築分野では、装飾を省いた合理的で機能的なモダニズム建築が理想とされていました。

「芸術とテクノロジーの統合」とは、この芸術運動の中心的人物のひとり、ヴァルター・グロピウスの有名な言葉。アルテックは、その思想や哲学に共感した建築家のアルヴァ・アアルトを中心とした4人の若者によって、1935年にフィンランドでその産声を上げます。「Art+Technology」を元にした造語を社名として掲げ、単純に家具を販売するだけでなく、モダニズム文化の促進を目指しました。
「北欧の賢人」と呼ばれた、アルテック創業者のひとりアルヴァ・アアルト。1976年、78歳で亡くなるまで生涯に200を超える建築を設計。自身が設計した建築に合わせて家具のデザインも手掛け、プロダクトデザイナーとしてもその名を残した(写真:Artek)

「北欧の賢人」と呼ばれた、アルテック創業者のひとりアルヴァ・アアルト。1976年、78歳で亡くなるまで生涯に200を超える建築を設計。自身が設計した建築に合わせて家具のデザインも手掛け、プロダクトデザイナーとしてもその名を残した(写真:Artek)

当時最先端の家具といえば、スチールパイプを用いたものが一般的。創業者のアルヴァ・アアルトは、ぬくもりある自然素材でこれを再現できないかと考えます。1920年代後半から家具職人のオット・コルホネンと共同で開発に取り組み、今日では多くのアルテック製品に応用されている「ラメラ曲げ木」と「L-レッグ」の2つの曲げ木の技法と、それを用いた家具を生み出したのです。
「L-レッグ」の工程見本。フィンランド産バーチの無垢材の先端に数ミリ間隔でスリットを入れる。その間に薄いベニヤ板を挟むみ、接着後は熱を加えながら木材を曲げていく

「L-レッグ」の工程見本。フィンランド産バーチの無垢材の先端に数ミリ間隔でスリットを入れる。その間に薄いベニヤ板を挟むみ、接着後は熱を加えながら木材を曲げていく

アルヴァ・アアルトは、「すべての人の暮らしに良いデザインを」という思いのもと、家具を大量生産するために合理的な製造工程を生み出した。パーツは機械を使い効率的に製造されるが、品質に関わる仕上げや素材の選別はすべて人の手でおこなわれている(写真:Artek)

アルヴァ・アアルトは、「すべての人の暮らしに良いデザインを」という思いのもと、家具を大量生産するために合理的な製造工程を生み出した。パーツは機械を使い効率的に製造されるが、品質に関わる仕上げや素材の選別はすべて人の手でおこなわれている(写真:Artek)

類似品のスツールの脚は合板で作られていることが多く、曲げやすい分耐久性は弱くなる。アルテックの「L-レッグ」は一本の無垢材からなるため頑丈で、スツールなどを持ち上げるとしっかりとした重みを感じる。座ってもぐらつかず、何十年も使うことができる

類似品のスツールの脚は合板で作られていることが多く、曲げやすい分耐久性は弱くなる。アルテックの「L-レッグ」は一本の無垢材からなるため頑丈で、スツールなどを持ち上げるとしっかりとした重みを感じる。座ってもぐらつかず、何十年も使うことができる

「ラメラ」は木目を同じ方向に重ねたバーチ材の積層合板のこと。この「ラメラ曲げ木」を家具に応用することにより、合板でありながらもまるで無垢材のようななめらかな外見を実現した(写真:Artek)

「ラメラ」は木目を同じ方向に重ねたバーチ材の積層合板のこと。この「ラメラ曲げ木」を家具に応用することにより、合板でありながらもまるで無垢材のようななめらかな外見を実現した(写真:Artek)

ラメラ曲げ木が採用されているアームチェアシリーズ

ラメラ曲げ木が採用されているアームチェアシリーズ

日本の暮らしに伝えたいアルテックのメッセージ

(写真:Artek)

(写真:Artek)

発売から90年近く経った今でも世界中で愛されている「スツール 60」。近年は日本でもフィンランドをしのぐほど多くの人に支持されているのだそう。遠い距離を隔てながらも、日本は世界でも稀にみる「アルテック好き」な国なのです。

「日本とフィンランドは距離こそ離れていますが、価値観には共通点があるんです。国土に森林が多いことで木そのものや、木製の家や家具に尊敬と親しみを感じること、本質を探求することや、無駄を削ぎ落とした簡潔さを価値として感じ、職人による優れた手仕事を尊重することなどが挙げられます。日本の暮らしにアルテックが馴染みやすいのも、人々の心に自然と受け入れやすいのも、そのような背景があるのではないかと思います」
日本でアルテックのマーケティング・PRを務める平井尚子さん。入社7年目で、広報とともにイベントやオンラインの企画、SNSを担当。平井さんの二人のお子さんは、自宅で使っているアルテックの椅子が大好きで、それぞれお気に入りの特等席があるそう

日本でアルテックのマーケティング・PRを務める平井尚子さん。入社7年目で、広報とともにイベントやオンラインの企画、SNSを担当。平井さんの二人のお子さんは、自宅で使っているアルテックの椅子が大好きで、それぞれお気に入りの特等席があるそう

そう話すのは、マーケティングとPRを担当する平井尚子さん。長年アパレル業界で働いていましたが、出産などを機に、サイクルの早い洋服よりも「暮らし」そのものに関心をもつようになったといいます。平井さんがよく考えるのは、家具は引越しで買い替える「今だけのもの」ではないということ。汚れや染みさえも愛しく、修理や張替えをしながら自分や家族と一生をともにする「相棒」だと話します。

家具は毎日その手で触れるもの。いつか捨てるものよりも、一生を共にする気持ちで手にしたものと過ごすほうが、きっと気分がいい。地球にも、社会にも、何より自分の心にやさしい循環になるはずです。「それは、アルテックが創業時より家具の素材や製法、デザイン哲学を通して発信してきたことでもあります」と平井さん。
【Artek(アルテック)】豊かな暮らしをつくる家具 [前編]
「『サステナブル』という言葉が一般的になるずっと前から、アルテックは地元フィンランドの自然素材を調達し、自然の循環を妨げることのない製造方法で安全性と耐久性の高い、優れた製品を作り続けてきました。修理や張り替えもできて、暮らしの中のあらゆる場面で多用途に使える実用性と機能性を兼ね備えた持続可能なデザインを作り続けること、それがアルテックの哲学です。再生プラスチックやリサイクルという方法以前に、『ひとつの製品を長く使う』『長く使えるものを選ぶ』というメッセージが、アルテックが掲げる『Buy Now, Keep Forever』や『One Chair is Enough』という言葉にも込められています。それを現代の日本の暮らしにも同じように伝えていきたいと思っています」
2006年にスタートした「2nd Cycle(セカンド サイクル)」も、アルテックの哲学を象徴する取り組み。フリーマーケットや古い工場、学校、造船所などから、使い古されたスツールを買い取り、調査した。その後、さまざまな場所で製品を紹介している(写真:Artek)

2006年にスタートした「2nd Cycle(セカンド サイクル)」も、アルテックの哲学を象徴する取り組み。フリーマーケットや古い工場、学校、造船所などから、使い古されたスツールを買い取り、調査した。その後、さまざまな場所で製品を紹介している(写真:Artek)

2011年には、「2nd Cycle(セカンド サイクル)」の製品を販売する店舗がヘルシンキにオープン。アルテックの製品は時を経ても色あせず、新たな魅力が生まれることを証明している(写真:Artek)

2011年には、「2nd Cycle(セカンド サイクル)」の製品を販売する店舗がヘルシンキにオープン。アルテックの製品は時を経ても色あせず、新たな魅力が生まれることを証明している(写真:Artek)

でも、と言葉を挟み、平井さんはまっすぐにこう話します。

「私が個人的にうれしいと感じているのは、アルテックの製品が『本物であり信頼できる良いもの』と胸を張れることです。だから、まずは日本のひとりでも多くの人にアルテックというブランド、「スツール 60」やその他の製品の存在を知ってもらい、いつか欲しいものとして『一生の相棒』の選択肢のひとつになれたらと思っています」

ステイホームで再発見されたプロダクトの価値

2019年、東京・神宮前にオープンした「Artek Tokyo Store」(写真:Artek)

2019年、東京・神宮前にオープンした「Artek Tokyo Store」(写真:Artek)

大規模展覧会やイベントをはじめ、SNSでのキャンペーンやコラボレーションなど、ユニークな企画によりここ数年でブランドの認知度は大きく成長しています。

2019年には日本初の旗艦店「Artek Tokyo Store」がオープン。一周年を記念したさまざまなリアルイベントも予定していましたが、2020年、コロナ禍での外出自粛と重なりやむなく中止に。しかし、このステイホーム期間も、暮らしや家具に対して新たな気づきを生み出しました。
人気イラストレーター長場雄氏とのコラボレーション。2020年にインスタライブにてペインティングの様子が配信され、話題に(写真:Artek)

人気イラストレーター長場雄氏とのコラボレーション。2020年にインスタライブにてペインティングの様子が配信され、話題に(写真:Artek)

2021年7月にタカラトミーアーツから発売され大きな話題を呼んだアルテックのガチャ「アルテック 北欧家具 コレクション〈アルヴァ・アアルト〉シリーズ」。「スツール 60」のガチャはスタッキングもでき、ヴィンテージ風に着色されたレアアイテムなど、ファン心をくすぐるラインナップとなっている

2021年7月にタカラトミーアーツから発売され大きな話題を呼んだアルテックのガチャ「アルテック 北欧家具 コレクション〈アルヴァ・アアルト〉シリーズ」。「スツール 60」のガチャはスタッキングもでき、ヴィンテージ風に着色されたレアアイテムなど、ファン心をくすぐるラインナップとなっている

「Artek Tokyo Storeの1周年のアニバーサリー企画がコロナウイルスによる初めての外出自粛期間と重なってしまい、急遽オンライン上でイベントを開催することなりました。慣れないインスタライブを配信したのは思い出深いです。幸いにも大きな反響をいただけてほっとしました。私もそうでしたが、『おうち時間』は自分や家族との暮らし、家に何気なく置いていたものをあらためて見直すきっかけになりました。特にテーブルについては、ワンサイズ大きなものが必要になったり、小さめのテーブルやデスクを買い足したいと考えた方は多かったのではないでしょうか」
「95 テーブル」は壁面につけてデスクのように使う人も多い

「95 テーブル」は壁面につけてデスクのように使う人も多い

「#アアルトテーブル」のハッシュタグとともに、愛用しているテーブルの写真をシェアするインスタグラムの企画も話題を呼びました。投稿されているのは仕事部屋、ダイニング、子供がいる家庭……どれも日常の何気ない風景を切り取ったもので、その家にしっくり馴染んでいます。

「私も家でアアルトテーブルを10年くらい使っています。子供がテーブルの上で絵を描いてマジックが写ってしまうなんてことも普通にあるんですけど(笑)、日々使うものなのでそこまで神経質に考えず、味として楽しんでいます」
コンパクトながら、パーソナルスペースを充分に確保できる。階段下のデッドスペースに置いてもちょうどよい

コンパクトながら、パーソナルスペースを充分に確保できる。階段下のデッドスペースに置いてもちょうどよい

1936年にオープンしたアルテックのヘルシンキストアでは、当時すでに暮らしを想像できるインテリアシーンをスタイリングして家具を提案していたそう。現在は一般的になったライフスタイルショップの先駆けでした。アルヴァ・アアルト、アイノ・アアルトをはじめ創業者が掲げた哲学の通り、アルテックの家具は時代や文化を越えて現代でもさまざまな空間に溶け込んでいます。
>>インタビュー後編はこちらから
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Artek(アルテック)
Artek(アルテック)
北欧モダンを代表するフィンランドのインテリアブランド「Artek(アルテック)」。建築家であるアルヴァ・アアルト、アイノ・アアルト、ニルス=グスタフ・ハール、マイレ・グリクセン、4名の創業者が1935年に設立。創業85年を超えた現在も、革新的かつタイムレスな製品を作り続けています。
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