アルヴァ・アアルトの仕事と「L-レッグ」
アルテック製品を作る様子を撮影した1930年代の写真(写真:Artek)
「芸術とテクノロジーの統合」とは、この芸術運動の中心的人物のひとり、ヴァルター・グロピウスの有名な言葉。アルテックは、その思想や哲学に共感した建築家のアルヴァ・アアルトを中心とした4人の若者によって、1935年にフィンランドでその産声を上げます。「Art+Technology」を元にした造語を社名として掲げ、単純に家具を販売するだけでなく、モダニズム文化の促進を目指しました。
「北欧の賢人」と呼ばれた、アルテック創業者のひとりアルヴァ・アアルト。1976年、78歳で亡くなるまで生涯に200を超える建築を設計。自身が設計した建築に合わせて家具のデザインも手掛け、プロダクトデザイナーとしてもその名を残した(写真:Artek)
「L-レッグ」の工程見本。フィンランド産バーチの無垢材の先端に数ミリ間隔でスリットを入れる。その間に薄いベニヤ板を挟むみ、接着後は熱を加えながら木材を曲げていく
アルヴァ・アアルトは、「すべての人の暮らしに良いデザインを」という思いのもと、家具を大量生産するために合理的な製造工程を生み出した。パーツは機械を使い効率的に製造されるが、品質に関わる仕上げや素材の選別はすべて人の手でおこなわれている(写真:Artek)
類似品のスツールの脚は合板で作られていることが多く、曲げやすい分耐久性は弱くなる。アルテックの「L-レッグ」は一本の無垢材からなるため頑丈で、スツールなどを持ち上げるとしっかりとした重みを感じる。座ってもぐらつかず、何十年も使うことができる
「ラメラ」は木目を同じ方向に重ねたバーチ材の積層合板のこと。この「ラメラ曲げ木」を家具に応用することにより、合板でありながらもまるで無垢材のようななめらかな外見を実現した(写真:Artek)
ラメラ曲げ木が採用されているアームチェアシリーズ
日本の暮らしに伝えたいアルテックのメッセージ
(写真:Artek)
「日本とフィンランドは距離こそ離れていますが、価値観には共通点があるんです。国土に森林が多いことで木そのものや、木製の家や家具に尊敬と親しみを感じること、本質を探求することや、無駄を削ぎ落とした簡潔さを価値として感じ、職人による優れた手仕事を尊重することなどが挙げられます。日本の暮らしにアルテックが馴染みやすいのも、人々の心に自然と受け入れやすいのも、そのような背景があるのではないかと思います」
日本でアルテックのマーケティング・PRを務める平井尚子さん。入社7年目で、広報とともにイベントやオンラインの企画、SNSを担当。平井さんの二人のお子さんは、自宅で使っているアルテックの椅子が大好きで、それぞれお気に入りの特等席があるそう
家具は毎日その手で触れるもの。いつか捨てるものよりも、一生を共にする気持ちで手にしたものと過ごすほうが、きっと気分がいい。地球にも、社会にも、何より自分の心にやさしい循環になるはずです。「それは、アルテックが創業時より家具の素材や製法、デザイン哲学を通して発信してきたことでもあります」と平井さん。
2006年にスタートした「2nd Cycle(セカンド サイクル)」も、アルテックの哲学を象徴する取り組み。フリーマーケットや古い工場、学校、造船所などから、使い古されたスツールを買い取り、調査した。その後、さまざまな場所で製品を紹介している(写真:Artek)
2011年には、「2nd Cycle(セカンド サイクル)」の製品を販売する店舗がヘルシンキにオープン。アルテックの製品は時を経ても色あせず、新たな魅力が生まれることを証明している(写真:Artek)
「私が個人的にうれしいと感じているのは、アルテックの製品が『本物であり信頼できる良いもの』と胸を張れることです。だから、まずは日本のひとりでも多くの人にアルテックというブランド、「スツール 60」やその他の製品の存在を知ってもらい、いつか欲しいものとして『一生の相棒』の選択肢のひとつになれたらと思っています」
ステイホームで再発見されたプロダクトの価値
2019年、東京・神宮前にオープンした「Artek Tokyo Store」(写真:Artek)
2019年には日本初の旗艦店「Artek Tokyo Store」がオープン。一周年を記念したさまざまなリアルイベントも予定していましたが、2020年、コロナ禍での外出自粛と重なりやむなく中止に。しかし、このステイホーム期間も、暮らしや家具に対して新たな気づきを生み出しました。
人気イラストレーター長場雄氏とのコラボレーション。2020年にインスタライブにてペインティングの様子が配信され、話題に(写真:Artek)
2021年7月にタカラトミーアーツから発売され大きな話題を呼んだアルテックのガチャ「アルテック 北欧家具 コレクション〈アルヴァ・アアルト〉シリーズ」。「スツール 60」のガチャはスタッキングもでき、ヴィンテージ風に着色されたレアアイテムなど、ファン心をくすぐるラインナップとなっている
「95 テーブル」は壁面につけてデスクのように使う人も多い
「私も家でアアルトテーブルを10年くらい使っています。子供がテーブルの上で絵を描いてマジックが写ってしまうなんてことも普通にあるんですけど(笑)、日々使うものなのでそこまで神経質に考えず、味として楽しんでいます」
コンパクトながら、パーソナルスペースを充分に確保できる。階段下のデッドスペースに置いてもちょうどよい
(写真提供:Artek)