インタビュー
vol.53 高澤ろうそく・高澤久さん
現代に伝えたい「日本のうつくしい炎」を灯し続けのカバー画像

vol.53 高澤ろうそく・高澤久さん
現代に伝えたい「日本のうつくしい炎」を灯し続ける

写真:岩田貴樹

電気がこれほどまでに普及した今、私たちは何のために、ろうそくに火を灯すのでしょうか。石川県・七尾市で創業から120年以上「和ろうそく」を作り続けてきた高澤ろうそく店には、今までの和ろうそくのイメージを一新するようなアイテムが並んでいます。人々の昔からの知恵が込められた「和ろうそく」を、人々の暮らしにもう一度灯したい、「今」に残したい——その挑戦と、小さな炎に込められた想いを、次期5代目である高澤久さんに伺いました。

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2017年01月06日作成
vol.53 高澤ろうそく・高澤久さん
現代に伝えたい「日本のうつくしい炎」を灯し続ける
「シュッ」と軽快な音でマッチを走らせ、ろうそくの芯に火をつけると、一瞬ぐらりと炎が踊り、じんわりとあたたかな光が周囲を満たしていきます。

石川県・七尾市にある「高澤ろうそく」は、明治25年の創業から120年以上、この地で「和ろうそく」を作り続けてきた老舗です。

「昔の人はすごいです、本当に。ろうそくなんて、よく思い付いたな、と思います」
そういいながら、穏やかな眼差しで火を灯してくれたのは、「高澤ろうそく」取締役専務の高澤久さん。現在4代目代表であるお父様の跡を継ぐべく、和ろうそくの販売・企画に取り組んでいます。
七尾駅から徒歩5分の「一本杉通り」にある高澤ろうそく。室町時代はメインストリートだったこの通りには、数々の登録有形文化財が残されています。情緒ある土蔵造りのこの店舗もそのうちのひとつ

七尾駅から徒歩5分の「一本杉通り」にある高澤ろうそく。室町時代はメインストリートだったこの通りには、数々の登録有形文化財が残されています。情緒ある土蔵造りのこの店舗もそのうちのひとつ

「灯りと香り」をテーマにした店内には色とりどりのろうそくやお香が並び、思わず深呼吸したくなるほどの深く清らかな香気が広がります

「灯りと香り」をテーマにした店内には色とりどりのろうそくやお香が並び、思わず深呼吸したくなるほどの深く清らかな香気が広がります

能登半島の中央に位置し、天然の良港として栄えていた七尾は、材料の輸送がしやすく古くから和ろうそく作りがさかんな地だったといいます。取材中にも絶えず聞こえる「いらっしゃいませ」「こんにちは」の声で、店内は活気に満ちていました。観光で立ち寄った人もいれば、スタッフの方と楽しそうに立ち話をする常連客の姿も。

「お客様の7~8割が日々お仏壇用の和ろうそくを買い求めにきてくださる常連の方なんですよ。神様とか、仏さま、ご先祖さまとか……お仏壇やお寺で使っていただける場面が非常に多いものですから、この地あっての我々だと思います。支えられていますね」
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現代に伝えたい「日本のうつくしい炎」を灯し続ける
能登の各地には寺院が多く、古くから信仰心が篤い土地柄です。七尾では、国指定重要無形民俗文化財に登録されている「青柏祭(せいはくさい)」や、お神輿の中にろうそくを立て、神様に灯りを奉納する「奉燈祭(ほうとうさい)」など、一年を通して数々の祭りが行われているため、和ろうそくの使用場面も多く、人々の生活と密接な関わりがあります。
5月に行われる青柏(せいはく)祭。能登地区最大のこの祭礼では、「でか山」と呼ばれる山車が街を廻る(画像提供:高澤ろうそく)

5月に行われる青柏(せいはく)祭。能登地区最大のこの祭礼では、「でか山」と呼ばれる山車が街を廻る(画像提供:高澤ろうそく)

一般的な和ろうそくは白色と、特別なときに使われる朱色に分かれます。上から下までの太さがあまり変わらない「棒型」は普段使いできる略式。上が広がっている「イカリ型」が正式な形で、法事や葬儀、結婚式、お盆など正式な場面で使用されます

一般的な和ろうそくは白色と、特別なときに使われる朱色に分かれます。上から下までの太さがあまり変わらない「棒型」は普段使いできる略式。上が広がっている「イカリ型」が正式な形で、法事や葬儀、結婚式、お盆など正式な場面で使用されます

ですが現代では「和ろうそく」と私たちの生活は縁遠いものになってしまったように思えます。日本に流通しているろうそくは、大きく分けて「洋ろうそく」と「和ろうそく」の二種類ですが、具体的にどんな違いがあるのか、なんとなくイメージはできるものの、明確な違いは曖昧という人がほとんどかもしれません。

「和ろうそく」を今に残すために

海外でも人気の「和ろうそく ななお」。5本揃うことで「PLANT(=植物)」となるよう、写真左から「P」「L」「A」「N」「T」とそれぞれに名前が振り分けられています

海外でも人気の「和ろうそく ななお」。5本揃うことで「PLANT(=植物)」となるよう、写真左から「P」「L」「A」「N」「T」とそれぞれに名前が振り分けられています

人にも環境にもやさしい
「和ろうそく」の良さとは?
洋ろうそくはキャンドル、和ろうそくは仏壇用……。生活で使用する場面の多い洋ろうそくとは違い、一般的に「和ろうそく」というと、古めかしいものだったり、冠婚葬祭など、日常とは離れたものという印象があるのではないでしょうか。

ですが、高澤ろうそくの店内には、今までの和ろうそくのイメージを覆すようなものが数多く見られます。特にぱっと目を惹くのが、11年前に作られた「和ろうそく ななお」というシリーズ。和ろうそくらしからぬ、なめらかに波打つ曲線のうつくしさにうっとりします。100年以上伝統を守り続けてきた老舗ろうそく店がこのユニークな製品を作ったのは、2005年にフランスで開催された「パリ国際総合生活見本市」に出展したことがきっかけでした。
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現代に伝えたい「日本のうつくしい炎」を灯し続ける
「石川には伝統工芸品がたくさんあるので、その中のひとつとして出てみないか、とお誘いを受けて見本市に出展したんです。海外のバイヤーさんの意見も聞けるし、地元の活性化にも繋がるからと後押ししてもらって、折角だから出てみようって。本当にそれまでは何も深く考えずに、『和ろうそくっていうのはこういうもんだ』と思いながらやってきたんですが、そのときに初めて『じゃあ和ろうそくって一体なんだろうか?』ということを突き詰めて考えたんです。単に日本で作っているから和ろうそくなのか、その独特な形こそが和ろうそくなのだろうか、とか」

古くから当たり前のようにそこにあるものの素晴らしさは、日常ではなかなか見えにくいものです。製品を通してどんな価値を提供できるのか?石川県の小さな技術の伝承なのか、はたまた和ろうそくならではの大きな灯りなのか。自分たちが100年以上守り続けてきた製品にあらためて真っ向から向き合い、高澤さんは和ろうそくの最大の特徴をアピールすることに決めました。
溶かす前の蝋。こちらはヤシの実から作られたヤシの実蝋です

溶かす前の蝋。こちらはヤシの実から作られたヤシの実蝋です

「結果的に答えとして導き出したのが『植物性の材料を使っていること』だったんですね。和ろうそくは植物性の蝋を使っているので、火をつけたときに化学物質が出にくいんです。ススも出にくいので家が汚れませんし、環境にも人にもやさしい。たとえば、仏壇屋さんは『お仏壇には和ろうそくを使って下さい』っておすすめして下さるんです。なぜかというと、仏壇は金箔とか漆とか、傷つきやすいとても繊細なものでできているんですが、和ろうそくの煙はそれらを傷めないからなんです。昔の日本家屋と違って今の家は密閉される空間ですので、そういう意味でも住まいを傷つけず、家庭でも長く使っていただける。お客さまからよく聞くのは、食事のときに和ろうそくを灯し、TVなどは消して会話を楽しむという使い方なのですが、和ろうそくは香りもないので、食事の邪魔をすることもありません。これが伝統的な『日本のろうそく』の良さなので、その特徴を最大限に活かそう、と思いました」

石油など、鉱物性の油(パラフィン)を原料に使う洋ろうそくと違い、自然界にあるものだけで作られている和ろうそく。「人間が本当に心地良く過ごせるもの」を、昔の人は知っていました。古くから受け継がれてきた日本のものづくりを伝えるため、高澤さんはさっそく新しい企画に取り掛かります。
液体に溶かされた蝋。作り損ねたろうそくも溶かし直して再利用します。高澤さんは、小さいころにぬるくなった蝋の中に手を突っ込み、コーティングして遊んだ思い出があるとか

液体に溶かされた蝋。作り損ねたろうそくも溶かし直して再利用します。高澤さんは、小さいころにぬるくなった蝋の中に手を突っ込み、コーティングして遊んだ思い出があるとか

蝋を溶かす釜は、その日に作る量に応じてそれぞれ使い分け。朝の6時から薪を炊き、約140度まで蝋を熱します

蝋を溶かす釜は、その日に作る量に応じてそれぞれ使い分け。朝の6時から薪を炊き、約140度まで蝋を熱します

溶かした蝋はバケツに入れ、少し冷まします

溶かした蝋はバケツに入れ、少し冷まします

木型に流し込んで固め、和ろうそくの形を作っていきます。高澤さんは「型から出てくる和ろうそくは本当にほかほかで、生まれたてみたいなんですよ」と、うれしそうに話してくれました

木型に流し込んで固め、和ろうそくの形を作っていきます。高澤さんは「型から出てくる和ろうそくは本当にほかほかで、生まれたてみたいなんですよ」と、うれしそうに話してくれました

それまでの「和ろうそく」の
概念を取り払って
「ななお」のデザインを考案したのは、日本てぬぐいなどのデザインを手がける高橋小夜子さん。以前から和ろうそくを愛してくれていたことから、高橋さんに依頼することに決めたのだそう。最大の特徴である「植物を感じさせるデザイン」ということ以外は、種類も形も制限なしで自由に製作してもらい、いよいよ高澤さんの元にデザインの原画が届きました。それまでは伝統的な仏事の和ろうそくをメインで作ってきた高澤ろうそくですから、当初は色々と葛藤もあったといいます。

「最初に上がってきた原画を見たとき、『あ、これは出来ないな……』と(笑)。形的に作ることができないな、と思ってしまったんです。『これは我々が作るものではないかもしれない、観念から外れすぎている。我々が作ってもいいものなのか?』ということを色々考えて。最初に見たときですよ(笑)?もちろん、結果的には作って良かったと思っています」
通常の和ろうそくと比べるとなおさら、「ななお」はかなり斬新なフォルムであることがわかります

通常の和ろうそくと比べるとなおさら、「ななお」はかなり斬新なフォルムであることがわかります

「僕たちは子どものころから和ろうそくを身近に感じて育っていたので、固定観念がありすぎる。それはとっても良くないことだと思っていて。伝統工芸品というのは古くからの知恵が詰まっていて、とても良いものなのですが、それを今のまま未来に残していくだけでは、皆さんの生活とはかけ離れていってしまうということに気付いたんです。暮らしの中で使っていただけないと製品として意味のあるものではなくなってしまうので、『ななお』をきっかけに自分の中にあった固定観念を取り払いました」

高澤さんが部屋の隅の大きなろうそくに火を灯すと、周囲が一段明るくなりました。炎の力強さに驚きます。
もともと、和ろうそくは人々の生活に深く根付いたもの。電灯が普及する前は、仏事のほかにも夜間にメインの灯りとしても使用されていたこともあり、洋ろうそくと比べて炎が力強く、大きく、消えにくいのです。
芯は、畳に使用するイグサの仲間「灯芯草(とうしんそう)」と和紙で作られています。和ろうそく作りを一通り学んでいる高澤さんでも、芯を巻くのはとても難しく、特に先端を作る工程は熟練の技術が必要だといいます

芯は、畳に使用するイグサの仲間「灯芯草(とうしんそう)」と和紙で作られています。和ろうそく作りを一通り学んでいる高澤さんでも、芯を巻くのはとても難しく、特に先端を作る工程は熟練の技術が必要だといいます

蝋は固まると縮んでしまうので、中の空洞が潰れないよう写真のように竹串を刺しておきます

蝋は固まると縮んでしまうので、中の空洞が潰れないよう写真のように竹串を刺しておきます

和ろうそくの芯の中心は和紙で作られています。中が空洞になるように和紙を巻くことで下から酸素が供給され、大きく揺らめく、風に強い炎を生み出しているのです。また、和紙に巻かれている灯心草(とうしんそう)はスポンジのような構造をしているため蝋を吸い上げる力がとても強く、燃焼を助けています。この芯の形状は、基本的には昔から変わっていません。今でも高澤ろうそくの工場では、古くから受け継がれる「手作業」でろうそく作りが行われていました。
取材をした10月は、お寺で使用する朱色のろうそくがたくさん出荷される時期。色付きだけではなく、蝋の色をそのまま活かす白いろうそくにも上掛け用の蝋を塗り、再度コーティングして仕上げるのだそう

取材をした10月は、お寺で使用する朱色のろうそくがたくさん出荷される時期。色付きだけではなく、蝋の色をそのまま活かす白いろうそくにも上掛け用の蝋を塗り、再度コーティングして仕上げるのだそう

先端に残った染料は、一本一本小刀で削り取ります

先端に残った染料は、一本一本小刀で削り取ります

その日に作られたろうそくは燃焼試験を行います。火事に繋がらないよう、きちんときれいに燃えるかどうか、チェックを怠りません。「同じように作っても季節やそのときの環境によって違いは出てくるので、試験はほぼ毎日やっています」と高澤さん

その日に作られたろうそくは燃焼試験を行います。火事に繋がらないよう、きちんときれいに燃えるかどうか、チェックを怠りません。「同じように作っても季節やそのときの環境によって違いは出てくるので、試験はほぼ毎日やっています」と高澤さん

こうして和ろうそくには、芯の先からおしりにまで、より大きな炎を作ろうと工夫を凝らした先人の知恵がたくさん詰まっていました。だからこそ「今」に残す価値がある。「今」に残したい。そう考えた高澤さんは、自分の中の常識を打ち破って、伝統的な形だけではなく、現代の日常にあるべき形を作っていくことを決めたのです。

廃れかけていた技術を使って。老舗ろうそく店の新たな挑戦

「ななお」を皮切りに、高澤ろうそくでは若い人にも日常で使ってもらえる製品作りに取り組んできました。次に高澤さんたちが作ったのは、鮮やかでやさしいイエローが目をひく「菜の花ろうそく」。形は通常の和ろうそくと同様ですが、櫨(はぜ)ではなく菜の花から採れる菜種油を使用して作られているというのが大きな違いです。30代の女性に特に人気があるという「菜の花ろうそく」は、蝋が流れづらく、火を消した時のいやな匂いが非常に少ないというのが特徴。「第33回 全国伝統的工芸品コンクール」では「テーマ賞」を受賞し、年々出荷の本数も増えている看板商品のひとつでもあります。
パッケージとろうそくの色をデザインしたのは、絵本作家の太田朋さん。箱の表面にはほのぼのとしたイラストが描かれています

パッケージとろうそくの色をデザインしたのは、絵本作家の太田朋さん。箱の表面にはほのぼのとしたイラストが描かれています

七尾市の花でもある菜の花。春になると七尾では、このようにやさしくうつくしい風景が一面に広がります(画像提供:高澤ろうそく)

七尾市の花でもある菜の花。春になると七尾では、このようにやさしくうつくしい風景が一面に広がります(画像提供:高澤ろうそく)

その数年後に作られた「米のめぐみろうそく」は、その名の通り米ぬかから作られたもの。蝋そのものの色味を活かした温かみのある和ろうそくです。元々、米ぬかには蝋が含まれていて、布巾にくるんで家具や家を拭くなどワックス代わりに使用する生活の知恵もあったとか。

そして、今年作られた「うるしろうそく」。こちらは塗り物などに使う漆の木から作られたものなのだそう。しかし、どれも「これで作れるの?」と思ってしまうほど、ろうそくとは結びつかない材料です。
「米のめぐみろうそく」。「菜の花ろうそく」と同様、絵本作家・太田朋さんのイラストが描かれています

「米のめぐみろうそく」。「菜の花ろうそく」と同様、絵本作家・太田朋さんのイラストが描かれています

七尾市出身の画家「長谷川等伯」にちなんで名付けられた「ろうそく 等伯」(写真左)と、2016年に発売した「うるしろうそく」(写真右)

七尾市出身の画家「長谷川等伯」にちなんで名付けられた「ろうそく 等伯」(写真左)と、2016年に発売した「うるしろうそく」(写真右)

「一番最近作ったのが、漆で作ったろうそくでして。これ、今までの我々の和ろうそく作りとはちょっと趣が違ったというか、ひとつの挑戦だったんです。通常であれば蝋は蝋屋さんで作り、我々はろうそくを作るのですが、うるしろうそくは『蝋から作ってみよう』という試みのもと作った製品です。元々菜の花や米ぬかからろうそくができる、というお話も蝋屋さんからお聞きしたもので、今では継承されていない技術だったんです。うるしろうそくも、『輪島でいっぱい漆を育てているんだけど、実でろうそくが作れるらしい。できますか?』とお話をいただいたことがきっかけで。我々も本当に不勉強で、そういったことも知らなかったので、これは何かのチャンスだ、と思ったんです」

高澤ろうそくと同じ能登半島にある輪島市は、輪島塗という漆器の産地。現在国内産の漆は1〜2%といわれ、その多くを輸入で賄っているのが現状です。そこで輪島では国内産の漆を増やそうと植林活動を始めましたが、漆の木から漆が採れるようになるまでは20年と長い歳月が必要で、その間の手入れなどで人の手間や労力がたくさんかかることが課題でした。
漆の実から採れる蝋の量はおよそ1/10ほど。昨年集まった実から40キロの蝋を作りました。ろうそくにすると約5000本ほどで、毎年生産できる量に限りがあります(画像提供:高澤ろうそく)

漆の実から採れる蝋の量はおよそ1/10ほど。昨年集まった実から40キロの蝋を作りました。ろうそくにすると約5000本ほどで、毎年生産できる量に限りがあります(画像提供:高澤ろうそく)

「塗り物の場合は木の幹から作るのですが、我々が使うのは実の方ですね。漆は採れるまで時間が掛かるのですが、木の実は毎年収穫することができるんです。この漆の実を我々がすべて購入して和ろうそくを作ることによって、山や木の手入れをする人たちの手助けをできるのではないかと考えたんです。昔の技術を復活させるという意味もありますし、漆の保全活動にも繋がる。同じ伝統産業同士で協力すれば、能登の活性化もできるのではないかという想いがあって協力させてもらいました」
炎を灯した「うるしろうそく」。だいだいの、大きくゆっくりとしたゆらめきが特徴です(画像提供:高澤ろうそく)

炎を灯した「うるしろうそく」。だいだいの、大きくゆっくりとしたゆらめきが特徴です(画像提供:高澤ろうそく)

高澤ろうそくでは、大切にしている信条が3つあります。1つ目はクラフトマンシップ。職人さんがひとつひとつ手で作っているという、古くからずっと受け継がれてきたスタイルです。2つ目は、蝋から芯まですべて植物材料を使うこと。高澤さんは“植物が成長するエネルギーの分け前をすこしもらっている”と表現されていました。そして3つ目は、「和ろうそく作りを通じて地域貢献をする」ということです。

「芯の材料は、和紙や灯心草のほかに、蚕からとれる真綿なんかも使っているんです。和ろうそくに使われている材料はひとつひとつがすごく小さな地域の産業でもあるんですね。それをほかのものと取り替えずに、ずっと使い続けることで『守っていく』……というととても上から目線になってしまうのですが、『一緒に続けて行く』という気持ちですね。一番古くから使っているのは櫨を原料にした蝋なのですが、今、櫨蝋(はぜろう)を作っているのは日本で二社しかないんです。我々が積極的に使用することで、一緒に協力して産業を残していきたいと思っています」
vol.53 高澤ろうそく・高澤久さん
現代に伝えたい「日本のうつくしい炎」を灯し続ける
「能登半島の魅力は、一番は自然とのかかわりが多いということですね。四季それぞれ新鮮な魚が捕れますし、あとはとにかく、静か。『何もない良さ』というか。景色がきれいだったり、時間がのんびりしていることだったり、朝、うるさいくらいの小鳥の鳴き声で起きたり。自然がとってもよく残っているんです」

ゆっくりと、だけど力強く語るまっすぐな高澤さんのあたたかい瞳は、和ろうそくの灯りに似ている気がしました。保全活動や地域貢献、言葉だけを聞くと果てしなく大きいことのように思えます。そしてどれをとっても、ひとことに語れるほど容易いことではありません。ですが、この地で生まれ育った高澤さんからすれば、それはある種当たり前のこと。「きれいごと」という言葉で括ることはできない、この土地への純粋な深い愛情があってこその考えなのです。自然や人への、「当たり前」の、けれども深い思いやり。それが高澤ろうそくの作る和ろうそくの一番の魅力なのかもしれません。
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現代に伝えたい「日本のうつくしい炎」を灯し続ける

炎を灯すことで、自分と向き合う時間を作り出してほしい

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現代に伝えたい「日本のうつくしい炎」を灯し続ける
古くから夜間に照明として使われてきた和ろうそく。しかし、電気の普及や、機械での大量生産が可能な洋ろうそくが輸入されたことにより需要は減り、七尾はもとより、石川県内で和ろうそくの製造を行うのは、今では高澤ろうそくのみとなってしまいました。高澤さんは、和ろうそくの役割や炎と人間の付き合い方を、こんな風に語ってくれました。
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現代に伝えたい「日本のうつくしい炎」を灯し続ける
「完全に電気の方が明るいですし、電気代と比べてもろうそくの値段の方がずいぶん高いので、明るさとかそういうものでは決して勝負になるものではないのですが……。ろうそくっていうのは必ず時間が経つとなくなりますよね。大きさによって燃焼時間が違うんですけど、たとえば90分のものだったら食事をして、みんなで会話をして楽しむとか。30分だったらこの時間でヨガとか自分に向き合う時間を作る、とか。そういう時間を暮らしの中で「作る」のがろうそくの役割なんだと思います。そのために火を灯してもらいたいなあと思っています。和ろうそくの火はゆらぎもありますし、語りかけてくるような炎は見ていてとっても面白いんです」

私たちそれぞれに「24時間」は平等に与えられています。ですが、その中でスマートフォンやSNS、さまざまなものを介して常に何かと繋がっていなくてはいけない時代です。仕事や家事、いろいろなことに追われる慌しい24時間の中で、ただ炎を灯してじっと自分と向き合う。それだけのことが、なんだかとても贅沢で幸せなことのように感じます。「和ろうそくをきっかけに何かの時間を作り出して欲しい、その時間を作るために火を灯して欲しい」。それが、今も昔も変わらない高澤さんたちの願いです。
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現代に伝えたい「日本のうつくしい炎」を灯し続ける
高澤さんは、お盆になると思い出す、お客様からの手紙があるといいます。
手紙を送ってくれたのは、戦争の影響で娘を亡くしたご夫婦。あるとき高澤ろうそくで購入した和ろうそくを、娘さんの墓前で灯しました。炎のゆらめきを見ていると、「自分を責めるのはやめて、私の分まで長く楽しく生きて欲しい」と、まるで娘さんに話しかけられているような気持ちになったといいます。ご夫婦は心が晴れ、娘が自分たちを許してくれたように思えた、と、手紙に記してくれました。

「ろうそくは炎をつけることによって、なにか心に響くものになると思うんですね。心に響いたり心を動かしたり、慰めたり。商品であり『もの』ではあるんですけど、『心』に関わるものだなあと。炎を通じて亡くなった方を偲んだり話しかけたり。姿は見えずとも、自分と心が通い合うようなところがあったりとか。ろうそくはそういう不思議な力を持ったもので、お金などの価値では計れないような部分が多いです。我々としてもそういうものを扱わせていただけることを、とてもありがたく思っているんです」
高澤さんと若女将・佐知さん

高澤さんと若女将・佐知さん

炎は文明であり、ときに想いの象徴でもあります。誰かに想いを馳せて、何かに感謝をして火をくべる。そんな明るくささやかな炎をずっと繋いできた和ろうそく。高澤さんがいう「心に響くもの」は機械ではなく、やはり「人の心」が通うことなくして産まれません。長い年月を経て、その手段や役割は形を変えても、人の心の芯は変わることはないと、和ろうそくの炎は教えてくれるようです。

現在、高澤ろうそくでは、和ろうそくの良さを海外の人にも知ってもらうための活動に取り組んでいます。今はアメリカへの出荷がとても増えているのだとか。和ろうそくの灯りが、いつか世界中の暗闇を灯す日がくる。すべてを包み込むような炎を見ていると決して大げさではなく、そう思わずにはいられません。

高澤さんたちが守り続けてきたあたたかく力強い炎は、今日も、これからも、誰かの心の内側を照らしていきます。

(取材・文/長谷川詩織)
高澤ろうそく|たかざわろうそく高澤ろうそく|たかざわろうそく

高澤ろうそく|たかざわろうそく

明治25年創業。石川県の伝統工芸品である「和ろうそく」を今も作り続ける、県内唯一の専門店。仏事に使用される伝統的な和ろうそくのほか、日常にも馴染むような新しい形のオリジナル和ろうそくの販売・企画に取り組んでいる。

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