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記憶と重なることで果てしない世界が広がる「詩」の世界へ
人と会う機会が減ったことで、自分と向き合う時間が増えた方も多い近頃。生活スタイルや価値観が変わり、今まで深く考えなかったことについて考えるようになったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
根本的な孤独に突然襲われたり、生きることへの不安や疑問が湧き「自分ってなんだろう」という誰も分からない問いに苦しんだり。そんなとき、「詩」は心に寄り添い、気づきもしなかった角度から世界を見つめることを教えてくれます。
読書は好きだけれど詩集はあまり読んだことがないという方も多いでしょう。詩は「悲しい」「うれしい」といった感情をそのままの言葉で表していなかったり、言葉になる前の感情を掬い上げるようなところがあるので、一見難解に思えますよね。
しかし、芸術と一緒で作品の読み方に正解はありません。理解しようとするのではなく、そこに広がる世界にただ浸ってみればいいのです。
紙に書かれた単なる言葉たちが、それを受け取った人の想い出や想像力と重なることで果てしない世界をつくり上げる。そんな歓びを感じてみてください。同じ言語を与えられた人でも、言葉の選び方によって全く違う風景を構成するなんて、とても不思議ですよね。そこに詩を読む楽しさがあると思います。
今回は、キナリノ読者さんに多いミレニアル世代の詩人によるとっておきの詩集をご紹介します。私たちと同じ時代に生きる詩人たちが、それぞれの感性で表現した心象風景や死生観を、選び抜かれた言葉とともに感じてみてください。
瑞々しい感性が心に刺さる。ミレニアル世代の詩人による「詩集」9選
※一読者として感じたことをまとめながらご紹介しています。あくまで筆者個人の読み取りによるものであることをご了承ください。
思潮社 2014年11月発行
1988年生まれ
暁方ミセイ(あけがた みせい)さんの詩は、オノマトペなどの独特な言い回し、気象や鉱物、器官モチーフが多出する点が特徴です。
主体が自然や宇宙へと広がっていく想像力豊かな詩想に、第1詩集『ウイルスちゃん』から夢中になっている方も多いのでは。宮澤賢治の研究をされていたこともあってか、どことなく賢治作品の雰囲気を彷彿とさせるところも。
「薄明とケープ」と題された詩では、「消化器系の永遠まで、ながく、あるいて」という表現や、主体の中に飼われている海がからだと睡眠を等しく保つときに現れるイメージが印象的。内と外が繋がっているような不思議な世界を見せてくれます。
風景を見つめながらも頭の中を通過する過去や心象風景が様々なシーンを呼び、それらが上手く一つの物語になっているような印象です。
詩集タイトルの「ブルーサンダー」は、そのままの意味もあるのでしょうが、真夜中に失踪する貨物列車から来ているそうです。それを知って改めて読んでみると、夜や明け方の香る作品が多い気がします。
ブルーサンダー
2,420円〜(税込)
※価格等が異なる場合がございます。最新の情報は各サイトをご参照ください。
思潮社 2014年12月発行
1983年生まれ
2015年、詩壇の芥川賞とも言われるH氏賞と中原中也賞をダブル受賞し話題になった、岡本啓(おかもと けい)さんの第1詩集。アメリカのワシントンD.C.滞在中に書いた12篇と描き下ろし1篇が収録されています。
絶妙に区切られた詩行と連が心地よいリズムを生み出し、言葉ひとつひとつから鼓動や息づかいが聞こえるような語り口。書きたいことが明確にあって衝動のまま書き切ったような若々しさに、こちらの心まで突き動かされページを捲り続けてしまいます。
「一人の女から産まれて/ここにいる/それじたいが/暴動だ」。巻頭詩「コンフュージョン・イズ・ネクスト」の印象的な最後の一行が痛烈に刺さり、その後の詩篇へと促されます。
この詩のタイトルは、著者の生まれ年にリリースされたSonic Youth(ソニック・ユース)のアルバムにある曲と同じでもあります。意図的につけられたのかは定かではありませんが、その歌詞の内容も含めると、ここに込められたメッセージをより深く読み取ることができるかもしれませんね。
「宇宙はなにもない」「名前のない骨になる」ことを恐れ、だからこそ、そこに確かにあったはずのものを忘れないで世界と対峙しているのでしょう。死について書きつつも、全体的にあかるさやエネルギーが感じられます。見えないものや力よりも、今ここにある世界と自分自身を信じている。ここに収められた詩篇は著者にとって、まさに存在したことの証でもある"グラフィティ"なのかもしれません。
「もう二度とはじまることがない、と/だれもがほんとに、はじまってしまった」。そんな一生を力いっぱい生きて行くしかないとでも言うように、言葉は滑らかに勢いを持って続いていきます。
グラフィティ
1,173円〜(税込)
※価格等が異なる場合がございます。最新の情報は各サイトをご参照ください。
出典: リトル・モア 2014年8月発行
1986年生まれ
最果タヒ (さいはて たひ) さんは、数々の書籍出版のみならず、路上に大きな文字で詩を貼り付けた「路地裏の詩」、迫り来る詩語を撃ち抜く「詩ューティング」ゲームなど詩界の枠を超えて様々な試みをされています。
日常の中でふと詩に出会う楽しみを教えてくれる、詩人というよりもアーティストと呼ぶ方が相応しいかもしれません。
まずタイトルから気になってしまうこの詩集。「○○系」という"若者ことば"と「ぼくら」の生きる太陽系のイメージを掛けているような。どの詩篇も、脳内に浮かんだ言葉や考えを息継ぎなしで書き留めたようなリアリティー感じるスタイルで書かれています。
ときに自分勝手で毒っぽくもあるけれど、誰もが気づかないふりをしていることを代わりに言ってくれているような愛のある言葉。読んでいくうちに、弱くて脆い"ぼくら"人間がなんだか愛おしく思えてきます。
死んでしまう系のぼくらに
1,320円〜(税込)
※価格等が異なる場合がございます。最新の情報は各サイトをご参照ください。
出典: ナナロク社 2016年8月発行
1981年生まれ
エッセー執筆や詩のワークショップ、朗読など幅広くご活躍の三角みづ紀(みすみ みづき)さん。スロベニアやリトアニア国際詩祭に招聘されたことも。
こちらの詩集にある36篇は、ベルリンに1ヶ月間滞在し書き下ろしたものだそう。飾らない言葉でシンプルに書かれているので、すっと心に入ってきます。
「コーヒーカップ」「トースト」「鋏」といった誰の日常にもあるようなタイトルで、日々の些細な出来事を通して気づいたことが綴られています。
誰もがしたことがあるけれど深く考えたことはなかったような行動、見たことのある事象から"ひかり"を掬い取ったような、丁寧でやさしい作品たち。やわらかなひかりに包まれたようなはじまりの中で、今日を大切に生きようと思わせてくれる詩集です。
出典: 七月堂 2020年11月発行
1982年生まれ
萩野なつみ(はぎの なつみ)さんの詩は、何度も口ずさみ心にとどめておきたいような、色々な意味でとにかく眩しい詩です。
説明的でない分、無限の想像力が広がり美しさを増しているかのよう。第1詩集『遠葬』からファンという方も多いのではないでしょうか。
「その胸に/いつかしのばせた海が/息絶える時の色を/おぼえていて」とはじまる詩「うたかた」。このたった4行で心を奪われ、儚くも消えゆく、続きを見損ねた夢のような淡い世界に引き込まれます。あの時伝えるべきだった言葉やするべきだったこと、後悔を滲ませながらも最後は希望を感じさせてくれます。
自分の考えや内面を赤裸々に綴ったものと違い、豊富な語彙力によって丁寧に選ばれた言葉が連なってイメージを与えてくれる詩たち。浮かぶイメージが未知の光景であっても、どこか懐かしいような気持ちになります。
いつか記憶から消えていってしまう儚い光景を詩としてとっておきたい、そんなふうにささやかに紡がれたかのような……。読後心がしんとなるような余韻を味わってみてください。
出典: ナナロク社 2016年10月発行
1991年生まれ
第1詩集で中原中也賞と丸山豊記念現代詩賞を最年少の18歳で受賞した文月悠光(ふづき ゆみ)さんは、ミレニアル世代の中では恐らく誰よりも若くして詩人に。
「ことばのシャツ展」開催やエッセイ集刊行、作詞、朗読などあちこちでご活躍されています。そして、こちらの詩集に収録の「片袖の魚」は、なんと映画化され先月公開されたばかり。
なぜ人は人を好きになり、別れ、それを繰り返すのか。恋をすることの不思議に挑んだ詩篇たち。「あてつけのような快晴を渡してやりた」かったり「まぶたの裏に森を育てて君という木を閉じ込め」たり、誰かを想う主体の心の動きが詩的に描かれています。
表題作「わたしたちの猫」では、ときに扱いにくい自分自身や自分ではどうしようもない感情を持つ私たちを「人の心には一匹の猫がいる」と表現しています。心の中の猫を理解し愛してくれる人に出会いたいという願いは、きっと誰にでもある感情なのではないでしょうか。
思潮社 2017年11月発行
1990年生まれ
独特な作風で彗星の如く現れたマーサ・ナカムラさんの詩は散文詩で、短編小説を読んでいるような楽しさが。
詩と言えば著者の経験や心情が割とそのまま書かれているものが多い印象の中、冒頭の詩「犬のフーツク」を読み始めると、時間や世界の設定があまりにも自由であることに戸惑いを受け、それでも奇怪なストーリー展開に自ずと引き込まれてしまいます。
「近づいていくと消えてしまう漬け物石くらいの高さしかない緑色のお爺さん」や、「獣で作った押し花を数える犬のフーツク」という不思議な登場人物が不思議な行動をとり、現実と異界・現在と過去を行ったり来たりするような稀有な詩体験ができること間違いありません。
フーツクが読んでくれた絵本に出てくるストーリーも奇妙で、物語の中に物語があるという層のような構造が作品に深みを出しています。他にも、柳田國男の法事をイメージしたものなど謎めいた作品が多く、見どころの多い詩集ですよ。
狸の匣
1,758円〜(税込)
※価格等が異なる場合がございます。最新の情報は各サイトをご参照ください。
出典: 七月堂 2013年発行
1974年生まれ
大手出版社からの発行ではなく装丁も素朴なものですが、一度手にしたら手放したくないくらい中身の言葉にときめく峯澤典子(みねさわ のりこ)さんの詩集。
丁寧に選ばれた言葉がしんしんと雪の降るように語られ、一面冬景色のあかるい白が浮かびつつも、どこか淡く寂しい感覚を得るイメージがあります。
詩「途上」では、「月満ちるのを待たずに夕刻と闇のあわいに溶けていったちいさな子」が花籠にのって流れていく途上について詠まれた、切なく美しい作品です。主体はその死に対して自分を責め、苦しみながらも日常のささやかな動作に生かされていることを実感します。主体が苦しみを乗り越えながら生きていく人生の途上でもあるのです。
「何度いのちが経たれても/ひとの手はなお/花びらを模して/どうしても/やさしく生まれようとする」からはじまり、「雪柳」や「坂道」がキーワードとなって詩全体に深みを出しています。
繊細な比喩が所々に使われていて、「言葉ってこんなに美しいものだっただろうか」とため息が漏れるほど。フランス留学中の出来事を題材にしたもの、命の終わりやはじまりについて考えさせられるもの。どの詩もいつでも取り出せるように、心に大切にしまっておきたいおきたいものばかりです。
ひかりの途上で
0円〜(税込)
※価格等が異なる場合がございます。最新の情報は各サイトをご参照ください。
出典: 思潮社 2020年11月発行
1984年生まれ
石松佳(いしまつ けい)さんは、こちらの詩集で今年H氏賞を受賞したばかりという旬な詩人。
例えば「生きることは衣服のように白い」「馬の背中は喪失的にうつくしい作文」といった聞きなれない直喩・隠喩が多出しますが、そう言われてみるとそんな気がしてイメージも湧いてくるので不思議です。
一般的には、喩えるものが喩えられるものより分かりやすいものであるのですが、ここでは読者の想像を超えた表現で喩えられているため、他では味わったことのない感覚を与えてくれます。そして、同じ一つの事象を受けながらも受け手の数だけ無限のイメージがあることを思い出させてくれます。
一陣の風がすっと心の中を駆けていくような、そして、今読み終わったばかりの詩さえも風に攫われてしまったようなさわやかさ。それでも心に残った欠片だけを集めてもう一度、感じた世界をつくり上げていく。「あの世界はなんだったんだろう」と記憶の中でもう一度詩を楽しむ楽しさを与えてくれます。
著者の意図や作品を理解しようとすると難解な詩集ですが、読まずにはいられない読後感。「ハイ・ウォーターズに住む双子たち」「スラは食事を終えると夕立の気分に襲われて」など、タイトルからは想像もつかない期待に緊張してしまう作品も収められています。
萩野なつみさんの『トレモロ』同様、内容と共鳴する佐野裕哉さんの装幀が素敵で、誰かに贈りたくなるような詩集でもありますね。
現代詩は自由なので、今回ご紹介したように様々な形式・表現方法があります。なんだか面白そうと思って頂けたでしょうか。前向きになれないときやなりたくないときも、詩はそのままのあなたに寄り添ってくれることでしょう。「この詩想、好きだなあ」としみじみ思えるほどの詩に出会えますように。
思潮社 2014年11月発行
1988年生まれ
暁方ミセイ(あけがた みせい)さんの詩は、オノマトペなどの独特な言い回し、気象や鉱物、器官モチーフが多出する点が特徴です。
主体が自然や宇宙へと広がっていく想像力豊かな詩想に、第1詩集『ウイルスちゃん』から夢中になっている方も多いのでは。宮澤賢治の研究をされていたこともあってか、どことなく賢治作品の雰囲気を彷彿とさせるところも。