写真を通して「人」を見ること
PART1:ひとりの「人」とじっくり向き合う
今しか撮れない、母と娘の一瞬の記録
ありのままの「人」の一瞬を切り取る
■『ポートレイト 内なる静寂: アンリ・カルティエ=ブレッソン写真集』アンリ・カルティエ=ブレッソン(岩波書店)
フランス人写真家、アンリ・カルティエ=ブレッソン。幼い頃から写真に興味を持ち、シュルレアリストのマン・レイを知ったことから本格的に写真に取り組むようになりました。戦時中には戦死の噂が広まったために、回顧展に生きた本人が訪れて人々を驚かせたというエピソードも。戦後に写真家集団マグナム・フォトを結成し、今では20世紀の代表的な写真家のひとりになっています。本書は、そんな彼による白黒写真集。ポートレイトはカメラを意識した写真になることも多いですが、彼の写す人物はみんな意識が別のところにあって、ありのままの姿をさらけ出しているよう。何を考えているのだろう、どう感じているのだろうと想像が膨らみます。
戦後間もないパリが舞台の、白黒映画のような1冊
■『セーヌ左岸の恋』エド・ヴァン・デル エルスケン 著、大沢類 訳(エディシオントレヴィル)
エド・ヴァン・デル エルスケンは、第二次世界大戦後からフリーのカメラマンとして活動を始めたオランダ人写真家。本書は、エルスケンが20歳で初めて出版した1冊であり、彼の名前を有名にした代表作です。舞台はフランス・パリ。サン・ジェルマン・デ・プレのカフェにたむろするアウトサイダーな若者たちを撮影した写真を、アンというひとりのパリジェンヌに恋い焦がれる青年の物語として再構成しています。構図、景色、当時の人々の格好やふるまい、そして一人ひとりの表情…すべてが美しく、ページをめくるたびに引き込まれます。写真集ですが、見終えた時には白黒映画を一本楽しんだような感覚になるかもしれません。
PART2:時代の空気をリアルに感じる
世界が今よりも広かった時代を、写真でめぐる
■『一〇〇年前の世界一周』ボリス・マルタン 著、ワルデマール・アベグ 著、ナショナル ジオグラフィック 編(日経ナショナルジオグラフィック社)
ドイツ・ベルリンで生まれた写真家、ワルデマール・アベグは、1905年に世界を巡る旅に出ます。1年半の間に訪れたのは、アメリカ、日本、朝鮮、中国、インドネシア、インド、スリランカなど。本書は、そんな同時代の各国のようすを117点収録しています。アメリカには巨大ビル群がひろがる一方で、日本は江戸時代の趣を残していたり、国によっては今でもあまり変わらなかったり。白黒写真をカラー処理していることもあり、当時の景色や人々の様子が、より身近に感じられます。
70~80年代のロンドンの音楽シーンがよみがえる!
■『LONDON RHAPSODY/ ロンドンラプソディー』トシ矢嶋(リットーミュージック)
トシ矢嶋は、イギリス・ロンドンの音楽シーンで活躍した日本人写真家。今では伝説となっているポール・マッカートニー、ボブ・マーリィ、エリック・クラプトン、ポール・ウェラーと言ったミュージシャンを被写体に、ライブでの迫力満点の演奏から自宅を訪れてのプライベートなひとときまで、写真におさめてきました。本書では、撮影時のエピソードも紹介しつつ、1970年代中期~80年代初頭にかけての写真を100点以上収録。当時のロンドンの雰囲気や、ミュージシャンたちのリアルな空気感が伝わってくる、音楽好きにはたまらない1冊です。
鬼が撮るのを手伝った?昔ながらの日本人の姿
■『鬼の眼 土門拳の仕事』土門拳(光村推古書院)
令和になった今、近いようで遠く感じられる昭和時代。まだ昔ながらの風景や暮らしが残っていたこの時代に、日本人の姿と心を記録することに腐心した写真家・土門拳。著名人や一般人、寺院、仏像などの文化財を写真におさめてきましたが、彼にとって写真は「写した」ものではなく「写った」もの。繰り返し撮り重ね、計算から外れたところでようやく表れたいい写真を、土門氏は「鬼が手伝った写真」と呼びました。本書はそんな彼の、戦前から戦後にかけての写真を369点収録。少し昔の日本を知りたい、思い出したいという方におススメです。
PART3:ありふれた日常を違った視点から見る
とある家族の10年をとらえたファミリーポートレイト
■『じいちゃんさま』梅佳代(リトル・モア)
高校時代に祖父にカメラを向けたことから、写真の道へ進むことになった作者、梅佳代。彼女にとって、“じいちゃん”はもっとも尊敬する、偉大な人でした。大人になってからは、できるかぎり故郷である能登の田舎町へ戻って、今じいちゃんを写真におさめ続けています。そうして誕生したのが、梅家の10年をまとめたファミリーポートレイト。祖父を中心に、三世代にわたる梅家の毎日が、時におかしく時に温かく捉えられています。詳しい説明がなくとも分かる家族のユニークなキャラクターに、顔がほころぶこと間違いなし。
失われつつある、生き物と人との営み
■『お蚕さんから糸と綿と』大西暢夫(アリス館)
日本の養蚕は、農家数も生産量も減少の一途をたどっています。しかし、かつては日本が世界一の生糸輸出国となったこともあったほど、近代化を支えた一大産業でした。滋賀県と岐阜県の境、山麓の集落には、そんな歴史を引き継ぐ養蚕農家が今も残っています。本書はどんな場所で、どのように蚕を育て、どうやって繭から糸をつくりだすのかを写真で丁寧におさめた写真集。写真に写り込んだ農家さんの表情や、糸に触れる手から、養蚕へまっすぐ向き合う真摯さや優しさが伝わってくるよう。養蚕がどんな営みであり、人と生き物との深い関わりを考えさせてくれます。
少し昔の、ありふれたパリの街角
■『ドアノー写真集 パリ遊歩―1932-1982』ロベール・ドアノー(岩波書店)
報道写真やファッション写真で知られる、フランスの写真家ロベール・ドアノー。パリの街並みに並々ならぬ熱い視線を注ぎ、その景色や道行く人々を写真におさめ続けました。パリの街中で出会った有名人のスナップや、老若男女問わず通りを行き交う人々、カフェでくつろぐ姿、雰囲気のがらりと変わる夜の景色……。ドアノー作品の集大成である本書では、日常の一瞬がとらえられています。人々の表情を見てみると、その一瞬にどんなドラマが繰り広げられたのかが浮かんでくるよう。ページを開くだけで、ちょっと昔のおしゃれな日常に入り込むことができますよ。
PART4:女性たちの美しさや強さを味わう
夫側から切り取った、夫婦の私生活
■『もう、家に帰ろう』藤代冥砂(ロッキングオン)
夫と妻の、ゆったりとした幸せなひと時。こんな毎日がずっと続いたらいいな、と思ったことはありませんか?本書は、写真家・藤代冥砂氏が、ファッションモデルの妻・田辺あゆみさんのあらゆる私生活を3年間かけて切り取った1冊。ご飯を食べているところ、寝ているところ、ぼんやりしているところ…飾らないありふれた暮らしの一瞬には、被写体へのあふれんばかりの愛がいっぱい。こんな夫婦になりたい、とちょっとした憧れを抱かせてくれます。
世界中の女性たちが持つ美しさに触れる
■『世界の美しい女性たち-THE ATLAS OF BEAUTY--世界の女性たち 約550名のポートレート』ミハエラ・ノロック(パイインターナショナル)
60ヶ国以上の国々を渡り歩き、5ヶ国語で交流を重ねながら、女性たちの美しさを撮り続けてきた写真家ミハエラ・ノロック。本書では年齢、生活、環境などの異なる、約550名の女性のポートレートを集めています。登場するのは、人里離れたところに住む部族の女性に、世界最高峰の学校でバレエを学ぶ学生、農村に住み2人の子供を育てる母親など。民族衣装やスポーツウェアといった一人ひとり特色のある装いや、まっすぐこちらへ向けられる眼差しを見ていると、女性の美しさというのは国も民族も超えてどこにでもあるのではないかと感じます。
その人の人生を、装いとともに追いかける
■『Advanced Style--ニューヨークで見つけた上級者のおしゃれスナップ』アリ・セス・コーエン 著、岡野ひろか 訳(大和書房)
装いやファッションは、その人の好みや考え方、そしてそれまでの人生が形となって表れるもの。何かに悩み、装いにもそれが表れる時は、上の世代の女性たちがお手本を示してくれるかもしれません。本書は、60~100歳の女性たちの姿をおさめた写真集。自分に何が合うか、何を着たいかという考え方を確立し、自分の好きなものを好きなように着こなす彼女たち。「お年寄りだから」なんて考えは全くない、自信に満ちあふれた姿をみれば、きっと「明日は何を着ようかな」と元気をもらえるはずです。
PART5:社会問題を切り取り、考える
白と黒のコントラストが、ある人生を浮かび上がらせる
■『ユージン・スミス写真集』ユージン・スミス(クレヴィス)
ウィリアム・ユージン・スミスは、アメリカの写真家。戦争写真やグラフ雑誌に携わり、写真家集団マグナム・フォトの一員としても活躍。のちに日本の公害問題にも関心を寄せるようになります。本書は、そんな彼の生誕100年を記念してつくられた写真集。代表作「水俣」をはじめ、「カントリー・ドクター」「スペインの村」「助産師モード」など約150点をおさめています。そこにある暮らし、人びとの表情、生きている世界をありのままとらえており、リアルさを伴って訴えかけてくるような1冊です。
消えゆく民族と文化の貴重な記録
■『BEFORE THEY PASS AWAY -彼らがいなくなる前に-』ジミー・ネルソン 著、神長倉伸義 訳(日経ナショナルジオグラフィック社)
普段、テレビやネットなどでしか触れることのない少数民族。古くから同じ場所で生活を営み続けてきた彼らは、グローバル化や近代化の影響で独自の暮らしや文化を失いつつあると言われています。写真家ジミー・ネルソンは、世界中の少数民族のもとを訪れ、一緒に暮らしながらその姿を写真におさめてきました。人々の瞳には生き生きとした生命力が宿り、私たちと同じ一人の人間であることを痛感させられます。民族衣装や生活の記録としてはもちろん、雄大な自然とともにある人々の構図が美しく、写真として純粋に楽しむことができますよ。
60年間の象徴的な出来事を写真で振り返る
■『マグナム・マグナム コンパクトバージョン』マグナムフォト 著、ブリジット・ラルディノワ 編、小林美香 訳(青幻舎)
ジャーナリズムと芸術性を両立した、”世界最高峰”の写真家集団として呼び声高い、マグナム・フォト。2007年、本書はその創設60周年を記念して刊行された写真集です。最大の特徴は、才能を持った会員たちが、それぞれ互いの代表作を6枚ずつ選ぶという形を取っていること。計400枚以上の写真がピックアップされ、過去60年の間に撮った世界の出来事のうち、象徴的な写真を収録しています。どんな視点で写真を見ているのか、なぜその写真を選んだのかまで解説されているため、写真そのものはもちろん、写真家から見たその写真の意味まで知ることができます。
■『ケンカじょうとういつでもそばに』ソノダノア(KADOKAWA)
11歳の少女、もくれんちゃん。母であるソノダノアさんは、成長著しく、すぐに変化してしまう娘を記録に残したいと考えました。そこでもくれんちゃんを中心に据え、ありふれた日常を撮影。いつも彼女と一緒にいるからこそ、母と娘それぞれの違いが浮かび上がります。母娘で写真を撮るという関係性は、今だけのもの。娘の変化を記録にとることを通して、母娘2人の関係性を一瞬の永遠に閉じ込めたような写真集です。