あなたの身近にもある、語り継がれてきた民話
PART1:まずはたくさんの物語に触れよう
読み聞かせにもピッタリ。子どもと読みたい民話集
地元で伝えられてきた、身近な民話から読む
■『信濃の民話』松谷みよ子(未来社)
「日本の民話」シリーズは、日本各地で伝えられてきた民話を集めたもの。「岩手」「越後」「出羽」「讃岐」と1冊ごとに異なる地域の民話だけを集めており、自分の住む場所の民話から手に取ることができます。よく知っている定番から、こんな話がこの地域に伝わっていたなんて!という新しい発見となるものまで、自分がどんなところに住んでいるのかを再確認しながら楽しめるシリーズです。
興味を持った、テーマごとの民話から読む
■『いまに語りつぐ日本民話集』野村純一・松谷みよ子(作品社)
「いまに語りつぐ日本民話集」シリーズでは、「木や草の伝説」「石や岩の伝説」といった自然にかかわるものから、「だいだらぼっちの伝説」「お地蔵さまの奇跡」など登場する不思議な存在を中心に集めたもの、「学校の怪談」「乗物とメディアの怪」「浮遊する現代の妖怪たち」といった最新のものまで、幅広い民話を網羅しています。そのため、興味を持ったテーマから民話を知るのにおすすめ。挿絵が多く、文字も大きく読みやすいので、お子さんと一緒に読むにもぴったりの民話集です。
PART2:昔の人々が自然に向けていたまなざし
山や海の生き物たちと人との関わりを学べる民話集
■『生きもの民俗誌』野本寛一(昭和堂)
動物と触れ合うのははペットや動物園、水族館だけ、という方も多いのではないでしょうか。昔の日本人は動物と深く関わりながら生きてきましたが、現代とはその関わり方が大きく異なっていました。本書では、シカ、クマ、イノシシといった獣から、ツバメやツルなどの鳥、魚、昆虫など、著者が長い時間をかけて蒐集してきた動物に関わる民話をまとめています。害を与える動物も、神様としてあがめられていた動物も、人の暮らしに奥行きを与えてくれていたことが、民話を通して伝わってきます。
民話に興味がある方は必読!
■『遠野物語・山の人生』柳田国男(岩波書店)
民話を知るうえで避けては通れないのが、日本の民俗学のパイオニアである柳田国男が記した「遠野物語」です。こちらは柳田氏が現地の民話蒐集家に話を聞き、岩手県遠野地方に伝わる民話などをまとめた説話集。「神隠し」「オシラ様」「座敷童」など、民話に興味のある方なら一度は聞いたことのあるテーマが満載。ただ物語が並べられているのではなく、柳田さんの足取りをたどる紀行文のように文章が紡がれているので、一緒に当時の山や里を歩いているような気分で民話を楽しむことができます。
民話に登場する自然を、科学的に解説
■『民話が語る自然科学―見つめなおす郷土の風景』宮橋裕司(慶應義塾大学出版会)
民話を読んでいると、「これは本当に起こったことなのだろうか」と疑問がわいてくることがありますよね。多くの場合、「想像上の話だろう」と思いがちですが、科学的なアプローチから見てみると現実に即した部分もたくさんあることが分かります。本書では、日本の民話3000話を取り上げ、自然科学の観点から読み解いています。例えば民話の中で「津波がきた」と書かれていれば、歴史的にいつごろ起こった津波だったかを追求。実際に起こった出来事がいかに大きな影響を人びとに与え、いかに想像力を働かせて民話として語ってきたのかを解き明かしていきます。
PART3:日常の裏にひそむ「不思議」を知る
かつて確かにあった、日本の村や里の姿
■『村の奇譚 里の遺風』筒井功(河出書房新社)
山の漂泊民・サンカの研究などで知られる民俗研究家が、日本各地の村や山間の里へおもむき、蒐集した13の民話を集めた1冊です。不思議な出来事、奇妙な風習の名残り、非定住民の暮らし、狐憑きなど、現地の人々から語られる民話はちょっと恐ろしく、ゾッとするものばかり。数十年前には確かに漂っていた、不思議なことが不思議なまま語られた村や里の雰囲気が、肌で感じられるようです。
おいしく民話を楽しめる!食にまつわる1冊
■『民話いっちょ、食べてみらんの』川野栄美子(梓書院)
阿蘇山から有明海にむけて、九州北部の四県をまたがって流れる筑後川。本書では、その流域で語り継がれてきた民話を集め、誕生の経緯や現代に残っている理由などの解説を添えています。最大の特徴は、「食」にフォーカスを当てていること。ナマズ、タコ、揚巻貝、キュウリなど、身近な食材がいっぱい。生きる上で欠かせない食を、筑後川流域の人々がどう思い、どう語り継いできたのかがよく分かります。民話をおいしく食べる気持ちで楽しめる1冊です。
暮らしと生活の変化に伴い生まれた、現代の民話
■『日本現代怪異事典』朝里樹(笠間書院)
民話とは、人びとに語られ、引き継がれる物語。民話が発生するのは現代でもおかしくなく、実際にすでに語られ、定着している”現代の民話”というものも存在します。例えば十円玉に指を置いて霊を呼び寄せる「こっくりさん」。「私、きれい?」と聞いてくる「口裂け女」。さらにインターネットで登場した怪異まで、本書では新しい民話を詳細に収録。幼いころ気になっていたあの噂や、学校で流行っていた話など、今だからこそ民話として楽しんでみてはいかがでしょうか。
PART4:「畏れ」に隠された意味をひも解く
昔の人々が「神隠し」としたものとは?
■『神隠しと日本人』小松和彦(角川書店)
人のゆくえが突然分からなくなることを指す「神隠し」。現代で起これば犯罪や事件として考えられるこの事態を、昔の人々は神によるものであり、人間の世界とは異なる「向こう側」へ行ってしまったもの、と考えました。本書では、著者が実際に「神隠し」に関する民話や伝承をたどり、民話に共通する神隠しの条件、神隠しに遭った人間が行く先など、いろいろなアプローチから民俗学的にその実態に迫っていきます。現在は神隠しこそなくなりましたが、そこに秘められた意味は、現代にも通ずる示唆をくれるかもしれません。
日本人に深く関わってきた「鬼」の存在に迫る
■『鬼の研究』馬場あき子(筑摩書房)
さまざまな民話の中で登場する、「鬼」。一般的に鬼と言われると、頭に角が生え、虎皮のふんどしを身に付け、棍棒を持つ姿が想像されますが、日本の歴史を振り返ってみるとそんな鬼ばかりではありませんでした。本書では、最も多く鬼の物語が語られたという平安時代に焦点を当て、政治の思惑などが渦巻く都で、当時は何が「鬼」とされたのかを追求。そもそも鬼とは何かという問いから、鬼を見た人びとの証言、都の闇に生きていた鬼といったアプローチから「鬼」の本当の姿に迫っています。
厄災や疫病をとらえる日本人のまなざし
■『病と妖怪 ―予言獣アマビエの正体』東郷隆(集英社インターナショナル)
現代のように科学が発達していなかった昔、厄災や疫病は人知を超えた、予測も対策もできないものでした。本書では、日本人が生み出してきた厄災や疫病に関わる妖怪の紹介と、日本人がどのようにそれらに対峙してきたかを解説。疫病封じると言われる「アマビエ」や、突然現れて預言を行う「件(くだん)」など、妖怪がそもそもどんな存在で、どんな時に現れ、どのような物語として語り継がれてきたのかを通して、日本人の厄災や疫病への向き合い方を知ることができます。
PART5:語り手と聞き手がいて生まれる民話の魅力
民話の面白さと魅力が刻み込まれた名著
■『民話の世界』松谷みよ子(講談社)
松谷みよ子は、『怪談レストラン』などで知られる児童文学作家。作家活動のかたわら、民話の研究にも力を入れており、書籍も数多く出版してきました。そのうちの1冊である本書は、民話との出会いから、自分も語り手となることまで、彼女にとっての民話という存在について余すところなく書かれたもの。実際に日本各地を訪れ、民話の研究を深めていく足取りをたどりながら、私たちにも彼女が心動かされた民話の魅力を語り掛けてくれます。
「人と場所」の関係性から見る民話
■『民話の地理学』佐々木高弘(古今書院)
引き継がれてきた昔話や伝説には、必ず「場所」が登場します。本書では妖怪に焦点を当てながら、民話で語られる場所を地理的な観点から考察。妖怪というと、その姿形やどんな特徴を持つのかというところばかりが語られがちですが、地理的な観点を用いると、なぜその場所に妖怪が登場するのか、その場所である意味は何なのかが見えてきます。昔話からインターネットで形作られた民話まで、幅広い時代を取り上げているのも注目です。
この民話があの地域でも?民話の形式と種類が分かる本
■『日本伝説集』高木敏雄(筑摩書房)
柳田国男とともに「郷土研究」を編集・刊行し、日本の郷土研究に多大な影響を与えた民俗学者・高木敏雄による1冊です。本書では、日本各地から集めた250編の民話を、「巨人伝説及両岳背競伝説」「九十九伝説」「樹木伝説」と登場するモチーフごとに分類して紹介。民話の形式や種類が網羅されており、同様の話が別の場所で語られていたり、同じ話にアレンジが加えられて語られていたりと、民話の生まれ方や伝わり方が分かるようになっています。本格的に民話について学んてみたい方は、ぜひ手にとってください。
■『子どもに聞かせる日本の民話』大川悦生(実業之日本社)
大人になった今とは違って、幼いころに聞く民話は時に残酷で、時に興奮するほどおもしろいもの。子供にそんな体験をさせたい時にぜひ手に取ってほしいのが本書です。「うつくしい心とやさしい思いやりのこもったお話」「欲ふかい人がそんをして正直な人がもうけるお話」など、物語のタイプに分けて掲載されているのが特徴。また読むのに何分必要なのか民話ごとに表記されているので、子供の調子に合わせて、今日読み聞かせるお話を選んでみてくださいね。