課題図書って?
◇子どもや若者が本に親しむ機会をつくり、読書の楽しさ、すばらしさを体験させ、読書の習慣化を図る。
◇より深く読書し、読書の感動を文章に表現することをとおして、豊かな人間性や考える力を育む。更に、自分の考えを正しい日本語で表現する力を養う。
大人が読んでも面白い
PART1:小学生、中学生向け課題図書
1975年〜1984年度
『ふしぎなかぎばあさん』(1977年・小学校低学年)
『火曜日のごちそうはヒキガエル』(1983年・小学校高学年)
ひきがえるのウォートンは、おばさんにお菓子を届けに行く途中、みみずくに捕まってしまいます。みみずくはウォートンに、誕生日のごちそうにおまえを食べると告げるのです。誕生日は、次の火曜日。束の間の二人暮らしが始まりました。気立ての良いウォートンは、数日とはいえどうせなら気持ちよく暮らしたいと、みみずくに丁寧に接します。食べられると分かっているのに明るく誠実に振舞うウォートン、そんなウォートンに調子を狂わされて楽しく過ごしてしまうみみずく……!チャーミングなウォートンとどこかユーモラスなみみずくが愛らしく、大人もじんわり幸せな気持ちになる作品です。
『火曜日のごちそうはヒキガエル―ヒキガエルとんだ大冒険〈1〉』ラッセル・E・エリクソン 著、ローレンス・ディ フィオリ 絵、佐藤涼子 訳(評論社)
『太陽の子』(1979年・中学生)
11歳の少女・ふうちゃんの家は神戸の沖縄料理店です。ふうちゃんには優しい両親や店の常連さん達ですが、みんなそれぞれ辛い戦争の記憶を抱えて生きていました。ふうちゃんの目を通して周りの人々を描くことで、戦争を知らない私たちの胸にも悲惨な戦争の姿が立ち上がってきます。平易で読みやすい文章だからこそ内容がまっすぐに心に届く、子どもと読みたい名作です。
『太陽の子』灰谷健次郎 著、田畑精一 絵(理論社)
1985年〜1994年度
『長いしっぽのポテトおじさん』(1985年・小学校低学年)
リナの家で飼っている茶色い犬、名前はポテトチップスと言います。子犬の時からポテトチップスが大好きだったのでこの名前が付きました。そんなポテトチップスもだんだん歳をとって、目の下に白髪が出てき始めます。そこでリナが呼び始めた新しい愛称が『ポテトおじさん』。ところが、ポテトおじさんと呼ぶようになってから不思議な出来事が起こります。なんと、リナはポテトおじさんと話が出来るようになったのです。ポテトおじさんは寂しい時になぐさめてくれるだけでなく、生きる上で大切なことをたくさん教えてくれます。その言葉のなんと優しいことか!愛情あふれる1冊です。
『長いしっぽのポテトおじさん』上崎美恵子 著、笠原美子 絵(岩崎書店)
『森は呼んでいる』(1993年・小学校高学年)
環境問題について考えさせられる本です。岩手県の室根村の山の中、川の上流の森の木が切られて山も川も荒れ始めていました。天然のイワナやヤマメは居なくなり、漁業に頼っていた村人は村を離れて行きます。そんな村に、カキの養殖をしている水口さんがやって来ます。痩せてきた海を蘇らせるために、山に木を植えたいというのです。実際の環境問題をきっかけに生まれた物語であるこの本が出版されたのは1992年。今から30年ほど前に、すでに環境問題は始まっていたのです。この本の世界と現代を見比べて、どう変わっているのか、人には何が出来るのか、何をしていくべきなのか、子どもと話をしてみませんか。
『森は呼んでいる』及川和男 著、中村悦子 絵(岩崎書店)
『時をさまようタック』(1990年・中学生)
命について、死について考えさせられる物語です。そして、読み物としてとても面白い!磨き上げられた家で厳しくしつけられて育ったウィニーはある朝、家族が眠っている間に家を出ます。いつも清潔な家でお行儀よくしていることを窮屈に感じていたのです。家出をしたウィニーが出会ったのはタック家の人々。その水を飲むと永遠の命を手に入れられるという泉の水を飲んでしまい、永遠にそのままの年齢を生きている家族でした。ウィニーは外の世界で初めて自分で自由に決められる世界を体験し、そしてタック家の人々と触れ合うことで生きること・死ぬことについて考えます。美しい情景描写と魅力あふれる登場人物に引き込まれ、読み終わった後にも静かな余韻が心に残る作品です。
『時をさまようタック』ナタリー・バビット 著、小野和子 訳(評論社)
1995年〜2004年度
『ぼくの村にサーカスがきた』(1997年・小学校低学年)
秋、アフガニスタンの小さな村パグマンに、待ちに待ったサーカスがやって来ます。夏の間サーカスを楽しみにしながら畑仕事に精を出す子ども達、サーカスがやってきてはしゃぐ村人達。そんな日々の暮らしが穏やかで暖かい絵柄で綴られ、読みながらパグマンの村に親しみを感じはじめた冬。パグマンの村は無くなります。戦争で破壊されてしまうのです。豊かな日常と地続きになって描かれるからこそ、戦争の怖さ、悲惨さが肌で感じられる物語です。
『ぼくの村にサーカスがきた』小林豊(ポプラ社)
『すてねこタイガーと家出犬スポット』(2004年・小学校高学年)
捨てられた子猫のタイガーを助けたのは、飼い主の虐待から逃げ出した家出犬スポットでした。2匹は安住の地を求めて旅に出ます。旅の始まりは悲しいスタートでしたが、子猫のタイガーは可愛らしく、母のように子猫を守るスポットは優しく、2匹は寄り添いながら勇気と知恵を武器に明るく旅を続けます。これがどちらか1匹だけだったら、どんなにか悲惨な旅になっただろうに!2匹が共に居ることを感謝せずにはいられません。信頼と愛情の尊さについて教えてくれる物語です。
『すてねこタイガーと家出犬スポット』リブ・フローデ 著、木村由利子 訳、かみやしん 絵(文研出版)
『宇宙のみなしご』(1995年・中学生)
「頭と体の使い方次第で、この世界はどんなに明るいものにもさみしいものにもなるんだ」。この本は、4人の中学生の孤独と絆の物語です。真夜中に屋根の上から見上げる星が隣り合って見えていても実は何万光年も離れているように、私たちも一人で輝かなければならない。でも近くで同じように輝く仲間を感じることが、輝き続ける力になる。大人に向かって歩き出した中学生達が自分に、そして仲間に真摯に向き合う姿を描いたこの作品。大人にはまぶしく、同年代の少年少女には共感を持って受け入れられることでしょう。
『宇宙のみなしご』森絵都(角川書店)
2005年〜2014年度
『おじいちゃんのごくらくごくらく』(2007年・小学校低学年)
共働きの両親の代わりにいつも園に迎えに来てくれるのはおじいちゃん。主人公『ぼく』はおじいちゃんと大の仲良しです。お風呂も寝るのもいつもおじいちゃんと一緒。そのおじいちゃんの口ぐせ「ごくらく、ごくらく」はいつしか二人の合言葉になっていました。そんな大好きなおじいちゃんの入院、そしてお別れ……。本の中から賑やかな声が聞こえてきそうな生命力溢れる絵と相まって、子どもにも人と共に生きることの大切さがきっと伝わる1冊です。
『おじいちゃんのごくらくごくらく』西本鶏介 著、長谷川義史 絵(鈴木出版)
『チームふたり』(2008年・小学校高学年)
主人公・6年生の大地は卓球部のキャプテン。小学校最後の試合では最強のダブルスを組みたいと思っていたのに、5年生の純と組むことになり反発します。うまくいかないダブルス、家庭の問題、友達との関係と悩みは山積み。それでも真正面から向かっていく大地の成長が丁寧に描かれます。小学生だってたくさん考えて、悩んで、一生懸命生きている。作者のそんなリスペクトが物語の端々に見え隠れし、説教臭さのない良質の小説に仕上がっています。思いやりの心が育ち、視野が広がっていく大地の姿はたくましく、小学生から中学生の子どもさんに是非すすめたい作品です。
『チームふたり』吉野万里子 著、宮尾和孝 絵(学研プラス)
『時間をまきもどせ!』(2009年・中学生)
ギブはある日、森で出会った不思議な老人から時間を戻せる機械を渡されます。その夜、ギブの妹ロキシーが交通事故で意識不明の重体に……。ギブはロキシーの事故を食い止めるため、老人からもらった機械を使います。時間を戻して過去を変えるとその後の出来事も変わってしまい、思う様な結果にならず何度も時間を巻き戻すギブ。物語はハッピーエンドを迎えることができるのか……?過去が今に繋がっていて、今が未来に繋がっている。だからこそその時その時を大切にしたいと思わせてくれるお話です。
『時間をまきもどせ!』ナンシー・エチメンディ 著、吉上恭太 訳、杉田比呂美 絵(徳間書店)
PART2:高校生向け課題図書
『ニングル』(1986年課題図書)
富良野の森に住む小人「ニングル」は、『知らん権利』『ほっとく義務』を大切に『欲』のない太古から変わらない生活を営んでいました。そんなニングルの社会を通して、人間社会、特に情報の氾濫への問題を呼びかける本作は、なんと1985年の出版です。それから更に情報化は進み、情報とどう付き合うかは“どう生きるか”と言い換えても過言ではない時代になりました。デジタルネイティブと呼ばれる現代の高校生に、また情報化の時代に流されて来た大人にも、ぜひ読んで欲しい1冊です。
『ニングル』倉本聡(理論社)
『エミリーへの手紙』(2003年課題図書)
亡くなったハリーのパソコンに残されていたのは、孫娘エミリーに向けた26通の手紙でした。26個のファイルにはそれぞれ鍵がかかっていて、パスワードはハリーが残した詩集に隠されているという念の入れよう。詩集を読み解きパスワードを解読しているうちに、ハリー・息子夫婦・エミリーの関係性が浮かび上がり、エミリー親子の家族関係が修復されていく仕掛けには脱帽です。そして、ハリーが残した26通の手紙の素晴らしいこと!人が人として生きていく上で大切なことを、分かりやすく優しく伝えてくれます。あなたもエミリーと一緒に、ハリーからの愛情溢れる手紙を紐解いてみませんか?
『エミリーへの手紙』キャムロン・ライト 著、小田島則子 訳(NHK出版)
『てのひらの中の宇宙』(2007年課題図書)
お父さんと2人の子どもの会話を中心に描かれる物語です。宇宙に興味を持つ幼児の純粋な疑問に、手加減なく真実を伝えようとするお父さん。父子の会話は科学的で、時に哲学的でもあります。2人のお母さんは癌で入院しています。お父さんは生態系や進化、宇宙論を子どもに語り、子どもも幼いなりにお父さんの話を、生死の意味を、お母さんの病気を理解していく……。切ないお話だけれど、ただ涙を流して終わりになる小説とは一味違います。宇宙の大きさ、生命の尊さ、科学の意義、そんなものを感じながら、今この時を過ごす奇跡に気づかされる、そんな作品です。
『てのひらの中の宇宙』川端裕人(角川書店)
「鍵っ子」という言葉を子ども時代この本で知ったという人も多いのではないでしょうか?鍵っ子の広一は学校から帰って鍵がないことに気がつきます。雪の中、鍵を探しに学校へ戻った広一はそこでふしぎなおばあさん「かぎばあさん」と出会い……。この本を読んで、当時鍵っ子だった子どもは自分もかぎばあさんと出会うことを空想し、鍵っ子でなかった子どもは鍵っ子に憧れました。現代では昔ほど鍵っ子が特別ではなくなりましたが、それでも鍵っ子の寂しさ、かぎばあさんの暖かさはいつの時代も読者の胸にじんわり届きます。
『ふしぎなかぎばあさん』手島悠介 著、岡本颯子 絵(岩崎書店)