秘められた家族の世界を、本を通して覗き見る
- 寒さに負けない体を目指す!ゆらぎがちな冬のご自愛ケアキナリノ編集部
①いい時も悪い時も同じ屋根の下。家族の成長物語
辻村深月『家族シアター』(講談社)
奥田英朗『我が家のヒミツ』(集英社)
どうやら自分たち夫婦には子どもが出来そうにない、そう気づき始めたころ、憧れの人と再会し……(『虫歯とピアニスト』)。長年競い合ってきた同期のライバルとの昇進レースに破れた53歳の正雄が始めたのは……(『正雄の秋』)。妻が突然市議会議員に立候補すると言い出した!(『妻と選挙』)。
どこにでもいるような普通の家族の、ささやかでとびきりチャーミングな冒険の物語。心が気持ちよく揺り動かされる、愛おしい6組の家族の物語。
さくらももこ『もものかんづめ』(集英社)
「ちびまるこちゃん」でおなじみのさくらももこさんが日常を綴ったエッセイ集。軽妙な語り口で綴られるエッセイには、父ヒロシやお母さん、お姉ちゃんなど漫画と変わらない家族も登場します。ああ、ちびまるこちゃんの世界そのまんま、と思いきや!漫画とは違う衝撃の真実が語られるのです。「祖父は全くろくでもないジジイであった」から始まるおじいちゃんのエピソードには驚きと爆笑が抑えられません。やっぱり家族ってどこか滑稽で、そして愛おしい。笑った後にはほっこり気持ちが温まる名エッセイです。
②さりげない絆に憧れる。兄弟の物語
小山宙哉『宇宙兄弟』(講談社)
幼い頃、共に宇宙への夢を語りあった兄と弟。一度は宇宙への道を諦めた兄のもとに、今なお宇宙を目指す弟から一通のメールが届く。そして、兄は再び宇宙を目指し……!兄・弟それぞれの熱い想いが胸を打つ、壮大な宇宙への旅がはじまります。
タイプが全く違いながらもどちらも魅力的な兄・六太(むった)と弟・日々人(ひびと)。周りの個性的な登場人物の活躍と共に、ふたりの挑戦からあなたも目が離せなくなることでしょう。
江國香織『間宮兄弟』(小学館)
弟はもてない。兄ももてない。兄は恋に失敗するとビールを飲み、弟は新幹線を見にいく。それぞれ個性的な兄弟のやりとりがじんわり面白く、価値観が違いながらもどこか繋がっている関係性に安らぎを感じます。
もてなくても幸福に暮らす兄と弟の日常に、ああ兄弟っていいなと憧れます。
いせひでこ『にいさん』(偕成社)
「ひまわり」をはじめ多くの作品が日本でも愛されているゴッホ。ゴッホに弟がいたこと、その弟がゴッホの創作活動を支え続けたことをご存知でしょうか。オランダの小さな村に生まれたゴッホとテオ。兄の絵画への情熱に時に嫉妬を覚えながらも、テオは兄を、兄の芸術を、慕い続けました。
兄弟のお互いへの強い思いと、兄弟それぞれの芸術への愛が、テオの静かな語り口を通して綴られます。
③そこにあるのは秘密か、日常か…。濃やかで瑞々しい姉妹の物語
谷崎潤一郎『細雪』(新潮社)
大阪の旧家を舞台に四姉妹の日常を描く、谷崎潤一郎の代表作。物語は姉妹のうち1番の美人、雪子の見合いから始まります。美人でありながらなぜか縁談がまとまらない三女雪子と世話を焼く姉達、そして奔放な妹が繰り広げる日常が、谷崎潤一郎の流れるような文章でとうとうと綴られます。丁寧な会話の描写とリズムのある大阪弁の取り合わせが絶妙で、そばで姉妹の会話を聞いているような親近感を覚えずにはいられません。
阿佐ヶ谷姉妹『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』(幻冬舎)
「姉妹」といえばこの二人を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。歌い踊る昭和な芸風と品の良い人柄で人気の二人組の芸人さん。実際は姉妹ではないのですが、長きにわたる二人暮らしを経て、まるで本当の姉妹のような仲の良さと遠慮のない間柄もお茶の間で好評です。現在は隣同士別々の部屋に住む二人が、二人暮らし時代にリレー形式で書いたこのエッセイ集。なんだかヘンテコリンで愛おしい二人の関係に頬がゆるみっぱなしなのでした。
湊かなえ『豆の上で眠る』(新潮社)
大学生の結衣子と、2歳年上の姉・万佑子を中心に広がる、違和感の物語。結衣子が小学校一年生の時、姉・万佑子が失踪します。必死の捜索も虚しくそのまま姿を消した万佑子ですが、2年後、姉を名乗る少女が家族の前に現れます。大喜びで少女を迎え入れる家族の中で、少女が姉だと信じられず戸惑う結衣子……。戻ってきた姉に違和感を抱き続けながらも大学生になった結衣子ですが、夏休みに帰省した実家でのある出来事から姉への疑惑が決定的に深まります。やがてその疑惑は父に、母にと広がり、少しずつ家族の秘密が明らかになっていきます。
本物の姉とは?本当の家族とは?正解がひとつではない宿題を渡されたような、答えは自分で決めればいいんだよと許されたような、余韻の残る読後感は、湊かなえさんの真骨頂と言えるでしょう。
④血縁以上、家族未満?”手に入れた”家族の物語
本田孝好『チェーン・ポイズン』(講談社)
「本当に死ぬ気なら、1年待ちませんか?」。誰にも必要とされず虚無感から未来を捨てようとしていた孤独な女性に、見ず知らずの人物から謎の契約が持ちかけられるところから物語は始まります。1年の期間限定で新しい生活に足を踏み出した彼女は、やがて児童養護施設でボランティアを始めます。死ぬまでの時間潰しにとはじめた好きでもないボランティアでしたが、やがて彼女は「人から必要とされている」自分に気がつくのです。周りの人を大切だと感じれば感じるほど、命の期限は近づいて来て…。
本作は、続きが気になって読む手が止められない極上のミステリーでありながら、親のない子どもと孤独な女性が家族の絆を獲得する様子を丁寧に描いた家族の物語でもあるのです。
羽海野チカ『3月のライオン』(白泉社)
幼い頃に家族を事故で失った孤独な少年桐山零が、将棋を通して人と交わり、成長していく物語です。15歳にしてひとり暮らしの桐山少年は、ひょんなことから川向いに住む川本家の3姉妹と知り合います。他人と関わることを拒絶し心を閉ざしていた桐山ですが、親が無い境遇でありながら明るく強く生きる3姉妹に次第に心を許し、そこに居場所を求めるようになっていきます。作者は川本姉妹を「つらく厳しい闘いでも、終われば優しく迎え入れてくれる人がいるとまた頑張れる」、そういった希望として描いたといいます。共に食卓を囲み、泣き、笑う、そんな家庭の日常を糧に成長する姿が、私たちの胸を熱くします。
三浦しをん『小暮荘物語』(祥伝社)
都会の外れに、時代に取り残されたように立つオンボロアパート、小暮荘。大家さんと、ちょっと変わった店子さんたちが暮らすこのアパートでは、今日もささやかな事件が起こります。なんだかさえない日常にやるせない想いを募らせる時、支えてくれたのは安普請ゆえに無縁ではいられない隣人達の温もりでした。
今日も小暮荘では住民たちが付かず離れず家族のように暮らしている、そんな幸せな光景が目に浮かぶ、連作短編集です。
⑤言葉が要らない時もある。愛が伝わる家族の写真集
森友治『ダカフェ日記』(ホーム社)
夫婦ふたり、子どもふたりと犬1匹。どこにでもあるような日常を、温かなカメラワークで切り取ります。1日3万アクセスの人気ブログが写真集になりました。
飾らないのになんだかお洒落、日常なのに美しい、そんな一瞬を丁寧に切り取りました。
浅田政志『浅田家』(赤々舎)
父、母、兄、そして写真家本人の4人家族が、消防士やラーメン屋など様々な職業に扮する家族写真の写真集です。演出の中にも家族の関係性が垣間見える写真の数々に、自然とにんまり。なんといっても、家族写真といっても全員大人!全員いい大人なんだけど、やっぱり親にとっては子どもで兄にとっては弟、そんな優しさが写真からしっかり伝わってくるのです。
上田義彦『上田義彦写真集 at Home』(リトルモア)
サントリー烏龍茶、無印良品、資生堂など、広告写真を中心に活躍している写真家・上田義彦が自身の家族を13年間撮り続けた家族の記録を、一冊の写真集にまとめました。モデルである妻・桐島かれんとの結婚から、4人の子どもが生まれ6人家族になるまで、13年間の家族の歴史が確かな技術に裏打ちされた繊細な撮影で美しく記録されています。大切なものを、忘れたくないものを、一番いい姿で残したいという写真家の情熱に満ちた、宝箱のような写真集です。
子育てよりも自分を優先したがる父親、孫に理想の子ども像を押し付ける祖父、外見ばかり気にして娘と分かり会えない母親……。そんな”折り合いのつかない”家族の短編集です。いえ、”折り合いがつかなかった”と言うべきでしょう。読みながらこちらが眉をひそめてしまうほどいびつだった家族の関係が、ささやかな事件を通してゆるやかに変化していく家族の成長の物語です。
どこにでもありそうな、でもどれも全く違う、それぞれの家族の物語全7篇。ただひとつ7つ目のお話には、事件も行き違いも起こりません。ただただ優しい『家族』への祝福の物語。ぜひ周りに人が居ないところでお読みください。