本に夢中になっていたらもうこんな時間!なんて経験を最近していますか?寒さ本番とはいえ、この時期は何かと人が集うイベントが盛りだくさんですね。そんな合間に自分だけのひとり時間を本と一緒に楽しみませんか?
慌ただしい毎日を過ごすからこそ、自分だけのゆったりとした時間はいっそう特別に感じられるはずです。心が真っ白に洗われるような「雪景色」の描写が美しい小説を10作品集めてみました。
主人公の和樹は、大雪の降る夜に、天からやってきた不思議な雪の少女と出会います。彼女と会話を重ねることで、自らのあり方を探っていくファンタジー・ストーリーです。高校生だった和樹は大学進学の後に就職しますが、挫折し、自分の故郷である北国へ帰郷して少女と再会を果たします。少女と出会う時はいつも大雪の日の夜で、場所は決まって公園。和樹が成長しても少女は和樹が高校生の時に出会ったままです。少女から生きる意義を教えられた和樹は、次第に人生に前向きになります。少女もまた、天へ帰る決心をし、2人は正月も間近な大雪の夜に、公園で盛大なお別れ会を開きます。
雪の少女が和樹に伝える言葉は良い意味での余白があり、受け取る人によって解釈が変わるようなどこか哲学的で考えさせられます。作中に「生き続けるということは、失われていくものを見続けることなのか」と言う言葉が、雪が舞い散るように頭の中でリフレインする小説です。
今にも死んでしまいそうな子犬を拾った小学生の深雪(みゆき)。「春に降る“忘れ雪”に願いをかければ必ず叶う」という祖母の言い伝えを思い出し、子犬の回復を願います。その後、春の淡雪が降る公園で、桜木という少年と出会った深雪。獣医を目指す高校生の桜木は、深雪の拾った子犬を治してくれました。「忘れ雪」の力は本当だったと実感した深雪と桜木は次第に惹かれあいますが、やがて別れの時を迎えた二人は、「7年後の同じ時間、同じ場所」での再会を約束をします。想い合う二人を妬む人物や様々な事件によって、純愛は悲劇によって阻まれていきます。それぞれの一途な想いがうまく交わらない様に、もどかしく感じつつも目が離せない恋愛ストーリーです。
「淡雪」という雪を見たことはありますか?春先に降るふわりとして今にも消えそうな雪を淡雪と呼びます。淡雪のような二人の純愛が、次々に現れるできごとや登場人物によって危ぶまれていくストーリー。ハッピーエンドな恋愛ストーリーでは物足りない方へおすすめです。タイトルの『忘れ雪』の意味をラストでじんわりと実感して。
主人公の女の子、倉折飛鳥の小学校5年生から20歳までの成長を描いた小説です。孤児院で育った飛鳥は、意地悪な金持ちの本岡家に養子として引き取られます。本岡家から強いられる嫌がらせの苦痛な生活から飛び出し、途方に暮れていたところ、祐也と名乗る若い男性と出会います。心優しい祐也に引き取られた飛鳥の幸せな生活は束の間でした。進学先で本岡家の娘である奈津子と再会すると、飛鳥は事件へと巻き込まれていきます。
佐々木丸美さんの1975年のデビュー作品です。このストーリーがミステリでなければ、ひとりの少女が不運な自分の運命に打ち勝って、幸せな生活を送れたかもしれないと想像をかき立てられる作品です。美しい文体で綴られる雪の情景描写や登場人物の細やかな心の動きは、読むだけで感性が磨かれるように思えます。
少し気の早い雪の降る日。同級生の自殺に関係したであろう8人のクラスメイトが学校へ集められました。8人の生徒はそのまま外に出ることもできず、時が止まった校舎に閉じ込められてしまいます。しかし、8人全員が自殺したクラスメイトは誰なのか思い出せません。驚くことに、今いるクラスメイトの誰かが自殺した生徒である可能性も出てきました。 時の止まった校舎で誰が何の目的で8人を呼んだのか――謎と迫りくる焦燥感や閉塞感にもがきながらも、それぞれの胸の内が明かされていく密室ミステリ小説です。
多感な高校生時代をつい思い返してしまうような小説です。登場人物の人となりも繊細に描かれており、青春が入り混じった心情を交えながらじっくりと真相に迫っていくミステリ小説です。この冬、ゆっくりと時間をかけて楽しみたい一冊です。最後にやって来る結末の爽快感をぜひ味わってみてください。
出典: 並外れた記憶力を持ち、外資系製薬会社のウィルスハンターとして活動する神原恵弥。季節はクリスマス。不倫相手を追いかけて北海道で暮らす双子の妹を連れ戻す名目で、恵弥は北海道へ向かいました。しかし本当の目的は、「クレオパトラ」と呼ばれる、謎の人物の正体を掴むためでした。ところが妹の不倫相手は突然亡くなってしまい、「クレオパトラ」を巡って様々な登場人物による心理合戦が繰り広げられ、しまいには、妹まで行方不明になってしまいます。人々が探し求める「クレオパトラ」の正体や妹の行方など、個性的なキャラクターの恵弥が謎に迫まるエンターテイメント・ミステリ小説です。
出典: 今回ご紹介した恩田睦さんの作品である『クレオパトラの夢』は、実は同作者の『MAZE』という小説の第2弾として発表されました。前作にも登場した頭もキレて口達者な神原恵弥の魅力的なキャラクターには「やられた!」という痛快感でいっぱいです。ベッドの中であっという間に読んでしまうくらい、ページをめくる手が止まらなくなること間違いなしです。
『雪のひとひら』 ポール・ギャリコ/矢川澄子(訳)
ある寒い冬の日――地上から何マイルも離れたはるかな上空で生まれた「雪のひとひら」。雪という自然の姿に女性の人生をなぞらえ、ひとひらの雪が地上へ舞い降りるところから、やがて空へ蒸発するまでを描いた大人向けの童話です。地上での旅では、夫となる「雨のしずく」と出会い、2人は結ばれて子供が誕生します。やがて訪れた夫との永遠の別れや子どもたちの巣立ちという人生のターニングポイントを雪のひとひらは経験します。長い旅のなかで、ひとひらの雪は「自分はいったい何者なのか?」「何のためにこの世に生を受けてきたのか?」と生きることに疑問を抱きます。そして、雪のひとひらは空に還る最期の瞬間に生きることの意味を深く悟ります。原作の情景の美しさもさることながら、矢川澄子さんの優しい日本語訳にも注目です。
はかなくも美しい雪を、女性の一生になぞらえて表現している約140ページの中編小説です。読むだけではもったいないくらいに、音読をしたくなるような美しい言葉で文章が綴られています。作品に触れることによって透明な気持ちになれるようで、日常の小さな喜びを抱きしめたくなります。雪の降る日に全ての女性へ捧げたい一冊です。
主人公は野生の雪だるま、雪子ちゃん。雪深い山の村に、一人空から降ってきた雪子ちゃんは、画家・百合子さん家の隣の小屋で暮らしはじめました。バターが好きでいつも好奇心旺盛な雪子ちゃんは、百合子さん達の会話に耳を傾けていました。子供たちと一緒に学校へ行き勉強をしたり、遊んだり、楽しい日々を過ごしていきます。だけど、そのうちに夏が訪れて……。生きることの喜びが散りばめられている、心温まるストーリーです。
発表する著書が多く映像化されている人気作家の江國香織さんは、実は童話作家としてキャリアをスタートさせたことをご存知でしょうか?『雪だるまの雪子ちゃん』は江國さんが長年温めてきた長編童話です。雪がしんしんと降る日に読みたくなる本作は、童話作家としての江國さんを知らなかった方には必読です。
出典: 天上に暮らし、天と地を純白の雪で清める雪のじんじいとばんばあの間には、美しい雪娘のゆきがいました。しかし、汚れなき純白の雪で人間の世界である下界を清めても、下界では人間たちが悪事を繰り広げているので、すぐさま雪は真っ黒になってしまいます。そこでじんじいは、娘であるゆきを、下界の掃除へ行かせることに決めました。しかし、もしも下界の汚れに負けてしまえば、ゆきの存在は消えてしまうという厳しい条件つき。ばんばあは必死で止めましたが、真っ直ぐな心根のゆきは下界に降りる決心をします。心優しく勇敢なゆきは、しだいに村人達と打ち解け合って仲間になり、一致団結して下界を汚すものを一掃するのに奮闘します。
出典: 作者の斎藤隆介さんをご存知でしょうか?多くの方が幼い頃に触れたであろう約半世紀も前の絵本で、『モチモチの木』や『八郎』、『ベロ出しチョンマ』の作者です。あとがきにある問いかけはとても印象的。斎藤さんの清らかで純白な雪を思い起こさせる表現と登場人物の心情をリンクさせた描写は圧巻です。大人だからこそ読んでもらいたい一冊です。
出典: 雪が降り積もる日に出かけた大学生の近藤裕喜。誰もいない公園のベンチに座っていると、雪をふみしめる音と雪面に残された足跡に気づきます。一方、同じ公園で、女子高生の渡辺ほのかも、誰もいないはずのベンチへ続く足跡を見つけます。この不思議なできごとは平行世界論であると思い至った近藤は、顔も知らない渡部ほのかとコミュニケーションをとるために、雪面に文字を書きます。近藤の試みは当たり、2人は雪面での会話をはじめました。そこから、ほのかとほのかの母親が別々の平行世界に住んでいることが判明します。裕喜は母娘がつながる橋渡しをします。雪が人と人ををつなぐ、不思議だけれど心温まるストーリーです。
出典: 『ホワイト・ステップ』が収録されている短編集『箱庭図書館』には、全6編を通して読書をこよなく愛する山里潮音という人物が登場します。また、「物語を紡(つむ)ぐ町」をキャッチコピーとする文善寺町が共通する舞台として設定されています。今回は、本作の最終編である雪を通して自分が存在している意味に気づかされる不思議なストーリーをピックアップしましたが、ぜひ他の5編もあわせて読んでみてくださいね。
出典: 作家の三浦綾子さんは『氷点』や『銃口』などで有名になった北海道出身の作家です。クリスチャンである作者は、キリスト教の視点で「愛とは何か」を問い続けることを貫き、数多くの小説やエッセイを発表しました。『北国日記』は三浦さん自身が、日常の風景からガンと闘病する自身の姿を日記調に執筆したエッセイです。日常での人々との交わりを見つめ、生と死の葛藤をおぼえながら療養先の北海道から綴りました。夫である三浦光世さんとの深い愛情にも触れられる感動作です。
出典: 最後にご紹介したのはノンフィクション作品です。清々しい文体で綴られた日記からは、三浦さんが過ごした北海道の情景が浮かびあがってきます。女性ならではの自身と重ねられるような共感できる部分が多くあります。実話をもとに一人の女性の生き方を知るのも良いかもしれませんね。
雪の描写が印象的なミステリから大人の童話、エッセイまでの10作品を集めました。寒い冬の日には、本と一緒に静かで贅沢な時間を過ごしてみてくださいね。
雪の少女が和樹に伝える言葉は良い意味での余白があり、受け取る人によって解釈が変わるようなどこか哲学的で考えさせられます。作中に「生き続けるということは、失われていくものを見続けることなのか」と言う言葉が、雪が舞い散るように頭の中でリフレインする小説です。