「青」の変化を楽しんでみませんか?
一言で「青」といってもその色相は広く、目に入った時の印象もさまざま。「青」には冷静さや集中力を与える力があるとされる一方で、昔から気品のある高貴な色としても好まれてきました。
そしてまた明度によっても印象が異なり、水色や空色にはリラックス感や希望などのイメージ、藍色や群青色はインスピレーションや凛としたイメージなど、その時の心象風景やモチベーションに大きく影響を与える色相といえます。
今回は、そんな「青」を基調に描かれた絵本や、その色の変化が美しく表現されたおすすめ絵本作品をご紹介します。
そしてまた明度によっても印象が異なり、水色や空色にはリラックス感や希望などのイメージ、藍色や群青色はインスピレーションや凛としたイメージなど、その時の心象風景やモチベーションに大きく影響を与える色相といえます。
今回は、そんな「青」を基調に描かれた絵本や、その色の変化が美しく表現されたおすすめ絵本作品をご紹介します。
『あおくんときいろちゃん』 レオ・レオーニ(作)藤田 圭雄(訳)至光社
こちらは世界中で愛されるベストセラー。レオ・レオーニの絵本デビュー作品であることや、友情や家族愛など、普遍的な人間愛を表現した大人の絵本でもあることをご存知の方は多くいらっしゃると思います。
この作品で着目したいのは、登場する「色の付いた形」です。それらは友達だったり両親だったり。擬人化された色の形たちは生き生きと紙面を動き回り、物語を展開していきます。
この作品で着目したいのは、登場する「色の付いた形」です。それらは友達だったり両親だったり。擬人化された色の形たちは生き生きと紙面を動き回り、物語を展開していきます。
列車内で孫たちが退屈しないように、持っていた雑誌を手でちぎって即興のお話を聞かせたことから生まれたという『あおくんときいろちゃん』。絵本に初めて抽象表現を取り入れた作品としても有名です。擬人化された「色の付いた形」だけで心の動きまで表現したレオーニは、この作品をきっかけに『スイミー』や『フレデリック』など多くのロングセラーを発表し、今もなお私たちを魅了し続けています。
『あおのじかん』 イザベル・シムレール(文・絵)石津ちひろ(訳)岩波書店
日暮れから夜までのわずかな時間。それは“マジックアワー”とも呼ばれる幻想的な時間帯でもあります。
フランスの作家イザベル・シムレールは、この絵本でマジックアワーに繰り広げられる景色の微細な変化と世界中の青い色を持つ動植物たちの姿を重ね合わせました。
訳者石津ちひろさんによる、厳選されたシンプルでセンスある言葉選びもマジックアワーの特別な時間を美しく演出してくれます。
フランスの作家イザベル・シムレールは、この絵本でマジックアワーに繰り広げられる景色の微細な変化と世界中の青い色を持つ動植物たちの姿を重ね合わせました。
訳者石津ちひろさんによる、厳選されたシンプルでセンスある言葉選びもマジックアワーの特別な時間を美しく演出してくれます。
この作品で描かれている絵の魅力は、なんといっても「配置」です。青色を持つ動植物の文様や生活の様子を美しく描きながらも、その配置により静かな空間に潜む動植物の「生」の迫力も表現していて、思わず息を呑むシーンも。
青は“孤独や冷酷さ”といったネガティブなイメージを与えることもありますが、ここに描かれる動植物の「青」はみずみずしく艶感があり、生をまっとうする気高さにあふれたもの。それらは、マジックアワーが繰り広げる景色の「青」とひとつにつながり、実に優雅で雄々しい姿を読者に見せつけてくれるのです。
青は“孤独や冷酷さ”といったネガティブなイメージを与えることもありますが、ここに描かれる動植物の「青」はみずみずしく艶感があり、生をまっとうする気高さにあふれたもの。それらは、マジックアワーが繰り広げる景色の「青」とひとつにつながり、実に優雅で雄々しい姿を読者に見せつけてくれるのです。
青い花たちもロマンチックに咲き乱れ、闇の中でも実に華やか。耳を澄ませば静けさの中で小さく弾けるような開花の音までも聞こえてきそうです。ページをめくる度に広がる神秘的で静謐な青の世界。皆さんも絵本の中に身を寄せ、澄みきった時間に耳を済ませながら、イマジネーションを膨らませてみませんか?
『よあけ』 ユリー・シュルヴィッツ(作・画)瀬田貞二(訳)福音館書店
闇夜から、薄明、そして朝へ…。刻々とうつりかわってゆく閑寂な夜明けの時間を丁寧に描いた絵本。
コルデコット賞受賞経験のあるユリー・シュルヴィッツはポーランドの出身ですが、この作品は唐詩がモチーフとなっているそうで、東洋の神秘的な雰囲気を彷彿させるような作品に仕上がっています。
コルデコット賞受賞経験のあるユリー・シュルヴィッツはポーランドの出身ですが、この作品は唐詩がモチーフとなっているそうで、東洋の神秘的な雰囲気を彷彿させるような作品に仕上がっています。
こちらに最初に登場するのは、少しくすんだ暗い「青」の空と湖。夜明けが近づくにつれて陽が射し始め、徐々に空と湖面の色を変化させていきます。説明に多くの言葉は不要。時間と空間が幻想的な世界を創り出す様が美しく、その尊さに多くの読者が惹き込まれることでしょう。
この作品のもう一つの魅力は「枠」。本文中の絵は楕円や角丸の四角の枠内に描かれ、遠景や近景を描き分けたり、シーンの切替を効果的に表現しています。終盤に登場するただ一つの枠のない絵は、夜が明けて陽がさっと差し込んだ瞬間の場面です。それはまさに孫がボートを漕ぎ出した矢先で、山と湖が一瞬にして緑色へと変化します。絵本をめくりながら、静かな高揚感を味わえる1冊です。
この作品のもう一つの魅力は「枠」。本文中の絵は楕円や角丸の四角の枠内に描かれ、遠景や近景を描き分けたり、シーンの切替を効果的に表現しています。終盤に登場するただ一つの枠のない絵は、夜が明けて陽がさっと差し込んだ瞬間の場面です。それはまさに孫がボートを漕ぎ出した矢先で、山と湖が一瞬にして緑色へと変化します。絵本をめくりながら、静かな高揚感を味わえる1冊です。
絵本の登場人物と一緒に、青の時間を過ごしてみませんか?
出典:pixabay.com
児童文学の創作や翻訳で活躍した瀬田貞二氏は自らの著書内で「幼い子が喜ぶお話には単純な構造上のパターンがあって,それは『行って帰る』ということではないか」(『幼い子の文学』中公新書 ※下記参照)と語っています。
夜は眠りにつく時間。それは夢の世界への入り口でもあります。ではさっそく、「青」を基調とした『行きて帰りし物語』の中で、子どもから大人まで楽しめる作品をご紹介します。
夜は眠りにつく時間。それは夢の世界への入り口でもあります。ではさっそく、「青」を基調とした『行きて帰りし物語』の中で、子どもから大人まで楽しめる作品をご紹介します。
『夜、空をとぶ』 ランダル・ジャレル モーリス・センダック(絵)長田弘(訳)みすず書房
夜、空を飛ぶ少年デイヴィット。でも日中はそれに気づかずに暮らしています。
ある夜、家の中で両親の夢を覗いた後、浮遊したまま家の外へ―。そして出会ったフクロウから不思議な話を聞くというミステリアスな物語です。
作者のランダル・ジャレルは20世紀後半のアメリカを代表する詩人。52歳の若さでこの世を去ったランダルが最後に子どもたちに遺した作品に、人気画家のモーリス・センダックが絵を添えました。
ある夜、家の中で両親の夢を覗いた後、浮遊したまま家の外へ―。そして出会ったフクロウから不思議な話を聞くというミステリアスな物語です。
作者のランダル・ジャレルは20世紀後半のアメリカを代表する詩人。52歳の若さでこの世を去ったランダルが最後に子どもたちに遺した作品に、人気画家のモーリス・センダックが絵を添えました。
絵は『かいじゅうたちのいるところ』や『まよなかのだいどころ』などのセンダック代表作とは異なり、より細密な線画のみで描かれています。
しかも表紙や扉を含めても全編で絵は8点しかなく、それぞれは物語の世界観に深みを与えつつ強さを感じるものばかり。絵を眺めているだけでディヴィットが見る不思議な夢の世界へといざなわれます。
しかも表紙や扉を含めても全編で絵は8点しかなく、それぞれは物語の世界観に深みを与えつつ強さを感じるものばかり。絵を眺めているだけでディヴィットが見る不思議な夢の世界へといざなわれます。
センダックはこの作品を描くにあたりランダルと密に接し、「ぼくがこの本から読み取ったのは、少年の心の飢え、満たされない心の激しい痛みだった」と語っています。そしてこの見開きの絵では母と自分をも描き込んでいて、センダックがこの作品に寄せた想いの大きさが伝わってくるよう。
デイヴィッドが浮遊して見た世界は淡い青の夜だったのか、または濃紺の深い闇夜だったのか…。
この独特で魅惑的な作品に、みなさんならどのようなカラーをイメージしながら読みますか?
デイヴィッドが浮遊して見た世界は淡い青の夜だったのか、または濃紺の深い闇夜だったのか…。
この独特で魅惑的な作品に、みなさんならどのようなカラーをイメージしながら読みますか?
『よるくま』 酒井駒子(作・絵)偕成社
お母さんを探す"よるくま"に出会った男の子が、一緒によるくまのお母さんを探しながら夜の街を冒険するファンタジー。おやすみ絵本としても人気の高い1冊です。
注目したいのは、お母さんくまと再会するシーン。青と黄色でコントラストの効いた挿絵が、ページをめくった瞬間に表れたとき。喜びでいっぱいの気持ちが、言葉ではなく絵で表現されていて、多くの読者が心を奪われることでしょう。
またお母さんと男の子の会話もゆっくりと楽しみたいところ。男の子の話に耳を傾けるお母さんの温かい相槌に愛情の豊かさを感じる絵本です。
注目したいのは、お母さんくまと再会するシーン。青と黄色でコントラストの効いた挿絵が、ページをめくった瞬間に表れたとき。喜びでいっぱいの気持ちが、言葉ではなく絵で表現されていて、多くの読者が心を奪われることでしょう。
またお母さんと男の子の会話もゆっくりと楽しみたいところ。男の子の話に耳を傾けるお母さんの温かい相槌に愛情の豊かさを感じる絵本です。
『こんばんはあおこさん』 かわかみたかこ(作)アリス館
月明かりに照らされた少し明るい夏の夜、楽しそうに月を見上げる女の子、あおこさん。
こんな時間に一人でお散歩でしょうか…?
こんな時間に一人でお散歩でしょうか…?
明かりの消された暗いお部屋で寝ようとしないあおこさんでしたが、ふと庭から呼ぶ声がします。
「こんばんは あおこさん」
あおこさんは、その声に誘われるようにお外に出て夜のお友達を訪ねながら、「こんばんは」とご挨拶しつつ歩き回ります。夜のお友達に見守られて歩くあおこさんはとても楽しそう。
あおこさんののびのびとした表情や動き、そして豊かな発想力は夏の青い夜のなかでひと際輝き、私たちの想像欲をも掻き立たせてくれます。
「こんばんは あおこさん」
あおこさんは、その声に誘われるようにお外に出て夜のお友達を訪ねながら、「こんばんは」とご挨拶しつつ歩き回ります。夜のお友達に見守られて歩くあおこさんはとても楽しそう。
あおこさんののびのびとした表情や動き、そして豊かな発想力は夏の青い夜のなかでひと際輝き、私たちの想像欲をも掻き立たせてくれます。
あなただけの「こだわり」の青を楽しんでみませんか?
出典:stocksnap.io
「青」は時間や空間の変化、心模様の描写など、絵本の中でさまざまな役割を担ってきました。
さらに通常の技法を超えたこだわりのアイデアで制作されることにより、「青」の新境地を切り開いている作品は、私たちの目をいっそう楽しませてくれることでしょう。
オリジナリティあふれる技術を駆使することで「青」を追求した希少な絵本はこちらです。
さらに通常の技法を超えたこだわりのアイデアで制作されることにより、「青」の新境地を切り開いている作品は、私たちの目をいっそう楽しませてくれることでしょう。
オリジナリティあふれる技術を駆使することで「青」を追求した希少な絵本はこちらです。
『あおいよるのゆめ』 ガブリエーレ・クリーマ(作・絵)さとうななこ(訳)WORLD LIBRARY
イタリア出身の作者ガブリエーレ・クリーマによる、スライドの仕掛けを動かして遊べるボードブック「ちいさな ゆびで」シリーズ。イタリアでたくさんのこどもに読まれています。
三日月がうっすらと照らす暗い夜も指をすっと動かすと…。
満点の星空に!
青く塗られた夜空はそのままなのに、輝く星達が現れると夜空全体がぱっと明るくなったような気がして不思議。そのほか、チューリップの赤い花を咲かせたり、空に虹を描いたり… 自分の指ひとつで世界を変えられる楽しさをじっくりと味わって。
青く塗られた夜空はそのままなのに、輝く星達が現れると夜空全体がぱっと明るくなったような気がして不思議。そのほか、チューリップの赤い花を咲かせたり、空に虹を描いたり… 自分の指ひとつで世界を変えられる楽しさをじっくりと味わって。
『よるのおと』 たむらしげる(作)偕成社
少年が池の周りを歩いておじいちゃんのお家に行くまでの短い時間をつぶさに描いた絵本。虫の声、水の音が聞こえ、夏夜の独特な空気を紙面から感じ取れるような描写に、五感が刺激される作品です。
何より目を見張るのは、美しい青・青・青…。
フィルムのように平らで透明感のある「青」の色味は、特殊な印刷用の版を用い、作者たむらしげるさんが自ら制作したもの。また、通常とは異なる特殊な色のインキを使い、1ページずつ色ごとに4つの版を重ね合わせることで生まれた色調は、息をのむ美しさです。
その制作過程とこの作品への想いは、たむらさん自身が語っていらっしゃいますので、絵本とともに美しい「青」の秘密にも触れてみてはいかがでしょうか。
何より目を見張るのは、美しい青・青・青…。
フィルムのように平らで透明感のある「青」の色味は、特殊な印刷用の版を用い、作者たむらしげるさんが自ら制作したもの。また、通常とは異なる特殊な色のインキを使い、1ページずつ色ごとに4つの版を重ね合わせることで生まれた色調は、息をのむ美しさです。
その制作過程とこの作品への想いは、たむらさん自身が語っていらっしゃいますので、絵本とともに美しい「青」の秘密にも触れてみてはいかがでしょうか。
「青」の絵本で爽やかな気分に!
絵本の中の「青」の世界はいかがでしたでしょうか?
空、夜、水、空気、さまざまな青が美しく描かれるだけでなく、想像力を掻き立ててくれる作品ばかりで、どこまでも広がる海のように絵本の奥深さを感じることができるのではないでしょうか。
絵本は絵と文が互いに補完し合っているとも言われますが、時には絵を中心に眺めて楽しむ一時を過ごしてみると、新たな至福を得る機会となるかもしれません。
みなさまが「青」の絵本で暑い夏も快適に過ごせますように―。
空、夜、水、空気、さまざまな青が美しく描かれるだけでなく、想像力を掻き立ててくれる作品ばかりで、どこまでも広がる海のように絵本の奥深さを感じることができるのではないでしょうか。
絵本は絵と文が互いに補完し合っているとも言われますが、時には絵を中心に眺めて楽しむ一時を過ごしてみると、新たな至福を得る機会となるかもしれません。
みなさまが「青」の絵本で暑い夏も快適に過ごせますように―。
画像のご協力ありがとうございました!
さらに興味深いのは、「色の付いた形」には目や耳、口などが実際には描かれていないのに、悲しみや喜びまでもがこちらに伝わってくるところ。「色の付いた形」は、その形状と色相だけでストーリーの奥深い世界観を見事に物語ってくれます。