出典: 健仁寺の「雲龍図」。双璧をなす二頭の龍の姿に圧巻です。
出典: 圓光寺の金の襖です。四季それぞれの美しい風景を襖に閉じ込めた「四季草花図」。
部屋同士を仕切る室内建具「襖(ふすま)」は、まさに“可動式の壁” 。軽くて開け閉めが楽な襖は、和の住宅の仕切り戸として長年取り入れられてきました。襖には保温・調湿機能があり、寒さ防止や室内の湿度を調整することができます。通気性に優れ有害物質を吸収してくれるフレキシブルで優れた室内建具なのです。
出典: 襖の語源は、平安時代の掛布団だった衾(ふすま)を拡げたような格好に由来するといわれています。
襖は俗に唐紙ともいわれますが、これは中国から渡来した唐紙を上貼して唐紙障子と呼び、やがて唐紙と縮めて用いられるようになったのです。
室町時代になると、無地の布や紙を貼ったものを襖、紋や柄があるものを唐紙と区別して呼んでいたようです。
美しい襖紙と芸術的とも言える絵画に、その引き手金具が組み合わさり、敷居と鴨居、その全てに職人の技が光る室内建具「襖」の魅力を探っていきましょう。
出典: 輝く金箔、四季の風景を描く華麗で優美な襖絵の世界。戦災により本丸御殿は失われましたが、襖絵や天井板絵などは焼失を免れ、そのうちの1047面が国の重要文化財に指定されています。
出典: 本丸内部には、このような眩しく輝く金箔に美しい景色が描かれています。日本画史上最大の画派「狩野派」の絵師、狩野貞信や狩野探幽により、部屋ごとに異なる題材で描かれた床の間絵や襖絵などが豪華絢爛に彩られていました。
出典: 復元された「桜花雉子図」です。原図は狩野派絵師による作だったそうです。金色に輝く襖絵には、桜の木の下で遊ぶ雉(きじ)の親子が微笑ましく描かれています。
出典: 戯れる猫でしょうか・・・デフォルメされた不思議な動物たち。
出典: 本丸御殿襖絵には驚くことに、虎や豹といった猛獣の姿も描かれています。
出典: 熊本城本丸御殿の大広間。その先にある輝く金箔が豪華絢爛な「若松之間」です。
出典: 「昭君之間(しょうくんのま)」は、加藤清正が豊臣秀吉の遺児である秀頼を城に迎え入れるために作られた部屋だといわれています。 名前の由来は、中国の故事に登場する王昭君の絵画(襖絵とも屏風絵ともいわれる)があることにちなんでいます。
出典: 狩野山雪・金碧松三日月・・・妙心寺の塔頭、桂春院の書院から方丈へ、静かで端正な題記の襖絵です。
出典: 歴代の天皇や皇族の門跡寺院であり、嵯峨御所として知られています。室内の装飾は雅な美しさです。
出典: 大正天皇ゆかりの「御影堂(みえどう)」の見事な襖絵です。大覚寺のなかでは比較的時代が新しく洗練されています。
出典: 院内講堂の美しい襖絵。手前が紅葉、奥が桜。講堂自体は落雷によって焼失し1995年に建て直されました。国宝である襖絵は宝物館に収蔵されていたため奇跡的に焼失が免れました。
出典: 仁和寺御殿の宸殿(しんでん)は、儀式や式典に使用される御殿の中心的建物でした。明治20年に焼失し大正初期に再建されました。鴨居の上の欄間も美しく、実に煌びやかですね。
高桐院 意北軒 / こうとういん いほくけん(京都市北区)
出典: 高桐院 意北軒は、千利休の邸宅を移築したと言われる夢のような書院です。千利休がここで一人静かに茶を点てたのでしょうか。壁や襖にはイカ墨を練りこみ雨漏りの滲みまでもリアルに表現しています。斬新でモダンに侘び寂びを表現した素晴らしい室礼ですね。
出典: 揚屋建築唯一の遺構として重文指定され、絢爛豪華な雰囲気が随所に残ります。この松の間は大宴会場として使われ、当時の華やかさを今に感じさせる佇まいです。「金地桐に鳳凰図」と題された襖絵が素晴らしいですね。
龍は仏法を守護する存在として禅宗寺院の法堂などの襖絵にしばしば描かれています。また「龍神は水を司る」という思想がありました。日本は木造建築であり火災や地震、雷が多い国です。そのため呪いとして神社仏閣では天井や襖に龍の絵を多く描き、代々大切に受け継がれていきました。
出典: 壮大な襖絵「雲龍図」・・・海北友松(かいほうゆうしょう)が描いた襖絵。竹林七賢図に並ぶ大作です。
出典: 今にも襖絵から飛び出しそうな迫力ある龍の表情です。
出典: 建長寺龍王殿(方丈)・・・こちらは中国出身の水墨画家・白浪氏による襖絵です。モノトーンだけで表現される美しさ。雲間に現れる龍。効果的な余白の使い方が素晴らしいですね。鋭い眼光と爪に射抜かれそうな龍の姿は圧巻です。
出典: 龍野城本丸御殿の襖絵・・・広間の奥に棲む龍の息遣いが聞こえてきそうです。
大徳寺龍源院 / だいとくじりょうげんいん(京都市北区)
出典: 大徳寺龍源院の方丈・・・大徳寺の塔頭のひとつ龍源院は「洛北の苔寺」といわれ、日本最古の方丈建造物です。そして 大徳寺山内住職の居住空間としての性格も持っていました。「礼の間」は、茶礼香礼等をなす所、また大名公家のお供の控え所など多目的な建物として使われました。禅宗独特の静寂さを感じますね。襖絵は等春筆「列仙の図」です。
建仁寺 方丈 / けんにんじ ほうじょう(京都市東山区)
出典: 竹林七賢図(ちくりんしちけんず)・・・建仁寺との関係が深かった海北友松(かいほうゆうしょう)が描いた襖絵「竹林七賢図」です。先ほどご紹介した「雲龍図」、他にも「花鳥図」「山水図」など素晴らしい文化財が数多く残されています。
龍潭寺 方丈 / りょうたんじ ほうじょう(滋賀県彦根市)
出典: 龍潭寺方丈「牡丹と獅子の間」。赤い牡丹の大輪と獅子の取り合わせが面白く個性的ですね。森川許六 筆の「唐獅子図」は、全56面におよぶ襖絵です。狩野派の流れを汲みながら独自の個性が表現されています。許六は、彦根藩士で狩野探幽の弟安信に絵画を学び、松尾芭蕉の門人を代表する蕉門十哲に列せられた人物でした。
相国寺 方丈 / しょうこくじ ほうじょう(京都市上京区)
出典: 方丈の南側、西に面した「梅の間」には、ダイナミックに描かれた老梅の襖絵「老梅の図」を観ることができます。維明周奎(いみょう しゅうけい)筆によるもの。維明は相国寺第百十五世住職でした。伊藤若冲に画を学び、梅と鶏の図を得意としました。
伝統を重んじる建物の室内に、画家の内なる目に映る姿そのままを自由に描いた抽象画が、琳派の絵師によって描かれていました。当時としては賛否両論、センセーショナルだったのではないでしょうか・・・そんなことを想像すると楽しいですね。
出典: 桜の名所でもある常照皇寺、方丈の板戸に描かれた琳派の画風です。立ち込める雲か吹き荒れる風か、どこか前衛的な抽象性を感じさせます。
出典: この襖絵は、“白鷺”の姿をを抽象化して描いており、一時期の琳派の画風だそうです。なんだかとってもユニークですね。
出典: これらは、当時としては随分斬新な抽象画です。まるで現代アート作品ですね。あなたには、何に見えましたか?
出典: 襖絵にアクセントを加える引き手金具。無くてはならない大切なパーツです。円形の物が一般的ですが、中には個性的で遊び心のある引き手も・・・。
出典: 池に面した北側にある茶室は田舎家風の簡素な佇まい。金箔を施したシンプルな襖。その引き手は船の櫂(かい)の形。広大な庭園には船着場の室礼があり、当時としては遊び心のある斬新なデザインの引き手です。
思い切った構図、型にとらわれない自由な描画材と画風で描かれた襖絵には、現代画家たちの個性が活かされ、不思議と伝統的空間の中に調和しています。
青蓮院 華頂殿 / しょうれんいん かちょうでん(京都市東山区)
出典: 青蓮院門跡(しょうれんいんもんぜき)華頂殿の襖絵は、全部で60面。「蓮」をモチーフに描かれています。比叡山延暦寺の三門跡(青蓮院、三千院、妙法院)の一つです。古くより皇室と関わりの深い格式の高い門跡寺院です。華頂殿と呼ばれる客殿(白書院)の三十六歌仙の額絵は見事ですね。
出典: 奥行きのある伝統的な空間にモダンなデザインが際立ち、不思議と違和感を感じさせません。
出典: 蓮と蛙など、まるでテキスタイルデザインのような大きな花や葉が大胆にモダンに調和しています。60面もの蓮は、その部屋ごとに様々な表情を見せています。こちらは、落ち着いたブラウンを基調とした蓮。
出典: 対して、こちらはハッと目が覚めるような鮮やかなブルーを基調とした蓮。驚きとインパクトを与え、独自の世界を醸し出します。従来の岩絵の具などを使わず、ガッシュなど現代的な描画材を用いています。
出典: 豊かな文化財を所蔵し今に伝える建仁寺。数々の襖絵に加え現代作家による青を基調にした「舟出」。静かな湖を浮き立たせ、独自の世界を表現したこちらは、染色画家の鳥羽美花制作の小書院の襖絵です。他にも、モノトーンの「凪(なぎ)」という襖絵もあり、禅寺とは思えない斬新な試みが素晴らしいですね。
「襖」と言う室内建具に描かれた絵画。素晴らしい芸術的作品が多く残されています。単に絵画として壁を飾るだけではなく、間仕切りになり、取り払えば大広間にもなる。機能的建具として、その芸術性が高く評価されています。「襖絵の美術館」に出かけてみませんか?
竹中大工道具館 / 美を創造する匠(神戸市中央区)
出典: 大工道具から参考文献まで、1万点あまりを収蔵しています。匠たちが使い続けてきた大工道具が展示され、歴史的建造物や襖などの建具が、どの道具でつくられたかを知ることができます。
根津美術館 / はじめての古美術鑑賞 紙の装飾(東京都港区)
出典: 企画展「はじめての古美術鑑賞 紙の装飾」では、絵画や書を装飾に活かした美しい古美術を観ることができます。室内装飾としての建具、襖絵や屏風など、多くの古美術を堪能しながらの美しい時を過ごしましょう!
出典: 国宝の「観楓図屏風」をはじめ、名品と言われる素晴らしい屏風絵を観ることで、「屏風絵」から「襖絵」へと庶民の間に広がっていった室内建具の歴史と在り方が見えてきます。
Epilog 間と間を結ぶ「間戸」MADO ・・「襖」は「窓」
出典: 泉涌寺御座所廊下の杉板戸・・・伝説的な風狂(中国仏教)の僧、寒山(かんざん)と拾得(じっとく)が紅葉を眺めている様子が描かれています。杉板素材の襖絵には紙素材とは違った趣がありますね。
必要に応じて間と間を仕切り、開けば開放感ある広間になる。日本独自の「襖」は、優れた機能性室内建具であり、その意匠は芸術的。私たち日本人はこの独特な空間の中で生きてきたのです。素敵だと思いませんか?
健仁寺の「雲龍図」。双璧をなす二頭の龍の姿に圧巻です。