絵と唄と共に生きる。小池アミイゴさんという人
書籍や雑誌、広告等の仕事に加え、クラムボンのアートワークなど音楽家との仕事も多数手がけてきた小池アミイゴさん。ご自身もDJとしてCLUBで活動されたこともあるのだとか。1996年より音楽と唄のための時間“OurSongs”をスタートし、デビュー前夜のクラムボンやハナレグミなど多くの表現者の実験の場として、時間を共有してきたのだそうです。
絵本「とうだい」へ込めた震災への想い
「暮らしの手帖」第4世紀86号の巻末8ページで、アミイゴさんの震災後の活動と、2016年の晩秋に東北を歩いた旅の記録について特集が組まれました。
2011年6月にアミイゴさんは、ボランティアのために東北へ行きました。あのとき、きっと誰もが思ったであろう「役に立ちたい」という想いから。その想いをアミイゴさんは、行動に移しました。
おおい おおい あらしにまけるな
とうだいは ここにいるぞ
とうだいに できることは ひかること
くる くる かぜを こえていけ
ぴか ぴか なみを つきぬけろ
くる くる ぴか ぴか
くる くる ぴか ぴか
(絵本『とうだい』より一部抜粋)
なくなってしまった風景、それを見ていた人たち、そこにあったはずの暮らし…地域の人の話を聞き、想像することで、生まれてきた絵たちが『とうだい』というひとつの作品になりました。
「わかったふりをしちゃいけないとも思います。わからないですよね、ぼくなんかが、被災した人のことを。寄り添うというのもおこがましいしね。だから、察する、というのかな」
―小池アミイゴ―
ボランティアで瓦礫を拾っていたとき、ふとひとり海を眺めに行ったのだそう。そのとき見た海がどこまでも純粋で美しかったといいます。
それで、浜に出たんです。豊間というビーチです。そうしたら、海が本当にきれいでね。福島ごめんね、こんなに美しいところだって、知らずにいたよと思った。それで、こういう東北の美しい景色を見つけて絵にするのが絵描きである自分の役割だと思ったんです。
―小池アミイゴ―
斎藤倫さんの詩と小池アミイゴさんの絵で描かれる『とうだい』は、やさしい眼差しを通して祈りを込めて描かれた作品です。子どもたちと一緒に手にとってゆっくりと眺めてみてはいかがでしょう。
原画展
こちらは、横浜仲町台 YUI GARDEN で開催された個展「東日本」~福島、唐桑、東京、熊本。人と灯台をめぐる旅の記録~での様子。
『とうだい』をはじめとした絵本の原画や、東日本の美しい風景や花や人の姿を描いた作品たち。アミイゴさんは、全国で原画展もされています。
2011年3月11日、ボクたちは考えました。
考えざるを得ないものを見ました。
絶対的な喪失
しかし、
困難を乗り越える人間のしなやかな力強さ
ただその実感を共有することは容易なことでは無いとの直感は、
大きな無力感に変わり、多くは手付かずのまま今に至っています。
日々の暮らしの中で、うやむやにしてしまうこと。「大人」として生きていくうえで、なんとなくやりすごしてしまうこと。私たちは、あのときの震災で、そんな自分に疑問を持たざるをえなかったのではないでしょうか。
そんな中「絆」のような言葉に、ある意味すがってしまったはずです。
もしくは無自覚なまま「がんばれ」「立ち上がれ」なんて言葉を放つも、
結局自分自身を奮い立たせてるだけのおじさんたちとか、、
今18歳になった人の語る
『あの日起こったことを、自分の記憶に刻む。』
それだけの勇気を持てなかったボクたちです。
それでも願うことは、今からでも遅くない、
「絆」でもなんでも本当に大事にして育ててゆきたいなということ。
「絆」とは、築くものである、というよりも「気づくもの」なのかもしれません。あの日起こった震災を忘れないということは、わたしたちの内にある強さとやさしさ、そして人と人との温かな心のつながりを再確認するということなのかもしれません。
2016年の夏に足を運んだという、熊本の益城町に咲いていたコスモスの花の絵。
視線を振れば、地震で甚大な被害を受けた無常の風景が迫ってきますが、ここで描かれているのは、透き通って輝く花びらのはかなくも美しい後ろ姿。アミイゴさんが描くものは「被災」ではなく、その土地に生きてきた人の暮らしの息遣いや誇りなのです。
絵を見た私達ひとりひとりが、心の中で何に気づけるか...やさしく試されているように感じます。
絵本「小さな赤いめんどり」
アリソン・アトリー原作の児童文学の傑作「小さな赤いめんどり」の挿絵を手掛けたアミイゴさん。
ゲームやインターネットやアニメの普及により、『児童文学』という分野は少しずつ失われていく傾向にあるのだそうです。
挿絵はストーリーを見失わぬよう説明的であり、
しかし、子どもも想像力に蓋をしない空気感のあるものにする。
この一冊に出合った子どもが、次の一冊に手が伸びる、
本を読む子どもに育ってもらいたい。
アニメやゲームが悪いということではありませんが、絵本を読むことや、古典の作品に触れるということは、子どもの脳の成長にとって欠かせない行為です。紙のにおいや質感を感じながら、余白にある気配を感じること、ストーリーに描かれていない部分を想像すること、美しい静寂に触れること……これらは、子どもの心にぐんぐん栄養を与えてくれます。
「小さな赤いめんどり」の主人公のおばあちゃんとめんどり、
2人は心を通じ合わせ、会話もします。
人間とニワトリがなぜ?
人間のする仕事にせっせと勤しむ”めんどり”などなど、
不思議なこと、不条理なことがたっぷり詰まったストーリーです。
こういったストーリーの細部に対して「なぜ?」と思い、
「わからない」と遠ざけてしまうのが、残念ながらオトナなのでしょう。
しかし子どもはそこを突き破り、ある意味自分勝手な想像の翼を広げ、
文章の山を飛び越えてファンタージーの世界に舞い降りることが出来るのです。
ただそこでなにを感じるのかは、
親御さんとの日々の会話の豊かさが決定づけるのではないでしょうか?
絵本を通して、親子が互いにコミュニケーションをとる。子どもの感性に耳を傾け、想像の翼を広げてみる。それは私たち大人にとっても、きっとスペシャルな体験になるでしょう。
小池アミイゴさんのスクール&ワークショップ
現在、保育士の奥様と小学生のお子さんがいらっしゃるというアミイゴさんのワークショップは、大人も子どもも夢中になれると大人気です。
指導経験も豊富で、シブヤ大学での講師経験のほか、現在は、池袋コミュニティ・カレッジで絵を描く楽しさを教えています。またアミイゴさんの原画が見たい&イベントに参加したいという方は、ブログやSNSに最新情報が更新されているので、ぜひそちらもチェックしてみてください。
おわりに
絵は描く人の心を表すといわれています。アミイゴさんが描くやさしくて、だけどどこかユーモラスな世界。そんなアミイゴさんに、作品を通じて出会える嬉しさ。私たちが日々の暮らしの中でつい見失ってしまいそうな大切なことを、「それはね...」とさりげなく教えてくれるアミイゴさんの作品世界。手にとってそっと眺めてみませんか。
絵を描くことと、音楽と共に生きる小池アミイゴさん。
多くのイラストレーターを世へ送り出した長沢節さん主催のセツモードセミナーで、絵や生きる姿勢を学びました。