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口に含むと、齧るそばからサラっとホロホロと崩れる「落雁」。
奥行きのある上品な甘みは、その姿同様に実に“優雅な味わい”。
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干菓子を代表する「落雁」は、今とても人気の和菓子。
東西の老舗和菓子店では、今までにない洒落た形や色合いの「落雁」を積極的に売り出して人気を博しています。
今記事では、歴史ある銘菓としての落雁から、最近話題のものまで、和菓子好きなら外せない逸品の数々をピックアップして紹介します。ぜひ参考にして、「落雁」の美味しさを再発見しましょう。
茶席菓子、供物定番の「落雁」は、“打ちもの”と呼ばれる干菓子を代表する、伝統的な和菓子の一種。
米や大麦、豆や蕎麦、栗等などの穀粉に、砂糖や水飴、少量の水を加えて木型に詰めて抜き取り、加熱乾燥させて作ります。
伝統的な和菓子ですが、そのルーツは西から中央アジアと云われています。中国を経由し、室町時代に「日明貿易」を通じて日本へと伝わりました。
国内で広く知られるようになったのは、当時の茶道の勃興・浸透によるものです。「日明貿易」ルート以外にも、江戸時代には中国から長崎に伝わった落雁(口砂香/こうさこ)もあります。
出典:www.flickr.com(@Yasuo Kida) 干菓子に用いられる木型。
桜や樫(かし)等の堅い木に模様を彫り込むのは実に難しい作業です。京都市内には専門の職人はただ一人しかいないという話も耳にします。
“打ちもの”と呼ばれるのは、型に入れた菓子の生地を、まな板に“打ち付けるように”して取り出すことから。
“打ちもの”は、砂糖が主役の和菓子で、本来はその“甘さ”をじっくりと味わうもの。
材料も作り方も極めてシンプル。それゆえに、材料の質や職人の力量によって味が左右します。また色味やその姿にもセンスも問われるので、シンプルと言えども、非常に高度な技術とセンスが要求されます。
和菓子好きの方々でも、意外と知らない“日本三銘菓”。
三銘菓の菓子は、全て「落雁」。「落雁」の美味しさにすでに目覚めているのなら、一度は“日本三銘菓”にあげられている、逸品を試していただきたいものです。長い歴史を経ながらも、今なお多くの人に支持され、その優雅な味わいを維持する“三銘菓”を紹介します。
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三百数十年変わらない製法を守り続ける「森八」の『長生殿』。
加賀藩三代藩主前田利常のアイデアと、茶道遠州流の開祖・小堀遠州の命名によって生まれた、歴史ある落雁です。
菓子表面に刻まれている文字は、小堀遠州の直筆から型取りされたものです。
江戸時代、製菓事業に奨励策をとった加賀藩・金沢では落雁の技術が進化しました。『長生殿』はその成果。金や紋様が散らばる薄紙も、加賀金沢ならではの風情。
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四国産の和三盆糖と地元北陸さんのもち米から作られている『長生殿』は、口に含むと、サラッと溶け、じんわりと和三盆糖の上品な甘さが広がります。赤い色は、山形産の本紅で染めています。
茶の勃興とともに広く伝わったように、濃茶・薄茶との相性は抜群。もちろん緑茶でも。
北鉄金沢 / 和菓子
- 住所
- 金沢市大手町10-15
- 営業時間
- 9:00~18:00
- 定休日
- 元旦、1月2日
- 平均予算
- ~¥999 /¥1,000~¥1,999
データ提供:
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越後のもち米を寒晒粉にしたものと、越後の湿気を含ませながら寝かした和三盆糖を配合した『越乃雪』。その歴史は安永7年(1778年)まで遡ります。
『越乃雪』は、江戸期から長岡藩の“贈り物菓子”として、全国に名が知れ渡っていたほどの銘菓です。
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越路の山々に降り積もる雪を表現した『越乃雪』は、まるで新雪のように、サクサクとホロホロと崩れます。
口に含むと瞬く間に溶け、和三盆糖の上品な甘みと、穀物のじんわりとした甘さと香りが広がります。
和三盆糖は、創業230年の命脈を保つ四国・徳島の「岡田製糖所」のもの。糯米は『越乃雪』専用に加工したもので、一度炊いてから天日干ししています。
長岡 / 和菓子
- 住所
- 長岡市柳原町3-3
- 営業時間
- 9:00〜17:30
- 定休日
- 日曜日、不定休(主に水曜日。公式サイトにて告知)
- 平均予算
- ¥1,000~¥1,999
データ提供:
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茶人としてよく知られた、松江藩七代藩主・松平 治郷(まつだいら はるさと)/号:不昧公(ふまい)の考案した「不昧公御好(ふまいこうおこのみ)」の茶菓子。
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不昧公は、“茶人大名”として知られた出雲松江藩の藩主。藩の財政を立て直す一方で、美術品を愛好し、料理や書道、また作庭等など諸般に通じ、特に茶道は自流の「不昧流」を起こすほどの才人でした。
茶の添え菓子として和菓子作りも奨励したため、松江には茶の湯文化が根付くばかりでなく、和菓子作りも盛んになりました。
不昧公は、茶会に用いた和菓子を記録に残していますが、その幾つかは“不昧公御好”と呼ばれ、現在でも松江を代表する菓子として多くの人々に親しまれています。
「山川」は、大正時代に風流堂が復刻したものです。困難を極めて製法を研究し、復刻後はその技術を他の菓子屋に広く伝えています。
出典:www.flickr.com(@Yasuo Kida) 「山川」は手で割ると、凸凹とした形になります。
この姿が“山川”に見えるため、不昧公が詠んだ「ちるは浮き 散らぬは沈む 紅葉はの 影は高雄の 山川の水」と言う歌から「山川」という名がつきました。
落雁と一口にいってもその味わいは様々です。「山川」は、しっとりとした食感とほのかな塩味が特徴。このコンビネーションが絶妙の落雁です。
松江 / 和菓子
- 住所
- 松江市白瀉本町15
- 営業時間
- 定休日
- 平均予算
- ¥1,000~¥1,999
データ提供:
かつて「落雁」は、茶事の添え菓子や供物として求められたものでしたが、現在は洒落た和菓子として再び脚光を浴びています。
以下では、全国各地の和菓子店が販売する「落雁」の中から、オススメの落雁を幾つかピックアップして紹介します。和菓子の世界は奥深いものですが、「落雁」一つでも、その世界は多様で実に楽しいものです。「三銘菓」を抑えたら、現在人気の落雁もぜひ賞味してみましょう。
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小布施町(おぶせまち)は、長野県北部の千曲川東岸に位置する町。「栗と北斎と花のまち」として知られる、人気の観光地です。
取り立てて和菓子好きでなくても、小布施の「栗きんとん」は誰もが一度は口にしたことがあるはず。特に「小布施堂」は人気の和菓子店。本店は小布施町ですが、今や全国各地の百貨店に売り場が設けられています。
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「小布施堂」では、栗を使った羊羹や最中、ケーキ等など主力商品は様々にあり、干菓子の『楽雁』もありますが、オススメするのは『くりは奈』。
『くりは奈』は、栗と赤エンドウを使った“生落雁”。慎重に摘まないと、ホロホロと崩れてしまうデリケートな菓子です。
しっとりした食味と栗本来の甘みが絶妙です。栗好き、落雁好きなら食べる価値ありの逸品。
小布施 / 甘味処
- 住所
- 上高井郡小布施町808
- 営業時間
- 食事 11:00~15:00
喫茶 10:00~16:00
栗菓子の販売 9:00~17:00
※季節により営業時間の変動あり。
- 定休日
- 年中無休
- 平均予算
- ¥1,000~¥1,999 /¥2,000~¥2,999
データ提供:
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本物の能面を元に型が作られたという『花面』は、創業天保二年(1831年)の老舗「長久堂」の落雁です。
京都の粋な手土産としても知られる『花面』は、箱を開けた途端にため息が出てくるほどの美しさ。
能面それぞれの材料は異なり、味わいも穀物や豆の風味がよく出ています。
「翁」/ 大豆,「乙羽御前」/ 空豆, 「小面」/ 和三盆「福の神」/ 「抹茶嘯吹(うそふき)」/ 玄米。
北山 / 和菓子
- 住所
- 京都市北区上賀茂畔勝町97-3
- 営業時間
- 9:30~18:00
- 定休日
- 元日、1月2日
- 平均予算
- ~¥999
データ提供:
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『麦落雁』は、文政年間(1820年代)に「三桝家總本舗」七代目当主が考案した落雁。館林地方は有数の麦の生産地。特産の大麦を焙煎し、自家精選糖と合わせた生地を成型してから乾燥させた菓子。
館林市を代表する郷土土産ですが、地元では供物や贈答品として、今もなお多くの人々に親しまれています。
出典:
「はったい粉」は、大麦を乾煎りすると、消化しやすくなり、また大麦の甘み、香ばしさが生まれます。この『麦落雁』は古くから食べ親しんできたような懐かしい味わいがする菓子です。
館林 / 和菓子
- 住所
- 館林市本町3-9-5
- 営業時間
- [月~土]
9:00~19:00
[日・祝]
10:00~19:00
- 定休日
- 水曜日
- 平均予算
- ~¥999
データ提供:
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名古屋の老舗和菓子店「両口屋是清」を代表する『二人静』。
源氏物語の能演目『二人静』がパッケージに描かれていますが、考案した11代目は庭に咲いていた草花の「二人静」に感動して作られた干菓子です。
出典:
一つの包みには、紅と白の半球型の落雁が一対になって入っています。
ホロホロと儚く溶けていく様は、可憐な「二人静」を思い起こさせます。
徳島産の和三盆糖を使い丁寧に作られた干菓子は、創業380年の御菓子所の名に恥じない逸品です。
名鉄名古屋 / 和菓子
- 住所
- 名古屋市中村区名駅1-2-1
- 営業時間
- 定休日
- 平均予算
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石川県金沢市 「落雁 諸江屋」製・「蔵六園」の『寶船菓』
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「蔵六園」とは加賀の名所・北前船主屋敷。
“北前船(きたまえぶね)”とは、江戸から明治時代にかけて、買積み廻船の名称です。ただ運送を担うのではなく、買積み廻船は、船主が商品を仕入れ、それを売買することによって利益をあげます。北前船は、下関からはるか北海道までその航路を開き、船主は巨万の富を築きました。「蔵六園」がある加賀市橋立町は、かつて日本一の富豪村(橋立村)と呼ばれていたほどです。
宝船が象られたこの落雁は、栗の味がほんのりと香る上品な味わい。蔵六園の風情と北前文化の栄華を感じさせる逸品です。
京都市上京区 「京とうふ 藤野」の『うさぎの豆乳らくがん』
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「京とうふ 藤野」は、京都・北野天満宮の傍のお豆腐屋さん。
主力商品はもちろん豆腐ですが、豆乳を使った様々なスウィーツも製造しています。箱を開けると、可愛いウサギが幾羽も入っていて、思わずニッコリしてしまう落雁。
豆腐のような柔らかさとフワッとした食感。豆乳の甘みも感じる懐かしい味わいです。
京都市上京区 「UCHU wagashi」の「ochobo chai」
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最近特に注目を浴びる、京都の和菓子店「UCHU wagashi」。
店の佇まいと、愛らしいスウィーツは、若い女性を中心に人気を博しています。京都市内の名スウィーツ店として遠方から多くの人がこの店まで足を運びます。
出典:
今記事でイチオシするのは、『ochobo chai』。
紅茶とミルクの優しい味わいに、スパイスが香った、チャイ風味の落雁です。
スパイスは、シナモン・ジンジャー・クローブ・カルダモン・ブラックペッパーの5種類のスパイスが入っています。
一緒に頂くのなら、コーヒー、お番茶がオススメ。午後の疲れた頭に、丁度良い贅沢おやつです。
出典:
この愛らしい紅白の落雁は、記事のはじめに紹介した、京都「俵屋」で供される「本和三盆福俵」を手掛ける「ばいこう堂」さんの『和三宝』。
和三盆糖の産地ならではの、糖の美味しさが味わえる逸品。くちどけの良さ、爽やかで淡白な味わいは、和三盆糖ならではのもの。
薄紙からのぞくほのかな色と、奥ゆかしい味わいは、お土産にもピッタリの落雁です。
引田 / カフェ
- 住所
- 東かがわ市引田大川140-4
- 営業時間
- 9:00~19:00
- 定休日
- 1月1日2日
- 平均予算
- ¥1,000~¥1,999
データ提供:
「落雁」は先に述べた通り、その材料は極めてシンプル。それだけに、原料の良し悪しと職人の技量・製法が問われます。
「落雁」の美味しさの決め手は、“口溶け”と“上品な甘み”。このどちらも、良質な原料と配合なくしては生まれません。同じ落雁でも価格の差が生じるのは、原料の違い。上質で高価な落雁の多くは「和三盆糖」を用いています。
出典:
現在国内で「和三盆糖」が作られているのは、徳島県都香川県の二県のみ。両県の県境にまたがる阿賀山脈の北と南で「和三盆糖」の原材料のとなる「竹糖」が栽培されています。「竹糖」とは、サトウキビの一種。南方で栽培されているサトウキビとは見た目も味わいも大きく異なります。
また、その精製法も大きく違います。大抵の「落雁」が高級品であるのは、原料となる「和三盆糖」が大変手間がかかる極めて貴重なものだからです。
出典:
徳島県の特産品としても知られる和三盆糖。今もほとんどが手作業で作業されています。砂糖とは一味違った風味を楽しめるため、コーヒーや紅茶にそのまま入れる人も増えているのだそう。
出典:www.flickr.com(@Yasuo Kida) サトウキビの絞り汁から、「和三盆糖」になるまでは、多くの工程を要します。200年の歴史をもつ、香川県・上板町の「岡田製糖所」では、今もなお、この工程一つ一つを手仕事で行っています。
「和三盆糖」という名の由来は、“三盆糖”から。「和三盆糖」の工程の中で重要なのは、“水で研ぐ”こと。
“水で研ぐ”という工程は、手水をつけて「白下糖(粗糖)」から糖蜜を抜くために練り、白い砂糖にしていく作業のことです。当初は、この作業を三回繰り返していたので“三盆糖”と名がついたと云われています。現在は、通常4,5回繰り返します。
ただ練るというのではなく、気温や湿度、時間や水の量、そして原料の状態等などの調整しなければならないことは多く、経験を積み熟練しなければ、研ぎ上げることは出来ません。
出典:www.flickr.com(@Yasuo Kida) 「落雁」は、高品質の原料を用いているだけではありません。
「落雁」には、職人技・伝統・歴史・風土・文化等など様々なものが含まれ、それら全てが結晶した菓子です。歴史の中で、様々な人間が交錯することによって文化が生まれ、広く伝わり、様々に展開された大きな文化的な成果なのです。
出典:www.flickr.com(@Toby Oxborrow) 美味しい「落雁」を手にしたのなら、ぜひゆったりとした時の中で味わって下さい。
徳島 / 和菓子
- 住所
- 徳島市元町1-5-1 ホテルサンルート徳島 1F
- 営業時間
- [月・水~日]
9:00~19:30
- 定休日
- 火曜日
- 平均予算
- ¥1,000~¥1,999
データ提供:
口に含むと、齧るそばからサラっとホロホロと崩れる「落雁」。
奥行きのある上品な甘みは、その姿同様に実に“優雅な味わい”。