鎌倉という街をリビングルーム化したい
カーゴバイクで移動しながら鎌倉の路上でケーキを売り始めてからまたたく間に人気となったPOMPONCAKES(ポンポンケークス)。待望の旗艦店となるPOMPONCAKES BLVD.(ポンポンケークス ブールヴァード)がオープンしてから2ヶ月が経ちました。
鎌倉駅からバスで20分。観光客の姿はほとんどなく、住民が静かに暮らしを営む地域の一角にお店はあります。外にはPOMPONCAKESのトレードマークであるカーゴバイクが。店内に一歩入ると木の温もりを感じるゆったりとした空間が広がっています。奥の作業場から出てきたPOMPONCAKES主宰の立道嶺央さんは、外が曇りであることを忘れるくらい晴れやかな笑顔で迎えてくれました。
POMPONCAKESと言えばこのカーゴバイク
白を基調とした木の温もりを感じる店内はどこか懐かしさを感じます
自転車での移動販売から実店舗へ、ケーキ屋として大きな一歩を踏み出した、と言いたいところですが、立道さんの視線の先にはケーキ屋として成功する姿ではなく、もっと大きな街の未来が映っています。
「お金がないから自転車でまずやってお金を貯めて、お店を作ったというわけではないんです。僕は空間・場所といったコミュニティ作りに興味があるんです。ケーキ屋はそのための一つの手段です」
きっぱりとそう答える立道さん。POMPONCAKESは立道さんの「鎌倉という街をリビングルーム化したい」という一つの思いから始まりました。
「お金がないから自転車でまずやってお金を貯めて、お店を作ったというわけではないんです。僕は空間・場所といったコミュニティ作りに興味があるんです。ケーキ屋はそのための一つの手段です」
きっぱりとそう答える立道さん。POMPONCAKESは立道さんの「鎌倉という街をリビングルーム化したい」という一つの思いから始まりました。
まっすぐに目を見て質問に応える立道さん。一つひとつの言葉が心に響きます
大学時代は建築を学び、その後、茅葺屋根職人の修行に入り各地のコミュニティを見てきた立道さんは、地元である鎌倉に戻ってきた際、改めてこの土地の魅力に気が付いたのだと言います。「この街の魅力をより引き出すために自分にできることはなんだろう?」その疑問に対する答えのように頭に浮かんできたのは、20代に旅で訪れたサンフランシスコやポートランドで見た開放的な街の風景でした。
「海外に行くと路上でごはんを食べたり、音楽を聞いたり、昼寝をしたり、公共空間を上手に使っているんです。サンフランシスコやポートランドでは僕と同世代の子たちが、自分たちでローストしたコーヒーや手作りのパンを売るなど、食を通して街のコミュニティとつながっているのを見てきました。朝からたくさんの人たちがコーヒーを片手に楽しそうにしている。すごくいいな、こういうことができたらいいなって」
そこで、立道さんが考えたのは、鎌倉の街に溶け込む身の丈にあった商売の形でした。立道さんのお母さんは菓子研究家。その影響で小さい頃から身近にあったケーキと街になじむ行商を組み合わせる形を思いつきました。
「鎌倉はいろんな層の人が住んでいて、一年中観光客もローカルの人たちもいる。感度が高い人も食に興味がある人も多い。『街をリビングルーム化する』という自分が思い描くコミュニティデザインが成熟したこの場所だったらできるんじゃないかと思ったんです。そして、外からコミュニティをデザインするというよりは、自分がプレイヤーとなって何かしたかったんです」
こうして、PONPOMCAKESの物語が始まりました。
「海外に行くと路上でごはんを食べたり、音楽を聞いたり、昼寝をしたり、公共空間を上手に使っているんです。サンフランシスコやポートランドでは僕と同世代の子たちが、自分たちでローストしたコーヒーや手作りのパンを売るなど、食を通して街のコミュニティとつながっているのを見てきました。朝からたくさんの人たちがコーヒーを片手に楽しそうにしている。すごくいいな、こういうことができたらいいなって」
そこで、立道さんが考えたのは、鎌倉の街に溶け込む身の丈にあった商売の形でした。立道さんのお母さんは菓子研究家。その影響で小さい頃から身近にあったケーキと街になじむ行商を組み合わせる形を思いつきました。
「鎌倉はいろんな層の人が住んでいて、一年中観光客もローカルの人たちもいる。感度が高い人も食に興味がある人も多い。『街をリビングルーム化する』という自分が思い描くコミュニティデザインが成熟したこの場所だったらできるんじゃないかと思ったんです。そして、外からコミュニティをデザインするというよりは、自分がプレイヤーとなって何かしたかったんです」
こうして、PONPOMCAKESの物語が始まりました。
「本来の当たり前」をもっと普通にしたい
接客とケーキ作りをリズミカルにこなす立道さん
立道さんが作るケーキは「オーガニックでジャンキー」がコンセプト。耳に残るキャッチーなフレーズの裏には深い意味があります。
「オーガニックというと、すごく高かったり、特別なもののようなイメージがまだあって、そこに違和感がありました。オーガニックって本来は当たり前で自然なことだと思うんです。毎日食べられるくらいの価格で、パクパク食べられるくらいあっさりしているんだけど、実はすごいいい素材を使っている、という風に『本来の当たり前』をもっと普通にしたかったんです」
そのケーキを求めて、今では県内はもちろんのこと、県外から買いにくるお客さんも後を絶ちません。レシピの80~90%は「ケーキのセンスが抜群」という立道さんのお母さんから受け継いだもの。しかも立道さん自身がケーキを作り始めたのはPOMPONCAKESを始めることを決めたわずか3年程前からというのだから驚きです。
「僕はパティシエではないので、すごく技術に特化しているわけではないんですけど、素材への思いは強い。常にいいものを追い求めています」
「オーガニックというと、すごく高かったり、特別なもののようなイメージがまだあって、そこに違和感がありました。オーガニックって本来は当たり前で自然なことだと思うんです。毎日食べられるくらいの価格で、パクパク食べられるくらいあっさりしているんだけど、実はすごいいい素材を使っている、という風に『本来の当たり前』をもっと普通にしたかったんです」
そのケーキを求めて、今では県内はもちろんのこと、県外から買いにくるお客さんも後を絶ちません。レシピの80~90%は「ケーキのセンスが抜群」という立道さんのお母さんから受け継いだもの。しかも立道さん自身がケーキを作り始めたのはPOMPONCAKESを始めることを決めたわずか3年程前からというのだから驚きです。
「僕はパティシエではないので、すごく技術に特化しているわけではないんですけど、素材への思いは強い。常にいいものを追い求めています」
こだわりの旬の果物を使ったケーキは外せない一品。こちらは有機栽培グレープフルーツのタルト
シロップとラム酒が染み込んだサバラン。ころんとした形がかわいい
パッケージもおしゃれなレモンケーキ
お店は僕の新しい挑戦
立道さんのイラストから生まれたPOMPONCAKESのマスコット
カーゴバイクでの路上販売を始めてから3年が経ち、順調にお客さんの数を増やしていった立道さんですが、同時に悩みも抱えていました。
「ケーキを作れば作るほど面白くなっていく一方、いいものをベストな状態で出したいという欲求も高くなってきました。また、人気が出て嬉しい反面、街に出てわずか30分ほどで売れ切れてしまうことも多くなり、お客さんと話す機会も少なくなってしまって」
そんな矢先、立道さんが生まれ育った実家から程近い場所で偶然見つけたのが、この物件でした。
「なんでこんな不便なところでって言われるんです。でも、ケーキ屋は郊外の住宅地の方がいいと思うんです。POMPONCAKESで今まで培ってきたものもあるし、ひっきりなしに忙しくなくてもこの場所だったら家賃的にもやっていけると思いました」
お店の名前であるPOMPONCAKES BLVD.の「BLVD(ブールヴァード)」は“大通り”を意味する言葉。そこには立道さんが思い描く新たなコミュニティデザインの思いが込められています。
「このお店ができることで、この土地と鎌倉駅近辺の中心街をつなげられたらと思っています。例えば、同じ思いを持っている人が店の隣や前にデリや本屋を作ったりするかもしれない。『5年後10年後にあのポンポンケークスの通りっておもしろいよね』って言われるような存在になれればいいなって。これは僕の新しい挑戦なんです」
「ケーキを作れば作るほど面白くなっていく一方、いいものをベストな状態で出したいという欲求も高くなってきました。また、人気が出て嬉しい反面、街に出てわずか30分ほどで売れ切れてしまうことも多くなり、お客さんと話す機会も少なくなってしまって」
そんな矢先、立道さんが生まれ育った実家から程近い場所で偶然見つけたのが、この物件でした。
「なんでこんな不便なところでって言われるんです。でも、ケーキ屋は郊外の住宅地の方がいいと思うんです。POMPONCAKESで今まで培ってきたものもあるし、ひっきりなしに忙しくなくてもこの場所だったら家賃的にもやっていけると思いました」
お店の名前であるPOMPONCAKES BLVD.の「BLVD(ブールヴァード)」は“大通り”を意味する言葉。そこには立道さんが思い描く新たなコミュニティデザインの思いが込められています。
「このお店ができることで、この土地と鎌倉駅近辺の中心街をつなげられたらと思っています。例えば、同じ思いを持っている人が店の隣や前にデリや本屋を作ったりするかもしれない。『5年後10年後にあのポンポンケークスの通りっておもしろいよね』って言われるような存在になれればいいなって。これは僕の新しい挑戦なんです」
店内でゆっくりケーキを楽しみたい。こちらはレモンチーズパイ
持ち帰りのラッピングでまた笑顔に。デザインはどれも立道さんによるもの
スタッフ全員がいつでもサーフィンに行けるようなケーキ屋にしたい
左手前にいるのは菓子研究家である立道さんのお母さん。立道さんと同じ優しい笑顔が印象的
お店を構えるということは、新しい仲間ができるということ。そこにも立道さんならではのテーマがあります。それは、「スタッフ全員がいつでもサーフィンに行けるようなケーキ屋にする」ということ。
「ケーキ屋は長時間労働で、安い賃金で、しんどい仕事という概念をくつがえしたいんです。心が豊かで楽しくないとおいしいものは作れないと思っています。休みたいといったらいつでも休める、サーフィンへ行きたいと思ったらそっちを優先することができるケーキ屋でありたいです」
お店に入った時に感じた清清しさ、ケーキを一口食べた時に感じた温かみ、それらはそこで働き、手を動かした人たちの豊かな心が反映されたものだったのでしょう。
「ケーキ屋は長時間労働で、安い賃金で、しんどい仕事という概念をくつがえしたいんです。心が豊かで楽しくないとおいしいものは作れないと思っています。休みたいといったらいつでも休める、サーフィンへ行きたいと思ったらそっちを優先することができるケーキ屋でありたいです」
お店に入った時に感じた清清しさ、ケーキを一口食べた時に感じた温かみ、それらはそこで働き、手を動かした人たちの豊かな心が反映されたものだったのでしょう。
作業中の姿が見える小窓。「お客さんとスタッフが気軽に話せるように」と作ったそう
建築とは街とつながるための媒体。今はケーキで街とつながっている
カーゴバイクでPOMPONCAKESを始めた頃は「いつかまた建築に戻りたいと思っていた」という立道さんですが、今は違います。
「僕にとって建築とは街とつながるための媒体。結局、どんな風に人を豊かにして街とつながっていくのか、という点ではケーキでも建築でもあんまり変わらないんだなって。今はケーキで街とつながっているのをすごく感じるんです」
建築とケーキ、一見ちぐはぐで遠い関係に見えます。けれど立道さんの世界では二つはまっすぐにつながったもの。アウトプットの形が違うだけで芯は同じなのです。
「僕にとって建築とは街とつながるための媒体。結局、どんな風に人を豊かにして街とつながっていくのか、という点ではケーキでも建築でもあんまり変わらないんだなって。今はケーキで街とつながっているのをすごく感じるんです」
建築とケーキ、一見ちぐはぐで遠い関係に見えます。けれど立道さんの世界では二つはまっすぐにつながったもの。アウトプットの形が違うだけで芯は同じなのです。
この日は海外からのお客さんも
これからも、お店と一緒にライフワークとしてカーゴバイクでの販売も続けてやっていきたいと語る立道さん。
「僕とこの街をつなげてくれたものですから。おじいちゃんになっても、一週間に一回でもいいからやりたいです。とはいえ、僕は結構恥ずかしがり屋なので、路上販売は緊張するんですよ(笑)」
「僕とこの街をつなげてくれたものですから。おじいちゃんになっても、一週間に一回でもいいからやりたいです。とはいえ、僕は結構恥ずかしがり屋なので、路上販売は緊張するんですよ(笑)」
立道さんの笑顔はどこまでも続く青空のよう
「よい一日を!」
立道さんがケーキを買ったお客さんへ声をかけます。今日も「オーガニックでジャンキー」なケーキと飛びきりの笑顔を携えて、立道さんの「よい一日を!」の声がお店に、そして街に響きます。
立道さんがケーキを買ったお客さんへ声をかけます。今日も「オーガニックでジャンキー」なケーキと飛びきりの笑顔を携えて、立道さんの「よい一日を!」の声がお店に、そして街に響きます。
大きな窓が特徴のPOMPONCAKES BLVD.